1 00:00:07,218 --> 00:00:11,687 合理的思考を備えた二人のクッキー クリスピーとチューイーが散歩していると 2 00:00:11,687 --> 00:00:15,027 一匹のキツネに出くわしました 3 00:00:15,027 --> 00:00:17,286 二人がいかにも仲良しに見えたので 4 00:00:17,286 --> 00:00:19,613 いきなり食べてしまうのではなく 5 00:00:19,613 --> 00:00:23,700 ジレンマ (板挟み) の状況を作り 二人の友情を試すことにしました 6 00:00:23,700 --> 00:00:30,290 そこで 一人ずつに 二人のうち どちらを犠牲にするか聞きました 7 00:00:30,290 --> 00:00:31,940 二人は 話し合うことはできても 8 00:00:31,940 --> 00:00:37,010 相手の選択を 最後まで知ることはできません 9 00:00:37,010 --> 00:00:43,691 キツネは 両方が 自分の犠牲を選べば 二人とも手か足を1本ずつ食べ 10 00:00:43,691 --> 00:00:47,691 片方が自分の犠牲を選び もう片方が相手の犠牲を選んだら 11 00:00:47,691 --> 00:00:49,831 自分の犠牲を選んだ方を丸ごと食べ 12 00:00:49,831 --> 00:00:54,055 相手の犠牲を選んだ方は 逃がしてやろうと思いました 13 00:00:54,055 --> 00:01:01,315 そして 両方とも相手の犠牲を選べば 二人から手足を3本ずつ食べるつもりでした 14 00:01:01,315 --> 00:01:06,032 ゲーム理論では これを 「囚人のジレンマ」と呼んでいます 15 00:01:06,032 --> 00:01:10,812 二人のクッキーが 合理的な判断のもと どう行動するかを分析するために 16 00:01:10,812 --> 00:01:14,182 それぞれの選択を表にまとめてみましょう 17 00:01:14,182 --> 00:01:18,974 横列はクリスピーの選択 縦列はチューイの選択です 18 00:01:18,974 --> 00:01:21,218 各セルに 19 00:01:21,218 --> 00:01:24,264 選択によって残る手足の数が 書かれています 20 00:01:24,264 --> 00:01:27,298 選択によって残る手足の数が 書かれています 21 00:01:27,298 --> 00:01:31,592 はたして 二人の友情は続くのでしょうか? 22 00:01:31,592 --> 00:01:34,322 まず チューイの選択を見てみましょう 23 00:01:34,322 --> 00:01:39,377 二人とも クリスピーの犠牲を選択すれば チューイは4本無傷で逃げることができます 24 00:01:39,377 --> 00:01:41,527 クリスピーもチューイも 25 00:01:41,527 --> 00:01:46,300 相手の犠牲を選択すれば 手足は1本だけ残ります 26 00:01:46,300 --> 00:01:48,660 つまり クリスピーがどっちを選択しても 27 00:01:48,660 --> 00:01:54,914 クリスピーの犠牲を選択すれば チューイに最善の結果となるわけです 28 00:01:54,914 --> 00:01:57,394 クリスピーの場合も同じです 29 00:01:57,394 --> 00:02:00,450 このように「囚人のジレンマ」は 30 00:02:00,450 --> 00:02:03,483 お互いを裏切るのが 標準的な結末です 31 00:02:03,483 --> 00:02:07,594 迷わず相手を犠牲にするこの状況を 32 00:02:07,594 --> 00:02:11,792 ゲーム理論家は 「ナッシュ均衡」と呼びます 33 00:02:11,792 --> 00:02:15,423 この均衡が崩れると どちらにも得ではありません 34 00:02:15,423 --> 00:02:18,250 二人とも自己に合理的な選択をした結果 35 00:02:18,250 --> 00:02:22,130 卑劣なキツネは クッキーで満腹 36 00:02:22,130 --> 00:02:26,564 残されるのは  手足1本ずつの 元親友どうしです 37 00:02:26,564 --> 00:02:29,334 通常 お話はここで終わるのですが 38 00:02:29,334 --> 00:02:33,184 たまたま一人の魔法使いが この騒ぎを 一部始終見ていました 39 00:02:33,184 --> 00:02:37,973 そして 二人にお互いを裏切った罰として 40 00:02:37,973 --> 00:02:42,104 一生 ジレンマを繰り返す 魔法をかけました 41 00:02:42,104 --> 00:02:46,596 毎朝 日の出とともに 4本の手足がそろい 1日が始まります 42 00:02:46,596 --> 00:02:48,406 さて 何が起こるでしょうか? 43 00:02:48,406 --> 00:02:54,105 これは「繰り返し囚人のジレンマ」と言い 全く逆の結末を迎えます 44 00:02:54,105 --> 00:02:56,148 なぜなら 未来の選択を 45 00:02:56,148 --> 00:03:01,806 交渉の切り札として 利用することができるからです 46 00:03:01,806 --> 00:03:06,500 例えば 二人で毎日 自分を犠牲にしようと決めたのに 47 00:03:06,500 --> 00:03:09,489 一人が裏切って 相手の犠牲を選択したら 48 00:03:09,489 --> 00:03:13,639 もう一人は 翌日から永遠に 裏切り返してくるでしょう 49 00:03:13,639 --> 00:03:15,916 では このかわいそうな二人が 協力するよう 50 00:03:15,916 --> 00:03:19,759 言い聞かせるだけで十分でしょうか 51 00:03:19,759 --> 00:03:24,434 この答えを出すために 違う角度から考える必要があります 52 00:03:24,434 --> 00:03:26,206 二人はおそらく 今 53 00:03:26,206 --> 00:03:30,313 未来のことより 今日の心配だけしているはずです 54 00:03:30,313 --> 00:03:33,471 少し難しく言えば 55 00:03:33,471 --> 00:03:36,914 未来の心配は ある数値の分 減って行くはずです 56 00:03:36,914 --> 00:03:39,324 その数値は δ (デルタ) と言います 57 00:03:39,324 --> 00:03:44,142 これはお金の価値を損なわせる インフレの概念に似ています 58 00:03:44,142 --> 00:03:47,657 例えば δ が2分の1の場合 59 00:03:47,657 --> 00:03:51,528 初日の選択時の 手足の数の心配量は 2日目が1日目の半分 60 00:03:51,528 --> 00:03:56,360 3日目が1日目の4分の1です 61 00:03:56,360 --> 00:04:01,381 δ が0の場合 未来のことを心配していないことを意味し 62 00:04:01,381 --> 00:04:06,339 二人は 永遠に相手の犠牲を— つまり 最初の選択を繰り返します 63 00:04:06,339 --> 00:04:11,753 δ が1の場合は 毎日 3本の手足を失わないように 64 00:04:11,753 --> 00:04:14,250 苦渋の選択でもするでしょう 65 00:04:14,250 --> 00:04:17,423 つまり 自分の犠牲を選択するのです 66 00:04:17,423 --> 00:04:20,483 ある特定の時点を境に 二人にとって 得か損かに分かれます 67 00:04:20,483 --> 00:04:22,903 どの時点かは 68 00:04:22,903 --> 00:04:27,138 それぞれのケースの計算式を 書き出すことでわかります 69 00:04:27,138 --> 00:04:31,138 二人の利得を等しくし δ の数値を求めます 70 00:04:31,138 --> 00:04:33,784 答えは δ が3分の1— つまり 71 00:04:33,784 --> 00:04:39,914 二人の翌日の心配量が 今日の時点で 少なくとも3分の1あれば 72 00:04:39,914 --> 00:04:44,277 互いに協力し 自分の犠牲を選び続けるという 最善策をとるのです 73 00:04:44,277 --> 00:04:48,027 この分析は クッキーと魔法使いの話に限りません 74 00:04:48,027 --> 00:04:50,662 通商交渉や 国際政治などの現場でも 75 00:04:50,662 --> 00:04:54,637 よくあることです 76 00:04:54,637 --> 00:04:58,847 理性ある指導者なら 自らの決定が 敵陣の決定に影響を与えることを 77 00:04:58,847 --> 00:05:02,087 想定しておかなければなりません 78 00:05:02,087 --> 00:05:06,660 利己的行動は 適切なインセンティブがあれば 短期的には得かもしれませんが 79 00:05:06,660 --> 00:05:13,243 平和的協力は 単に可能であるだけでなく 論証的にも数学的にも最善なのです 80 00:05:13,243 --> 00:05:17,243 二人のクッキーの友情は 時に崩れることもあるでしょう 81 00:05:17,243 --> 00:05:19,543 しかし 1本の手足で生きる決意があれば 82 00:05:19,543 --> 00:05:23,571 簡単に粉々になることはないでしょう