0:00:00.000,0:00:04.000 ご紹介頂いたように 私は脳の研究をしています 0:00:04.000,0:00:06.000 人間の脳の機能と構造についての研究です 0:00:06.000,0:00:10.000 その意味するものについて 少し皆さんに考えて頂きたい 0:00:10.000,0:00:14.000 脳はゼリー様の塊で 重さは1.4kgくらい 0:00:14.000,0:00:17.000 手のひらで持てるサイズですが 0:00:17.000,0:00:21.000 宇宙空間の広大さを考えることができるのです 0:00:21.000,0:00:23.000 無限ということの意味を考えたり 0:00:23.000,0:00:28.000 それを考える自分について考えたりもします 0:00:28.000,0:00:33.000 我々が自己認識と呼ぶ[br]この奇妙な再帰的性質こそ 0:00:33.000,0:00:37.000 神経科学の至高の目標だと思います 0:00:37.000,0:00:39.000 いつかはその仕組みを理解したいものです 0:00:40.000,0:00:43.000 では この神秘的な器官についてどう研究するのでしょう? 0:00:43.000,0:00:47.000 1000億個の神経細胞があり 0:00:47.000,0:00:50.000 この原形質の小さな集まりが[br]作用し合っています 0:00:50.000,0:00:54.000 その活動から様々な能力が生まれて来るのですが 0:00:54.000,0:00:57.000 それを我々は人間性とか人間の意識と呼んでいます 0:00:57.000,0:00:58.000 それはどのようにして生じるのでしょう? 0:00:58.000,0:01:01.000 人間の脳の機能を研究する方法は[br]たくさんあります 0:01:01.000,0:01:04.000 我々が主に使っているのは 0:01:04.000,0:01:09.000 脳の小さな領域に遺伝子発現の異常が生じ[br] 0:01:09.000,0:01:11.000 そこに持続的な障害を持つ患者です 0:01:11.000,0:01:15.000 その際に起こるのは 精神的機能の 0:01:15.000,0:01:17.000 全体的な低下 つまり認識能力が 0:01:17.000,0:01:20.000 鈍くなるようなものではありません 0:01:20.000,0:01:23.000 ある機能だけが選択的に失われるのです 0:01:23.000,0:01:25.000 他の機能は正常に保たれています 0:01:25.000,0:01:27.000 そこから確証できるのは 0:01:27.000,0:01:31.000 脳のその部分が ともかく[br]その機能を果しているということです 0:01:31.000,0:01:33.000 そうやって機能を構造にマップすれば 0:01:33.000,0:01:36.000 ある神経回路が どうやって特定の機能を 0:01:36.000,0:01:38.000 作り上げているかがわかります 0:01:38.000,0:01:40.000 それが我々のやろうとしていることです 0:01:40.000,0:01:43.000 ここで顕著な例を幾つかご紹介します 0:01:43.000,0:01:47.000 3つの例を各6分間でお話します 0:01:47.000,0:01:51.000 最初はカプグラ症候群という[br]非常に変わった症候です 0:01:51.000,0:01:53.000 スライドをご覧下さい 0:01:53.000,0:01:58.000 順に 側頭葉、前頭葉、頭頂葉 です 0:01:58.000,0:02:00.000 これらの脳葉が脳を構成します 0:02:00.000,0:02:04.000 側頭葉の内側表面の中にしまい込まれているのが 0:02:04.000,0:02:06.000 ここには見えませんが... 0:02:06.000,0:02:08.000 紡錘状回と呼ばれる小さな領域です 0:02:08.000,0:02:11.000 「顔の領域」とも呼ばれます 0:02:11.000,0:02:14.000 損傷すると人の顔が認識できなくなるからです 0:02:14.000,0:02:16.000 声からなら認識できて 0:02:16.000,0:02:18.000 「ああ ジョーだね」とか言えるのですが 0:02:18.000,0:02:21.000 顔を見ても誰だかわかりません 0:02:21.000,0:02:23.000 鏡で自分の顔すら認識できないのです 0:02:23.000,0:02:26.000 まあ 自分がウィンクすれば相手もウィンクするので 0:02:26.000,0:02:28.000 鏡に写った自分だとわかるのですが 0:02:28.000,0:02:31.000 それが自分自身だと真に認識することはできません 0:02:31.000,0:02:35.000 この症状は紡錘状回の損傷によるものだと[br]よく知られています 0:02:35.000,0:02:38.000 しかし他にもっと稀な症状があります 0:02:38.000,0:02:42.000 あまりにも稀で殆どの医師は聞いたこともありません 神経科医でもです 0:02:42.000,0:02:44.000 カプグラ妄想と呼ばれています 0:02:44.000,0:02:47.000 他には全く正常なのですが 0:02:47.000,0:02:50.000 頭に損傷を負って 昏睡から目覚めます 0:02:50.000,0:02:53.000 他は全く正常なのですが 母親の顔を見て 0:02:53.000,0:02:56.000 「この女性は母親に瓜二つだが 0:02:56.000,0:02:58.000 ニセモノだ」 と言うのです 0:02:58.000,0:03:00.000 「他の女性が私の母親のフリをしている」 と... 0:03:00.000,0:03:02.000 これはなぜ起こるのでしょう? 0:03:02.000,0:03:05.000 なぜ他の全ての面では完全に正気で 0:03:05.000,0:03:07.000 知的能力もある人が 母親を見た時に 0:03:07.000,0:03:10.000 妄想が始まって 母親ではないと言うのでしょう 0:03:10.000,0:03:12.000 これに対する最も一般的な解釈は 0:03:12.000,0:03:14.000 全ての精神医学の教科書に書かれていますが 0:03:14.000,0:03:18.000 フロイト派の見解です 0:03:18.000,0:03:20.000 これは女性にも適用されますが 0:03:20.000,0:03:22.000 ここでは男性についてだけ述べます 0:03:22.000,0:03:25.000 これは 幼児期に母親に対して 0:03:25.000,0:03:27.000 強い性的魅力を感じていたという見解です 0:03:27.000,0:03:29.000 いわゆる エディプス コンプレックス です 0:03:29.000,0:03:31.000 私がこれを信じているわけではありませんが 0:03:31.000,0:03:33.000 これがフロイト派の標準的な見解なのです 0:03:33.000,0:03:36.000 成長して 大脳皮質が発達すると 0:03:36.000,0:03:40.000 母親に対する潜在的な性的衝動が抑制されます 0:03:40.000,0:03:44.000 さもないと母親を見るたびに[br]欲情してしまいます 0:03:44.000,0:03:46.000 もし頭を殴られて 大脳皮質を損傷すると 0:03:46.000,0:03:48.000 もし頭を殴られて 大脳皮質を損傷すると 0:03:48.000,0:03:52.000 この潜在的な性的衝動が浮かび上がり 0:03:52.000,0:03:55.000 表面に燃え上がって 突然に且つ不可解に 0:03:55.000,0:03:58.000 自分が母親に欲情しているのに気づくのです 0:03:58.000,0:04:00.000 そして「ああ この人は僕のママなのに 0:04:00.000,0:04:02.000 どうしてこんなに興奮してまうんだろう? 0:04:02.000,0:04:04.000 彼女は他の女性に違いない[br]彼女はニセモノだ」 0:04:04.000,0:04:08.000 それが損傷した脳にとって[br]筋が通る唯一の解釈です 0:04:08.000,0:04:11.000 この議論は 私にとっては[br]全く筋が通りませんが... 0:04:11.000,0:04:14.000 フロイト派の議論では[br]毎度のことながら大変独創的ではあります 0:04:14.000,0:04:16.000 (笑) 0:04:16.000,0:04:21.000 筋は通りません[br]なぜなら同じような妄想を 0:04:21.000,0:04:23.000 ペットのプードルに対しても持つ患者も見てきたからです 0:04:23.000,0:04:24.000 (笑) 0:04:24.000,0:04:29.000 こう言います「先生[br]この犬はフィフィに瓜二つですが 0:04:29.000,0:04:31.000 フィフィじゃなくて他の犬です」 0:04:31.000,0:04:33.000 フロイト派の説明を当てはめてみて下さい 0:04:33.000,0:04:34.000 (笑) 0:04:34.000,0:04:38.000 人間に共通する潜在的な[br]獣姦願望とでも言うのでしょうか 0:04:38.000,0:04:41.000 とてもばかげた話ですよね 0:04:41.000,0:04:43.000 では実際には何が起こっているのでしょうか? 0:04:43.000,0:04:45.000 この奇妙な障害を説明する為に 0:04:45.000,0:04:49.000 脳における正常の視覚経路の[br]構造と機能を見てみましょう 0:04:49.000,0:04:52.000 通常は 視覚信号が眼球に入ってきて 0:04:52.000,0:04:54.000 脳の視覚野に行きます 0:04:54.000,0:04:57.000 実は視覚だけに関係する部分が[br]脳の後部に30箇所あります 0:04:57.000,0:05:00.000 視覚はいろいろ処理された後[br]そのメッセージは 0:05:00.000,0:05:05.000 紡錘状回という小さな領域に伝わり[br]そこで顔を認識します 0:05:05.000,0:05:07.000 そこに顔に敏感に反応する[br]神経細胞があります 0:05:07.000,0:05:10.000 さきほどお話しした[br]「顔の領域」と 0:05:10.000,0:05:12.000 呼んでもいいところでしたね 0:05:12.000,0:05:16.000 その領域が損傷を受けると[br]顔を見る機能を失うのです 0:05:16.000,0:05:19.000 でもその領域から メッセージは 0:05:19.000,0:05:22.000 辺縁系の扁桃体と呼ばれる領域に[br]送られます 0:05:22.000,0:05:24.000 脳の感情の中核です 0:05:24.000,0:05:26.000 その 扁桃体と呼ばれる構造は 0:05:26.000,0:05:28.000 見ているものの[br]感情的な重要性を評価します 0:05:28.000,0:05:32.000 それは獲物か 捕食者か 配偶者か? 0:05:32.000,0:05:34.000 それとも 全く取るに足らない何か[br]例えば糸くずとか 0:05:34.000,0:05:38.000 チョークとか -言いたくはありませんが- 0:05:38.000,0:05:40.000 靴の片方だとか そんな感じのものです 0:05:40.000,0:05:42.000 完全に無視できるものです 0:05:42.000,0:05:45.000 もし 扁桃体が興奮すれば それは何か重要なものとされ 0:05:45.000,0:05:48.000 メッセージは自律神経系に送られます 0:05:48.000,0:05:50.000 心臓の鼓動は早くなり 0:05:50.000,0:05:53.000 筋肉の動きによって作り出される熱を 0:05:53.000,0:05:55.000 発散させるのに汗をかき始めます 0:05:55.000,0:05:59.000 便利なことに[br]両手のひらに電極を置き 0:05:59.000,0:06:03.000 汗が生み出す皮膚の電気抵抗の変化を[br]計測できます 0:06:03.000,0:06:05.000 それで分かるのは 何かを見ている時に 0:06:05.000,0:06:09.000 興奮しているとか[br]欲情しているかとかいうことです 0:06:09.000,0:06:11.000 それについてはまた後で触れます 0:06:11.000,0:06:15.000 私の考えを説明します[br]この人がモノを見る時 0:06:15.000,0:06:19.000 何でもいいんですが[br]視覚野に行って 0:06:19.000,0:06:22.000 紡錘状回で処理されて 0:06:22.000,0:06:25.000 それが豆の木だとか テーブルだとか 0:06:25.000,0:06:27.000 あるいは母親だとか認識します 0:06:27.000,0:06:30.000 そこから扁桃体にメッセージが送られ 0:06:30.000,0:06:32.000 自律神経系に渡されるのです 0:06:32.000,0:06:37.000 でも多分この人の[br]扁桃体から辺縁系に至る神経線維― 0:06:37.000,0:06:40.000 脳の感情の中核が[br]事故で切断されているかもしれません 0:06:40.000,0:06:42.000 紡錘状回は正常なので 0:06:42.000,0:06:45.000 まだ母親を認識でき こう言うのです 0:06:45.000,0:06:47.000 「ええ、母親に似ています」 0:06:47.000,0:06:50.000 でも感情の中枢への神経線維が[br]切断されているので 0:06:50.000,0:06:54.000 「でも母親なら[br]なぜ暖かさを感じないのだろう」と言うのです 0:06:54.000,0:06:56.000 逆に「恐怖」を感じることも[br]あるかもしれません 0:06:56.000,0:06:57.000 (笑) 0:06:57.000,0:07:03.000 それで言うのです [br]「この不可解な感情の欠如を説明できない 0:07:03.000,0:07:05.000 これは母親のはずがない 0:07:05.000,0:07:07.000 母親を装う知らない女性なんだ」 0:07:07.000,0:07:09.000 どうすればこれが検証できるでしょう? 0:07:09.000,0:07:11.000 みなさんのうちの誰かをここに連れてきて[br]スクリーンの前に立たせ 0:07:11.000,0:07:14.000 皮膚電気反応を計測します 0:07:14.000,0:07:16.000 そしてスクリーンに写真を写し 0:07:16.000,0:07:19.000 対象を見た時に[br]どの位汗をかくか計測します 0:07:19.000,0:07:22.000 テーブルとか傘とかだと勿論汗はかきませんね 0:07:22.000,0:07:27.000 ライオンや虎[br]セクシーな写真を見せれば 汗をかき始めます 0:07:27.000,0:07:30.000 そして何と 母親の写真を見せると 0:07:30.000,0:07:32.000 普通の人の話ですが 汗をかき始めます 0:07:32.000,0:07:34.000 ユダヤ人でなくても構いません 0:07:34.000,0:07:36.000 (笑) 0:07:36.000,0:07:40.000 では この患者の場合は何が起こるでしょう? 0:07:40.000,0:07:44.000 患者を連れてきて スクリーンに写真を見せ 0:07:44.000,0:07:46.000 皮膚電気反応を計測します 0:07:46.000,0:07:51.000 テーブルや椅子やチリでは[br]普通の人と同様 何も起こりませんが 0:07:51.000,0:07:53.000 彼の母親の写真を見せても 0:07:53.000,0:07:55.000 皮膚電気反応は フラットです 0:07:55.000,0:07:57.000 母親に対して感情的反応がないのです 0:07:57.000,0:08:02.000 視覚やから感情の中枢への[br]神経路が切れているからです 0:08:02.000,0:08:05.000 視覚野は正常なので視覚も正常で 0:08:05.000,0:08:08.000 感情も正常です[br]笑いますし泣きもします 0:08:08.000,0:08:11.000 しかし視覚から感情への[br]神経路が切れているので 0:08:11.000,0:08:14.000 母親がニセモノだという[br]妄想を抱いてしまうのです 0:08:14.000,0:08:17.000 これは我々の研究の好例です 0:08:17.000,0:08:21.000 奇妙で 見た目は不可解な[br]神経精神症状を取り上げて 0:08:21.000,0:08:23.000 標準的なフロイト派の見方は[br]間違っていると結論します 0:08:23.000,0:08:27.000 既知の脳の神経解剖学に関して 0:08:27.000,0:08:29.000 正確な説明を与えることができます 0:08:29.000,0:08:31.000 ところで この患者が次に 0:08:31.000,0:08:36.000 隣の部屋にいる母親から電話を受けると 0:08:36.000,0:08:40.000 彼は「やあママ 元気?[br]今どこにいるの?」と言うのです 0:08:40.000,0:08:42.000 電話で妄想は起こりません 0:08:42.000,0:08:44.000 母親が1時間後に彼に近づくと[br]彼は言うのです 「誰? 0:08:44.000,0:08:46.000 僕の母親に似ているけど」ってね 0:08:46.000,0:08:48.000 その理由は 脳の聴覚の中枢からは 0:08:48.000,0:08:52.000 感情の中枢につながる[br]異なる経路があるからです 0:08:52.000,0:08:54.000 そこは事故で切断されていません 0:08:54.000,0:08:59.000 その為 電話では問題なく[br]母親だと認識できるのです 0:08:59.000,0:09:02.000 でも対面するとニセモノだと言います 0:09:02.000,0:09:06.000 では 脳の中でこれら複雑な回路は[br]どう組み立てられているのでしょう? 0:09:06.000,0:09:09.000 生まれつき 遺伝子によるもの?[br]それとも育成されたもの? 0:09:09.000,0:09:11.000 この問題へのアプローチは 0:09:11.000,0:09:15.000 「幻肢」という[br]別の興味深い症状を考えることです 0:09:15.000,0:09:17.000 幻肢は知っていますよね 0:09:17.000,0:09:20.000 壊疽の治療に腕や下肢が切断された時 0:09:20.000,0:09:22.000 或いはイラク戦争等で失った時 0:09:22.000,0:09:24.000 これは今深刻な問題ですが... 0:09:24.000,0:09:28.000 失った腕の存在を[br]生き生きと感じ続けるのです 0:09:28.000,0:09:31.000 それが幻肢と呼ばれています 0:09:31.000,0:09:33.000 実際には 体のほとんどの部分で幻が生じ得ます 0:09:33.000,0:09:36.000 驚くことに 内臓でもです 0:09:36.000,0:09:40.000 子宮を摘出した患者もいました 0:09:40.000,0:09:45.000 幻の子宮を持ち 毎月ある時期に 0:09:45.000,0:09:47.000 幻の月経痛までありました 0:09:47.000,0:09:49.000 先日ある学生が私に聞いてきました 0:09:49.000,0:09:51.000 幻の月経前症候群もあるのかと 0:09:51.000,0:09:52.000 (笑) 0:09:52.000,0:09:56.000 科学的問い掛けとして十分なテーマですが[br]まだ取り組んでいません 0:09:56.000,0:09:59.000 では 次の質問は 0:09:59.000,0:10:02.000 実験によって幻肢について何を学べるかということ 0:10:02.000,0:10:04.000 我々が発見したことの一つは 0:10:04.000,0:10:06.000 幻肢を持つ患者の半数が 0:10:06.000,0:10:08.000 その幻を動かせると言うことです 0:10:08.000,0:10:10.000 兄弟の肩をポンと叩いたり 0:10:10.000,0:10:12.000 鳴っている電話を取ったり[br]さよならと手を振ったりします 0:10:12.000,0:10:15.000 とても本物のようで 鮮明な感覚です 0:10:15.000,0:10:17.000 その患者は妄想している訳ではありません 0:10:17.000,0:10:19.000 腕がないことは分かっているのですが 0:10:19.000,0:10:22.000 それでも本物と区別できない[br]知覚経験なのです 0:10:22.000,0:10:25.000 とは言え 患者の約半数には生じません 0:10:25.000,0:10:29.000 彼らは言います[br]「でも先生 幻肢は麻痺しています 0:10:29.000,0:10:32.000 けいれんしたままの状態で[br]ひどく痛むのです 0:10:32.000,0:10:35.000 動かすことさえできたら[br]痛みは楽になるのでしょうが」 0:10:35.000,0:10:38.000 ではなぜ 幻肢は麻痺するのでしょう? 0:10:38.000,0:10:40.000 矛盾しているように聞こえます 0:10:40.000,0:10:43.000 でも症例記録を見ていてわかったのは 0:10:43.000,0:10:45.000 麻痺した幻肢を持つ人々は 0:10:45.000,0:10:49.000 元々の腕が 末梢神経損傷で[br]麻痺していました 0:10:49.000,0:10:52.000 実際の腕への神経連絡が[br]切断されていました 0:10:52.000,0:10:54.000 例えばオートバイ事故で 0:10:54.000,0:10:57.000 それで患者はその痛む実物の腕を 0:10:57.000,0:11:01.000 数ヶ月から1年の間[br]包帯で吊るし 0:11:01.000,0:11:04.000 外科医は腕の痛みを取り除こうと[br]見当違いの試み 0:11:04.000,0:11:06.000 つまり腕を切断するのです 0:11:06.000,0:11:10.000 それで同じ痛みを持つ幻の腕を手にするのです 0:11:10.000,0:11:12.000 これは重大な臨床的問題です 0:11:12.000,0:11:14.000 患者は意気消沈します 0:11:14.000,0:11:16.000 自殺する人さえいます 0:11:16.000,0:11:18.000 この症候群を[br]どう治療すれば良いのでしょう? 0:11:18.000,0:11:20.000 ここで なぜ麻痺した幻肢が[br]生じるのか考えてみましょう 0:11:20.000,0:11:24.000 症例記録を見た時に気づいたのは[br]彼らが実際の腕を持ち 0:11:24.000,0:11:27.000 腕を支配する神経が切断され 0:11:27.000,0:11:30.000 実際の腕が麻痺していたことです 0:11:30.000,0:11:34.000 そして切断の前数ヶ月間[br]包帯で吊るされていて 0:11:34.000,0:11:40.000 その痛みが幻の腕に引き継がれました 0:11:40.000,0:11:42.000 これはなぜ起こるのでしょう? 0:11:42.000,0:11:44.000 腕が切断される前に麻痺していた時は 0:11:44.000,0:11:47.000 前頭葉が腕に「動け」と命令を送ります 0:11:47.000,0:11:49.000 しかし「動かない」という[br]視覚的フィードバックを受け取ります 0:11:49.000,0:11:53.000 動け、動かない、動け、動かない... 0:11:53.000,0:11:56.000 これが脳の回路に焼き付いてしまうのです 0:11:56.000,0:11:59.000 これを「学習した麻痺」と呼びます 0:11:59.000,0:12:03.000 この「ヘッブの関連付け」により[br]脳は学習します 0:12:03.000,0:12:06.000 腕を動かせという単純な命令が 0:12:06.000,0:12:08.000 麻痺した腕の感覚を生み出し 0:12:08.000,0:12:10.000 腕を切断した時に 0:12:10.000,0:12:14.000 この学習した麻痺が[br]自分の身体イメージ 0:12:14.000,0:12:17.000 つまり幻の腕に持ち越されるのです 0:12:17.000,0:12:19.000 ではどうすれば患者を救えるでしょうか? 0:12:19.000,0:12:21.000 学習した麻痺を取り除き 0:12:21.000,0:12:25.000 幻の腕のひどく痛む[br]締め付けるようなけいれんを 0:12:25.000,0:12:27.000 取り除けるのでしょう? 0:12:27.000,0:12:32.000 幻の腕に命令を送って[br]腕がその命令に従っているという 0:12:32.000,0:12:36.000 視覚フィードバックを与えてみてはと[br]考えました 0:12:36.000,0:12:39.000 幻の痛み 幻のけいれんを[br]取り除けるかもしれないと 0:12:39.000,0:12:41.000 どうすればできるでしょう?[br]バーチュアルリアリティです 0:12:41.000,0:12:43.000 それには何百万ドルもの[br]費用が掛かります 0:12:43.000,0:12:46.000 私は3ドルでやる方法を思いつきました 0:12:46.000,0:12:48.000 でも私のスポンサーには内緒ですよ... 0:12:48.000,0:12:49.000 (笑) 0:12:49.000,0:12:53.000 私が「鏡の箱」と呼ぶものを作ります 0:12:53.000,0:12:55.000 真ん中に鏡をつけたダンボール箱を用意して 0:12:55.000,0:12:59.000 そこに幻の腕を入れます[br]最初の患者デレックがやって来ました 0:12:59.000,0:13:02.000 十年前に腕を切断しています 0:13:02.000,0:13:05.000 上腕の外傷で神経が離断され[br]腕が麻痺し 0:13:05.000,0:13:09.000 1年間包帯で吊るした後に[br]切断されました 0:13:09.000,0:13:11.000 幻肢が生じ[br]ひどく痛みますが 動かせません 0:13:11.000,0:13:13.000 麻痺した幻肢です 0:13:13.000,0:13:17.000 私はあの鏡付きの箱を渡しました 0:13:17.000,0:13:20.000 「鏡の箱」です 0:13:20.000,0:13:23.000 彼はけいれんして締め付けられた 0:13:23.000,0:13:25.000 幻の腕を鏡の左側に入れ 0:13:25.000,0:13:27.000 正常な腕を鏡の右側に入れます 0:13:27.000,0:13:31.000 そして同じ形 握り締めた形にして 0:13:31.000,0:13:34.000 鏡の中を見ます[br]何が起こるでしょう? 0:13:34.000,0:13:37.000 幻の腕が蘇るのが見えます 0:13:37.000,0:13:41.000 鏡の中の正常な腕の反射を見ているのですが 0:13:41.000,0:13:43.000 それが幻の腕が蘇ったように見えるのです 0:13:43.000,0:13:46.000 「では」と私は言いました[br]「幻をピクピク動かしてみて 0:13:46.000,0:13:50.000 鏡を見ながら[br]実物の指を動かしてみて」と 0:13:50.000,0:13:54.000 彼は幻が動いているという[br]視覚を受けますよね? 0:13:54.000,0:13:56.000 それは明らかですが 驚いたことに 0:13:56.000,0:13:59.000 患者は言うのです[br]「おお 幻が動き出した! 0:13:59.000,0:14:01.000 痛みも 締め付けるようなけいれんも[br]和らいでいる」と 0:14:01.000,0:14:04.000 先ほどの最初にやってきた患者は 0:14:04.000,0:14:05.000 (拍手) 0:14:05.000,0:14:09.000 ありがとう 0:14:09.000,0:14:12.000 最初の患者が 鏡を覗き込んだとき 0:14:12.000,0:14:15.000 私は「鏡に映った幻を見てください」と[br]言いました 0:14:15.000,0:14:17.000 彼はクスクス笑って[br]「幻が見えますよ」と言いました 0:14:17.000,0:14:19.000 でも彼は愚かではありません 0:14:19.000,0:14:21.000 鏡の反射だということはわかっています 0:14:21.000,0:14:23.000 しかしそれは鮮明な感覚経験なのです 0:14:23.000,0:14:26.000 次に私は「本物の腕と幻を[br]動かして下さい」と言いました 0:14:26.000,0:14:28.000 彼は「いや 痛くて[br]幻を動かせません」 0:14:28.000,0:14:30.000 私は「正常な腕を動かして」と言います 0:14:30.000,0:14:32.000 彼は「おお 幻が動き出した[br]信じられない! 0:14:32.000,0:14:35.000 痛みも和らいでいる」と言います 0:14:35.000,0:14:36.000 私は言いました 「眼を閉じて」 0:14:36.000,0:14:38.000 彼は眼を閉じます 0:14:38.000,0:14:39.000 「正常な腕を動かして下さい」 0:14:39.000,0:14:40.000 「ああ 何も起こらない[br]またけいれんしている」 0:14:40.000,0:14:42.000 「はい では眼を開けて」 0:14:42.000,0:14:43.000 「わあ! また動き出した!」 0:14:43.000,0:14:45.000 彼はお菓子屋にいる子供のようでした 0:14:45.000,0:14:50.000 これで学習された麻痺に関する[br]私の理論が証明されました 0:14:50.000,0:14:52.000 視覚インプットの重大な役割も 0:14:52.000,0:14:54.000 でも彼の幻の腕を動かすことでは 0:14:54.000,0:14:56.000 ノーベル賞はもらえません 0:14:56.000,0:14:57.000 (笑) 0:14:57.000,0:14:58.000 (拍手) 0:14:58.000,0:15:01.000 考えてみたら 完全に無用な能力です 0:15:01.000,0:15:02.000 (笑) 0:15:02.000,0:15:06.000 でもそれでわかったのです[br]神経学で見られる 0:15:06.000,0:15:11.000 他の麻痺[br]脳卒中とか限局性筋失調症とかも 0:15:11.000,0:15:13.000 多分 学習された部分があって 0:15:13.000,0:15:16.000 鏡を使った簡単な装置で[br]克服できるかもしれないと 0:15:16.000,0:15:18.000 そこで言いました 「ねえ デレック」 0:15:18.000,0:15:21.000 そもそも 痛みを和らげるのに[br]鏡を持って歩くわけにはいきません 0:15:21.000,0:15:25.000 それで言いました「鏡を家に持ち帰って[br]1-2週間練習してみて下さい 0:15:25.000,0:15:27.000 多分 練習したら 0:15:27.000,0:15:29.000 鏡は要らなくなるかもしれません[br]麻痺を忘れて 0:15:29.000,0:15:31.000 麻痺した腕を動かせるようになります 0:15:31.000,0:15:33.000 そうすれば痛みから解放されますよ」 0:15:33.000,0:15:35.000 彼は承諾し 家に持ち帰りました 0:15:35.000,0:15:37.000 「まあ所詮2ドルですからね どうぞ持っていって」 0:15:37.000,0:15:40.000 持ち帰った2週間後に彼は電話してきました 0:15:40.000,0:15:42.000 彼が言うには[br]「先生 多分信じて貰えないでしょうが」 0:15:42.000,0:15:43.000 「えっ?どいういうこと?」 0:15:43.000,0:15:45.000 彼は言います 「無くなりましたよ」 0:15:45.000,0:15:46.000 「何が無くなったんですか?」 0:15:46.000,0:15:48.000 多分鏡の箱を無くしたんだろうと思いました 0:15:48.000,0:15:49.000 (笑) 0:15:49.000,0:15:52.000 「いやいや 私が十年間苦しめられた[br]幻のことです 0:15:52.000,0:15:54.000 それが消えてしまったのです」 0:15:54.000,0:15:56.000 私は心配になって言いました[br]「なんてこった!」 0:15:56.000,0:15:58.000 私は彼の身体イメージを[br]変えてしまったのです 0:15:58.000,0:16:01.000 人体実験、倫理とかはどうなるのでしょう? 0:16:01.000,0:16:03.000 私は聞きました[br]「デレック これって困ります?」 0:16:03.000,0:16:06.000 彼は「いえ[br]この3日間 幻の腕がなくなって 0:16:06.000,0:16:09.000 幻のひじの痛みもなく[br]締め付けられもせず 0:16:09.000,0:16:12.000 幻の前腕痛もなく[br]全部の痛みが消えてなくなりました 0:16:12.000,0:16:16.000 問題はまだ幻の指が[br]肩からぶら下がっていることです 0:16:16.000,0:16:18.000 箱では届きませんから」 0:16:18.000,0:16:19.000 (笑) 0:16:19.000,0:16:22.000 「デザインを変えて 額に乗せてもらえば 0:16:22.000,0:16:25.000 同じことができて[br]幻の指も取り除けますよね?」 0:16:25.000,0:16:27.000 彼は私を魔術師だと思っていたようです 0:16:27.000,0:16:28.000 これはどうして起こるのでしょう? 0:16:28.000,0:16:31.000 それは脳が途方もない[br]感覚の矛盾に直面するからです 0:16:31.000,0:16:34.000 視覚からは[br]幻が戻ってきたとの情報を受けます 0:16:34.000,0:16:36.000 一方 筋肉からの固有感覚がありません 0:16:36.000,0:16:40.000 筋肉からの信号は[br]「腕がない」と言っているからです 0:16:40.000,0:16:42.000 運動指令は腕があると言っています 0:16:42.000,0:16:45.000 この矛盾の為[br]脳は言います「もううんざりだ 0:16:45.000,0:16:48.000 幻はないんだよ[br]腕もないんだよ」と 0:16:48.000,0:16:50.000 ある種の否定に入ります[br]信号を選択するのです 0:16:50.000,0:16:54.000 それで腕が消えた時に[br]おまけに痛みも消えます 0:16:54.000,0:16:58.000 離脱した痛みが[br]空中に浮いているわけにはいきませんから 0:16:58.000,0:17:00.000 予期せぬ贈り物なのです 0:17:00.000,0:17:02.000 このテクニックはヘルシンキでも 0:17:02.000,0:17:04.000 何十人もの患者に試されました 0:17:04.000,0:17:07.000 幻の痛みの治療として有益と[br]証明されるかもしれません 0:17:07.000,0:17:09.000 実際 脳卒中のリハビリに[br]試した人もいます 0:17:09.000,0:17:12.000 通常 脳卒中では神経線維の損傷が起き 0:17:12.000,0:17:14.000 どうしようもないと考えられています 0:17:14.000,0:17:19.000 しかし 脳卒中で起こる麻痺の ある要素も[br]学習された麻痺であると判明しています 0:17:19.000,0:17:22.000 それは鏡を使って[br]克服できるかもしれません 0:17:22.000,0:17:24.000 これにも臨床試験が行われて 0:17:24.000,0:17:26.000 たくさんの患者が救われました 0:17:26.000,0:17:30.000 ではお話の3番目にギアを入れ替えましょう 0:17:30.000,0:17:34.000 共感覚と呼ばれる奇妙な現象です 0:17:34.000,0:17:37.000 19世紀にフランシス ゴルトンによって[br]発見されました 0:17:37.000,0:17:39.000 彼はチャールズ ダーウィンのいとこです 0:17:39.000,0:17:41.000 彼の指摘は[br]ある人々は 他はすべて正常なのに 0:17:41.000,0:17:45.000 次のような特殊性があるということでした 0:17:45.000,0:17:48.000 数字を見る度にいつも 色がついていると 0:17:48.000,0:17:52.000 5は青 7は黄色 8は黄緑色 0:17:52.000,0:17:54.000 9は藍色 とかね 0:17:54.000,0:17:57.000 この人達は他の面では[br]全く正常だということをお忘れなく 0:17:57.000,0:18:00.000 あるいはCのシャープとか[br]時に音階が色を想起させます 0:18:00.000,0:18:03.000 Cのシャープは青 Fのシャープは緑 0:18:03.000,0:18:06.000 他の音階は黄色 という具合です 0:18:06.000,0:18:08.000 これはなぜ起こるのでしょう? 0:18:08.000,0:18:10.000 これは共感覚と呼ばれます[br]ゴルトンがそう呼びました 0:18:10.000,0:18:12.000 感覚が入り交じったものです 0:18:12.000,0:18:14.000 普通 全ての感覚ははっきりと異なります 0:18:14.000,0:18:16.000 この人達は感覚がごちゃ混ぜになっています 0:18:16.000,0:18:17.000 これはなぜ起こるのでしょうか? 0:18:17.000,0:18:19.000 この問題の二つの面のうち一つは[br]大変興味深いです 0:18:19.000,0:18:21.000 共感覚には家系が関係します 0:18:21.000,0:18:24.000 それでゴルトンは[br]これは遺伝的なものだと考えました 0:18:24.000,0:18:28.000 もう一点[br]これがこの講座のメインテーマである- 0:18:28.000,0:18:31.000 創造性に関する論点に行き着くのですが 0:18:31.000,0:18:36.000 共感覚は[br]アーティスト 詩人 小説家といった 0:18:36.000,0:18:39.000 一般人よりも創造性の高い人に[br]8倍も多く見られます 0:18:39.000,0:18:40.000 それはなぜでしょう? 0:18:40.000,0:18:42.000 その質問にお答えします 0:18:42.000,0:18:44.000 これはまだ解明されていませんでした 0:18:44.000,0:18:45.000 では共感覚とは何なのでしょうか? 0:18:45.000,0:18:46.000 様々な理論があります 0:18:46.000,0:18:48.000 その一つは[br]単に彼らが狂っているというもの 0:18:48.000,0:18:51.000 まあこれは科学的理論ではないので[br]忘れましょう 0:18:51.000,0:18:55.000 彼らは麻薬中毒者だという理論もあります 0:18:55.000,0:18:57.000 これには正しい部分もあるかもしれません 0:18:57.000,0:18:59.000 サンディエゴよりも[br]ここサンフランシスコでの方が一般的だから 0:18:59.000,0:19:00.000 (笑) 0:19:00.000,0:19:03.000 では3つ目の理論は 0:19:03.000,0:19:08.000 共感覚で一体何が起こっているか[br]自問してみましょうか? 0:19:08.000,0:19:11.000 脳の中で 色の領域と数字の領域は 0:19:11.000,0:19:14.000 隣接していることがわかりました[br]紡錘状回の中です 0:19:14.000,0:19:16.000 そこで 脳の中で色と数字の間に 0:19:16.000,0:19:19.000 偶然 交互の結びつきが生じたのではと[br]考えました 0:19:19.000,0:19:22.000 それで数字を見る度に[br]対応する色が見え 0:19:22.000,0:19:24.000 その結果 共感覚が生じると 0:19:24.000,0:19:26.000 これがなぜ起こるのでしょう? 0:19:26.000,0:19:28.000 なぜある人々には[br]交互の結びつきが生じるのか? 0:19:28.000,0:19:30.000 家系に関係する と言ったのを覚えてますか? 0:19:30.000,0:19:32.000 それがヒントになります 0:19:32.000,0:19:34.000 異常な遺伝子が存在して 0:19:34.000,0:19:37.000 遺伝子の変異で[br]交互の結びつきが生じます 0:19:37.000,0:19:39.000 我々は皆 全てのものが 0:19:39.000,0:19:43.000 他のものと結びついた状態で生まれます 0:19:43.000,0:19:46.000 脳の全ての領域は[br]他の領域と結びついています 0:19:46.000,0:19:48.000 それが枝切りされて 大人の脳の 0:19:48.000,0:19:51.000 特有のモジュール構造が作り出されるのです 0:19:51.000,0:19:53.000 もしある遺伝子が枝切りを[br]引き起こしていて 0:19:53.000,0:19:55.000 その遺伝子が変異すれば 0:19:55.000,0:19:58.000 脳の隣り合う領域の間で[br]枝切りに欠陥が生じます 0:19:58.000,0:20:01.000 数字と色の間であれば[br]数字と色の共感覚になります 0:20:01.000,0:20:04.000 音階と色であれば[br]音階と色の共感覚になります 0:20:04.000,0:20:06.000 ここまではいいですね 0:20:06.000,0:20:08.000 その変異遺伝子が脳の至る所で発現し 0:20:08.000,0:20:09.000 全部が相互接続されたらどうなるでしょう? 0:20:09.000,0:20:15.000 アーティストや小説家 詩人が共通に持つものを考えて下さい 0:20:15.000,0:20:18.000 隠喩的な考え方をする能力です 0:20:18.000,0:20:20.000 一見関連のないアイデアを結びつけます 0:20:20.000,0:20:23.000 「向こうは東[br]ならばジュリエットは太陽だ」とか 0:20:23.000,0:20:25.000 ジュリエットが太陽だなんて[br]あなたは言いませんよね 0:20:25.000,0:20:27.000 彼女はきらめく炎の玉という意味でしょうか? 0:20:27.000,0:20:30.000 統合失調症患者はそう言いますが[br]それはまた別の話です 0:20:30.000,0:20:33.000 普通の人は[br]彼女は太陽のように暖かいと言います 0:20:33.000,0:20:35.000 彼女は太陽のように輝くとか[br]太陽のように恵みを与えるとか 0:20:35.000,0:20:37.000 すぐにつながりが見つかったでしょう 0:20:37.000,0:20:40.000 この接続とコンセプトの[br]交差が増強した状態が 0:20:40.000,0:20:43.000 脳の別の部分にもあると仮定すれば 0:20:43.000,0:20:46.000 共感覚を持つ人々にとっては 0:20:46.000,0:20:49.000 より隠喩的な考えと創造性を 0:20:49.000,0:20:51.000 生み出しやすいことになります 0:20:51.000,0:20:54.000 それ故に 詩人やアーティストや小説家に[br]共感覚の症例が 0:20:54.000,0:20:56.000 8倍も見られるのです 0:20:56.000,0:20:59.000 これは共感覚のとても骨相学的な見方です 0:20:59.000,0:21:01.000 最後のデモンストレーションは[br]もう1分いいですか? 0:21:01.000,0:21:03.000 (拍手) 0:21:03.000,0:21:08.000 誰もが皆 共感覚者だということを[br]お見せします そう思わないでしょうが 0:21:08.000,0:21:12.000 これは私が火星人のアルファベットと呼ぶものです[br]普通のアルファベットと同様 0:21:12.000,0:21:15.000 AはA、BはB、CはCと 0:21:15.000,0:21:18.000 異なる音素に異なる形が相当します 0:21:18.000,0:21:20.000 これが火星人のアルファベットです 0:21:20.000,0:21:22.000 片方が「キキ」で もう一方が「ブバ」です 0:21:22.000,0:21:24.000 どっちがキキで どっちがブバでしょう? 0:21:24.000,0:21:26.000 左がキキで 右がブバだと思う人[br]手を挙げて下さい 0:21:26.000,0:21:28.000 一人か二人 変異体がいます 0:21:28.000,0:21:29.000 (笑) 0:21:29.000,0:21:31.000 左がブバで 右がキキだと思う人 手を挙げて 0:21:31.000,0:21:33.000 皆さんの99パーセントです 0:21:33.000,0:21:35.000 誰も火星人じゃないのに[br]どうしてそうなったんでしょう? 0:21:35.000,0:21:40.000 皆さんはクロスモデリングを行ったのです[br]共感覚の抽象的概念です 0:21:40.000,0:21:44.000 つまり聴覚皮質でキキという鋭い音― 0:21:44.000,0:21:49.000 有毛細胞が興奮するキキという音が 0:21:49.000,0:21:52.000 視覚で見える 突然の屈曲[br]ギザギザの形に似ていると言っているのです 0:21:52.000,0:21:55.000 これはとても重要なことです[br]なぜならあたなの脳が 0:21:55.000,0:21:57.000 原始的なことに従事していると言っているから 0:21:57.000,0:21:59.000 ばかげた錯覚に見えますが 0:21:59.000,0:22:03.000 あなたの目の中の光子が形を作り 0:22:03.000,0:22:06.000 あなたの耳の有毛細胞が[br]その聴覚パターンに反応しているのです 0:22:06.000,0:22:11.000 脳は共通の意味合いを引き出しているのです 0:22:11.000,0:22:13.000 それは原始的な抽象化です 0:22:13.000,0:22:18.000 これは脳の紡錘状回で起こることが[br]わかっています 0:22:18.000,0:22:19.000 そこが損傷されると 0:22:19.000,0:22:23.000 ブバとキキの判別能力が失われるからです 0:22:23.000,0:22:25.000 同時に隠喩の能力も失われます 0:22:25.000,0:22:29.000 その人に「光るもの全てが金ではない」 0:22:29.000,0:22:31.000 というのはどういう意味と聞くと 0:22:31.000,0:22:33.000 その患者は「金属製で光っていても[br]金というわけではない 0:22:33.000,0:22:36.000 その比重を量らなければね」と言います 0:22:36.000,0:22:39.000 その隠喩的な意味合いを[br]完全に見落としているのです 0:22:39.000,0:22:42.000 この領域は高等霊長類[br]特に人間においては 0:22:42.000,0:22:45.000 下等霊長類の8倍もの大きさがあります 0:22:45.000,0:22:48.000 ここ角回では[br]何かとても興味深いことが起こっています 0:22:48.000,0:22:51.000 それは聴覚 視覚 触覚の間の交差点であり 0:22:51.000,0:22:55.000 人間では巨大になっているからです[br]とても面白いことが起こっています 0:22:55.000,0:22:58.000 それが抽象化や隠喩や創造性などの 0:22:58.000,0:23:01.000 人間独自の能力の[br]基礎になっていると私は考えます 0:23:01.000,0:23:04.000 哲学者が何千年も研究してきた[br]これらの問いはすべて 0:23:04.000,0:23:08.000 脳イメージングや患者の研究や[br]適切な質問をすることによって 0:23:08.000,0:23:10.000 我々科学者が研究し始めることができます 0:23:10.000,0:23:12.000 ありがとうございました 0:23:12.000,0:23:13.000 (拍手) 0:23:13.000,0:23:14.000 時間超過ですみません 0:23:14.000,0:23:15.000 (笑)