WEBVTT 00:00:09.131 --> 00:00:12.231 独特な雰囲気のポストパンク・ファンと 古代ゲルマン民族に 00:00:12.231 --> 00:00:15.340 共通点はあるでしょうか? 00:00:15.350 --> 00:00:16.562 たいしてありません 00:00:16.562 --> 00:00:19.481 なのに どちらも「ゴス(ゴート)」と 呼ばれるのはなぜ? 00:00:19.751 --> 00:00:21.352 不思議な偶然の一致? 00:00:21.352 --> 00:00:25.361 それとも 何世紀も時代を隔てながらも 深いつながりが? 00:00:25.991 --> 00:00:28.493 物語は古代ローマから 始まります 00:00:28.493 --> 00:00:32.001 ローマ帝国が拡大するにつれ その周縁部は 00:00:32.001 --> 00:00:35.962 半遊牧民の襲撃や侵入に 脅かされていました 00:00:36.692 --> 00:00:41.139 とりわけ強大だったのが ゲルマン民族のゴート人で 00:00:41.259 --> 00:00:43.810 2つグループがありました 00:00:43.820 --> 00:00:45.055 西ゴート人と 00:00:45.055 --> 00:00:46.823 東ゴート人です 00:00:46.853 --> 00:00:50.303 ゲルマン民族の一部は ローマと敵対し続けましたが 00:00:50.303 --> 00:00:54.543 帝国の軍隊に組み込まれた 民族もあります 00:00:55.353 --> 00:00:57.862 ローマ帝国が2つに分裂すると 00:00:57.862 --> 00:01:00.933 国境の警備や 国内の権力争いに 00:01:00.953 --> 00:01:03.988 こうした傭兵が大きな役割を 担うようになりました 00:01:04.268 --> 00:01:08.924 5世紀に オドアケルが傭兵を 率いて反乱を起こし 00:01:08.924 --> 00:01:12.844 ローマを占領して 西ローマ皇帝を追放しました 00:01:12.934 --> 00:01:15.753 オドアケルも 続いて権力を握った 東ゴート人のテオドリックも 00:01:15.753 --> 00:01:19.324 表面的には東ローマ皇帝の 権威に服従し 00:01:19.324 --> 00:01:22.194 ローマの伝統を維持しました 00:01:22.194 --> 00:01:26.034 しかし 西ローマ帝国は 二度と復活しませんでした 00:01:26.054 --> 00:01:28.813 その領土は いくつもの 小王国に断片化し 00:01:28.823 --> 00:01:31.124 ゴート人や その他の ゲルマン民族が支配しました 00:01:31.134 --> 00:01:34.004 彼らは地方の文化に 同化しましたが 00:01:34.004 --> 00:01:37.107 多くの民族の名前は 今も地図上に見られます 00:01:38.017 --> 00:01:40.408 古典古代はこうして終わり 00:01:40.438 --> 00:01:43.555 いわゆる暗黒時代が 始まりました 00:01:43.605 --> 00:01:46.524 ローマの文化が完全に 消え去ることはなかったものの 00:01:46.524 --> 00:01:50.384 その影響は低下し 新しい芸術様式が現れました 00:01:50.384 --> 00:01:53.575 均整やリアリズムよりも 宗教的象徴や 00:01:53.575 --> 00:01:56.155 寓意が重視される様式です 00:01:56.385 --> 00:01:58.805 様式の変化は建築にも及び 00:01:58.805 --> 00:02:04.257 フランスでは1137年に サン・ドニ大聖堂が造られました 00:02:04.377 --> 00:02:07.846 尖ったアーチや飛梁 大きな窓などが 00:02:07.846 --> 00:02:11.196 建物の骨格と装飾性を 際立たせています 00:02:11.206 --> 00:02:14.205 この構造のため 内部は明るく開放的で 00:02:14.205 --> 00:02:18.812 頑丈な壁や太い柱のある 古典建築とは対照的です 00:02:19.722 --> 00:02:21.336 それから数世紀の間 00:02:21.336 --> 00:02:25.156 これがヨーロッパ中の大聖堂の モデルになりました 00:02:25.156 --> 00:02:26.496 しかし 流行は移りゆくもの 00:02:26.496 --> 00:02:31.437 イタリア・ルネッサンスでは 古代ギリシャ・ローマが再評価され 00:02:31.437 --> 00:02:36.726 近年の様式は荒削りで 劣ったものと見なされました 00:02:36.986 --> 00:02:40.116 1550年に『芸術家列伝』の中で ジョルジョ・ヴァザーリが 00:02:40.116 --> 00:02:44.927 最初にゴシックという 言葉を使ったのは 00:02:44.937 --> 00:02:47.526 古典文明を破壊した 00:02:47.526 --> 00:02:50.847 蛮族を貶めようという 意図からでした 00:02:50.847 --> 00:02:55.397 ゴシックという名称は定着し まもなく中世期全体の 00:02:55.397 --> 00:03:00.347 暗さ、迷妄、単純さを 連想させるようになりました 00:03:01.207 --> 00:03:05.849 しかし 時代が移ると 新しさの感覚も変わります 00:03:05.849 --> 00:03:09.248 18世紀の啓蒙主義の時代には 00:03:09.248 --> 00:03:13.357 科学的理性が何よりも 重視されました 00:03:13.357 --> 00:03:17.169 ゲーテやバイロンなど ロマン主義の著作家はこれに反発し 00:03:17.169 --> 00:03:21.068 古代の自然景観や 謎めいた超自然の力に 00:03:21.068 --> 00:03:24.227 理想化されたビジョンを 追い求めました 00:03:24.227 --> 00:03:27.588 ここでゴシックという言葉が 再び取り上げられ 00:03:27.588 --> 00:03:33.108 ロマン主義の中の陰鬱な文学ジャンルを 指すようになります 00:03:33.168 --> 00:03:35.906 最初に使ったのは ホレス・ウォルポールで 00:03:35.906 --> 00:03:40.279 1764年の小説 『オトラント城奇譚』の 00:03:40.309 --> 00:03:44.048 プロットや全体の雰囲気を 指す言葉としてでした 00:03:44.048 --> 00:03:47.148 この小説に含まれる要素の 多くがジャンルの定番となり 00:03:47.148 --> 00:03:51.558 この種の古典的作品や 数多くの映画を生み出しました 00:03:51.558 --> 00:03:56.831 それ以来 ゴシックの名称は 文学と映画のものでしたが 00:03:56.831 --> 00:03:59.678 1970年代になって 新たな音楽シーンが現れます 00:03:59.678 --> 00:04:03.200 ザ・ドアーズやヴェルヴェット ・アンダーグラウンドに影響を受けた 00:04:03.200 --> 00:04:04.679 イギリスのポストパンク・バンド ― 00:04:04.679 --> 00:04:05.868 ジョイ・ディヴィジョン 00:04:05.868 --> 00:04:06.739 バウハウス 00:04:06.739 --> 00:04:07.750 ザ・キュアーなどが 00:04:07.750 --> 00:04:10.419 陰鬱な歌詞や パンクの耳障りな音を 00:04:10.419 --> 00:04:13.399 ヴィクトリア朝や 00:04:13.399 --> 00:04:14.720 クラシック・ホラーのイメージ 00:04:14.720 --> 00:04:17.949 両性具有的なグラム・ファッションと 結びつけました 00:04:17.949 --> 00:04:21.599 1980年代初頭には 音楽雑誌がこうしたバンドを 00:04:21.599 --> 00:04:24.471 ゴシックロックと呼ぶようになって 00:04:24.471 --> 00:04:28.089 薄暗いクラブで演奏されていた スタイルの音楽が人気を博し 00:04:28.089 --> 00:04:31.130 メジャーレーベルや MTVに進出していきました 00:04:31.130 --> 00:04:35.671 時にはメディアから 否定的で 画一的な見方をされながらも 00:04:35.671 --> 00:04:40.849 ゴシック音楽とそのファッションは 今もなお地下で根強く支持されています 00:04:40.849 --> 00:04:42.710 また サブジャンルとして 00:04:42.710 --> 00:04:44.081 サイバーゴス 00:04:44.081 --> 00:04:45.077 ゴサビリー 00:04:45.077 --> 00:04:46.138 ゴシックメタル 00:04:46.138 --> 00:04:48.796 スチームパンクなどが 派生しました 00:04:48.796 --> 00:04:51.051 ゴシックという言葉の歴史には 00:04:51.051 --> 00:04:54.744 何千年にもわたる対抗文化の 活動が秘められていて 00:04:54.744 --> 00:04:57.620 蛮族が王になったり 00:04:57.620 --> 00:05:01.083 高い尖塔が重厚な柱に 取って代わったり 00:05:01.083 --> 00:05:04.524 芸術家が闇に美を見出したり してきました 00:05:04.524 --> 00:05:07.222 どの段階でも さまざまな革命が起こり 00:05:07.224 --> 00:05:13.004 文明は過去を参照して 現在の姿を変えようとしてきたのです