0:00:00.000,0:00:03.390 はい!どうもアバタローです。[br]本日は、ドイツの哲学者。 0:00:03.390,0:00:06.721 ニーチェの[ツァラトゥストラ][br]こちらをご紹介いたします。 0:00:06.721,0:00:09.641 どんな作品かと言いますと...[br]人生を前向きに 0:00:09.641,0:00:14.015 肯定的に生きぬく力を与えてくれる[br]世界的名著でございます。 0:00:14.015,0:00:17.588 まず、どういった方にお役に立ちそうな[br]内容なのかをお伝えいたします。 0:00:17.588,0:00:19.785 [自分の人生に意義を見出せない] 0:00:19.785,0:00:21.920 [気の弱い自分を吹き飛ばしたい] 0:00:21.920,0:00:23.862 [もう一回人生をやり直したい] 0:00:23.862,0:00:26.370 [自己肯定感の低さをどうにかしたい] 0:00:26.370,0:00:30.757 これに1個でも当て嵌まれば[br]ニーチェについて、全くご存じない方でも 0:00:30.757,0:00:33.585 今回の動画は見ていただく価値は[br]あると思います。 0:00:33.585,0:00:39.134 ここ数年、自己肯定感について悩んでいる方が多く[br]巷には、そういったジャンルの本が 0:00:39.134,0:00:42.526 溢れていますよね。[br]ただ、色んなテクニックや知識を仕入れても 0:00:42.526,0:00:46.716 あまり効果が見られなかったのであれば[br]ニーチェという「劇薬」に頼るのも 0:00:46.716,0:00:50.667 1つの解決策です。[br]...と言いますのも、ニーチェ哲学のテーマは 0:00:50.667,0:00:55.845 [生の肯定]であり、徹底的に自分の人生を[br]肯定することを説いているんです。 0:00:55.845,0:00:58.921 そして、本日ご紹介をさせていただく[br][ツァラトゥストラ]は 0:00:58.921,0:01:03.788 ニーチェ哲学の集大成であり[br]人生のネガティブループを強制終了させる 0:01:03.788,0:01:06.517 「最強の劇薬である」という訳です。 0:01:06.517,0:01:09.086 ニーチェは本書について[br]次のように述べています。 0:01:09.086,0:01:12.859 私は、[ツァラトゥストラ]を書くことにより[br]これまで人類に贈られた 0:01:12.859,0:01:17.304 [最大の贈物]をした。[br]何千年先にも届く、声を持ったこの本は 0:01:17.304,0:01:23.437 およそ、ありうる限り最高の書物である。[br]ここで彼が、何故こういった独特な表現を使い 0:01:23.437,0:01:29.151 自信に満ち溢れた発言をしているかについては[br]動画の後半に行くにつれて見えてくると思います。 0:01:29.194,0:01:33.310 因みに、”難しい話かもしれない” とご心配の方。[br]大丈夫です。 0:01:33.310,0:01:37.342 哲学に関する知識は一切要りません。[br]手ぶらでオーケーでございます。 0:01:37.342,0:01:41.058 お茶でも飲みながらリラックスして[br]ぜひ最後まで、楽しんで行ってください。 0:01:41.144,0:01:43.768 それでは参りましょう。[br]ニーチェ[ツァラトゥストラ] 0:01:44.079,0:01:48.827 まず、どういった流れでお話をさせていただくか[br]整理をしておきたいと思います。 0:01:48.827,0:01:50.890 大きく3つです。[br][1. ニーチェの生涯] 0:01:50.964,0:01:52.283 [2. ツァラトゥストラについて] 0:01:52.283,0:01:56.300 [3. 運命愛][br]以上、3つのテーマに沿って進めてまいります。 0:01:56.300,0:01:58.852 ...というわけで、早速[br]1つ目から見て行きましょう。 0:01:58.852,0:02:02.107 フリードリヒ・ニーチェ。[br]彼は1844年。 0:02:02.107,0:02:04.899 ドイツの前身である[br]プロイセンの東部にある 0:02:04.899,0:02:08.817 レッケンという小さな村で[br]牧師の息子として生まれました。 0:02:08.817,0:02:13.486 ただ彼は、見た目は子供。[br]頭脳は大人という、所謂「天才少年」でして... 0:02:13.486,0:02:15.968 勉強はできる。[br]作曲もできる。 0:02:15.968,0:02:18.630 詩も書ける。[br]しかもセンスは抜群。 0:02:18.630,0:02:22.018 ...と言うように、始めから[br]普通の子供ではなかったと言います。 0:02:22.097,0:02:27.526 そして、20代の半ばという若さで[br]スイスにあるバーゼル大学の教授に就任します。 0:02:27.526,0:02:31.030 しかも、当時の彼は「教員資格」も[br]「博士号」もなく 0:02:31.030,0:02:34.508 ただの学生という立場で[br]教授に推薦されたそうです。 0:02:34.508,0:02:38.136 如何にニーチェが並外れた存在であったかが[br]よく分かります。 0:02:38.406,0:02:42.036 ただ、常に「右肩上がり」といかないのが[br]人生でございます。 0:02:42.036,0:02:45.567 ニーチェの快進撃は[br]30歳手前ぐらいでピタッと止まり 0:02:45.567,0:02:49.378 そこから、数々の試練が[br]怒涛の如く彼を襲います。 0:02:49.378,0:02:52.580 苦労して書き上げた書籍は[br]ことごとく売れない。 0:02:52.580,0:02:54.699 授業をやっても学生は来ない。 0:02:54.699,0:02:58.839 教授に推薦してくれた恩師。[br]そして、友人からも見放され 0:02:58.839,0:03:02.762 更に、慢性的な頭痛に加え[br]胃の痛み、吐き気も治まらない。 0:03:02.762,0:03:05.334 その上、女性関係も上手く行かない。 0:03:05.334,0:03:07.261 もう、絶不調が止まりません。 0:03:07.356,0:03:10.356 そして、そんな呪いがかかったような状態の中。 0:03:10.356,0:03:15.569 彼は渾身の力を込めて1冊の本を生み落とします。[br]それが、[ツァラトゥストラ] 0:03:15.569,0:03:20.487 ただこの本...タイトルがちょっと怪しすぎて[br]余り手に取る気が起きません。 0:03:20.576,0:03:25.149 しかも内容も正直言って、理解しにくいです。[br]...ですので、本人の期待とは裏腹に 0:03:25.149,0:03:27.976 当時、全く売れなかったんです。[br]しかも、よりによって 0:03:27.976,0:03:31.367 4部構成にして、4冊に分けて[br]気合を入れて出版したんです。 0:03:31.367,0:03:36.308 その結果、爆死です![br]特に最後の第4部は、余りに売れなさ過ぎて 0:03:36.308,0:03:40.949 自分で知り合いに「これを貰ってやってくれないか」[br]と、配り歩いていたそうです。 0:03:40.949,0:03:44.955 そんな状況の中、流石のニーチェも[br]”もう本なんか書くか!” と 0:03:44.955,0:03:48.922 腐ってしまうのかと思いきや[br]なんと彼は、そのまま筆を握り続け 0:03:48.922,0:03:51.514 次々と、著作を生み出していきます。 0:03:51.514,0:03:56.506 しかも、それらの作品のほとんどが[br]あの滑りに滑った[ツァラトゥストラ]を補足し 0:03:56.506,0:03:59.606 解説する、という書籍なんです。[br]凄い執念です。 0:03:59.606,0:04:03.485 どれだけ、彼が本作に[br]魂を込めていたかが伺えます。 0:04:03.485,0:04:08.490 しかし、そんな力強い精神を持ったニーチェも[br]遂に、限界を迎えます。 0:04:08.514,0:04:12.769 1889年、彼が45歳を迎える年の頃です。 0:04:12.769,0:04:16.187 滞在していたイタリア、トリノの広場で[br]事件は起こりました。 0:04:16.187,0:04:22.516 一説によると鞭でバンバン叩かれている馬に駆け寄り[br]その馬の首を泣いて抱きしめながら発狂し 0:04:22.516,0:04:27.539 そして、意識を失ってしまったと言われています。[br]幸い意識は戻ったのですが 0:04:27.576,0:04:33.207 彼の心は完全にこの時、壊れてしまい[br]二度と元のニーチェに戻ることはありませんでした。 0:04:33.207,0:04:37.010 ただ、運命とは皮肉なもので[br]実は、このタイミングになって 0:04:37.010,0:04:40.245 ようやくニーチェの著作に対する評価が[br]高まって来るんです。 0:04:40.245,0:04:43.882 「ニーチェ文庫」という出版社まで出来て[br]本もバンバン売れていきます。 0:04:43.882,0:04:49.329 しかし、ニーチェにどれだけ今の状況を[br]言い聞かせても何も認識することが出来ないのです。 0:04:49.329,0:04:54.207 そして、精神に異常がで始めてから約10年後。[br]55歳という若さで 0:04:54.207,0:04:56.558 ニーチェは天に[br]旅立って行ったという訳です。 0:04:57.073,0:05:01.609 ニーチェの人生について超高速で見てきましたが[br]ここまで、よろしいでしょうか? 0:05:01.609,0:05:06.739 以上のストーリーを踏まえた上で[br]彼が渾身の力を込めて生み落とした最高傑作。 0:05:06.857,0:05:09.151 [ツァラトゥストラ]について[br]見て行きたいと思います。 0:05:09.151,0:05:13.127 まず簡単に、どういったお話かといいますと[br]ツァラトゥストラというオジサンが 0:05:13.127,0:05:16.624 10年間山籠もりをし、孤独の中で知恵を蓄え 0:05:16.624,0:05:20.483 それを他の人間たちにも[br]「分けてやりたい」と言って下山をする。 0:05:20.483,0:05:24.871 そして、その中で様々な人と出会い...[br]語り合いながら自分の知恵を 0:05:24.871,0:05:29.062 分け与えて行くといったお話です。[br]因みに、この[ツァラトゥストラ]というのは 0:05:29.062,0:05:33.479 ゾロアスター教の開祖であるゾロアスターを[br]ドイツ語読みしたものです。 0:05:33.627,0:05:37.167 ただ、ニーチェ哲学とゾロアスター教は[br]全然関係がありませんので 0:05:37.167,0:05:39.242 ここはスルーしていただいて大丈夫です。 0:05:39.242,0:05:44.227 大事なのは、ツァラトゥストラというオジサンが[br]ニーチェの分身であるということです。 0:05:44.227,0:05:48.743 ...ですから、山から下りて来た[br]ツァラトゥストラが人々に語っていることは全て 0:05:48.743,0:05:52.266 ニーチェの言葉として[br]捉えていただく必要があるわけです。 0:05:52.320,0:05:53.832 では早速、見て行きましょう。 0:05:53.832,0:05:58.971 まず、山から下りて来たツァラトゥストラは[br]森の麓で、一人の老人と出会います。 0:05:59.087,0:06:02.850 そして、あなたは森で[br]「何をしているのか?」と尋ねるのです。 0:06:02.850,0:06:07.440 すると、その老人は[br]「歌を歌ったりして神様を讃えたりしているんですよ」 0:06:07.440,0:06:12.054 と答えるのですが、これに対しツァラトゥストラは[br]とんでもない衝撃を受けます。 0:06:12.231,0:06:15.104 そして、心の中で[br]次のように呟きました。 0:06:15.104,0:06:19.932 「あり得ない!この老人は...まだあのことを[br]誰からも聞いていないのか? 0:06:19.978,0:06:22.052 [神は死んだ]ということを...」 0:06:22.362,0:06:26.682 はい!ここでストップします。[br]早速、有名なセリフが出てきました。 0:06:26.682,0:06:29.733 「神は死んだ」[br]ニーチェを知らない方も 0:06:29.733,0:06:32.395 このパワーワードは聞いたことが[br]あるんじゃないでしょうか? 0:06:32.395,0:06:36.613 では、この「神は死んだ」というこの言葉。[br]これは一体、どういう意味なんでしょうか? 0:06:36.613,0:06:39.757 簡単に言ってしまいますと...[br]もうこの世の中には 0:06:39.757,0:06:43.438 絶対的な「真理」や「価値」なんてものは[br]”ない” と言っているんです。 0:06:43.539,0:06:49.056 自然科学が発達する前の人類は[br]自分たちの頭で理解できない事柄については 0:06:49.056,0:06:54.137 「神のなせる業」「神の意図である」と[br]解釈をし納得をしてきました。 0:06:54.237,0:06:59.218 ところが、その深遠なる「神の意図」を解明しようと[br]人類は、科学技術を発達させ 0:06:59.218,0:07:04.295 神の存在を前提とする世界観を[br]自らの手によって破壊してしまった訳です。 0:07:04.295,0:07:07.280 例えば「天動説」[br]地球は宇宙の中心であり 0:07:07.280,0:07:11.971 その他の天体は、この地球の周りを[br]グルグル回っているだけだというこの説は 0:07:11.971,0:07:16.048 中世のキリスト教世界においては[br]正に絶対的真理でした。 0:07:16.048,0:07:19.385 反対意見を言おうものなら[br]もう、大変なことになってしまいます。 0:07:19.385,0:07:23.778 しかし、「地動説」という科学に基づいた[br]新たな解釈が生まれたことによって 0:07:23.778,0:07:28.271 ジワリジワリと、神を前提とする世界観が[br]崩れていったわけです。 0:07:28.271,0:07:31.777 人間の存在も同様です。[br]神が天地を創造し 0:07:31.777,0:07:35.567 自分を模って[br]男と女を作り上げたという「創造論」 0:07:35.725,0:07:39.541 これも旧約聖書をベースとしたストーリーですが[br]「進化論」という 0:07:39.541,0:07:42.073 新たな学説によって、揺らいでしまいました。 0:07:42.073,0:07:47.725 つまりニーチェは、人間は自分たちの手で[br]「絶対的真理はない」と証明してしまった。 0:07:47.725,0:07:52.660 もっと乱暴に言えば、自分たちの手で[br]「神を殺してしまったのだ」という主張をし 0:07:52.843,0:07:56.808 西洋世界のこれまでの常識を[br]丸々ひっくり返しに行ったわけです。 0:07:56.808,0:07:59.931 ...となりますと[br]その影響は「哲学」にも及んできます。 0:07:59.958,0:08:04.597 ニーチェ以前の哲学は、「神の存在」[br]「絶対的真理」の存在を 0:08:04.597,0:08:08.268 前提として成り立っていました。[br]例えば、哲学の父[ソクラテス] 0:08:08.268,0:08:11.264 彼は、街の人に話しかけては[br]「善とは何か」 0:08:11.264,0:08:14.789 「徳とは何か」とその答えを求めて[br]問い続けていました。 0:08:14.878,0:08:21.204 そして、弟子のプラトンはその問いの答えに対し[br]「イデア」という概念を用いて、説明を試みました。 0:08:21.333,0:08:26.532 要するに、ニーチェ以前の哲学者は[br]それぞれの説明、解釈の仕方は違えど 0:08:26.532,0:08:30.835 「普遍的な ”徳” もあるね」[br]「普遍的な ”善” ってあるよね」というように 0:08:30.835,0:08:35.130 絶対的な「真理の存在」を前提に[br]物事を考えていたんです。 0:08:35.169,0:08:37.996 ところが、ニーチェは[br]「ない!」「そんなものは、ない!」 0:08:37.996,0:08:40.288 絶対的な「価値」[br]絶対的な「基準」 0:08:40.288,0:08:43.983 絶対的な「真理」[br]そんなものは、あるわけない!と主張しました。 0:08:43.983,0:08:48.096 それ故、彼は...これまでの哲学を[br]”破壊した人物” とされているわけです。 0:08:48.453,0:08:50.248 ここで、話を元に戻しましょう。 0:08:50.248,0:08:54.181 では、この世界に絶対的な「価値」[br]絶対的「真理」がない状態だと 0:08:54.181,0:08:57.495 何がいけないんでしょうか?[br]どんな問題が生じるんでしょうか? 0:08:57.614,0:09:02.784 別に私は、何の宗教も信じてはいないし[br]哲学のこととか、絶対的ナンチャラとか 0:09:02.864,0:09:06.532 そんな難しいことを考えて[br]生きているわけじゃないし、関係ないね! 0:09:06.532,0:09:10.604 もしかしたら...そう思われる方も[br]いるかもしれませんが、実はこの問題。 0:09:10.604,0:09:15.922 人間が人間として生きている以上[br]誰にでも関係してきてしまう大事なお話なのです。 0:09:15.922,0:09:19.292 絶対的なものが存在しない、ということは[br]言ってしまえば 0:09:19.292,0:09:23.167 ”何も信じるものがない” ということです。[br]例えば、想像してみてください。 0:09:23.167,0:09:27.195 高度経済成長期の日本。[br]バブル絶頂だった時の日本。 0:09:27.195,0:09:32.880 この時代は、『21世紀の資本』でもやりましたが[br]頑張ったら頑張った分だけ、報われる時代でした。 0:09:32.880,0:09:37.738 たくさん勉強をして、名門大学に入って[br]一流企業に入ってしまえば、一生安泰。 0:09:37.907,0:09:41.441 人をたくさん雇い、物をたくさん作れば[br]売り上げも上がる。 0:09:41.491,0:09:44.549 働けば働くほど、給料も上がる。[br]そんな時代です。 0:09:44.549,0:09:49.347 つまり、頑張れば人生どうにかなる[br]という道筋が、間違いなくあったわけです。 0:09:49.347,0:09:52.317 だから、自分の夢や希望。[br]そして、家族の為に。 0:09:52.317,0:09:55.189 出世の為に...辛いことも[br]苦しいことも耐えられたし 0:09:55.189,0:09:58.899 歯を食いしばって、努力が出来ました。[br]ところが、今はどうでしょうか? 0:09:58.899,0:10:03.955 企業を神の如く、絶対的な存在とみなし[br]定年まで面倒をみて貰おうという 0:10:03.955,0:10:07.042 終身雇用神話は、最早[br]過去のものとなりました。 0:10:07.042,0:10:10.388 いつ職を失うか...[br]いつ食いっぱぐれるか分からない。 0:10:10.388,0:10:14.199 そして、将来何を目指し[br]何に希望を持ち頑張ればいいのか分からない。 0:10:14.202,0:10:17.522 そういった漠然とした不安だけが[br]日に日に大きくなっている。 0:10:17.522,0:10:19.224 それが、今の状態です。 0:10:19.224,0:10:23.609 このように、人が絶対的に信じるものを失い[br]何のために生きるのか。 0:10:23.609,0:10:28.244 その「意義」を見出せなくなる状態のことを[br][ニヒリズム]と言います。 0:10:28.244,0:10:32.975 そして、この[ニヒリズム]が蔓延していきますと[br][末人]と呼ばれる人間が 0:10:32.975,0:10:35.964 大量発生すると[br]ニーチェは警鐘を鳴らしたのです。 0:10:35.974,0:10:39.515 [末人]というのは[br]”最後の人間” とも訳されるのですが 0:10:39.515,0:10:43.722 簡単に言ってしまえば[br]将来に対して、何の憧れも希望もなく 0:10:43.722,0:10:48.730 ただ、楽に無難に惰性的に生きることを[br]よし!とする人のことを指します。 0:10:48.730,0:10:52.174 これは勿論、本人だけに[br]原因がある訳ではないと思います。 0:10:52.191,0:10:57.848 ただ、この末人にだけは、絶対になっちゃダメ![br]これが、ニーチェの揺るぎないスタンスなんです。 0:10:57.848,0:11:01.054 イヤイヤ、私だって好きで[br]希望を失ってるわけじゃないんです。 0:11:01.054,0:11:04.947 [末人]になるな!って言うんだったら[br]私等一体、何人になればいいんですか? 0:11:04.968,0:11:08.028 そう突っ込みたくなりますが...結論[br]「超人になってください!」 0:11:08.028,0:11:09.899 これが、ニーチェの回答でございます。 0:11:09.908,0:11:11.436 えっ!?超人ですか? 0:11:11.436,0:11:12.756 はい!超人です。 0:11:12.798,0:11:17.350 そして、今から紹介しますニーチェの[超人思想][br]これが[ツァラトゥストラ]の前半。 0:11:17.444,0:11:20.294 第1部、第2部の[br]メインテーマとなるわけです。 0:11:20.439,0:11:25.105 ここは、非常に重要で面白いテーマなので[br]是非、抑えていただきたいところでございます。 0:11:25.105,0:11:29.514 では、早速作品の中で[超人]について[br]語られるシーンについて、見て行きましょう。 0:11:29.514,0:11:32.487 先程、ツァラトゥストラは[br]老人と会話をしていましたが 0:11:32.488,0:11:35.122 それが終わると、森を抜けて街に向かいます。 0:11:35.158,0:11:38.613 すると、街の市場の方で[br]なんか、ザワザワしているんですね。 0:11:38.613,0:11:43.977 なんだろう?と思って近づいてみますと[br]町内イベントで、綱渡りのショーが行われるらしく 0:11:43.977,0:11:46.625 それで町中の人が[br]集まって来ていた、という訳です。 0:11:46.625,0:11:49.352 「楽しみだなぁ」「まだかなぁ?」[br]そんな声が聞こえる中... 0:11:49.352,0:11:53.006 山籠もりで蓄えた知恵を[br]吐き出したくてしょうがない「ツァラトゥストラ」が 0:11:53.006,0:11:56.368 フラフラしながら[br]その群衆の中に近づいて行きます。 0:11:56.368,0:12:00.776 誰か適当な人を捕まえて説教でも始めちゃうのかな?[br]と思いきや、そうではないんです。 0:12:00.776,0:12:03.467 何と彼は、その民衆全員に向けて[br]叫んでしまうんです。 0:12:03.467,0:12:04.805 「皆さん、よく聞きなさい! 0:12:04.805,0:12:07.576 私は、今から皆さんに[br][超人]について教えます。 0:12:07.576,0:12:09.455 皆さんは、かつて猿でした。 0:12:09.455,0:12:13.033 しかし、今の人間は[br]猿以上に猿なのであります!」 0:12:13.033,0:12:18.168 なるほど...これは怪しいおじさんが[br]意味不明なことを叫んでるようにしか聞こえません。 0:12:18.168,0:12:22.238 当然、そこにいた人々は、そんな彼を[br]全く相手にしませんでした。 0:12:22.238,0:12:25.523 しかし、ツァラトゥストラは[br]気にせず、奇妙な演説を続けます。 0:12:25.523,0:12:30.469 そして、[超人]について話を終えたところで[br]群衆の中の一人が大声で叫びました。 0:12:30.469,0:12:36.046 「よし!これで綱渡り芸の前口上は、バッチリだ![br]それじゃあ、早速...超人に登場して貰って 0:12:36.046,0:12:40.786 その超人技とやらを披露して貰おう」[br]すると、この人のボケが、ドカン!とウケてしまい 0:12:40.786,0:12:43.757 ツァラトゥストラは、皆から馬鹿にされ[br]大笑いされてしまうのです。 0:12:43.790,0:12:48.613 そんな中、綱渡り芸が始まりました。[br]人々もその様子を固唾を呑んで見守っています。 0:12:48.682,0:12:50.151 ここで、ツァラトゥストラ... 0:12:50.151,0:12:54.346 馬鹿にされたショックで、黙り込むのかと思いきや[br]なんと!まだ喋り続けています。 0:12:54.346,0:12:57.535 そして、ここで[br]非常に重要なセリフを口にするのです。 0:12:57.535,0:13:03.530 「人間という生き物は...[br]動物と超人との間に張り渡された、1本の綱である。 0:13:03.530,0:13:07.790 渡って彼方に進むのも危うく[br]途上にあるのも危うく。 0:13:07.790,0:13:12.184 後ろを振り返るのも危うく[br]おののいて、立ちすくむのも危うい」 0:13:12.184,0:13:13.980 はい!ここで一旦止めましょう。 0:13:13.996,0:13:16.907 彼が何を言わんとしているのか[br]考えてみたいと思います。 0:13:16.907,0:13:20.176 まず、超人って何?[br]というところからお話をしていきます。 0:13:20.176,0:13:22.943 結論から言うと...[br]不屈の精神力。 0:13:22.943,0:13:27.083 そして、力強い意志を持ち[br]自らの人生を肯定しながら 0:13:27.083,0:13:31.476 より高みへ向かおうとする存在。[br]それが、超人のイメージです。 0:13:31.476,0:13:35.368 なぜ、「イメージ」 と申し上げたかと言いますと[br]実は、[ツァラトゥストラ]では 0:13:35.368,0:13:39.167 具体的に、「超人とはこういうものです」 と[br]定義付けをしていないんですね。 0:13:39.167,0:13:44.674 もし、定義づけをしてしまえば、ニーチェは自ら[br]絶対的な存在を認めたことになってしまいますから 0:13:44.674,0:13:48.468 ここは敢えて、読者の想像に[br]委ねられているのかもしれません。 0:13:48.468,0:13:51.886 そして、人間というのは[br]その[超人]という存在に向かって 0:13:51.886,0:13:54.152 綱渡りのような危険を[br]乗り越えていく。 0:13:54.152,0:13:56.791 そういう存在なんですよ、と[br]言っているわけです。 0:13:56.791,0:14:00.080 では、どうやったら超人の域に[br]到達できるのでしょうか? 0:14:00.080,0:14:03.530 ツァラトゥストラが言うには[br]人間の精神には「3段階」あって 0:14:03.530,0:14:08.572 どんどん、そのレベルを上げていくことで[br]超人に近づくことが出来るそうです。 0:14:08.572,0:14:12.621 その段階には、名前がついており[br]第一段階が[ラクダ] 0:14:12.621,0:14:14.350 第二段階が[獅子」 0:14:14.350,0:14:16.761 第三段階が[幼子]です。 0:14:17.107,0:14:20.826 順番に見て行きます。[br]まず、初めの[ラクダ]の段階というのは 0:14:20.826,0:14:23.332 重い荷物を背負って[br]我慢するステージです。 0:14:23.332,0:14:28.209 自分の身に積極的に負荷をかけ[br]そこで自分の強みを獲得するわけです。 0:14:28.209,0:14:32.479 「学校での勉強」「会社での仕事」[br]「体を鍛えること」 0:14:32.479,0:14:34.839 人それぞれに[ラクダ]のステージがあります。 0:14:34.997,0:14:39.907 そして、忍耐力や自分の強みが磨かれたのなら[br]次の段階は[獅子]です。 0:14:39.907,0:14:45.662 このステージは、窮屈な状態から解放され[br]自由を求める者が進む段階です。 0:14:45.662,0:14:51.363 「既存の価値観」「常識」「権威」に対して[br]ハッキリと自分の言葉で「No」と言える。 0:14:51.363,0:14:56.023 そんな、独立の精神を持った段階。[br]それが、この[獅子]のステージです。 0:14:56.023,0:15:00.810 そして最後、第三段階になると[br]獅子は[幼子]に変身をします。 0:15:00.810,0:15:05.482 自らの想像力に身を委ね[br]勝手に自由気ままに遊ぶ。 0:15:05.482,0:15:11.046 まるで、幼い子供のような無邪気な精神。[br]それこそが、最終段階なのだという訳です。 0:15:11.124,0:15:17.361 どれだけ大人が世の中の理不尽さを嘆いていても[br]将来を悲観しても、幼い子供には関係がありません。 0:15:17.361,0:15:21.660 彼ら、彼女らにとって[br]世界は無条件に肯定されるものであり 0:15:21.660,0:15:26.480 心のままに戯れ、無心に遊び[br]自由に、創造的に今 0:15:26.480,0:15:31.607 この瞬間、瞬間を生きています。[br]つまり[超人]たる者は、この3つのプロセスを経て 0:15:31.637,0:15:36.337 最終的には「幼子」のような精神を[br]その身に宿すものなのだという訳です。 0:15:36.519,0:15:40.800 さぁ!1部・2部のメインテーマである[br][超人]に関するお話は、ここでお終いですが 0:15:40.800,0:15:44.671 この内容が、第3部・第4部[br]後半の内容へと繋がっていきます。 0:15:44.671,0:15:49.985 この、後半パートのテーマは[永遠回帰]と呼ばれる[br][ツァラトゥストラ]の中心思想でございます。 0:15:50.194,0:15:54.696 つまり、今からお話しするところが[br]この動画の最も重要な箇所であり 0:15:54.696,0:15:58.136 ニーチェ哲学を学ぶ上で、絶対に[br]外せないテーマというわけです。 0:15:58.136,0:15:59.676 では早速、見て行きましょう。 0:15:59.735,0:16:02.449 まず、[永遠回帰]とは[br]一体、何なんでしょうか? 0:16:02.449,0:16:03.909 結論から言いますと... 0:16:03.909,0:16:07.887 同じことが無限に繰り返されるという[br]仮説のことを指します。 0:16:07.887,0:16:12.498 もうちょっと、具体的に言うと...[br]あなたは、今の人生を永遠に繰り返している。 0:16:12.498,0:16:15.932 前世も、来世も...[br]ずっと、同じ人生を繰り返している。 0:16:15.935,0:16:20.115 無限ループの中をグルグル、グルグルと[br]生き続けているんですよ、という「仮説」です。 0:16:20.115,0:16:22.563 繰り返しになりますが[br]これは、「仮設」であり 0:16:22.563,0:16:25.854 事実か、事実でないかは[br]あまり重要ではありません。 0:16:25.854,0:16:28.994 仏教の世界にも ”輪廻思想” という[br]教えがありますが 0:16:29.015,0:16:31.795 「永遠回帰」とは[br]全く異なる概念になります。 0:16:31.836,0:16:36.542 生命は、色んなものに無限に生まれ変わり続ける。[br]これが、輪廻思想です。 0:16:36.542,0:16:39.439 例えば、私の来世は [br]「大資産家」かもしれないし 0:16:39.439,0:16:42.096 「小さなクラゲ」 かもしれない。[br]そういうお話です。 0:16:42.096,0:16:47.706 一方「永遠回帰」の場合は、同じ人が同じ人生を[br]グルグル永遠にループし続けるというものです。 0:16:47.943,0:16:49.229 さて、ここで質問です。 0:16:49.229,0:16:53.372 皆さまは、この「永遠回帰」の思想を[br]受け入れることが出来ますか? 0:16:53.396,0:16:57.836 それとも、同じ人生をループし続けるなんて[br]「勘弁してくれ!」と、拒絶されますか? 0:16:57.911,0:17:00.786 勿論、正解はありませんし[br]人それぞれです。 0:17:00.786,0:17:04.460 因みにニーチェは、別の著作で[br]この「永遠回帰」の思想を 0:17:04.460,0:17:08.033 人間にとっての「最大の重しである」と[br]表現しています。 0:17:08.033,0:17:12.100 要するに、人間というのは[br]余程、幸せで恵まれた人でない限り 0:17:12.100,0:17:17.073 忘れ去りたい過去の「トラウマ」[br]「失敗」「過ち」が1つや2つあるでしょう、と。 0:17:17.234,0:17:23.100 それを無限に経験し続けるのは、過去の記憶が[br]消去されているとは言え「誰だって嫌でしょう」と。 0:17:23.100,0:17:25.777 そう言っているんですね。[br]ただ、この思想というのは 0:17:25.777,0:17:29.850 その人の捉え方次第で[br]人生を大きく変えるくらいの 0:17:29.850,0:17:34.126 強力な「武器」にもなるんです。[br]仮に、本当にループし続けると 0:17:34.126,0:17:36.863 真剣に想像してみてください。[br]どうでしょうか? 0:17:36.863,0:17:40.022 永遠にネガティブで[br]否定的で「不幸」な人生か。 0:17:40.022,0:17:43.593 永遠にポジティブで[br]肯定的で「幸福」な人生か。 0:17:43.593,0:17:47.913 極端な2つの選択肢が[br]目の前に浮かび上がってくるはずです。 0:17:47.913,0:17:49.856 さぁ、選びたいのはどっちですか? 0:17:49.856,0:17:52.327 そう聞かれれば[br]どう考えても後者しかありません。 0:17:52.327,0:17:57.686 そして、もし後者を選べば、永遠に繰り返しても[br]良いと思えるような人生にしようと 0:17:57.686,0:18:00.213 前を向いて生きていくしかなくなるんです。 0:18:00.213,0:18:03.553 つまり、「永遠回帰」というのは[br]神が死んだ後の世界。 0:18:03.553,0:18:08.385 絶対的に信じるものが失われた世界で[br][末人]に陥ることなく 0:18:08.385,0:18:14.094 人生を肯定的に、力強く前向きに歩んでいくための[br]「思考法」と言えるわけです。 0:18:14.094,0:18:18.708 では、一体どうすれば「永遠回帰」の思想を[br]受け入れることが出来るようになるのでしょうか? 0:18:18.708,0:18:23.331 頭で理屈は分かっても[br]なかなか、自分のものにするのは難しそうです。 0:18:23.331,0:18:27.022 そこでニーチェは[br]「永遠回帰」を自分のものとする条件として 0:18:27.022,0:18:30.440 「ニヒリズム」を克服する必要がある[br]と説きました。 0:18:30.440,0:18:34.940 イメージし辛いと思いますので[br]今から実際に「ニヒリズム」を克服し 0:18:34.940,0:18:38.165 「永遠回帰」を受け入れた人間を描いている 0:18:38.165,0:18:41.009 [ツァラトゥストラ]の重要なワンシーンを[br]紹介いたします。 0:18:41.009,0:18:45.252 どんな場面かというと...[br]1人の若い牧人が倒れているところを 0:18:45.252,0:18:47.842 ツァラトゥストラが[br]発見するというシーンです。 0:18:47.842,0:18:51.441 牧人というのは、馬とか牛とか[br]羊などのお世話をする人です。 0:18:51.441,0:18:54.292 その主人が倒れている横で[br]犬がギャンギャンと、鳴いています。 0:18:54.292,0:18:58.490 そして、その声にツァラトゥストラが気付き[br]「何事だ?」と言って近づいて行くんです。 0:18:58.718,0:19:01.472 そこで彼は、とんでもない光景を[br]目の当たりにします。 0:19:01.472,0:19:07.769 なんと、倒れ込んでいる牧人の口から[br]黒い蛇の尻尾がニョロッと出ていたんです。 0:19:07.769,0:19:11.873 牧人は、余りの苦しさに[br]のたうち、喘ぎ、痙攣をおこしています。 0:19:11.873,0:19:16.299 そこで、ツァラトゥストラは、その牧人を[br]助けなければと、うわぁぁっ!と近づいて行き 0:19:16.299,0:19:20.271 蛇の尻尾をギュッと掴み[br]力いっぱい引っ張って、口から出そうとします。 0:19:20.271,0:19:24.616 ところが、全く蛇を引きずり出すことができません。[br]何度やっても同じでした。 0:19:24.616,0:19:26.581 そこで、ツァラトゥストラは絶叫します。 0:19:26.581,0:19:28.807 「蛇の頭ごと、噛みちぎってしまえ!」 0:19:28.807,0:19:30.587 「さぁ!噛むんだ!噛んでしまえ!」 0:19:30.587,0:19:34.055 すると牧人は、言われるがままに[br]蛇をガブッと噛みちぎり 0:19:34.055,0:19:37.780 その頭を吐き捨て、それと同時に[br]パッ!と立ち上がります。 0:19:37.780,0:19:40.833 そして、この様子を見たツァラトゥストラは[br]次のように語ります。 0:19:40.840,0:19:44.745 「私の目の前にいた男は...最早[br]牧人ではなかった。 0:19:44.745,0:19:47.913 イヤ、人間でもなかった。[br]一人の変容した者。 0:19:47.913,0:19:51.595 光りに包まれた者だった。[br]そして、彼は高らかに笑った。 0:19:51.595,0:19:55.510 今まで、地上のどんな人間も[br]笑ったことがないほど高らかに...」 0:19:55.510,0:19:57.610 さぁ、いかがでしょうか。[br]このシーン。 0:19:57.610,0:20:01.620 非常に重要な場面なんですが[br]言わんとしている事、分かりましたでしょうか? 0:20:01.620,0:20:06.005 要するに、この七転八倒している牧人というのは[br]「ニヒリズム」に捕らわれた 0:20:06.005,0:20:08.993 人間のことを描いているんです。[br]もうちょっと、分かりやすく言いますと 0:20:08.993,0:20:12.123 こんな希望もない世界に[br]生きている意味なんか、ないじゃないか。 0:20:12.123,0:20:14.040 頑張ったってどうせ...[br]報われないじゃないか。 0:20:14.040,0:20:16.164 どうせ、私なんか...[br]どうせ、私なんか!! 0:20:16.164,0:20:20.090 こういった「ニヒリズム」に陥ってしまいますと[br]私たちは、あの牧人のように 0:20:20.090,0:20:24.365 息苦しい人生を送ることになってしまいますよ、と[br]言っている訳ですね。 0:20:24.365,0:20:28.841 しかし、牧人は自分を苦しめる蛇を噛みちぎり[br]窮地を脱しましたよね。 0:20:29.048,0:20:31.587 すなわち、これこそが[br]「ニヒリズム」の克服なんです。 0:20:31.650,0:20:35.816 もっと、具体的に言えば[br]「不安」「恐怖」「嫉妬」「失望」「自己不信」 0:20:35.816,0:20:40.367 といった、色んなことに捕らわれ[br]人生を悲観的に捉えることしかできなかった 0:20:40.367,0:20:42.443 弱い自分を[br]自ら噛み殺したんです。 0:20:42.565,0:20:46.187 そして新たな、力強い自分に[br]生まれ変わる覚悟を決め 0:20:46.187,0:20:50.813 自分の人生を否定的なものから[br]肯定的に捉えなおすことに成功し 0:20:50.813,0:20:55.271 高らかに笑った。[br]これこそが「永遠回帰」の思想を受け入れ、実践し 0:20:55.271,0:20:59.570 自らの全生涯を肯定した者の[br]姿であるという訳です。 0:20:59.570,0:21:02.575 また、ニーチェは[br]「永遠回帰」の実践的態度として 0:21:02.575,0:21:05.693 最も重要なのは[br]苦しい人生を目の前にし 0:21:05.693,0:21:09.843 死にたくなるほど絶望したとしても[br]”これこそが人生なのか。 0:21:09.843,0:21:14.434 だったら、もう一度掛かってこい!” と[br]勇気を持って立ち向かうことである、と説きます。 0:21:14.434,0:21:18.565 今、生きているこの瞬間を[br]「これこそ、私の人生なのだ!」と 0:21:18.565,0:21:23.037 自信を持って肯定できる人は[br]これまで歩んできた過去を振り返っても 0:21:23.037,0:21:26.139 「これで良かったんだ」と[br]肯定することが出来ます。 0:21:26.409,0:21:31.754 そして、未来に対しても臆することなく[br]前向きに、肯定的に歩んで行くことが出来ます。 0:21:31.754,0:21:35.521 更に、これが永遠にループするとなれば[br]「自分が生きる世界」 0:21:35.521,0:21:41.808 「自分の命」「自分の人生」その全てが...[br]永遠に肯定され続けることを意味するわけです。 0:21:41.808,0:21:48.703 つまり今、この瞬間を肯定さえしてしまえば[br]永遠の肯定ループが、生まれるというお話です。 0:21:48.703,0:21:51.368 それ故、ニーチェは[br]「永遠回帰」の思想を 0:21:51.368,0:21:56.321 [およそ到達しうる限りの最高の肯定の定式][br]と名付けました。 0:21:56.321,0:22:00.028 そして、この思想を受け入れた者が[br]辿り着く思考の領域。 0:22:00.028,0:22:01.471 それが[超人]なんです。 0:22:01.471,0:22:04.055 勿論、そこに至る道は[br]決して楽ではありません。 0:22:04.055,0:22:07.498 1本の綱を渡るように[br]大きな危険を伴います。 0:22:07.498,0:22:11.671 しかし、「絶対に安全な道がある」と[br]頑なに信じ、何もせず 0:22:11.671,0:22:13.883 時が経つのを[br]ただ、待っているだけでは 0:22:13.883,0:22:16.160 あの牧人のように[br]苦しむしかないんです。 0:22:16.160,0:22:19.097 ...であれば[br]自分の弱さを思い切って断ち切って 0:22:19.097,0:22:22.671 勇気をもって前進しましょう。[br]そして、やれるだけのことを全部やって 0:22:22.671,0:22:25.689 自分の何もかもを「肯定してしまえ」と[br]言っている訳です。 0:22:25.689,0:22:27.114 さぁ、いかがでしたでしょうか。 0:22:27.228,0:22:29.182 端折りに、端折って進めてきましたが 0:22:29.182,0:22:31.441 ツァラトゥストラに関しては[br]ここでお終いです。 0:22:31.441,0:22:34.966 作品の肝となっている[超人思想][br]そして、[永遠回帰] 0:22:34.966,0:22:37.011 ざっくり、イメージ[br]いただけたでしょうか? 0:22:37.011,0:22:41.425 最後にニーチェが提唱した[運命愛]について[br]簡単に触れて終わりたいと思います。 0:22:41.425,0:22:45.784 [運命愛]というのは、一言で言ってしまえば[br]自分の運命を全て受け入れ 0:22:45.784,0:22:49.488 肯定し、愛する[br]「心の態度」のことを意味しています。 0:22:49.488,0:22:55.520 ニーチェの思想に基づくならば、この世界に絶対的な[br]「善」も「悪」も存在しないということになります。 0:22:55.520,0:22:59.457 ...であれば、自分の人生で起こる[br]様々な出来事一つ一つに 0:22:59.457,0:23:03.311 これは、楽しかったから「〇」(まる)[br]これは、キツかったから「×」(バツ) 0:23:03.311,0:23:08.871 ...と、部分的に受け入れるのではなく[br]その全てを愛することの大切さを説いた訳です。 0:23:08.899,0:23:11.974 ただ、そうやって綺麗サッパリ[br]気持ちの整理がつけばいいんですが 0:23:11.974,0:23:14.679 それが出来なくて悩むのが[br]我々、人間でございます。 0:23:14.679,0:23:17.588 自分の存在、自分の人生に[br]価値を見出せず 0:23:17.588,0:23:20.202 できることなら、もう一回[br]過去に戻ってやり直したい。 0:23:20.202,0:23:23.564 そんな気持ちが、夜な夜な[br]出てきてしまうことだってある訳です。 0:23:23.564,0:23:25.609 しかし、ニーチェは次のように言います。 0:23:25.609,0:23:26.840 [たった1度でいい] 0:23:26.840,0:23:31.003 [本当に魂が震えるほどの悦びを味わったのなら] 0:23:31.003,0:23:33.144 [その人生は生きるに値する] 0:23:33.187,0:23:37.820 つまり、生きている間に言葉では言い表せないような[br]歓びを手に入れさえすれば 0:23:37.820,0:23:40.967 全ての苦しみ[br]全ての悲しみを引き連れてでも 0:23:40.967,0:23:44.552 あなたは、自分の人生をもう一度[br]生きることを望むはずだ! 0:23:44.552,0:23:50.465 だから、どんな運命だろうと愛し[br]自分の人生を前向きに、肯定的に生きればいいのだ 0:23:50.465,0:23:54.054 と、言っている訳です。[br]ニーチェ哲学のテーマは[生の肯定]ですが 0:23:54.054,0:23:57.613 この[運命愛]は正に[br]その象徴的な概念と言えます。 0:23:57.613,0:24:02.233 しかし、そんな非常に前向きでパワフルな[br]思想の持主であるニーチェですが 0:24:02.233,0:24:06.910 彼自身の人生と言えば[br]実に「苦悩」と「悲哀」に満ちたものでした。 0:24:06.910,0:24:10.838 才能があっても仕事は評価されず[br]発狂するほど苦しみ 0:24:10.838,0:24:12.950 精神を病んで[br]この世を去るんです。 0:24:12.974,0:24:17.909 これが、永遠に回帰するのかと考えますと[br]正直、ゾッとしてしまいます。 0:24:17.909,0:24:20.944 ただ、彼は[br]晩年に書いた『自叙伝』において 0:24:20.944,0:24:23.914 自身の人生を[br]次のように振り返っています。 0:24:23.914,0:24:25.154 [どうして私は] 0:24:25.154,0:24:28.450 [私の全生涯を感謝せずにおれようか?] 0:24:28.525,0:24:31.189 [そして、だからこそ私は私自身に] 0:24:31.215,0:24:34.655 [私の生涯を、語り聞かせようとしているのである] 0:24:34.655,0:24:38.327 ニーチェの精神が崩壊するのは[br]この言葉を残した 0:24:38.327,0:24:41.995 わずか数ヶ月後と、言われています。[br]つまり、彼は 0:24:41.995,0:24:45.871 最後の最後まで[br]苦悩に満ちた自分自身の運命を愛し 0:24:45.871,0:24:49.257 「生の肯定」という[br]自分の哲学を貫き通し 0:24:49.257,0:24:51.362 その人生を全うしたのです。 0:24:51.656,0:24:53.132 そして、ニーチェは[br]自分の死後... 0:24:53.132,0:24:56.300 何百年か先に、きっと「ニヒリズム」が[br]世界を覆い尽くし 0:24:56.300,0:25:00.992 人々から希望を奪い、生きる意味を[br]失わせてしまうだろう、と予見していました。 0:25:00.992,0:25:04.761 だからこそ、彼は...[br]自分の魂と声を宿した人格。 0:25:04.761,0:25:07.930 [ツァラトゥストラ]を作り上げ[br]絶望の前に立ち尽くす 0:25:07.930,0:25:10.434 未来の人類への[br]「贈り物」としたのです。 0:25:10.434,0:25:14.718 どこまでも、生を肯定し[br]運命を愛した天才哲学者。 0:25:14.718,0:25:18.255 フリードリヒ・ニーチェ。[br]彼の贈り物が開かれるべき時は 0:25:18.255,0:25:20.063 正に、今なのかもしれません。 0:25:20.514,0:25:22.567 ...というわけで[br]ニーチェの[ツァラトゥストラ] 0:25:22.567,0:25:24.581 以上でございます。[br]いかがでしたでしょうか? 0:25:24.581,0:25:28.896 ニーチェ哲学は、やはりパワーが凄いですね。[br]圧倒されてしまいます。 0:25:28.896,0:25:32.459 もし、この後お時間があるようでしたら[br]概要欄に貼ってあるリンクから 0:25:32.459,0:25:36.735 岡本太郎さんの[自分の中に毒を持て][br]こちらをチェックしていただきますと 0:25:36.735,0:25:40.204 また、新たな発見があると思います。[br]...と言いますのも 0:25:40.204,0:25:44.989 岡本太郎さんの思想に最も影響を与えたのは[br]フランスの哲学者。 0:25:44.989,0:25:49.513 「バタイユ」という人物なんですが[br]このバタイユに影響を与えたのがニーチェなんです。 0:25:49.513,0:25:54.016 ...ですから、岡本太郎さんの力強い言葉には[br]何処か、ニーチェっぽさがあります。 0:25:54.016,0:25:59.107 そういったところに注目して観ていただきますと[br]今日の内容の解釈の幅が広がって 0:25:59.107,0:26:02.833 更に、気持ちを高めていただけるのではないかな、と[br]思います。 0:26:02.833,0:26:07.682 面白かった、参考になったという方は[br]高評価・コメントなどいただけますと嬉しいです。 0:26:07.682,0:26:10.171 また、チャンネル登録も[br]よろしくお願い致します。 0:26:10.171,0:26:12.151 ではまた、次の動画でお会いいたしましょう。 0:26:12.151,0:26:13.221 ありがとうございました。