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← 癌研究のオープンソース化

癌細胞は、自身が癌細胞であることをどうやって知るのか。ジェイ・ブラッドナーの研究室では、この問いの鍵を握るJQ1という分子を見つけました。そして、特許を取得する代わりに、研究を進めるために、論文を発表しサンプルを40の研究施設に送りました。オープンソース手法を活用した医学研究の未来がここに垣間見られます。

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Showing Revision 5 created 01/10/2020 by Yasushi Aoki.

  1. 私は癌と化学の研究をするために
  2. 10年前にシカゴから
    ボストンに移り住みました
  3. 化学は分子を作る学問だと
    お考えかもしれません
  4. しかし 私にとっては
  5. 化学は癌の新薬を作る学問です
  6. 科学と医学にとって ボストンは
  7. お菓子屋のようにわくわくする場所です
  8. 一時停止を無視すれば
    必ず大学院生を轢いてしまいます
  9. バーも「科学の奇跡」という店名です
  10. 「空き研究室 あります」の看板も見かけます
  11. さて この10年の間

  12. ゲノム医学という科学的革命が
  13. 始まったと言っても過言ではないでしょう
  14. 診察室に訪れる患者のことが
  15. 今まで以上に詳しく分かります
  16. 患者の「なぜ癌になったのか?」という
  17. 長年誰も答えることができなかった問いに
  18. 答えることができるようになりました
  19. ここに驚くようなデータがあります
  20. この革命は始まったばかりですが
  21. すでに次のことが分かっています―
    約40,000種の異なる変異が
  22. 10,000以上の遺伝子に起きており
  23. そのうち500の遺伝子が
  24. 癌の真の原因です
  25. しかし標的治療薬は
  26. まだ10種類あまりしか存在しません
  27. 癌の治療薬の不足は

  28. 父親が膵臓癌と診断されたとき
    痛感しました
  29. ボストンでの治療や
  30. ゲノム解析は行いませんでした
  31. それはこの悪性腫瘍の原因が
    何十年も前から知られているからです
  32. Ras、Myc、P53という
    3種類のタンパク質です
  33. 1980年代から
    このことは知られていました
  34. 膵臓癌 あるいは
    これら3種のタンパク質により
  35. 引き起こされる様々な固形癌に対して
  36. 投与できる薬はまだありません
  37. 癌はまさに「黙示録の四騎士」なのです
  38. Ras、Myc、P53に効く薬は
    まだ存在しません
  39. 「なぜ?」と思われるかもしれません
  40. 答えは「難しすぎるから」です
    全く納得できませんが
  41. これが科学的な答えです
  42. 理由は定かではありませんが
  43. これらの3種のタンパク質は
    我々の業界用語で
  44. 創薬につながらない
    「アンドラッガブルゲノム」と呼ばれます
  45. ネットを使えないパソコンだとか

  46. 探検できない月だとか
  47. あきらめを表す酷い業界用語です
  48. それが 何を意味するかというと
  49. これらのタンパク質に鍵穴を見つけ
    ― 錠前師の様に
  50. そこに はまり込む
    活性を持ち 小分子量の有機分子 ― 薬剤を
  51. 作ることに
    失敗したということです
  52. さて 私が臨床医学、血液学、腫瘍学
  53. 幹細胞移植の研修を受けている間に
  54. 起こったのは
  55. ヒ素やサリドマイド
  56. そしてナイトロジェンマスタード
    といった物質が
  57. そしてナイトロジェンマスタード
    といった物質が
  58. 米国FDAの承認過程を経て
  59. 抗がん剤として
    承認されたことです

  60. 21世紀なのに
    まだその段階なのです
  61. これらの治療薬の効果と質に
  62. 疑問を抱いたため
  63. 化学の研究のために
    大学に戻ったとも言えます
  64. 創薬化学のやり方を学んで
  65. オープンソースや
    クラウドソーシング
  66. そして大学ならではの協業ネットワークを
    活用する方法で
  67. 抗体医薬を研究するために
  68. 大学に戻りました
  69. 新時代の研究方法を用いることで
    強力な標的治療法を
  70. もっと早く医療現場に
    届けられるかもしれないのです
  71. ただ この方法はまだ一般的でないと
    ご理解ください
  72. 今日はこれから
  73. 大変稀な正中線癌と
  74. その原因でありアンドラッガブルな
    標的タンパク質BRD4 そして
  75. JQ1いう化合物についてお話します
  76. JQ1は
    ダナファーバー癌研究所の
  77. 私の研究室で開発しました
  78. 愛着を込めて
    この化合物を作った化学者である
  79. Jun Qi氏のイニシャルを使いました
  80. さて BRD4は興味深いタンパク質です
  81. 癌は様々な方法で患者の体を
    蝕もうとしますが

  82. どうやって自分が癌だと
    記憶しているのでしょうか
  83. 細胞分裂のときには
    ゲノムを濃縮し
  84. 2細胞に分裂し
    再びゲノムを緩めます
  85. 目や肝臓をつくるための
  86. 遺伝子は揃っているのに そうはなりません
  87. 癌であることを記憶しているのです
  88. それは 癌細胞が他の細胞と同じように
  89. 分子の「しおり」を持っていて
  90. 新しい細胞に
    「君は癌細胞だ
  91. 増殖しないとだめだ」と
    思い出させるからです
  92. ブロモドメインを持つ
    BRD4や他のタンパク質類には
  93. この分子レベルの「しおり」が存在します

  94. 私達は次のように考えました―
  95. このタンパク質にある
  96. 小さなポケットにはまり込む分子を作り
  97. この「しおり」の結合を
  98. 防ぐことができれば
  99. BRD4依存性の癌細胞に
  100. 癌ではないと思わせることができる
    と考えたのです
  101. 癌ではないと思わせることができる
    と考えたのです
  102. そうして私達の探求が始まりました
  103. 化合物ライブラリーを構築し
  104. JQ1と呼ばれる物質と
  105. その類似物質にたどりつきました
  106. 私達は製薬会社ではありませんから
  107. 製薬会社にとっては難しい
    種々の事柄や
  108. 柔軟なアプローチを取ることができます
  109. 化合物を友人に郵送し始めました
  110. 私の研究室は小さいので
  111. 何人かの研究者に送って
    分子の性質を知ろうと思いました
  112. 英オックスフォードの優秀な結晶学者チームは
  113. ある画像を送ってきて この分子が
  114. この標的タンパク質に対して
  115. 非常に有効である正確な理由を
    理解させてくれました

  116. 専門用語で形状相補性と言いますが
  117. ぴったりとはまったのです
  118. このBRD4依存性の癌は
  119. とても珍しい癌です
  120. 私達は ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の
  121. 病理学者が集めた検体を使って調べました
  122. そして癌細胞をこの分子で処理すると
  123. 衝撃的なことが観察できたのです
  124. 小さく 丸く
  125. 増殖速度が速いその癌細胞が
  126. 腕のような突起を伸ばし始めたのです
  127. 細胞の形が変わったのです
  128. 要するに
  129. 癌細胞であることを忘れ
  130. 正常な細胞に変わっていたのです
  131. この発見にはとても興奮しました

  132. 次のステップはマウスに
    この分子を投与することでしたが
  133. この稀な癌のマウスモデルがないという
    課題がありました
  134. このとき私はコネチカット州出身の
  135. 29歳の消防士を診ていました
  136. このBRD4依存性の完治できない癌で
  137. 末期状態にありました
  138. 癌は左肺に広範に浸潤していて
  139. 胸腔ドレーンから
    少量の組織片を排出していました
  140. 看護の交代時間のたびに
    これを捨てます
  141. 私達は彼に協力を依頼しました
  142. 私達は彼に協力を依頼しました
  143. 胸腔ドレーンから得られる
  144. この貴重で稀な癌由来物質を

  145. 車で私たちの研究室に運び
    マウスに投与し
  146. 試験薬を使った段階の
    臨床研究をさせてもらえないかと依頼しました
  147. ヒトで試すことは
    もちろんできないし
  148. 違法です
  149. 同意が得られました
  150. そしてルーリーファミリーセンターで
  151. 同僚のアンドリュー・カンが
    基材への細胞接着を行なわずに
  152. マウスの体内に
    癌細胞を移植することに成功しました
  153. これはマウスのPET画像です
    ペットのPETです
  154. 癌は成長し
  155. 後ろ脚にある赤く大きな腫瘤になりました
  156. 私達が作った分子を使うことで
  157. 砂糖への依存症にもたとえられる
  158. 増殖速度が抑制されました
  159. この右のマウスでは
  160. 癌に反応が見られます
  161. これまで4種のマウスモデルを使った
  162. 実験を行ないました
  163. 実験の結果はいつも同じです
  164. 薬物を与えられたマウスは生き延び
  165. それ以外のマウスはすぐに死んでしまいます
  166. 次に製薬会社であればどう動くか
  167. 製薬会社ならここから先は
    どうするだろうかと考えました
  168. たぶん試作薬を

  169. 活性のある薬剤にするまで
  170. 秘密にするだろうと思いましたので
  171. 逆の行動をとりました
  172. 試作薬のもっとも早い段階で
  173. この研究成果について論文を発表したのです
  174. 通常は秘密にされる
  175. 分子の化学的同定も公開しました
  176. 合成法についても公開しました
  177. メールアドレスも公開し
  178. 連絡をもらえれば分子のサンプルを
  179. 無料で提供すると伝えました
  180. (笑)
  181. 自分達にとってこれ以上ないほど

  182. 競争の激しい環境を作ろうとしたのです
  183. 残念ながら...
    結果は成功でした
  184. (笑)
  185. 昨年12月から
  186. アメリカにある40の研究施設と
  187. ヨーロッパにある30の研究施設に
  188. 私達が見つけた化合物を提供してきました
  189. その提供先の多くは
  190. この珍しい癌を狙って
    開発を試みている製薬会社です
  191. 業界で今この癌がターゲットとして
  192. 注目されているのは
    願ってもないことです
  193. これらの研究施設から戻ってきた
  194. 分子の使用に関する科学的知見は
  195. 自分達だけでは得られなかった
    有益なものです
  196. 白血病細胞を子の分子で処理すると
  197. 健康な白血球に戻ります
  198. 骨髄の悪性疾患である
  199. 多発性骨髄腫という
    不治の病を患うマウスは

  200. この薬物による治療に

  201. 劇的に反応しました
  202. ご存じのとおり
    脂肪細胞には記憶力があります
  203. ここに良い実例をお見せします
  204. (笑)
  205. この分子は
  206. 脂肪細胞、脂肪幹細胞の
  207. 脂肪の作り方の記憶を妨げます
  208. 私の地元シカゴの人々のように
  209. 脂肪分の多い食事をしているマウスでも
  210. (笑)
  211. 重要な医学的問題である
  212. 脂肪肝を発症しないのです
  213. この研究を通して
  214. 私の研究室だけでなく
  215. ハーバード大医学部全体が
    学んだことがあります
  216. 学会には新薬の発見に役立つ
  217. 格別の資源があるということです
  218. 私が所属する研究施設では
  219. どこよりも多くの抗癌物質を
  220. 科学的に研究してきましたが
  221. 開発はしてきませんでした
  222. ここに列挙した特徴を
  223. 教育研究機関は兼ね備えているので
  224. 創造性を必要とし
    概念的にやっかいなところのある
  225. まだ初期段階のプロトタイプ開発に
    参加するのは
  226. 教育研究機関には大きなチャンスです
  227. それでは何を次に行うべきでしょうか?
  228. 分子は見つけましたが
    薬剤とはなっておらず

  229. 経口薬として提供できません
  230. 患者に使ってもらえるようにする
    必要があります
  231. 私の研究室の誰もが
  232. 特に患者と直接関わって以来
  233. この化合物を使った薬を世に出したいと
  234. 強く感じています
  235. そこで皆さんにお願いです
  236. 力と知恵を貸してください
  237. そして取り組みを一緒に進めましょう
  238. 私達には製薬会社のように
  239. そこに分子を入れさえすればよい
    新薬パイプラインはありません
  240. 競合と比較して
    市場で狙うべきポジションを
  241. 教えてくれる営業や
    マーケターもいません
  242. 私達の強みは
    教育研究機関としての柔軟性です

  243. 薬のプロトタイプを世界中で
    共有できる状況を保ちながらも
  244. 優秀でやる気に溢れ そして贅沢を言えば
    資金力が豊かな人たちとも協業し
  245. 新しい化合物を治療薬として
  246. 現場に届けることができる
    そんな柔軟性です
  247. 私達が見つけた化合物は
    もうすぐ私達の下を離れ
  248. テンシャ・セラピューティックスという
    ベンチャー企業に移ります
  249. 私達が見つけ
  250. 送り出していく化合物はこれで4つ目です
  251. その4つのうち
  252. 皮膚悪性リンパ腫に対する局所薬と
  253. 多発性骨髄腫の経口薬の2つが
  254. 今年7月に患者の元に
    臨床試験薬として届きます
  255. これは素晴らしい 大きな一歩です
  256. 最後に2つお伝えしたいと思います
  257. 1つは
    今回の研究で独自な点があるとすれば
  258. 科学面というよりも戦略面にあります
  259. 新しい戦略の社会実験でした
  260. 創薬化学研究の最初のフェーズで
  261. 可能な限りオープンにすると
  262. どうなるかを試す実験でした
  263. テキストメッセージや

  264. ツイッターで
  265. 送ることができる
  266. この文字と数字と記号の羅列が
  267. 私達の分子の化学的特定名です
  268. 製薬会社から私たちが一番欲しいのは
    創薬早期における
  269. プロトタイプ薬剤の作用についての
    情報なのです
  270. しかしこういった情報は秘密にされています
  271. そこで素晴らしい功績を出してきた
  272. コンピュータサイエンス分野における
    2つの原理原則を借りたいと考えます
  273. オープンソースとクラウドソーシングの
    考え方です
  274. これらに基づき責任を持って更に迅速に
  275. 分子標的治療法を癌患者の下に
    届けたいと思います
  276. このビジネスモデルは
    皆さんも対象としています
  277. 研究は一般から資金を募って行っています
  278. 財団が支援してくれています
  279. 大変素晴らしいことですが
  280. ボストンの皆さんは癌のためなら何でもします
  281. 自転車での州横断や川沿いの
    チャリティーウォーク
  282. (笑)
  283. 癌研究に対する

  284. このような形の支援は
  285. 他では見たことがありません
  286. 皆さんのご協力と参加に感謝します
  287. そして何よりも私達の考えを応援してくださり
  288. ありがとうございます
  289. (拍手)