多人数ゲームの待合室にいると こんな言葉を聞くだろう 強すぎ、せこい、不公平だ プレイヤーが主張しているのは ゲームのバランスのことだ バランスは多人数ゲームのあらゆる選択肢を 公平にする技術で キャラが弱すぎて使う意味がなくなったり 強すぎて他を圧倒したりすることを防ぐのだ とはいえ、ほとんどのゲームが目指すのは 単なるバランスではなく 多種多様な異なる選択肢のバランスだ 「対称ゲーム」のバランスは そこまで苦労しない どのプレイヤーも全く同じ条件で 始まるからだ だがほとんどのゲームは「非対称」であり プレイヤー同士は全く異なる条件で対戦する また 74 人のファイターや 140 人のチャンピオンから選べるゲームでは 開発者は、ほぼ同じ腕前のプレイヤーの間で どれも同等に通用することを期待している ではどうしているのか? バランスの追求は 信じられないほど難しい 企業によっては バランス専門の部署があるし Riot の『League of Legends』では過去 10 年間で 200 回以上もバランスが修正された さらに数値だけでなく プレイヤー心理も重要で 『Overwatch』の Jeff Kaplan が言うには 「バランスの認識はバランス自体よりも強力です」 だから今回は集中的な チュートリアルではなく Game Maker’s Toolkit が駆け足で バランスを取る方法を紹介しよう そして再調整して 再調整して、再調整して、また再調整だ そもそも開発者は どうやってバランスを取るのか? まず考えるのはトレードオフだ これはキャラの競争優位性を 欠点で相殺することだ 『マリオカート』のキャラを考えてくれ ドンキーのような重量級レーサーは 最高速度は高いが、加速は低い キノピオのような軽量級レーサーはその逆だ 適切なコース設計では ほぼ互角になる キャラには「能力予算」があると考えていい 少なくとも Riot はそう呼んでいる 長所は費用だが、短所は割引だ 全てのキャラが同じ能力予算の上限に達したら バランスがほぼ取れたことになる もちろんそこまで簡単じゃない 全てのミニオンに ダメージ1を与えるカードと 全てのミニオンに ダメージ4のカードがある これなら簡単だ 2枚目のカードコストを 少し高くするだけでいい だが全く比較できない能力予算はどう計算するのか? 例えば『Overwatch』のヒーローや 数値が数十もあるやつは? 例えば Bungie の『Halo 3』には当初 強すぎるスナイパーライフルがあったが 調整できる数値は大量にあった 弾倉サイズ、ズーム時間、リロード時間、最大弾薬数など 最終的に射撃間隔の調整が最善だと判断し 0.5 秒から 0.7 秒に変更された だが重要なのは 武器の個性の違いを尊重することだ スナイパーライフルとショットガンは 2種類のアサルトライフルよりも刺激的なのだ とはいえ後者の方が バランスを取るのは簡単だ だから僕は元 Blizzard の Rob Pardo に同意する 彼は計算でバランスを取ると ゲームが凡庸になると警告する 「何もかも同じように感じるゲームに なってしまうでしょう」 「ハイタッチしてバランスが取れてると言えても それ楽しいですか? 恐らく違うでしょう」 もう1つ考えるのはカウンターだ これはキャラに互いの技や戦略を 無効にする能力を与えることだ 例えば『Starcraft』のザーグラッシュは けっこう強いが 相手が防御バンカーを 先に建てていた場合は別だ 全ての選択肢にカウンターがあるのが理想だ 『Starcraft』の防御的なプレイヤーに対しては 今度は経済的な戦略で反撃できる つまり資源を節約すれば最後には 防御バンカーを粉砕できるユニットを作れるのだ そしてカウンターのカウンターも作れるが そうすると永遠に終わらない だがもっと簡潔な解決策がある ダラダラと節約してる人への対抗策は? それがラッシュだ これはお馴染みのジャンケン(三すくみ)だ この皿洗い担当を決めるマヌケなゲームは 信じられないほど単純で戦略的な深みもないが 完璧にバランスが取れている どの手にもカウンターがあり、どの手もカウンターだからだ 「チョキの負けだぜ」 だからこそたくさんの対戦ゲームで 屋台骨になっているのだ ほぼ全ての格闘ゲームにはこのシステムがあり 例えば『Dead or Alive』には ご自慢の三すくみシステムがある 打撃は投げに、投げはホールドに、ホールドは投げに勝つ 戦略ゲームでは、戦略だけでなく 個々のユニットにも三すくみがある ポケモンのタイプ相性はカウンターが絡み合った 巨大な網だが、最初はもちろん—— 火、水、草だ 三すくみの構造は バランス調整の出発点に最適だ 何かがカウンターになっているため 強すぎる要素がないのだ どの選択肢も無関係ではない 少なくとも何かのカウンターとして機能する また少なくとも戦略ゲームでは 三すくみは混合戦略を促し プレイヤーを多角的に成長させ 動的な方法で 臨機応変に戦術を切り替えることを強制する またクラス制のゲームでは 混成チームを自動的に作らせる 『Team Fortress 2』では 9クラスのうち7つで 相互に連結した入れ替えても機能する三すくみが 複雑に絡み合っている この場合、チームは互いの弱点を守るため 相補的なクラスを選ばないといけない 君がエンジニアで スパイがセントリーガンを破壊してるなら チームメイトの1人に パイロに変更してもらう必要がある こうしたカウンターは何かを完全に打ち消す場合 「ハードカウンター」と呼ばれる 例えば『ARMS』のパンチは投げの効果を 常に無効化するのでハードカウンターだ だが「ソフトカウンター」は一方の選択が もう一方よりも有利になるだけだ マクリーはトレーサーを上回るだろうが 100% 勝つとは到底言えない カウンターに関しては 「手」と「指し手」を区別することが重要だ 手は対戦前に確定する要素だ キャラや種族などだ 指し手は対戦中に選ぶ要素だ 技、ユニット、戦略など 『Overwatch』のようなチーム制ゲームでは チーム全体が手で 個々のプレイヤーが指し手だ 指し手は互いに不公平になるように 特別に設計されており これが反撃の応酬やチームワークを生み出す だが手は本来公平でないといけないので 全ての指し手が使えるべきだ 例えばザンギエフがガードできなかったら 使い物にならないだろう それでたくさんのキャラにトレードオフや カウンターを用意してバランスが取れたと思う だがどうやって確かめる? 社内のテスターか、オンライン上の数百万人もの プレイヤーからデータを収集するのだ 調べるのは各キャラの成功頻度 つまり「勝率」だけでいいと思うかもしれない キャラの勝率が 50% なら バランスが取れている だが他の統計と同様 誤解を招く可能性がある キャラが3人の格闘ゲームを想像してくれ リュウが春麗に全勝し、キャミィに全敗した場合 リュウの勝率は 50% になる バランスは完璧か? 違うと思う だからあるキャラが他の全キャラと戦ったときの 勝率を確認できる対戦表がとても重要だ だがこれだけで 全てが分かるわけではない 『LoL』のキャラ アカリには問題があった 数字上はバランスはかなり良かった 勝率 44% で恐らく少し弱かった ではどうして 2018 年の世界選手権で 72% もの勝率を達成し 最も禁止されたキャラになったのか? それはとても強いキャラなのに 効果的に使うのが難しかったからだ 言い換えれば 「技量下限」が超高かったのだ つまり一流の選手が使えば 相手をボコボコにできるが 下位の選手がアカリを使うと いつでもどこでも負けていた それが勝率を引き下げていたのだ だからこそ、全ての腕前で キャラの勝率と相性を確認することが重要だ あと結局、勝率はゲームで起きてることを 教えてくれない どのキャラが選ばれているか 知る必要があるのだ バランスの良いキャラが 避けられているのは プレイが楽しくないとか 特定の状況でしか役に立たないからかもしれない Blizzard によれば『OW』のシンメトラは 全体的にバランスが取れていたが 使える状況はかなり限られていたため あまり選ばれていなかった そこで最初の再設計では 人気を高めるために テレポーターとシールド生成という 2つのアルティメット能力を追加した だからプレイヤーの意見だけでなく 「使用率」も重要だ これはキャラが実際に使われる頻度を示す 『Rainbow Six Siege』で Ubisoft は 勝率と使用率を縦横に並べて相互参照している オペレーターは4つに分類され それぞれ検討すべきことが違う また使用率は「メタ」の理解に役立つ これは基本的には キャラ、カード、戦略など—— コミュニティ全体で最も有効だとされ 現在使われているものだ これはよく掲示板の投稿や ファンお手製のランク表 YouTube 動画、eSport 大会を通じて 共有される ヘルシンキの『Clash Royale』選手権で ジェイソンという子供が優勝すると 彼が選んだカードが一躍大人気になった メタが自己均衡の働きをすることもある 例えばあるキャラの圧倒的な性能に気付いて みんなが使い始めたとする 今やみんなの一番の関心事は、優勝候補に対抗したり 上回ったりできる戦略を見つけることだ それが見つかると メタは変わるかもしれない この移りゆくメタはゲームを新鮮に保ち カウンターを見つけたプレイヤーに満足感をもたらす 『OW』の Jeff Kaplan は述べる 「プレイヤーが新戦略を考案してメタが変わることは」 「まぁ、それが最良のシナリオです 私たちは何度も それが起きるのを見てきました」 もちろん常に上手くいくとは限らない 開発者が介入して変えないといけない場合もある ある戦略が強すぎたり あるキャラが全然使われなかったり あるプレイスタイルが鬱陶しいと判明した場合は ハンマーで直すべきだ まず開発者は、そのキャラや戦略などのバランスが 崩れてる理由を正確に把握する必要がある あるキャラが対戦表を席巻してるのは簡単に分かっても その理由を特定するのは難しい 『スマブラX』のメタナイトの場合 その主な理由は極めて速い攻撃速度と 空中での勢いをキャンセルして KO を防げる能力だった 優位性はたくさんあるのにトレードオフは不十分だった 他のキャラにカウンターの手段はなかった 原因が見つかったら 何をナーフし、何をバフするか考える 「ナーフ」は何かを弱めることだ 速度を落としたり、射程を短くしたり、筋力を下げたりする 「バフ」はその逆で、より強くする だが必ずしも弱者をバフして 強者をナーフするわけではない 強すぎるキャラを放置して対抗キャラを強化しても 同じ問題を解決できる Core-A Gaming の動画で、バフが一般的に ナーフより優れてる理由を確認してくれ バランスの変更には、移動速度の微調整から キャラの全面的な見直しまで色々なものがある ルールを根本的に変える場合もある 『Rainbow Six Siege』は攻守のバランスを取るために 試合時間を3分に変更した ゲームから完全に削除する場合もある 例えば Epic は『Fortnite』の 強すぎたインフィニティブレードを削除した だがどんな変更も プレイヤーに影響する 特に特定のキャラやそのカウンターに 慣れているプレイヤーは尚更だ そのためゲームを修正した時は、パッチノートや 動画などで変更点を伝えることが重要だ 実際、パッチノートはとても重要で Riot はあるチャンピオンを弱体化したと発表したのに コードに実装するのを 忘れたことがあった それにも関わらず、そのキャラの使用率は急落し 勝率すら少し下がった プレイヤー心理は重要だって言っただろ? 動画の冒頭で、バランスとは ほぼ同じ腕前のプレイヤーの間で キャラが同等に通用することだと説明した だが腕前に差がある場合はどうなるのか? 競争の激しいゲームではマッチメイキングシステムで 同じ腕前のプレイヤーを対戦させる だが遊びやすいパーティ系ゲームでは 負のフィードバックループ… つまり追い上げシステムを作って 成績が悪いプレイヤーを助けたいだろう 例えば『Modern Warfare 2』のデスストリークは 連続で死ぬと特別ボーナスが貰える 『マリオカート』のアイテムシステムでは 厄介な青コウラを含む強いアイテムは 順位の低いプレイヤーしか貰えない これらは物議を醸すので 控えめに使わないといけない ランダム性で腕前の価値を下げてもいい これは『蛇と梯子』や『モノポリー』などの サイコロ運に基づいた家庭用ボードゲームでよくある だが『Apex Legends』などの ビデオゲームでは マップに降りた時の見つけたアイテムに基づいて 勝つ確率が変わる ハンディキャップモードを 用意してもいい チーム制ゲームでは、チームに貢献できるような 別のプレイスタイルを用意すれば 最前線で上手に戦う必要もなくなる 例えばメディックやエンジニアなどのサポート役だ ゲームのバランス調整は とてもやりがいのある仕事だ キャラの差異をハッキリさせるほど 同じ土俵に乗せるのが難しくなる プレイヤーの腕前の差は 考慮されていない キャラの優位性が多くなりすぎないように トレードオフを設計したり カウンターを用意して 互いに牽制させたりできる だがどんなに優れた設計であっても 数百万人の調査には耐えられない だから勝率、対戦、使用率、プレイヤーの意見を見て 常にバランスを見極める必要がある 上手くいけば不均衡に対応して メタが自然に変わるだろうが 開発者が介入して 難しい修正を加えるしかない時もある そして新キャラを導入すると 全てが再び壊れるのだ はぁ… 簡単な仕事じゃないって言っただろ そこで質問だ 君が考える一番バランスが良いゲームは? バランスを間違えたゲームを プレイした経験はあるか? バランスに関する経験を コメント欄で教えてくれ (字幕翻訳:Nekofloor) ご視聴ありがとう! 僕はたくさんの助けを借りた 多人数ゲームに詳しい人たちから 『League of Legends』『Dirty Bomb』 『Rainbow Six Siege』などに関わった開発者まで シューターのマップのバランスとか 話題は他にもあるが それはまたいつかやろう それじゃ、ありがとう ではまた