WEBVTT 00:00:14.814 --> 00:00:15.945 どうもありがとう 00:00:15.969 --> 00:00:19.498 俺がバンドに 生を受けたっていうのは本当の話だ 00:00:19.499 --> 00:00:22.038 まさにそのとおりなんだよ 00:00:22.039 --> 00:00:26.028 俺が生まれたとき 兄貴4人は既に音楽をやってて 00:00:26.039 --> 00:00:28.589 ベーシストが要るって分かってたんだ 00:00:28.590 --> 00:00:30.139 (笑) 00:00:30.150 --> 00:00:32.868 それで家族のバンドが完成するからさ 00:00:32.870 --> 00:00:35.157 俺はベース担当として 生まれたってわけだ 00:00:35.158 --> 00:00:40.309 歳をとって 先生と呼ばれるようになった今 00:00:41.099 --> 00:00:43.798 自分が音楽をどう教わったかを 思い返したとき 00:00:43.799 --> 00:00:46.555 教育として 教わったことはないと気づいた 00:00:46.565 --> 00:00:49.199 俺が「音楽は言語だ」と 言う理由はそこなんだ 00:00:49.210 --> 00:00:51.879 ほら 自分の母語ってものを 考えてみてくれ 00:00:51.890 --> 00:00:54.188 俺も 多分会場のほとんどの人も 英語だろう 00:00:54.188 --> 00:00:56.008 だから英語の話になるけど 00:00:56.019 --> 00:00:58.838 どうやって習得したか考えれば 教わってはいないよな 00:00:59.279 --> 00:01:01.574 周りが勝手に話しかけてきたはずだ 00:01:01.725 --> 00:01:04.798 でも 最高なのは— これがまた面白いんだけど— 00:01:04.809 --> 00:01:07.758 相手に言い返してもいいってことだ 00:01:08.249 --> 00:01:10.339 音楽の話でいえば 00:01:10.350 --> 00:01:15.128 ほとんどの初心者は上手い人と一緒には 演奏させてもらえないもんだ 00:01:15.128 --> 00:01:17.078 初心者クラスに足止めだ 00:01:17.078 --> 00:01:18.558 何年かそこに留まって 00:01:18.558 --> 00:01:21.649 中級に そして上級に 上げてもらって 00:01:21.649 --> 00:01:23.220 上級クラスを卒業したあとも 00:01:23.220 --> 00:01:25.799 やりたくないことを まだ たくさんやらなきゃならない 00:01:27.140 --> 00:01:28.809 でも 言語の場合 00:01:28.819 --> 00:01:33.370 赤ん坊でさえ 音楽用語でいえば プロと「ジャムセッション」してるんだ 00:01:34.530 --> 00:01:36.708 しょっちゅうさ 00:01:36.728 --> 00:01:39.887 これが当たり前すぎて 自分が初心者だとは気づかない 00:01:40.178 --> 00:01:43.369 「今のあなたとは話にならないわ あっちに行きなさい 00:01:43.480 --> 00:01:45.858 大きくなったら話しましょうね」 とは言われない 00:01:45.888 --> 00:01:47.258 (笑) 00:01:47.269 --> 00:01:49.078 そんなことにはならない 00:01:49.078 --> 00:01:51.789 自分が何を言うか 誰にも指図されたりしない 00:01:53.019 --> 00:01:56.039 隅に座って練習させられたりもしない 00:01:57.859 --> 00:02:01.750 間違えたときに直されたりもしない 00:02:02.890 --> 00:02:06.660 ほら 2歳児や3歳児が 何度も言い間違えたって 00:02:06.669 --> 00:02:08.438 誰も直したりしない 00:02:08.438 --> 00:02:10.748 子供があまりに何度も間違えると 00:02:10.748 --> 00:02:13.688 間違いを直すどころか 親に子供の話し方が感染るだろう 00:02:13.689 --> 00:02:14.663 (笑) 00:02:14.663 --> 00:02:17.158 そして親も間違えた言い方をし始める 00:02:17.799 --> 00:02:21.292 最高なのは 子供は自由なままだってことだ 00:02:21.903 --> 00:02:23.481 好きに喋っていいんだ 00:02:24.241 --> 00:02:27.639 音楽を習うときみたいに 何年も学んでから 00:02:27.649 --> 00:02:30.629 自分らしい表現を 見つけたりしないでいい 00:02:30.629 --> 00:02:33.353 言葉だったら 自分らしさを見失うことはない 00:02:34.343 --> 00:02:36.576 誰かに取り上げられることもない 00:02:37.586 --> 00:02:42.039 小さい頃の俺は そうやって学んでいた 00:02:42.039 --> 00:02:46.949 言葉と音楽を 同時に 同じやり方で 00:02:46.949 --> 00:02:48.629 学んでいたんだ 00:02:49.229 --> 00:02:53.857 普段 人にはこう言ってる 「始めたのは2歳か3歳のときだ」 00:02:53.857 --> 00:02:57.290 その方がもっともらしいから そう言ってるだけだ 00:02:57.940 --> 00:03:00.009 でも 皆が言葉を話し始めたとき 00:03:00.029 --> 00:03:02.209 2歳とか3歳になるまで待ったかい? 00:03:02.639 --> 00:03:04.029 違うよな 00:03:04.919 --> 00:03:08.089 生まれる前から始まってたと 言ってもいい 00:03:09.109 --> 00:03:12.739 初めて聞こえたときが 学び始めたときだろう 00:03:13.459 --> 00:03:17.509 そういう意味で俺の兄貴たちは 最高にイカしてるし賢いと思う 00:03:17.509 --> 00:03:19.729 5人兄弟の一番上の兄貴が— 00:03:19.730 --> 00:03:21.660 俺は末っ子で 一番上はレジーっていって 00:03:21.660 --> 00:03:23.788 歳は8つしか変わらないんだ 00:03:23.789 --> 00:03:27.178 レジーの奴は なんであんなに賢いんだか それこそ謎だね 00:03:27.178 --> 00:03:29.628 本家のTEDトークができるテーマだよ 00:03:29.628 --> 00:03:33.039 弟たちに楽器の弾き方を教えずに ミュージシャンに育てる— 00:03:33.039 --> 00:03:36.979 そんな見事な手法をどうやって 考えついたのかっていう話だ 00:03:37.259 --> 00:03:39.469 俺にベースを初めから 持たせたりしなかった 00:03:39.469 --> 00:03:40.610 違うんだ 00:03:42.960 --> 00:03:46.118 一番最初は 俺の周りで演奏してた 00:03:47.108 --> 00:03:49.498 記憶のある限り ずっと前からだ 00:03:49.498 --> 00:03:51.359 ハワイに住んでて 00:03:51.359 --> 00:03:56.959 兄貴たちがセットを組んで プラスチックのイスがあった 00:03:56.959 --> 00:03:58.660 家の前の庭にセットを組んで 00:03:58.660 --> 00:04:00.890 そこにプラスチックのイスがあった 00:04:00.890 --> 00:04:04.609 プラスチックでできた ミッキーマウスのゼンマイ式ギターが 00:04:04.609 --> 00:04:06.328 そのイスに乗ってた 00:04:06.328 --> 00:04:09.348 誰に言われなくても 俺用だって分かったよ 00:04:09.348 --> 00:04:12.719 喋るとき 誰かにお前の番だって 言われなくても分かるのと同じこと 00:04:13.369 --> 00:04:17.108 喋り方が分かってるように そのイスが俺のだって分かってた 00:04:17.108 --> 00:04:18.908 その楽器も俺のだって分かってた 00:04:18.908 --> 00:04:22.498 プラスチックの弦が張ってあって ゼンマイを巻くと曲が流れる 00:04:22.498 --> 00:04:26.898 弦を弾いても音は出なかったが それは重要じゃなかった 00:04:26.898 --> 00:04:30.250 楽器が握れるくらい 大きくなった頃 00:04:31.649 --> 00:04:36.518 握るものをもらった ただ俺に握るものを与える目的だ 00:04:36.518 --> 00:04:39.159 将来の準備のためだった 00:04:39.159 --> 00:04:41.870 その楽器で演奏することは 目的じゃなかった 00:04:42.840 --> 00:04:45.399 たくさんの音楽教師が 犯している間違いだが 00:04:45.399 --> 00:04:49.677 子供が音楽を理解する前に 楽器の弾き方を教えている 00:04:50.468 --> 00:04:52.689 でも言葉は 書き方から教えたりはしない 00:04:52.689 --> 00:04:54.469 「ミルク」の書き方を 00:04:54.469 --> 00:04:57.069 何年間もミルクをたっぷり飲む前に 00:04:57.069 --> 00:04:58.809 教えるのはおかしいだろう 00:04:59.109 --> 00:05:01.549 なのになぜか音楽では それが正しいことになっていて 00:05:01.549 --> 00:05:04.960 規則や楽器について先に教えようとする 00:05:06.180 --> 00:05:09.588 でも 俺が2歳くらいで おもちゃのギターを手にした頃には 00:05:09.588 --> 00:05:13.869 もう音楽が身についていた 誰だって音楽と共に生まれてくるはずだ 00:05:13.869 --> 00:05:18.229 誰の声でもいいから聞いてみるといい どんな子供の声でも聞いてみるといい 00:05:18.229 --> 00:05:20.275 これより純粋な音楽なんてない 00:05:20.485 --> 00:05:23.881 そんなわけで兄貴たちは 俺が音楽と共に生まれたと知っていて 00:05:23.881 --> 00:05:25.691 俺にベースをやらせようと思ってた 00:05:25.691 --> 00:05:28.127 だから 時期が来たら おもちゃのギターを握らせて 00:05:28.127 --> 00:05:29.911 目の前で演奏したんだ 00:05:29.921 --> 00:05:33.494 俺も飛び跳ねながら おもちゃをかき鳴らしてた 00:05:34.235 --> 00:05:39.109 でもやっぱり 最高なのは 楽器はどうでもよかったことだ 00:05:39.109 --> 00:05:43.199 俺が学んでいたのは 楽器を弾くことじゃなく 音楽を奏でることだった 00:05:43.199 --> 00:05:45.700 今でもそれを続けていると思いたい 00:05:46.370 --> 00:05:50.457 当時の俺にも分かってたことがある 兄貴が4小節フレーズの最後に 00:05:51.107 --> 00:05:56.418 ハイハットを開いたら どういう意味なのかは知ってたし 00:05:56.418 --> 00:05:58.659 他のフレーズとの関連性も学んだ 00:05:58.659 --> 00:06:00.787 同じ要領で 赤ん坊には 00:06:00.788 --> 00:06:03.787 母親の声が高くなるときの意味も 00:06:03.788 --> 00:06:06.609 反対に 父親の声が低くなるときの 意味も分かるだろう 00:06:06.709 --> 00:06:08.019 誰でもそうだ 00:06:08.019 --> 00:06:11.269 単語の意味は理解できないとしても 分かっているんだ 00:06:11.729 --> 00:06:13.524 そんな風にして言語を学んでいく 00:06:13.524 --> 00:06:16.447 子供の口から言葉らしい言葉が 出てくるようになる頃には 00:06:16.477 --> 00:06:19.089 言語とは何なのか 既にだいぶ分かっている 00:06:19.090 --> 00:06:20.961 俺は音楽を おんなじように学んだ 00:06:20.981 --> 00:06:25.219 自分の手に楽器を持った頃には 既に音楽性がかなり育っていた 00:06:25.389 --> 00:06:27.508 3歳くらいになる頃 00:06:27.508 --> 00:06:31.798 レジーが自分の6弦ギターから 2弦外して俺にくれた 00:06:31.798 --> 00:06:36.809 それが俺が最初に弾いた 本物の楽器だった 00:06:36.929 --> 00:06:39.818 レジーが初めに教えてくれたのは 00:06:39.818 --> 00:06:44.488 どの場所に指を置けば 俺が既に知っていた曲の音を 00:06:44.488 --> 00:06:46.229 出せるのかだった 00:06:48.860 --> 00:06:53.538 ゼロから始めたわけじゃなかった まず最初に音楽を知っていた 00:06:53.538 --> 00:06:57.010 だから楽器を通して その音楽を奏でればいいだけだった 00:06:58.060 --> 00:07:02.269 今振り返ると 言葉を学ぶ過程もそうだった 00:07:02.289 --> 00:07:05.429 最初に「楽器」について 学んだりしなかった 00:07:05.429 --> 00:07:08.172 喉をどう使って喋るかなんて どうでもいいだろう? 00:07:08.172 --> 00:07:10.156 大事なのは何を言うかだ 00:07:12.069 --> 00:07:16.172 いつだって俺には 表現したい自分の音楽があった 00:07:16.182 --> 00:07:18.307 いつだって 何かしら 伝えたいことがあった 00:07:18.307 --> 00:07:22.337 そして自分の楽器を使って それを表現することを覚えたんだ 00:07:23.087 --> 00:07:25.017 つまり 大事なことは2つ 00:07:25.017 --> 00:07:30.588 練習を強いられないこと 何を表現するか指図されないこと 00:07:30.588 --> 00:07:35.169 また言葉の話になるけど 何を言うか指図されないことだ 00:07:35.169 --> 00:07:38.328 新しい単語を習うとき 00:07:38.328 --> 00:07:41.717 最初から 文の中で 文脈付きで使うもんだろう 00:07:41.717 --> 00:07:43.937 音楽だと 弾き方を練習させられる 00:07:44.407 --> 00:07:48.877 練習にも意味はあるが 文脈の中で使うよりも効率が悪い 00:07:49.137 --> 00:07:51.069 言語学習では分かりきったことだ 00:07:51.069 --> 00:07:52.979 俺は文脈の中で音楽を学んだ 00:07:52.979 --> 00:07:59.319 少し大きくなって 5歳くらいの頃 兄弟5人でツアーに出た 00:07:59.849 --> 00:08:02.339 俺たちは運よく 偉大なソウル歌手の 00:08:02.339 --> 00:08:06.238 カーティス・メイフィールドの 前座としてツアーさせてもらった 00:08:07.078 --> 00:08:10.639 俺は5歳で 一番上の兄貴はまだ13歳だった 00:08:11.269 --> 00:08:16.319 考えてみれば その歳でも 俺たち皆まともな英語を話せてた 00:08:16.319 --> 00:08:18.059 音楽だってできるはずだろう? 00:08:18.909 --> 00:08:22.388 それ以来 俺はいつも音楽を 言語のように扱ってきた 00:08:22.518 --> 00:08:26.859 音楽も言語も同じ時期に 同じようにして学んだからだ 00:08:27.879 --> 00:08:29.488 一番よかったのは 00:08:29.489 --> 00:08:32.878 子供が生まれつき持っているものを 失わずにこれたこと 00:08:33.798 --> 00:08:35.360 つまり「自由」だ 00:08:37.050 --> 00:08:41.528 でも音楽では この自由を 取り上げられてしまうことが多い 00:08:41.528 --> 00:08:43.447 最初のレッスンからだ 00:08:43.837 --> 00:08:45.228 レッスンに行っても 00:08:45.229 --> 00:08:48.968 そもそもどうして習いに来たのか 興味を持つ教師はまずいない 00:08:49.588 --> 00:08:51.958 だいたいの場合 エアギターで遊んでる子供に 00:08:51.958 --> 00:08:53.749 正しいも間違いもない 00:08:53.749 --> 00:08:56.849 正しい音も外れた音もなくて 楽器はどうでもいいんだ 00:08:56.849 --> 00:08:59.289 そういう気分だからやってるんだ 00:08:59.430 --> 00:09:02.538 シャワーを浴びながら歌うのと 同じやり方だし 同じ理由だ 00:09:03.378 --> 00:09:06.858 通勤中の車の中で歌うときも同じ 00:09:06.858 --> 00:09:09.928 正しい音程だからとか 正しい音階だから 00:09:10.458 --> 00:09:12.367 歌ってるわけじゃない 00:09:12.367 --> 00:09:15.127 歌うと気持ちいいからだろう 00:09:15.127 --> 00:09:17.759 今朝 朝食の席で こんな台詞を聞いたよ 00:09:17.760 --> 00:09:20.772 「シャワー中の私は エラ・フィッツジェラルドなの!」 00:09:20.772 --> 00:09:22.415 (笑) 00:09:22.415 --> 00:09:23.799 全く そのとおりだよ 00:09:23.899 --> 00:09:28.260 なら 他人が聴き始めた途端 それが変わってしまうのはなぜだろうか 00:09:30.070 --> 00:09:33.068 成長して 学ぶうちに その自由が失われてしまう 00:09:33.068 --> 00:09:36.777 その自由を保っておく方法を 見つけなきゃならない 00:09:36.777 --> 00:09:38.479 できるはずだ 00:09:38.479 --> 00:09:40.259 永遠に失われたわけじゃない 00:09:41.239 --> 00:09:45.278 エアギターをやってる子供は ニコニコして弾いているだろう 00:09:46.778 --> 00:09:49.808 ギターのレッスンに行くと 初回で その笑顔が消えてしまう 00:09:51.648 --> 00:09:52.729 多くの場合は 00:09:52.729 --> 00:09:56.368 その笑顔を取り戻すのに 音楽人生を通じて努力するハメになる 00:09:56.799 --> 00:10:01.968 でも教師として正しくアプローチすれば その笑顔を残しておくこともできる 00:10:01.968 --> 00:10:04.868 言語学習と同じように アプローチすればいい 00:10:04.868 --> 00:10:07.361 生徒に自由を許してやればいい 00:10:08.001 --> 00:10:09.838 俺は少し大きくなると 00:10:09.838 --> 00:10:13.768 兄貴たちと一緒に たくさんツアーで演奏し始めた 00:10:13.768 --> 00:10:16.729 その頃 母にあることを よく聞かれたんだが 00:10:16.730 --> 00:10:21.069 もっと歳をとって自分の子供を持つまで さっぱり理解できなかった 00:10:21.069 --> 00:10:22.641 母は俺たちにこう言ったんだ 00:10:22.661 --> 00:10:25.260 「いいミュージシャンに 世界が求めているものは― 00:10:25.999 --> 00:10:28.209 何だと思う?」 00:10:29.900 --> 00:10:31.245 考えてみてくれ 00:10:31.245 --> 00:10:34.392 俺は音楽の話をしてるが 自分のキャリアに置き換えてみてほしい 00:10:35.282 --> 00:10:37.699 世界が自分に求めているものは何か? 00:10:39.669 --> 00:10:43.059 今 歳を重ねてようやく 分かったんだけど 00:10:43.059 --> 00:10:46.838 音楽には言語以上の意味がある 音楽とは生き方なんだ 00:10:49.318 --> 00:10:50.447 俺の生き方そのものだ 00:10:50.447 --> 00:10:54.809 ただし 多くのミュージシャンが送るような 人生の話をしてるんじゃないんだ 00:10:55.899 --> 00:10:59.728 往年の伝説のミュージシャンたちを 振り返ってみると 00:10:59.728 --> 00:11:02.819 音楽では大成功したが 人生では大失敗していることが 00:11:02.819 --> 00:11:04.810 分かったりするだろう 00:11:06.110 --> 00:11:09.928 誰の気分も害したくないから 名前は伏せておくけど 00:11:10.039 --> 00:11:13.070 でも 伝説のミュージシャンには そういう人がたくさんいた 00:11:15.490 --> 00:11:19.167 俺たち子供には分からない何かが 親として その先に見えていたから 00:11:19.257 --> 00:11:22.058 親は俺たちに 心の準備を させてくれてたんだろうな 00:11:22.149 --> 00:11:24.580 「いいミュージシャンに世界が— 00:11:26.670 --> 00:11:28.620 求めているものは何か?」 00:11:29.580 --> 00:11:32.360 俺たちはいつも練習してた 00:11:33.220 --> 00:11:36.060 家中が音楽室になった 00:11:36.270 --> 00:11:40.129 ご近所さんも 州各地からの ミュージシャンも集まった 00:11:40.500 --> 00:11:42.369 俺らは練習 00:11:42.369 --> 00:11:44.549 両親は なけなしの金をはたいて 00:11:44.549 --> 00:11:47.608 クリスマスごとに 最新の楽器を用意してくれた 00:11:47.608 --> 00:11:50.048 サンタが最新の楽器を 持ってきてくれた 00:11:50.048 --> 00:11:51.958 何のためだったんだろうか? 00:11:52.698 --> 00:11:55.808 単に 稼げるようになるためだろうか? 00:11:55.898 --> 00:11:59.539 ステージの上で歓声を 浴びられるようにだろうか? 00:12:02.470 --> 00:12:06.210 今思えば それよりもっと 大事な意味があったんだ 00:12:07.220 --> 00:12:08.888 音楽は俺の生き方だ 00:12:09.698 --> 00:12:12.220 音楽を教える立場から 周りと分かち合えるように 00:12:12.220 --> 00:12:15.657 音楽とは何か 今 改めて 学んでいるところなんだが 00:12:15.657 --> 00:12:18.969 音楽では 自分の人生に応用できることが 00:12:18.970 --> 00:12:20.705 たくさん学べることに気づいた 00:12:20.705 --> 00:12:23.232 優れたミュージシャンは 優れた聴き手でもある 00:12:26.142 --> 00:12:29.358 ベースがどんなに上手いかは関係ない 他のどの楽器でも同じことだ 00:12:29.358 --> 00:12:30.968 どんなに上手くても関係ない 00:12:30.968 --> 00:12:35.040 世界最高のミュージシャン5人が このステージに立ったとしよう 00:12:36.370 --> 00:12:39.378 でも一人一人 てんでバラバラだったら 00:12:39.379 --> 00:12:41.170 ひどい演奏になってしまう 00:12:43.730 --> 00:12:46.970 でも お互いに耳を傾けて ひとつになって演奏すれば— 00:12:48.680 --> 00:12:51.179 一人一人が すごいパフォーマンスをしなくても— 00:12:52.490 --> 00:12:54.980 ずっといい演奏になる 00:12:57.500 --> 00:13:01.908 数年間 カリフォルニア州の スタンフォード大に立て続けに招かれて 00:13:01.908 --> 00:13:06.018 新入生向けの授業をするために 音楽チームを作った 00:13:06.019 --> 00:13:08.888 そこでは音楽を使って 新入生たちのこれからの4年が 00:13:08.889 --> 00:13:11.758 どんな風になるか 考えさせることができた 00:13:11.759 --> 00:13:13.599 音楽を使うのは楽しかったよ 00:13:13.619 --> 00:13:17.879 話題にしにくい物事でも 何でも話せる手段が音楽だからだ 00:13:17.879 --> 00:13:22.398 政治 人種差別 平等 不平等 宗教といった物事も 00:13:22.399 --> 00:13:25.628 音楽を通じて語れば まだセーフだ 00:13:25.629 --> 00:13:28.039 授業では 一度も楽器を 触ったことのない学生を 00:13:28.039 --> 00:13:30.189 聴講生の中から指名した 00:13:30.189 --> 00:13:31.349 主に女の子だった 00:13:31.349 --> 00:13:33.698 壇上に呼んで ベースを首から下げてやって 00:13:33.698 --> 00:13:35.448 バンドに演奏を始めてもらう 00:13:35.449 --> 00:13:37.468 演奏が始まるやいなや 00:13:37.468 --> 00:13:39.174 その学生はこんな風になる 00:13:39.174 --> 00:13:40.690 (笑) 00:13:40.690 --> 00:13:42.523 俺はすかさず「それが音楽だ!」 00:13:43.673 --> 00:13:46.524 「ベースに耳を傾けるんだ 楽器店に置いてある楽器みたいに 00:13:46.524 --> 00:13:49.448 そこにあるだけでは 音は出てこないだろう 00:13:49.448 --> 00:13:52.978 そこから音楽を引き出したければ 自分で送り込まなきゃいけない 00:13:52.978 --> 00:13:56.579 今 感じている音楽を 楽器に送り込むだけでいい」 00:13:56.990 --> 00:13:59.290 そして学生に ネックを握る左手に 力を込めさせる 00:13:59.290 --> 00:14:01.865 楽器の持ち方は誰だって分かるから 教える必要ないしな 00:14:01.865 --> 00:14:07.098 ネックに力を込めて 右手を弦の上で自由に遊ばせる 00:14:07.098 --> 00:14:10.169 学生が爪弾き バンドは周りで盛り上げる 00:14:10.170 --> 00:14:13.208 あっという間に その子はベーシストに早変わり 00:14:13.208 --> 00:14:15.537 というよりミュージシャンだね 00:14:15.538 --> 00:14:18.566 ダンサーが踊り出す前に どうするか考える必要はないし 00:14:18.566 --> 00:14:21.117 歌手も普通 何調で歌えばいいか 聞く必要もない 00:14:21.117 --> 00:14:23.988 ミュージシャンには 考えることがありすぎる 00:14:25.679 --> 00:14:27.108 だからこの授業は新鮮だった 00:14:27.108 --> 00:14:31.391 「すごいぞ バンドが良ければ この子には何の知識も必要ないんだ」 00:14:31.391 --> 00:14:33.444 (笑) 00:14:33.444 --> 00:14:35.989 あっという間にバンドが完成し 教室に誰かが入ってきて 00:14:35.989 --> 00:14:39.829 新メンバーが加わったバンドを 見たとしても 00:14:39.830 --> 00:14:42.843 誰がその新メンバーかを 見抜けないほどだった 00:14:44.103 --> 00:14:45.146 それで気づいたんだ 00:14:45.166 --> 00:14:51.580 「すごいぞ 俺が持つ力を正しく使えば 他人を急成長させることができる」 00:14:53.380 --> 00:14:55.848 スタンフォードでの授業で 最高だったのは 00:14:55.848 --> 00:14:57.728 その学生がベースを 持ち帰ったこと 00:14:57.748 --> 00:14:58.907 (笑) 00:14:58.908 --> 00:15:02.758 最近その子に会ったけど まだベースをやってるそうで 00:15:02.758 --> 00:15:03.738 何よりだ 00:15:04.008 --> 00:15:07.538 聴くことは 音楽がもたらす 一生使える特典だ 00:15:07.638 --> 00:15:11.998 共同作業をしたり もちろん他人を 育てる力をつけることもだ 00:15:11.998 --> 00:15:13.708 上に立たせてもらったら 00:15:13.708 --> 00:15:16.188 謙虚なフリして そこから降りてきちゃダメだ 00:15:16.188 --> 00:15:17.718 上に立ったままでいることだ 00:15:17.718 --> 00:15:20.938 その場所は 皆にとっての 目標になるんだから 00:15:20.938 --> 00:15:22.879 上に留まり 周りを引き上げるんだ 00:15:23.709 --> 00:15:27.301 そうすれば自分が降りる場合よりも 周りは速く成長する 00:15:27.302 --> 00:15:30.704 自分に優れた力があるから そういう人たちを助けられるんだ 00:15:30.704 --> 00:15:34.939 音楽業界では普通 人に言われて初めて 自分は優れていると言えるんだし 00:15:34.939 --> 00:15:37.079 「あの人はグラミー賞をいくつも獲った」 とかね 00:15:37.080 --> 00:15:39.798 周りがいなきゃ 何の賞も勝ち獲れない 00:15:39.798 --> 00:15:41.878 もう1つ母が いつも言っていたことがある 00:15:41.878 --> 00:15:44.439 「あんたたちは既に成功してるわ 00:15:45.259 --> 00:15:47.939 世界がそれを まだ知らないだけなのよ」 00:15:49.069 --> 00:15:52.049 当時は理解できなかったが 今ではすごくよく分かるんだ 00:15:52.140 --> 00:15:56.630 最後に少しだけ 考えてほしいことがある 00:15:56.810 --> 00:15:59.689 2つの音を出すとして 仮に「ド」の音を出すとしよう 00:15:59.689 --> 00:16:01.210 想像力を働かせてみてくれ 00:16:01.210 --> 00:16:05.000 隣同士の「ド」と「ド#」を 出したとしたら 00:16:06.010 --> 00:16:08.540 たぶん不協和音に 聞こえるだろう 00:16:09.390 --> 00:16:11.303 「間違い」「ひどい音だ」って 00:16:14.793 --> 00:16:16.886 でも「ド」の音を 1オクターブ上げて 00:16:18.496 --> 00:16:20.958 「ド#」と「ド」を もう一度出してみよう 00:16:20.958 --> 00:16:23.058 急に今度は美しい音色に聞こえる 00:16:23.058 --> 00:16:24.799 同じ2つの音だよ 00:16:25.669 --> 00:16:29.328 この「ド」は「ド#」の 「メジャーセブンス」になる 00:16:29.328 --> 00:16:34.958 これは綺麗すぎると言ってもいい 美しい和音を作る主要素になる 00:16:35.299 --> 00:16:38.779 じゃあどうして 同じ2つの音の組み合わせが 不協和音になる場合と 00:16:38.779 --> 00:16:40.650 美しい和音になる場合があるのか 00:16:41.250 --> 00:16:42.960 それを人生にも当てはめてほしい 00:16:43.890 --> 00:16:46.758 人生で何か悪いことや ひどいことが起こったとき 00:16:46.758 --> 00:16:49.246 間違ったオクターブの中で 見ているのかもしれない 00:16:50.946 --> 00:16:53.523 見方を変えてもいいんじゃないかな 00:16:54.153 --> 00:16:57.009 実際何かがおかしいと思ったら 00:16:57.009 --> 00:17:00.479 間違ったオクターブの中で 見ていることに気づくことだ 00:17:00.520 --> 00:17:05.267 そして見方を変える方法を探すといい 00:17:05.268 --> 00:17:08.518 音楽用語で言えば オクターブを変えればいい 00:17:11.198 --> 00:17:18.198 人を傷つけるために 爆弾を作っている国々がある 00:17:18.909 --> 00:17:22.769 恐怖を刷り込み 人を殺して 爆弾作りを正当化している 00:17:24.219 --> 00:17:28.142 国が 政府が 爆弾を祝福しているんだ それを放つ前にな 00:17:28.962 --> 00:17:31.674 これはトップダウンで 政府主導で起こる 00:17:31.734 --> 00:17:33.509 それが現状だ 00:17:35.729 --> 00:17:39.039 だからこそ解決策はボトムアップで 出てくるべきじゃないか 00:17:39.039 --> 00:17:42.430 人に人を愛させる爆弾はあるだろうか? 00:17:43.490 --> 00:17:45.240 キューピッド爆弾みたいな? 00:17:46.200 --> 00:17:48.439 俺は既にあると思う 00:17:48.439 --> 00:17:49.979 音楽と呼ばれるものだ 00:17:51.129 --> 00:17:53.888 どの国にも 独自のバージョンがある 00:17:53.888 --> 00:17:57.529 効果もある 人々を1つにまとめてくれる 00:17:57.529 --> 00:18:01.029 音楽について何も知らなくたって 手に入るものだ 00:18:02.069 --> 00:18:04.889 音楽は言語であり 生き方でもある 00:18:05.949 --> 00:18:08.428 そして世界を救えるものなんだ 00:18:08.428 --> 00:18:11.189 俺はヴィクター・ウーテン ミュージシャンだ 00:18:11.879 --> 00:18:14.121 音楽は俺の戦場だ 皆も仲間に入ってくれ 00:18:14.121 --> 00:18:14.975 (笑) 00:18:14.975 --> 00:18:16.188 どうもありがとう 00:18:16.188 --> 00:18:17.355 (拍手)