この海岸に立つのは5回目になります
キューバの海岸で
遠くの地平線を見ながら
再び確信しています
この広大で
危険に満ちている大海原を
泳いで渡りきれることを
私自身の4回の試みだけでなく
世界中のトップクラスの泳者が
1950年以来挑み続けているにもかかわらず
まだ誰も達成できていません
私のチームは
4回の試みを誇りに思っており
30人ほどの支援チームです
リーダーは
親友のボニーで
私を力づけてくれます
失ってしまったかと思われる
かすかに残った闘志を
何時間 何日間も泳ぎ続けたあの海で
呼び覚ましてくれるのです
チームのサメ専門家は世界一です
サメは水面下で私を狙っています
世界一強力な毒を持つハコクラゲは
この海域を棲みかとしており
前回の試みでは
危うく命を落とすところでした
環境自体も苛酷です
160キロ以上もある距離は
もちろんのことですが
海を渡るということは
潮の流れや 渦巻き
そして地球上で最も予測の難しい
メキシコ湾流もあります
ところで 面白いことに
このような挑戦の前になると
記者とか他の人に
よく こんな質問をされるんです
「ボートとか 支援者とか
一緒について行くの?」って
いったい何を
想像しているのでしょう?
一人で星を見ながら泳ぐ方向を修正し
格闘用ナイフを口にくわえ
魚を捕まえ 皮を剥いで
その肉を食べ
脱塩造水装置でも引っ張って泳ぎ
飲み水を作ると思うのでしょうか
(笑)
もちろんチームを連れて行きます(笑)
チームはプロの勇敢な仲間たちで
問題に画期的に取り組み
科学的な発見をしています
世界の どの有名な探検とも同じです
彼らとは共に長い道のりを歩んできました
古代ギリシア時代から常に
冒険の意味は何か
討論されてきました
人生の目的はゴールではなく
その道のりではないでしょうか?
この道のりは
本当に スリルに満ちています
まだ 対岸には着いていませんが
それに対する誇りと決意は
断固としたものです
60歳になっても
夢を失いませんでした
20代のときにチャレンジし
夢に見、心に描いていました
今日 世界で最も注目されている
キューバとフロリダ間の海峡を
思い浮かべました
とても深く 私の心に根付いているんです
60歳になったとき
スポーツ界で偉業を成し遂げたいとか
誰よりも先に渡ることを
自慢したくてやったのではありません
もちろん それもありましたが
それよりも深い目的があり
残っている人生を考えたのです
事実 私たちは皆
人生の終わりに向かって進んでいます
そこで 何をするか?
一体何をして進めば
後で振り返った時に後悔しないか?
去年 トレーニング中に
これにぴったりな
セオドア・ルーズベルトの言葉を
いつも思い出していました
こんな言葉です
「心地良い椅子に座って 人のやることを
批判したり 傍観するだけでも良いが
勇気のあるものは
実際に参加し
傷つき 泥まみれになり
幾度となく失敗しても
恐れず 迷わずに
勇敢に生きるものだ」
もちろん
向こう岸まで泳ぎきりたかった
それが目的ですから
実の所 ―
今年は道のりより
目的地に到達したことが
もっとステキでした
(笑)(拍手)
でも その旅自体も
とても価値があったのです
この時点で 今年の夏のことですが
科学者 スポーツ科学者
トレーニングの専門家
脳神経学の医者
それに 私のチームのボニーにも
これは無理だと言われました
とても不可能だと
でもボニーは こう言いました
「この旅に出ると決めたら
私も最後まで付き合うわ
一緒にやろう」
そしてスタート地点に立ったのです
沖を眺めると
まるで別世界にいるようでした
最初の1かきを始める前に
マリナ・ヘミングウェイの岩の上から
キューバの国旗が風に揺れ
チーム全員がそれぞれのボートの上で
拳を上げて「ここにいるよ 一緒に行くよ」
と言ってくれているのが見えました
ボニーと目を合わせて口にしたのは
今年の目標として
トレーニング中に繰り返してきた言葉です
「目標に向かって道をみつけよう」
夢があれば
誰しも 前途に
立ちはばかるものがあります
人生には必ず
悲しみや戸惑いが
あるものです
でも自分を信じて 希望を失わず
打ちのめされても
立ち上がることができ
忍耐とは私たちに与えられた
素晴らしい特性であると思えれば
道はみつかるのです
ボニーは私の肩をぐっと掴むと
「フロリダまでの道を
一緒にみつけよう」と言いました
そしてスタートしました
そこから始まった53時間は
強烈で 忘れる事が出来ない経験でした
素晴らしいものは
本当にすごいんです
宗教は信じないタイプなのですが
メキシコ湾流の真っ青な海を泳ぎ
息継ぎしながら
永遠に続く景観を眺めると
青い地球への畏敬の念を
抱かずにはいられません
本当に素晴らしいものです
頭の中のプレイリストには85曲ほどあって
特に真夜中になると
明かりは全く使わないので ―
明かりにはクラゲが集まるし
サメもやってきます
サメは明かりに集まる
魚が目当てです
だから 真っ暗な闇の中を進みます
こんな真っ暗な闇は
誰も経験がないと思います
自分の指先も見えなければ
ボートの仲間も見えません
ボートにいる ボニーとチームの仲間は
私の腕が水面を叩く音から
私の位置がわかるのです
見えるものは何もありません
そんな中で自分のプレイリストに
陶酔していました
(笑)
きついゴム製の水泳帽を被っているので
何も聞こえません
ゴーグルをつけ
頭を1分間に50回ひねりながら
歌をうたっています
♪ 想像してごらん 天国なんてないと ♪
♪ ルルルルルー ♪
♪ やってみれば 簡単だよ ♪
♪ ルルルルルー ♪
これは千回でも続けて歌えます
(笑)
これも才能でしょうね
(笑)(拍手)
いつもこの部分を歌い終えると
♪ ああ 僕を夢想家だと思うかもしれないが
僕だけじゃない ♪
222回目
♪ 想像してごらん 天国なんてないと ♪
そして ジョン・レノンの『イマジン』を
千回を歌い終わると
そして ジョン・レノンの『イマジン』を
千回を歌い終わると
9時間45分泳いだところでした
きっかりです
そこで問題がやってきました
必ずやってくるものです
まず吐き気に襲われ
海水のせいで 気分が悪くなり
クラゲから完全防護するための
マスクを頭から被るので
泳ぎにくいんです
口の中は擦れて痛いのですが
クラゲの触手にはやられません
それに体温が下がります
水温は29度
それでも体重が減り
カロリーを消耗しています
ボートに近づいても
ボートに触れてはいけません
上がることもできませんが
ボニーと支援チームは
食料を手渡し
私の具合を確認してくれます
実は目の前に
タージ・マハルが見えていたんです
精神的に全く違うゾーンにいて
スゴイ なんて思っていたんです
こんな所でタージ・マハルに出くわすなんて
すばらしい景観です
あの建設には何年かかったのだろう?
ちょっと 頭がおかしいですね(笑)
鉄則のようなものですが
この先どれくらいかかるとかは
知らされません
実際 誰にもわかりませんし
この先 何が起こるかもわかりません
この先 何が起こるかもわかりません
天候や潮の流れ
それに 絶対あってはならないのが
クラゲにやられることです
これだけ体をカバーしていても
刺されるかもしれません
でもボニーの決断で
3日目の朝のことですが
私が苦しんで
やっとの思いで泳いでいるのを見て
私をボートの側に呼び寄せると
私をボートの側に呼び寄せると
「あそこを見てごらん」と言ったのです
明かりが見えました
夜より 日中の方が楽なので
朝になるのを嬉しく思いました
一列に並んだ白っぽい光が
水平線上に見えました
「もうすぐ夜が明けるね」と言うと
ボニーは答えました
「違う あれはキー・ウェストの明かりよ」
あと15時間でフロリダに到着するのです
普通の泳者にとっては
長い時間でしょうが
(笑)(拍手)
15時間の水泳トレーニングなら
慣れっこです
もうすぐです
なぜか無意識のうちに
水をかく回数を数えるのを止め
歌うのも スティーヴン・ホーキングの
言葉や
宇宙のパラメータを考えるのもやめました
この夢について考え始め
なぜ どうやって夢を追ったのかが
頭に浮かびました
ことの始まりは60歳になった時だと
お話ししましたが
「できるだろうか」という
単純なものではありません
日々の計画と
自制心 それに準備
それに対する誇りもあります
でも 次第に
こう考えようと思いました
「星まで届け」という言葉がありますが
私の場合「地平線まで届け」だったのです
そして 私のように「地平線に届いた」とき
届かない人もいるかもしれませんが
その過程で人間的にも精神的にも
ものすごく成長するんです
地平線を目指しながら築く
人間としての土台は 計り知れないものです
対岸が迫ってきました
少しだけ悲しい気持ちにもなりました
壮大な旅が終わってしまうんです
今ではいろんな人に言われます
「次は何?あれはすごかった!」
コンピューターで
私の泳ぎを追っていた人でしょうか?
「今度はどこを泳ぐの?
次の挑戦も応援するのが楽しみ」
この方たちが参加したのは53時間だけ
私は何年間もかけて挑戦したんです
もう海を渡るような
壮大な旅はないでしょう
でも大切なのは
人生 1日1日が壮大だということです
あの海岸に上がった時
というか 這い上がった時
以前から何回も
偉そうなスピーチを
練習して準備してありました
ボートで並走していたボニーが
私の喉の奥が腫れてきたと心配した時
医療チームをボートに呼んで
呼吸に支障が出始めていると
相談していました
あと半日 か1日 海にいたら
喉全体が腫れて
「気管切開」だなんて
ボーっとしながら聞いた覚えがあります
(笑)
でも そこでボニーが医者に言ったのは
「呼吸が出来るかは心配じゃないけど
岸についてスピーチができなかったら
彼女 カンカンになるわ」でした
(笑)
でも実際 用意したスピーチは
遠泳のトレーニングの
モチベーションになったのですが
遠泳のトレーニングの
モチベーションになったのですが
本番は全く違いました
とても感動的な瞬間でした
沢山の人やチームもいました
成功したんです 私の成功ではなく
皆の成功です
忘れる事はありません
永遠に私たちの一部となるでしょう
岸に着いた時 なんとか口から出たのは
3つの言葉です
まず1つ目は
「決して あきらめるな」
私のモットーです
ソクラテスも言っていましたね
「存在は行動なり」
皆さんに「決してあきらめるな」と
口で言うだけではなく
実際あきらめず
行動で示せたと思います
2つ目は「夢を追いかけるのは
何歳になっても遅くない」です
64歳が 年齢・性別を問わず
誰にも達成されなかったことを
やり遂げたんです
今こそが 人生の盛りだと確信しています
今こそが 人生の盛りだと確信しています
(拍手)
そうです
ありがとう
3つ目に岸に着いたとき言ったのは
「こんな孤独な挑戦は
他に例がないように見えるでしょう
いろいろな意味で そうなんですが
別の意味 ―
最も大切な意味では
これはチームの勝利です
私がすごいと思うなら
ボニーを見て下さい」
(笑)
ボニー どこですか?
どこにいますか?
彼女が ボニー・ストールです(拍手)
大切な親友です
ヘンリー・デイヴィッド・ソローが
こう言いました
夢を達成するとき大切なのは
何を手に入れるかではなく
その過程でどのような人間に
なったかということだ
私は こんな風に皆さんの前に立っています
遠泳を達成してから
3ヶ月のうちに
オプラの番組に出演し
オバマ大統領の
ホワイトハウスの執務室にも招かれました
皆さんのような方々の前で
話す機会にも恵まれ
大手の出版社と
本の契約も結びました
これらは全てすばらしく
軽視するわけではありません
全てうれしく思いますが
でも こうやって胸をはっていられるのは
あの勇敢に物事に立ち向かう
生き方で
毎日を生きているからです
ありがとう
カンファレンスを楽しんでください
ありがとう
(拍手)
どうもありがとうございます
ありがとう
皆さんも道をみつけて下さい(拍手)