1 00:00:00,458 --> 00:00:03,444 今日はいろいろな「話」をするよう 頼まれたのですが 2 00:00:03,444 --> 00:00:07,657 代わりに「話」つまり 物語というものに対し なぜ私が疑い深く 3 00:00:07,657 --> 00:00:10,006 気にしているのか お話しします 4 00:00:10,006 --> 00:00:13,125 実際 刺激を受ける物語であればあるほど 5 00:00:13,125 --> 00:00:15,385 気になるということが非常に多いのです 6 00:00:15,385 --> 00:00:16,515 (笑) 7 00:00:16,515 --> 00:00:19,305 特に素晴らしい物語などは往々にして 非常に巧妙なものです 8 00:00:19,305 --> 00:00:22,695 これは長所であり短所ですが 物語とは一種のフィルターです 9 00:00:22,695 --> 00:00:25,606 物語は多くの情報を取り込んで 一部を除外し 10 00:00:25,606 --> 00:00:27,350 一部を残します 11 00:00:27,350 --> 00:00:31,656 ただしこのフィルターが残すのは いつも同じものなんです 12 00:00:31,656 --> 00:00:34,777 残されるのは限られた お決まりの単純な物語です 13 00:00:34,777 --> 00:00:37,173 昔からよく言われますが どんな物語も 14 00:00:37,173 --> 00:00:40,614 本質的には 「見知らぬ人が街にやってきた」です 15 00:00:40,614 --> 00:00:42,466 クリストファー・ブッカーは著書で 16 00:00:42,466 --> 00:00:45,360 物語には7種類しかないと述べています 17 00:00:45,360 --> 00:00:48,030 怪物もの、立志伝、冒険、 18 00:00:48,030 --> 00:00:52,019 旅と帰還、喜劇、悲劇、再生の物語です 19 00:00:52,019 --> 00:00:54,234 他の分類法もあるかもしれませんが 20 00:00:54,234 --> 00:00:57,564 重要なのは 物語という観点で思考していると 21 00:00:57,564 --> 00:01:01,776 自分に語りかけるのは 同じことの繰り返しになるという点です 22 00:01:01,776 --> 00:01:04,796 こんな調査結果があります 23 00:01:10,723 --> 00:01:13,933 人々に自分の人生を 言葉で表してもらいました 24 00:01:13,933 --> 00:01:15,614 人生を表現する際 25 00:01:15,614 --> 00:01:18,861 興味深いことに「ゴタゴタ」だと 答える人は少ないのです 26 00:01:18,861 --> 00:01:20,313 (笑) 27 00:01:20,313 --> 00:01:24,355 それが答えとして最も適切でしょう 悪い意味じゃありませんよ 28 00:01:24,355 --> 00:01:26,768 「ゴタゴタ」は自由や 自信につながりますし 29 00:01:26,768 --> 00:01:30,416 「ゴタゴタ」によって様々な強みを 生かすことにもなり得るのです 30 00:01:30,416 --> 00:01:34,784 ところが人々が好んで言うのは 「私の人生は旅だ」 31 00:01:34,784 --> 00:01:39,530 51%の人が人生を物語にしたがる という結果でした 32 00:01:39,530 --> 00:01:44,368 11%の回答は「人生は戦いだ」 これも物語の一種ですね 33 00:01:44,368 --> 00:01:48,472 「小説だ」が8% 「ドラマだ」が5% 34 00:01:48,472 --> 00:01:51,798 「リアリティー番組だ」という回答は なかったでしょうね 35 00:01:51,798 --> 00:01:52,958 (笑) 36 00:01:52,958 --> 00:01:56,653 とにかく 私たちは現実のゴタゴタに 秩序を押し付け 37 00:01:56,653 --> 00:01:58,283 その秩序は同じパターンをとります 38 00:01:58,283 --> 00:02:01,349 さらに 物事が物語の形になってしまうと 私たちは 39 00:02:01,349 --> 00:02:03,853 覚えておかなくていいことを 覚えてしまうものです 40 00:02:03,853 --> 00:02:05,426 ジョージ・ワシントンと桜の木の物語を 41 00:02:05,426 --> 00:02:08,197 ご存じの方はどれくらいいますか? 42 00:02:08,197 --> 00:02:10,467 実際のところは よくわからないのですよ 43 00:02:10,467 --> 00:02:15,405 ポール・リビアの物語も 事実かどうか明らかではありません 44 00:02:15,405 --> 00:02:19,135 だから物語は疑った方が良いのです 45 00:02:19,135 --> 00:02:22,468 私たちは物語に惹かれるよう 生物学的にプログラムされています 46 00:02:22,468 --> 00:02:25,410 物語には多くの情報が含まれており 社会的な力もあります 47 00:02:25,410 --> 00:02:27,314 物語は人と人とをつなぎます 48 00:02:27,314 --> 00:02:30,039 つまり物語とは 政治に関する情報を入手したり 49 00:02:30,039 --> 00:02:33,516 小説を読んだりするときに 口に入れられる飴のようなものです 50 00:02:33,516 --> 00:02:36,912 ノンフィクションの本だって 読めば物語を取り込むことになります 51 00:02:36,912 --> 00:02:39,295 ノンフィクションとは いわば新型のフィクションです 52 00:02:39,295 --> 00:02:42,120 本に書いてあるのは 本当のことかもしれませんが 53 00:02:42,120 --> 00:02:46,550 結局すべては同じ 物語という形をとっているのです 54 00:02:46,550 --> 00:02:50,449 では物語に依存しすぎると 何が問題なのでしょう? 55 00:02:50,449 --> 00:02:52,346 現実のゴタゴタをよそに 56 00:02:52,346 --> 00:02:55,696 「自分の人生はこうだ」という 見方をするわけですが 57 00:02:55,696 --> 00:02:59,763 より具体的に言うと 過度に物語風の思考をすることには 58 00:02:59,763 --> 00:03:02,801 いくつかの重大な問題があると 私は考えます 59 00:03:03,401 --> 00:03:05,455 第一に物語は単純すぎる傾向があります 60 00:03:05,455 --> 00:03:07,896 物語のポイントは そぎ落とすことにあります 61 00:03:07,896 --> 00:03:09,502 18分に収めるどころか 62 00:03:09,502 --> 00:03:12,954 ほとんどの場合1文か2文で 表せてしまうのです 63 00:03:12,954 --> 00:03:14,815 詳細を削り落とすと 64 00:03:14,815 --> 00:03:18,443 自分の人生の物語であれ 政治にまつわる物語であれ 65 00:03:18,443 --> 00:03:22,044 「善vs.悪」で語りがちになります 66 00:03:22,604 --> 00:03:26,458 そりゃ実際に「善vs.悪」の物事も あるにはありますよね 67 00:03:26,458 --> 00:03:27,965 でも おしなべて 68 00:03:27,965 --> 00:03:32,039 私たちは「善vs.悪」で語りたがる傾向が 強すぎると思います 69 00:03:32,039 --> 00:03:33,289 ちょっとした目安ですが 70 00:03:33,289 --> 00:03:37,539 「善vs.悪」で語るたびに あなたは自分のIQを 71 00:03:37,539 --> 00:03:41,715 10ポイント程度 下げていると想像してください 72 00:03:41,715 --> 00:03:45,052 この方法を密かに心に刻んでおけば 73 00:03:45,052 --> 00:03:48,354 かなりの速さで うんと賢くなれると思いますよ 74 00:03:48,354 --> 00:03:49,973 本を読む必要もありません 75 00:03:49,973 --> 00:03:52,028 「善vs.悪」で語るごとに 76 00:03:52,028 --> 00:03:54,646 ボタンを押していると想像するだけです 77 00:03:54,646 --> 00:03:56,223 そしてそのボタンを押すたびに 78 00:03:56,223 --> 00:03:58,793 あなたは自分のIQを10ポイント程度 下げているのです 79 00:03:59,283 --> 00:04:01,284 別のタイプの物語で人気なのは 80 00:04:01,284 --> 00:04:04,651 オリバー・ストーンやマイケル・ムーアの 映画のようなものですね 81 00:04:04,651 --> 00:04:08,253 「偶然こうなってしまった」では 映画になりません 82 00:04:08,253 --> 00:04:12,927 必ず陰謀があります 共謀している人たちがいます 83 00:04:12,927 --> 00:04:16,307 物語には意図が付き物だからです 84 00:04:16,307 --> 00:04:20,568 物語は自発的な秩序や 複雑な人間社会といった― 85 00:04:20,568 --> 00:04:23,748 人間の行為の産物でありながら 意図の入らないものとは違います 86 00:04:23,748 --> 00:04:27,835 物語はそうではありません 悪い奴らが企てているものなのです 87 00:04:27,835 --> 00:04:30,473 聞こえてきた物語に たくらみが絡んでいたら 88 00:04:30,473 --> 00:04:33,493 たとえ善人たちが企てた物語だとしても 89 00:04:33,493 --> 00:04:35,617 それは映画を見ているときと同様 90 00:04:35,617 --> 00:04:38,356 やはり疑うべき理由になります 91 00:04:38,356 --> 00:04:40,367 「物語を聞く際 どんな場合に 92 00:04:40,367 --> 00:04:43,736 特に疑うべきだろう?」という疑問には 良い手がありますよ 93 00:04:43,736 --> 00:04:48,692 物語を聞いて こう思った場合です 「わぁ すごい映画ができそうだ」 94 00:04:48,692 --> 00:04:49,774 (笑) 95 00:04:49,774 --> 00:04:53,632 そういう場合に「やばいな」と 反応できるようになりましょう 96 00:04:53,632 --> 00:04:55,566 そういう場合 おそらく全体像は 97 00:04:55,566 --> 00:04:58,425 かなりゴタゴタしているんだろうと 思った方がいいですよ 98 00:04:59,285 --> 00:05:04,483 その他に物語の筋としてよくあるのは 「厳しく当たらねば」という主張です 99 00:05:05,233 --> 00:05:07,534 様々な文脈で耳にするでしょう 100 00:05:07,534 --> 00:05:12,801 「銀行に厳しくせねば」 「労働組合に断固たる態度で臨まねば」 101 00:05:12,801 --> 00:05:14,937 「他国や外国の独裁者や 交渉相手に対し 102 00:05:14,937 --> 00:05:18,756 強気の姿勢を見せる必要がある」 というわけです 103 00:05:18,756 --> 00:05:21,105 厳しく当たることに反対なのでは ありません 104 00:05:21,105 --> 00:05:22,865 厳しく当たるべき時はあります 105 00:05:22,865 --> 00:05:26,087 ナチスに対し強硬な姿勢をとったのは 良いことでした 106 00:05:26,827 --> 00:05:32,181 ただ これもまた私たちがあまりにも安易かつ 性急に陥ってしまう物語なのです 107 00:05:32,181 --> 00:05:34,478 出来事の原因がよくわからない時 私たちは 108 00:05:34,478 --> 00:05:38,187 誰かを槍玉に挙げ こう言います 「奴らに厳しく当たらなければ!」 109 00:05:38,187 --> 00:05:40,771 まるで過去にそうした人が 誰もいなかったかのように 110 00:05:40,771 --> 00:05:42,989 「厳しく当たる」という考えを 持ち出すのです 111 00:05:42,989 --> 00:05:46,095 私はこれをある種の精神的怠惰と 見ています 112 00:05:46,095 --> 00:05:49,377 わかりやすい物語です 「今こそ厳しく」 113 00:05:49,377 --> 00:05:52,078 「厳しくやる必要があった」 「厳しくせざるを得ないだろう」 114 00:05:52,078 --> 00:05:54,973 大抵の場合 それは 警戒しろというサインです 115 00:05:55,623 --> 00:05:58,784 物語にまつわる問題は他にもあります 116 00:05:58,784 --> 00:06:02,206 自分の頭に入れられる物語は 一度に あるいは1日のうちに 117 00:06:02,206 --> 00:06:05,268 あるいは一生を通じても 限られた数しかありません 118 00:06:05,268 --> 00:06:08,134 そこで自分の物語を様々な目的に 使い回すことになります 119 00:06:08,134 --> 00:06:11,027 たとえば朝ベッドから起きるのにも 120 00:06:11,027 --> 00:06:13,110 自分に物語を語りかけます 121 00:06:13,110 --> 00:06:16,620 「自分の仕事は実に重要だ 自分のやっていることは実に重要だ」 122 00:06:16,620 --> 00:06:18,456 (笑) 123 00:06:18,456 --> 00:06:23,994 事実かもしれませんが 重要でないときも 私はこの物語を自分に言い聞かせています 124 00:06:24,694 --> 00:06:26,956 だってこの物語は効きますからね 125 00:06:26,956 --> 00:06:28,610 おかげでベッドから出られます 126 00:06:28,610 --> 00:06:30,968 自分をだますテクニックです 127 00:06:30,968 --> 00:06:33,575 ただ この物語を変えるとなると 問題が生じます 128 00:06:33,575 --> 00:06:37,796 ポイントは私がこの物語をつかみ 握りしめることで 129 00:06:37,796 --> 00:06:39,630 ベッドから出られるという点です 130 00:06:39,630 --> 00:06:43,143 ですから私が人生のゴタゴタの中 実際には時間の無駄でしかないことを 131 00:06:43,143 --> 00:06:44,958 している時にも 132 00:06:44,958 --> 00:06:49,369 私は自分をベッドから出してくれる 自分の物語に縛られているのです 133 00:06:49,369 --> 00:06:53,107 私の頭の中に組み合わせや 行列計算を駆使した― 134 00:06:53,107 --> 00:06:56,962 ごく複雑な物語の対応方法でもあれば 理想的なのですが 135 00:06:56,962 --> 00:06:58,868 物語はそんなふうには行きません 136 00:06:58,868 --> 00:07:00,927 物語として機能するためには 単純で 137 00:07:00,927 --> 00:07:04,637 わかりやすく 他の人に伝えやすく 覚えやすいのが必須です 138 00:07:04,637 --> 00:07:07,747 つまり物語は2つの相反する目的を担い 139 00:07:07,747 --> 00:07:10,636 しばしば私たちを良からぬ方向へと導きます 140 00:07:10,636 --> 00:07:13,477 かつて自分は経済学者の中では 141 00:07:13,477 --> 00:07:17,537 善良なグループに属し 他の良いヤツらと手を組んで 142 00:07:17,537 --> 00:07:20,666 共に悪いヤツらの企みと戦っていると 考えていました 143 00:07:20,666 --> 00:07:22,278 そう思っていたのです 144 00:07:22,828 --> 00:07:24,944 おそらく私は間違っていました 145 00:07:24,944 --> 00:07:26,952 私が良いヤツの場合も あるかもしれませんが 146 00:07:26,952 --> 00:07:31,283 ある時 とうとう気づいたのです 「おい 私は良いヤツじゃなかったぞ」と 147 00:07:31,283 --> 00:07:34,705 悪意があるという意味の 悪いヤツかどうかはわかりませんが 148 00:07:34,705 --> 00:07:37,959 私にとってその物語から逃れるのは 非常に困難でした 149 00:07:39,959 --> 00:07:43,753 面白いことに昨今は多くの本が 150 00:07:43,753 --> 00:07:46,237 認知バイアスをテーマにしていますね 151 00:07:46,237 --> 00:07:50,440 『Nudge(実践 行動経済学)』に 『Sway(あなたはなぜ値札にダマされるのか?)』 152 00:07:50,440 --> 00:07:52,508 『Blink(第1感)』といった 題が1語の本は 153 00:07:52,508 --> 00:07:55,681 どれも私たちが いかに失敗するかを扱っています 154 00:07:55,681 --> 00:07:57,137 失敗する仕組みはいろいろありますが 155 00:07:57,137 --> 00:08:00,865 不思議なのは 私がその仕組みの 本質と考えるものが 156 00:08:00,865 --> 00:08:05,067 こうした本の どこにも書かれていないことです 157 00:08:05,067 --> 00:08:08,762 それは 私たちが物語で事を捉えすぎたり 158 00:08:08,762 --> 00:08:11,487 物語にいとも簡単に 惹かれてしまうということです 159 00:08:11,487 --> 00:08:13,577 なぜ本は教えてくれないのでしょう? 160 00:08:13,577 --> 00:08:16,645 それはこうした本自体が物語だからです 161 00:08:17,205 --> 00:08:20,983 この種の本は読めば読むほど 自分のバイアスを知ることになりますが 162 00:08:20,983 --> 00:08:24,920 同時に自分の他のバイアスについて 実質的に悪化させることになります 163 00:08:24,920 --> 00:08:28,262 つまりこの手の本はそれ自体が 皆さんのバイアスの一部なのです 164 00:08:28,822 --> 00:08:31,376 人々はよく こうした本を お守り代わりに買うのです 165 00:08:31,376 --> 00:08:35,243 「この本を買ったから 『予想どおりに不合理』にはならないぞ」 166 00:08:35,243 --> 00:08:37,903 (笑) 167 00:08:37,903 --> 00:08:39,835 最悪の事態を聞きたがるのに似ています 168 00:08:39,835 --> 00:08:43,576 心の準備をしたり 最悪の事態から 身を守ったりするわけです 169 00:08:43,576 --> 00:08:46,714 悲観論が売れる理由はこれです 170 00:08:46,714 --> 00:08:49,617 しかし本を買ったら どうにかなるという思考は 171 00:08:49,617 --> 00:08:51,535 より重大な誤謬かもしれません 172 00:08:51,535 --> 00:08:54,797 最も危険な人物は 金融リテラシーを学んだ人だったという 173 00:08:54,797 --> 00:08:57,556 例の証拠と同じようなものです 174 00:08:57,556 --> 00:09:00,179 乗り出していっては 最悪の間違いを犯す人たちです 175 00:09:00,179 --> 00:09:03,043 結局うまくやったのは 「自分たちには全然わからない」と 176 00:09:03,043 --> 00:09:05,052 自覚していた人々です 177 00:09:05,592 --> 00:09:07,155 物語について3つ目の問題は 178 00:09:07,155 --> 00:09:10,533 物語を利用して私たちを操る者が いるという点です 179 00:09:10,533 --> 00:09:13,939 私たちは「自分だけは広告の影響を 受けない」と考えがちですが 180 00:09:13,939 --> 00:09:18,483 もちろんそうは行きません 広告は私たちにも もれなく影響します 181 00:09:18,483 --> 00:09:20,796 物語から逃れられなくなっていると 182 00:09:20,796 --> 00:09:25,008 商品と物語が抱き合わせになって 183 00:09:25,008 --> 00:09:27,386 販売されているのに遭遇したときに 184 00:09:27,386 --> 00:09:29,033 「物語が無料で付いてくる!」と 185 00:09:29,033 --> 00:09:30,678 その商品を買ってしまいます 186 00:09:30,678 --> 00:09:32,868 商品と物語はセットですからね 187 00:09:32,868 --> 00:09:33,906 (笑) 188 00:09:33,906 --> 00:09:35,845 資本主義の仕組みを考えてみれば 189 00:09:35,845 --> 00:09:37,198 そこにはバイアスが存在します 190 00:09:37,198 --> 00:09:39,932 車について2種類の物語を 考えてみましょう 191 00:09:40,422 --> 00:09:43,380 1つ目の物語はこうです 「この車を買えば 192 00:09:43,380 --> 00:09:46,998 美しく情熱的な伴侶ができ 魅惑的な人生が送れますよ」 193 00:09:46,998 --> 00:09:48,508 (笑) 194 00:09:49,398 --> 00:09:50,628 この手の物語を売り込んで 195 00:09:50,628 --> 00:09:53,123 金銭的インセンティブを得る人は 大勢います 196 00:09:53,123 --> 00:09:55,221 しかし2つ目の物語はこうです 197 00:09:55,671 --> 00:09:59,661 「収入に見合うからと言って 高級車を買う必要なんてありません 198 00:09:59,661 --> 00:10:03,102 普段なら仲間を見て 真似をするところですよね 199 00:10:03,102 --> 00:10:05,246 そのやり方は 多くの場面で役に立ちますが 200 00:10:05,246 --> 00:10:07,569 車選びに限っては トヨタを買えばいいのです」 201 00:10:07,569 --> 00:10:09,749 (笑) 202 00:10:09,749 --> 00:10:11,490 トヨタには良い宣伝かもしれません 203 00:10:11,490 --> 00:10:14,686 しかしトヨタでさえ 高級車の方が利益率が高く 204 00:10:14,686 --> 00:10:16,623 安い車からは利益が少ないのです 205 00:10:16,623 --> 00:10:19,303 ですから どの種の物語を 聞くことになるかと言えば 206 00:10:19,303 --> 00:10:22,783 結局 耳に入るのは 華やかで心をそそる物語の方なのです 207 00:10:22,783 --> 00:10:25,060 やはり 物語を信用してはいけません 208 00:10:25,060 --> 00:10:29,281 皆さんの物語への愛を利用して 皆さんを操る者がいるのです 209 00:10:30,331 --> 00:10:31,501 一歩引いて こう言いましょう 210 00:10:31,501 --> 00:10:32,599 「真意は何だろう?」 211 00:10:32,599 --> 00:10:35,383 「語っても得にならない物語とは どんなものだろう?」 212 00:10:35,383 --> 00:10:39,970 自問してみて自分の判断に 変化が生じるか確かめてください 213 00:10:39,970 --> 00:10:41,646 実に単純な方法です 214 00:10:41,646 --> 00:10:45,107 物語的な思考パターンから抜け出すことは 不可能ですが 215 00:10:45,107 --> 00:10:48,743 どこまでを物語で考えるか その度合いを改善することや 216 00:10:48,743 --> 00:10:50,807 より良い決断をすることなら可能です 217 00:10:51,517 --> 00:10:54,671 たとえば今日のこの講演で 当然 疑問となってくるのは 218 00:10:54,671 --> 00:10:57,298 皆さんが講演から どんなメッセージを受け取るかです 219 00:10:57,298 --> 00:11:01,077 タイラー・コーエンから どんな物語を受け取りますか? 220 00:11:01,510 --> 00:11:04,686 可能性の1つは探求の物語でしょう 221 00:11:04,686 --> 00:11:07,111 「タイラーは使命を持ってやって来て 222 00:11:07,111 --> 00:11:12,703 物語で考えることを控えよと 私たちに力説した」 223 00:11:13,418 --> 00:11:15,908 この講演を語る物語として アリでしょうね 224 00:11:15,908 --> 00:11:17,805 (笑) 225 00:11:17,805 --> 00:11:19,787 おなじみのパターンに合いますから 226 00:11:19,787 --> 00:11:22,676 覚えておけるし 他の人にも伝えやすいでしょう 227 00:11:22,676 --> 00:11:24,396 「変な奴が 今日こう言ってたよ 228 00:11:24,396 --> 00:11:27,796 『物語で考えちゃダメだ』 それでどうなったか聞いて」 229 00:11:27,796 --> 00:11:28,799 (笑) 230 00:11:28,799 --> 00:11:30,330 そうやって物語を語るわけです 231 00:11:30,330 --> 00:11:31,971 (笑) 232 00:11:33,021 --> 00:11:37,343 別の可能性として 再生の物語にもできるでしょう 233 00:11:37,833 --> 00:11:42,052 「今までの私は 物語で考えることが多すぎた」 234 00:11:42,052 --> 00:11:44,794 (笑) 235 00:11:44,794 --> 00:11:46,912 「しかし私は タイラー・コーエンの話を聞き― 236 00:11:46,912 --> 00:11:47,878 (笑) 237 00:11:47,878 --> 00:11:51,152 物語で考えることは減ったのだ!」 238 00:11:51,152 --> 00:11:53,952 これもまた覚えておきやすく 239 00:11:53,952 --> 00:11:57,773 他の人に伝えやすい物語で 心にも残りやすいでしょう 240 00:11:58,463 --> 00:12:02,506 または壮絶な悲劇の物語にすることも 可能です 241 00:12:03,086 --> 00:12:05,021 「タイラー・コーエンという男が現れ 242 00:12:05,021 --> 00:12:06,271 (笑) 243 00:12:06,271 --> 00:12:08,873 物語で考えてはならぬと述べたが 244 00:12:08,873 --> 00:12:10,811 彼には物語を語ることしかできず 245 00:12:10,811 --> 00:12:11,877 (笑) 246 00:12:11,877 --> 00:12:15,838 自分以外の人がいかに 物語的な思考をしているか語るばかりだった」 247 00:12:15,838 --> 00:12:17,797 (笑) 248 00:12:18,454 --> 00:12:23,073 さあ今日の講演はどれでしょう? 探求?再生?悲劇? 249 00:12:23,523 --> 00:12:26,016 3つを組み合わせたものでしょうか? 250 00:12:26,626 --> 00:12:29,404 私にはわかりません それから別に私は皆さんに― 251 00:12:29,404 --> 00:12:33,359 お持ちのDVDプレイヤーを燃やせとも トルストイを捨てろとも言ってませんよ 252 00:12:33,939 --> 00:12:38,231 物語的な思考の根本は 人間らしさなのです 253 00:12:38,231 --> 00:12:43,434 ガブリエル・ガルシア=マルケスの自伝 『生きて、語り伝える』によると 254 00:12:44,004 --> 00:12:47,465 私たちは物語の形をした記憶を使って 自分の過去の言動を理解し 255 00:12:47,465 --> 00:12:51,958 自らの人生に意味を与え 他の人たちとの関係を築くのです 256 00:12:51,958 --> 00:12:56,028 どれも消えてはいきませんし 消えては困るし 消すことは不可能です 257 00:12:56,028 --> 00:13:00,658 しかし私はやはり経済学者ですから 考えるのはその時々に応じて 258 00:13:01,338 --> 00:13:02,954 最適な判断をすることです 259 00:13:02,954 --> 00:13:07,063 私たちは物語的な思考をすることを 増やすべきか減らすべきか? 260 00:13:07,063 --> 00:13:11,195 物語が聞こえてきたら もっと疑うべきか? 261 00:13:11,195 --> 00:13:13,963 どんな物語を疑うべきか? 262 00:13:13,963 --> 00:13:18,587 先にも言いましたが疑うべき物語は 往々にして皆さんが最も好み 263 00:13:18,587 --> 00:13:22,447 最も実りが多いと感じ 最もやる気になる物語ですよ 264 00:13:22,447 --> 00:13:26,148 最善の選択をしたかに目を向けず 人間の行為がもたらす複雑で― 265 00:13:26,148 --> 00:13:29,969 予測不可能な結果を 考慮に入れない物語です 266 00:13:29,969 --> 00:13:33,863 入れてしまうと大抵の場合 物語として出来が良くないですからね 267 00:13:33,863 --> 00:13:38,513 だから大成功の物語や苦闘の物語が 多いのです 268 00:13:38,513 --> 00:13:43,020 悪や無知といった対抗勢力の存在があり 269 00:13:43,020 --> 00:13:46,310 探求する人物 つまり旅に出る人物がいて 270 00:13:46,310 --> 00:13:48,369 見知らぬ人が街へやって来ます 271 00:13:49,049 --> 00:13:53,769 こういうパターンになるのですが これに引き込まれないでください 272 00:13:54,870 --> 00:13:56,219 (笑) 273 00:13:57,419 --> 00:13:59,194 その代わり 決断に際して 274 00:13:59,954 --> 00:14:03,283 トルストイを燃やさなくてもいいですが 275 00:14:03,283 --> 00:14:06,239 もう少しゴタゴタした状態を 受け入れてください 276 00:14:06,739 --> 00:14:11,226 もし私が実際に旅や探求や 戦いに生きなければならないとしたら 277 00:14:11,226 --> 00:14:13,263 たまったもんじゃありません 278 00:14:13,263 --> 00:14:16,000 ゴタゴタし平凡で― 栄光というのはおこがましいですが 279 00:14:16,000 --> 00:14:19,645 単純に自分が楽しいと思える 280 00:14:19,645 --> 00:14:21,655 人生を送っちゃダメなんでしょうか? 281 00:14:21,655 --> 00:14:24,008 何らかの物語に沿わなければ いけませんか? 282 00:14:24,008 --> 00:14:25,240 普通に生きちゃダメですか? 283 00:14:25,780 --> 00:14:28,826 ゴタゴタに対して もっと気楽に考えてください 284 00:14:29,456 --> 00:14:32,176 不可知に対して もっとゆったり構えてください 285 00:14:32,176 --> 00:14:34,871 知らなくて平気なことに対してですよ 286 00:14:34,871 --> 00:14:37,644 こだわらない分野をいくつか選んでおけば 287 00:14:37,644 --> 00:14:38,997 気にしないのは簡単です 288 00:14:38,997 --> 00:14:42,828 たとえば「宗教はさっぱり」とか 「政治に疎い」とかです 289 00:14:42,828 --> 00:14:47,040 ポートフォリオを組む要領で 頑固になる分野を残しておくわけです 290 00:14:47,040 --> 00:14:49,220 (笑) 291 00:14:49,220 --> 00:14:50,290 時に 292 00:14:50,290 --> 00:14:53,836 知的で最も信頼できる人々というのは 自分の専門分野で 293 00:14:53,836 --> 00:14:57,028 とんでもなく独善的で頭が固く 理不尽なものですが 294 00:14:57,028 --> 00:14:59,678 「よくあんなことが信じられるな」 と思われるようなこともします 295 00:14:59,678 --> 00:15:04,170 この手の人たちの頑固さは 1つの分野に全て費やされてしまうので 296 00:15:04,170 --> 00:15:06,900 他の事に関しては 考えが柔軟だったりするのです 297 00:15:07,340 --> 00:15:11,079 ただし わからなくても平気なことが あるからと言って― 298 00:15:11,079 --> 00:15:13,092 自己欺瞞や 自分の物語や柔軟性に対して 299 00:15:13,092 --> 00:15:16,192 自分は本質的に理性があるなんて 思わないようにね 300 00:15:16,192 --> 00:15:18,339 (笑) 301 00:15:18,889 --> 00:15:22,756 認識論的にさまよい 混迷し不完全であるという考えを 302 00:15:22,756 --> 00:15:26,413 頭に入れておいてください 303 00:15:26,413 --> 00:15:29,049 上手くまとまる話ばかりではありませんし 304 00:15:29,049 --> 00:15:31,879 皆さんは旅に出ているわけでもないのです 305 00:15:31,879 --> 00:15:34,746 皆さんは複雑な成り行きで ここに存在しているのです 306 00:15:34,746 --> 00:15:38,833 その理由はご存じないでしょう おそらく私にもわかりませんが 307 00:15:38,833 --> 00:15:42,113 何にしろ お招きいただいて良かったです ご清聴ありがとうございました 308 00:15:42,113 --> 00:15:43,111 (笑) 309 00:15:43,111 --> 00:15:44,822 (拍手)