WEBVTT 00:00:00.242 --> 00:00:02.171 マリオ! 00:00:03.049 --> 00:00:04.810 きゃあ!助けて! 00:00:25.151 --> 00:00:30.082 ビデオゲームにおける女性の描写と役割を 追求するビデオシリーズへようこそ。 00:00:30.082 --> 00:00:36.447 このプロジェクトは、ゲームの女性キャラに まつわるトロープ (比喩)、プロット・デバイス (筋書きを進めるための要素・仕掛け)、 そして様式を 00:00:36.447 --> 00:00:39.410 全体的な観点から考察していきます。 00:00:39.410 --> 00:00:43.079 このシリーズには、皆さんの愛するゲームや キャラの批評が含まれます。 00:00:43.079 --> 00:00:46.463 ですが、誰もがゲームを楽しみながらも、 そのメディアが持つ 00:00:46.463 --> 00:00:52.672 問題面や有害面の批評が可能であり、 必要であることを忘れないでください。 00:00:52.672 --> 00:00:56.917 それでは、「悲嘆の女性」トロープに 突入しましょう。 00:00:58.134 --> 00:01:01.259 まずは、誰もプレイできなかったゲームの話から 始めましょうか。 00:01:01.259 --> 00:01:08.665 1999年、ゲーム開発会社レアは「ダイナソー・プラネット」 という N64 向けのゲームを開発していました。 00:01:08.665 --> 00:01:14.193 主人公はクリスタルという16才のヒーローで、 2人のプレイヤーキャラの1人でした。 00:01:14.193 --> 00:01:19.326 彼女は時空を旅し、魔法の杖で古代の化物を倒し、 00:01:19.326 --> 00:01:24.408 世界を救うために戦い、 強く、有能で、英雄らしかった。 00:01:24.408 --> 00:01:27.109 「お前は誰だ、獣の少女よ」 00:01:27.109 --> 00:01:28.860 「私は名はクリスタル」 00:01:40.214 --> 00:01:41.820 とてもクールでしょう? 00:01:41.820 --> 00:01:44.904 しかし、このゲームは発売されませんでした。 00:01:44.920 --> 00:01:49.720 ゲームの完成が近づいた頃、 伝説的なゲームデザイナー宮本茂氏は 00:01:49.720 --> 00:01:54.766 スターフォックスの3作目にしたらどうかと 冗談で言いました。 00:01:54.766 --> 00:01:57.451 そして2年に渡って、 彼と任天堂はその冗談を現実にしたのです。 00:01:57.451 --> 00:02:03.462 脚本とゲームデザインを変更し、ゲームキューブ向けの スターフォックス・アドベンチャーとして 2002年に発売されました。 00:02:03.462 --> 00:02:08.961 この改訂版では、主人公だったクリスタルは 「悲嘆の女性」に変身させられており、 00:02:08.961 --> 00:02:12.502 ゲームの大半を水晶の檻の中に 閉じ込められたまま過ごし、 00:02:12.502 --> 00:02:15.699 新しいヒーロー、フォックス・マクラウドに 救出されるのを待っています。 00:02:15.699 --> 00:02:19.259 クリスタルのために作られたゲームの アクションシーンは 00:02:19.259 --> 00:02:21.802 フォックスに置き換えられました。 00:02:21.802 --> 00:02:25.317 クリスタルは肌の露出を増やした セクシーな衣装を与えられています。 00:02:26.470 --> 00:02:29.102 「わー、すげえ美人だ!」 00:02:35.796 --> 00:02:38.072 「俺は何をしてるんだ?」 00:02:38.072 --> 00:02:43.516 いかにもわざとらしいサックスの 音楽が重なり 00:02:43.516 --> 00:02:47.824 身動きが取れなくても、彼女が 情欲の対象であることがよくわかります。 00:02:47.824 --> 00:02:56.003 さらに侮辱的なのは、フォックスが彼女の魔法の杖を 彼女の救出に使っていることです。 00:02:56.003 --> 00:02:59.173 クリスタル自信が主人公の壮大な冒険から 00:02:59.173 --> 00:03:01.516 他人のゲームの受け身な犠牲者に変化した話は 00:03:01.516 --> 00:03:05.735 「悲嘆の女性」トロープが 女性キャラを無力化させ、 00:03:05.735 --> 00:03:09.237 彼女たちが自力で英雄になるチャンスを 奪っていることがよくわかります。 00:03:10.222 --> 00:03:14.947 悲嘆の女性 (Damsel in Distress) はフランス語の demoiselle en détresse の訳です。 00:03:14.947 --> 00:03:17.358 Demoiselle とは「若い女性」という意味です。 00:03:17.358 --> 00:03:23.778 détresse は無力や危険、見捨てられたと感じる 不安または絶望を意味します。 00:03:23.778 --> 00:03:27.142 トロープとしての「悲嘆の女性」は、 00:03:27.142 --> 00:03:30.149 女性キャラが危険な状況に晒され、 自力では脱出できなくなり、 00:03:30.149 --> 00:03:34.628 男性キャラの助けが必要になる 物語のからくり (プロットデバイス) です。 00:03:34.628 --> 00:03:38.910 大半の場合、主人公の冒険の目的 または動機になります。 00:03:38.910 --> 00:03:42.231 ビデオゲームでは、一般的に 誘拐の形をとります。 00:03:42.231 --> 00:03:46.483 石化や悪魔の憑依などの形を とることもあります。 00:03:46.483 --> 00:03:51.490 伝統的に、「悲嘆の女性」は 主人公の家族か恋人です。 00:03:51.490 --> 00:03:56.673 お姫様、妻、ガールフレンド、妹などが よく使われます。 00:03:57.458 --> 00:04:01.985 もちろん、「悲嘆の女性」はビデオゲームが 発明される何千年も前から存在します。 00:04:01.985 --> 00:04:06.578 このトロープの原点は、古代ギリシャ神話の ペルセウスの物語にさかのぼります。 00:04:06.578 --> 00:04:10.536 神話によると、 アンドロメダは生贄に捧げられ、 00:04:10.536 --> 00:04:14.081 裸で崖に縛りつけられ、 海獣に食べられそうになっていました。 00:04:14.081 --> 00:04:18.929 ペルセウスは海獣を倒して姫を救い出し、 彼女を妻として獲得します。 00:04:18.929 --> 00:04:25.065 中世では、「悲嘆の女性」はたくさんの歌や伝説、 おとぎ話に登場します。 00:04:25.065 --> 00:04:28.736 無防備な女性の救出は、当時の恋愛物語や 詩のレゾンデートル—— 00:04:28.736 --> 00:04:33.223 「存在理由」として描かれ、物語には 00:04:33.223 --> 00:04:38.853 武勇と美徳を証明するために冒険する 放浪の騎士が登場します。 00:04:38.856 --> 00:04:42.992 20世紀のはじめ、 初期のアメリカ映画産業は 00:04:43.002 --> 00:04:48.752 悲嘆の女性を衝撃的な プロットデバイスとして使い回しました。 00:04:48.752 --> 00:04:55.355 初期の有名な例は、キーストーン・コップス作、 1913年の短編 Barney Oldfield's Race for a Life です。 00:04:55.356 --> 00:05:01.256 悪者の髭男が女性を線路に縛り付ける場面は とても有名です。 00:05:03.563 --> 00:05:07.426 同じ頃、泣き叫ぶ女性を連れ去る巨大な猿のモチーフが 00:05:07.426 --> 00:05:11.611 様々なメディアで人気を得ました。 00:05:11.611 --> 00:05:15.387 特に、ターザンの恋愛対象ジェーンは 1912年のエドガー・ライス・バローズの 00:05:15.404 --> 00:05:20.440 パルプ小説「類猿人ターザン」で 獰猛なゴリラに連れ去られます。 00:05:20.440 --> 00:05:24.276 ウォルト・ディズニーは 1930年にミッキー・マウスの 00:05:24.276 --> 00:05:26.237 「ゴリラ・ミステリー」という アニメで同じモチーフを使いました。 00:05:28.897 --> 00:05:34.787 また、このイメージは第一次世界大戦中、 米軍の志願兵募集ポスターにも起用されました。 00:05:34.787 --> 00:05:38.918 しかし、1933年に二つのことが起きます。 これらの出来事が、「悲嘆の女性」が50年後、 00:05:38.918 --> 00:05:45.590 ビデオゲーム・メディアの基盤になる きっかけを作ります。 00:05:45.590 --> 00:05:51.581 まず、パラマウント・ピクチャーがアニメシリーズ 「ポパイ」を映画観客に公開しました。 00:05:51.581 --> 00:05:58.853 これらの短編の大半は、ポパイが 誘拐されたオリーブ・オイルを救出する話です。 00:05:58.853 --> 00:06:05.082 次に、同年の3月、RKO ピクチャーズが 空前のヒット映画「キングコング」を公開しました。 00:06:05.082 --> 00:06:11.116 巨大なゴリラが若い女性を誘拐し、 彼女を所有しようとして殺される話です。 00:06:13.436 --> 00:06:16.994 そして、1981年。 日本の任天堂という会社が 00:06:16.994 --> 00:06:20.172 宮本茂という若いデザイナーに 00:06:20.172 --> 00:06:23.802 米市場向けのアーケードゲームの 開発を託しました。 00:06:23.802 --> 00:06:28.264 当初はゲームの主人公に ポパイを迎えるはずでしたが 00:06:28.264 --> 00:06:30.676 任天堂は権利を得ることができず 00:06:30.676 --> 00:06:36.683 宮本氏は映画「キングコング」の影響を受けた オリジナルキャラを作りました。 00:06:39.775 --> 00:06:44.106 ゲームの主人公ジャンプマンは、 巨大な猿に連れ去られた 00:06:44.106 --> 00:06:47.157 レディという悲嘆の女性を 救出しなければなりません。 00:06:47.157 --> 00:06:50.506 続編ではポリーンと名付けられています。 00:06:51.906 --> 00:06:56.619 ドンキーコングは初期のアーケードゲームで おそらく最も有名な「悲嘆の女性」の例ですが 00:06:56.619 --> 00:06:59.455 宮本氏がこのトロープを用いたのは これが初めてではありません。 00:06:59.455 --> 00:07:04.957 2年前の1979年、彼はシェリフという アーケードゲームの開発に関わっていました。 00:07:04.957 --> 00:07:07.803 このゲームでは、「美女」と呼ばれる 女性の形をしたキャラクターを 00:07:07.803 --> 00:07:12.218 盗賊の手から救い出さなければなりません。 00:07:12.218 --> 00:07:17.848 ヒーローは、ゲームの終わりに勇気を称えられ、 「勝利のキス」を与えられます。 00:07:17.848 --> 00:07:21.228 数年後、宮本氏はドンキーコングの キャラデザインを再利用しました。 00:07:21.228 --> 00:07:25.312 ポリーンはキノコ姫という新しい 女性キャラの雛形になり、 00:07:25.312 --> 00:07:28.961 ジャンプ男はある有名な配管工になりました。 00:07:39.541 --> 00:07:45.126 ピーチ姫はあらゆる意味で もっとも典型的な「悲嘆の女性」です。 00:07:45.126 --> 00:07:50.506 不運の姫は、計14本のスーパーマリオブラザースの ゲームに登場し、 00:07:50.506 --> 00:07:53.093 そのうち13本で彼女は誘拐されます。 00:08:01.648 --> 00:08:05.028 ピーチ姫は誘拐されなかったのは、 北米で1988年に発売された 00:08:05.028 --> 00:08:09.689 スーパーマリオ2だけで、 00:08:09.689 --> 00:08:12.495 また、彼女をプレイヤーキャラとして使える 唯一のゲームです。 00:08:12.495 --> 00:08:16.372 ただしこのゲーム、 元はマリオゲームではなかったのです。 00:08:16.372 --> 00:08:20.119 日本では違うタイトルで発売された ゲームでした。 00:08:20.119 --> 00:08:22.499 そのタイトルは夢工場ドキドキパニック。 00:08:22.499 --> 00:08:27.200 英語に訳すと Dream Factory: Heart Pounding Panic。 00:08:38.468 --> 00:08:45.926 ニンテンドー・オブ・アメリカは 日本語版スーパーマリオブラザーズ2の 難易度が高すぎ、前作に似すぎていると判断し、 00:08:45.936 --> 00:08:51.226 ドキドキパニックを作り直し、 主人公にマリオとルイージを迎えました。 00:08:51.236 --> 00:08:54.907 しかし、日本語版にはすで4人の プレイヤーキャラがいました。 00:08:59.260 --> 00:09:04.411 ですから、残り2人のプレイヤーキャラに キノピオとピーチ姫が起用されました。 00:09:04.411 --> 00:09:07.801 こうして既存のキャラモデルを上書きしたのです。 00:09:07.801 --> 00:09:12.798 ですから、ピーチ姫がプレイヤーキャラに なったのは事故とも言えます。 00:09:12.798 --> 00:09:15.566 でも、短距離を飛べる能力を 持っていました。 00:09:15.566 --> 00:09:19.744 氷のレベルでとても便利でした。 00:09:19.744 --> 00:09:23.599 悲しいことに、ピーチ姫が プレイヤーキャラになることは 2度とありませんでした。 00:09:23.599 --> 00:09:29.249 4人のキャラを使える スーパマリオブラザーズ Wii や WiiU でも 00:09:29.249 --> 00:09:32.063 ピーチ姫はゲームプレイから除外されています。 00:09:32.063 --> 00:09:34.746 代わりにキノピオが追加され、 00:09:34.746 --> 00:09:39.698 ピーチ姫は「悲嘆の女性」に戻されてしまいました。 00:09:39.698 --> 00:09:42.158 ピーチ姫は数多くのスピンオフに登場します。 00:09:42.158 --> 00:09:45.371 マリオパーティ、マリオスポーツ、 マリオカートなどに登場するほか、 00:09:45.371 --> 00:09:50.240 任天堂キャラが総登場する格闘ゲーム スマッシュブラザーズにも出演しています。 00:09:50.240 --> 00:09:55.662 しかし、これらは中枢の スーパーマリオシリーズとは別の世界です。 00:09:55.662 --> 00:10:00.157 ピーチ姫が主人公を務めた 唯一のゲームの話はまた後で。 00:10:00.727 --> 00:10:05.077 「悲嘆の女性」トロープは、 主体と客体に分けて考えることができます。 00:10:05.077 --> 00:10:09.493 簡単に言えば、主体は行動を起こし、 客体は行動の受け皿となる。 00:10:09.493 --> 00:10:13.580 主体は主人公です。 物語の中心であり、 00:10:13.580 --> 00:10:15.349 殆どの行動を起こす人物です。 00:10:15.349 --> 00:10:18.822 ゲームでは、大体が 主人公のプレイヤーキャラに該当し、 00:10:18.822 --> 00:10:21.909 物語もこのキャラの視点で進みます。 00:10:21.909 --> 00:10:25.035 このトロープでは 男性が物語の題材であり、 00:10:25.035 --> 00:10:27.581 女性は所有物に左遷されます。 00:10:27.581 --> 00:10:32.502 これは擬物化の一種です。 客体である悲嘆の女性は受身になり、 00:10:32.502 --> 00:10:39.723 勝ち取られる景品や発見を待つ宝物、 達成するべき目的にさせられます。 00:10:39.723 --> 00:10:43.018 数多くのアーケードゲームの イントロムービーでは 00:10:43.018 --> 00:10:47.874 盗まれる所有物としての 女性が強調されています。 00:11:07.738 --> 00:11:14.293 盗まれた物を取り戻すための戦いが、 ゲームプレイの怠惰な根拠となるわけです。 00:11:14.293 --> 00:11:17.588 「悲嘆の女性」トロープでは、 女性は物語に無関係なのです。 00:11:17.588 --> 00:11:21.342 彼女は男性が奪い合う物に過ぎないのです。 00:11:21.342 --> 00:11:23.677 少なくともこれまでの伝統的な例では。 00:11:23.677 --> 00:11:28.182 父権制のゲームでは、 女性は対戦チームではなく、 00:11:28.182 --> 00:11:29.767 ボールであると言われています。 00:11:29.767 --> 00:11:33.833 例えば、スーパーマリオは マリオとバウザーの競技であり、 00:11:33.833 --> 00:11:38.108 ピーチ姫の役割は、 ボールに過ぎないと言えるでしょう。 00:11:42.200 --> 00:11:45.467 二人の男性はシリーズを通して 何度も彼女を投げ合い、 00:11:45.475 --> 00:11:48.709 「悲嘆の女性」のボールを キャッチしようとします。 00:11:55.126 --> 00:11:58.135 「悲嘆の女性」は任天堂が 発明したものではありませんが、 00:11:58.135 --> 00:12:03.425 「姫を救出するゲーム」の人気により、 業界の基準となってしまいました。 00:12:03.425 --> 00:12:07.072 手軽な動機として このトロープが使い回されました。 00:12:07.072 --> 00:12:11.906 若い男性の幻想に取り入り、 00:12:11.906 --> 00:12:15.107 たくさんのゲームを 少年や男性に売るためです。 00:12:15.107 --> 00:12:16.770 「助けて!」 00:12:16.770 --> 00:12:18.138 「助けて!」 00:12:18.138 --> 00:12:19.140 「助けて!」 00:12:19.140 --> 00:12:20.324 「助けて!」 00:12:20.324 --> 00:12:21.408 「私を救い出して!」 00:12:21.408 --> 00:12:22.574 「助けて!」 00:12:22.574 --> 00:12:25.075 「お願い、助けて。ブレード!」 00:12:25.075 --> 00:12:27.624 80年代と90年代では このトロープが流行したため、 00:12:27.624 --> 00:12:30.409 すべての例を挙げるのは無理です。 00:12:30.409 --> 00:12:33.236 何百もの例がプラットフォームゲーム、 00:12:33.236 --> 00:12:35.250 サイドスクロールの格闘ゲーム、 00:12:35.250 --> 00:12:36.834 FPS、 00:12:36.834 --> 00:12:38.910 そして RPG に現れます。 00:12:45.926 --> 00:12:49.428 ここで、このトロープにありがちな 誤解を解きましょう。 00:12:49.428 --> 00:12:53.857 プロットデバイスとしての「悲嘆の女性」は、 他のトロープと一括にされることがあります。 00:12:53.857 --> 00:12:58.063 「指名の犠牲者」「英雄的な救出」 「勝利のキス」など。 00:12:58.063 --> 00:13:01.578 しかし、これらのトロープに 「悲嘆の女性」との関連性はあれども、 00:13:01.578 --> 00:13:05.112 必ずしも「悲嘆の女性」トロープの 一部ではないと覚えていてください。 00:13:05.112 --> 00:13:09.740 問題の女性は、ゲームを通して 犠牲者であったり、なかったりします。 00:13:09.740 --> 00:13:14.076 ヒーローも、救出に失敗したり 成功したりします。 00:13:16.415 --> 00:13:19.551 「悲嘆の女性」トロープの条件を満たすには、 00:13:19.551 --> 00:13:23.005 ヒーローの物語の進行のために 女性キャラが無力にされ、 00:13:23.005 --> 00:13:28.571 彼に救出されなければならない ということのみです。 00:13:29.344 --> 00:13:32.347 それではもう一人の有名な 任天堂のお姫様について話しましょう。 00:13:32.347 --> 00:13:36.769 1986年、宮本茂氏は再び 「悲嘆の女性」を使い、 00:13:36.769 --> 00:13:39.780 NES 版「ゼルダの伝説」を発表しました。 00:13:39.780 --> 00:13:45.055 ゲーム史上もっとも愛されている アクションゲームシリーズの第一作でした。 00:13:45.290 --> 00:13:46.110 「ゼルダ!」 00:13:46.110 --> 00:13:48.313 「ゼルダの伝説は続く」 00:13:48.313 --> 00:13:49.101 「ゼルダ!」 00:13:49.101 --> 00:13:52.549 「クリスタルを見つけ、姫を救出せよ」 00:13:52.549 --> 00:13:53.887 「ゼルダ!」「ゼルダ!」 00:13:53.887 --> 00:13:55.888 「ゼルダII:リンクの冒険」 00:13:55.888 --> 00:13:58.955 「任天堂!パワーで遊べ!」 00:13:58.955 --> 00:14:02.324 25年間に渡り12本以上の ゼルダゲームが発売されましたが、 00:14:02.324 --> 00:14:07.681 すべてでゼルダ姫は誘拐されるか、 呪われるか、憑依されるか、石化されるか、 00:14:07.681 --> 00:14:10.138 他の形で無力になります。 00:14:31.865 --> 00:14:37.293 ゼルダ姫が主人公になったことも、 真のプレイヤーキャラになったこともありません。 00:14:37.293 --> 00:14:40.163 しかし、すべての「悲嘆の女性」が 平等に作られているわけではありません。 00:14:40.163 --> 00:14:46.164 ゼルダ姫はキノコ王国の姫より 活発な役割を与えられることがあります。 00:14:46.164 --> 00:14:51.927 また、ゼルダ姫はガノンドロフに 誘拐されるだけではありません。 00:14:51.927 --> 00:14:56.438 後のゲームでは、「悲嘆の女性」と 「相棒」の間の存在になります。 00:14:56.438 --> 00:15:00.826 プロットデバイスとしての「悲嘆の女性」は、 女性キャラの身に何かが起きることであり、 00:15:00.826 --> 00:15:04.534 最初から最後まで犠牲者の役割に 縛られるわけではないのです。 00:15:04.534 --> 00:15:08.527 時折、もっと活動的な役割を与えられる こともあります。 00:15:08.527 --> 00:15:13.198 ヒーローのために扉を開けたり、 ヒントやパワーアップなどのアイテムを与え、 00:15:13.198 --> 00:15:15.951 冒険の手助けをします。 00:15:15.951 --> 00:15:18.794 私はこのバリエーションを 「お手伝いする悲嘆の女性」と読んでいます。 00:15:18.794 --> 00:15:24.918 ゼルダ姫は「時のオカリナ」でシークの姿で活躍し、 「風のタクト」でテトラという名前で活躍します。 00:15:24.918 --> 00:15:29.761 「時のオカリナ」では、ゼルダ姫はゲームの 後半まで誘拐を免れます。 00:15:29.761 --> 00:15:33.677 シークに変装した彼女は 活発で役に立つ冒険の仲間であり、 00:15:33.677 --> 00:15:36.103 有能なキャラクターです。 00:15:37.595 --> 00:15:43.928 しかし、いわば女性らしいゼルダ姫に戻るなり 00:15:43.928 --> 00:15:45.856 たった3分の間に捕獲されてしまいます。 00:15:45.856 --> 00:15:49.333 きっちり3分です。 時計で計りました。 00:15:52.287 --> 00:15:55.740 彼女の救出がリンクの冒険の 目的になるわけです。 00:15:55.740 --> 00:16:00.704 「風のタクト」でテトラは威勢のいい 若い海賊キャプテンです。 00:16:00.704 --> 00:16:06.828 しかし、彼女の正体がばれると、 女性らしい姿に戻され、 00:16:06.828 --> 00:16:10.120 リンクの冒険に同伴できなくなります。 00:16:10.120 --> 00:16:13.544 急に危険すぎると言われるのです。 00:16:13.544 --> 00:16:15.392 彼女は城で待つよう命令され、 00:16:15.392 --> 00:16:20.432 誘拐されるまで従順に 城に留まります。 00:16:22.462 --> 00:16:25.426 注目すべきは、 最後のボス戦のステージで、 00:16:25.426 --> 00:16:30.179 ゼルダ姫がリンクに加勢し、 ガノンドルフと戦います。新鮮な変化です。 00:16:31.440 --> 00:16:36.161 しかし、テトラが2007年の 「夢幻の砂時計」で再登場したとき 00:16:36.161 --> 00:16:38.404 彼女はイントロで誘拐されてしまいます。 00:16:38.404 --> 00:16:42.248 その後、石化されて再び誘拐されます。 00:16:42.248 --> 00:16:46.500 英雄的なことをしても、ゼルダ姫が 悲嘆の女性に戻されるのは残念です。 00:16:46.500 --> 00:16:48.543 彼女は活劇から切り離され、左遷され、 00:16:48.543 --> 00:16:51.698 どのゲームでも最低1回は無力になります。 00:17:10.023 --> 00:17:15.741 このトロープにおける女性の描写が 問題で有害な理由を話しましょう。 00:17:15.741 --> 00:17:18.699 悲嘆の女性は「非力」の同義語だけではなく、 00:17:18.699 --> 00:17:24.913 女性キャラから力を奪うことで 機能するのです。 00:17:24.913 --> 00:17:28.969 彼女たちが魔法能力や技術、 力を持っていても 00:17:28.969 --> 00:17:34.805 結局は捕われるか無力化され、 救出を待つはめになるのです。 00:17:34.805 --> 00:17:39.512 さらに簡潔に言えば、 このプロットデバイスは 00:17:39.512 --> 00:17:42.316 女性キャラの無力化と引きかえに 男性キャラが力を得るのです。 00:17:50.564 --> 00:17:53.521 悲嘆の女性を 典型的な英雄神話と比べてみましょう。 00:17:53.521 --> 00:17:57.694 大抵は男性の主人公が 冒険中に怪我をしたり、 00:17:57.694 --> 00:18:02.496 無力になったり、 捕獲されたりすることがあります。 00:18:05.418 --> 00:18:12.112 これらの状況で、英雄は自分の知恵や技術を使って 脱出します。 00:18:12.112 --> 00:18:13.211 「よし、いいぞ」 00:18:17.348 --> 00:18:20.722 牢屋に穴を開けて脱出することもできます。 00:18:20.722 --> 00:18:24.097 要は、彼らは自力で自由を取り戻すわけです。 00:18:24.097 --> 00:18:26.516 また、困難に打ち勝つ経験は 00:18:26.516 --> 00:18:31.159 主人公がより英雄らしくなるための 大切なステップなのです。 00:18:31.159 --> 00:18:35.692 逆に、悲嘆の女性は自力で 窮地を切り抜けることができず 00:18:35.692 --> 00:18:39.118 救助者を待つ羽目になります。 00:18:39.118 --> 00:18:41.782 試練は悲嘆の女性のものではなく、 00:18:41.782 --> 00:18:45.915 英雄が乗り越えなければならない 至難として描かれてているのです。 00:18:45.915 --> 00:18:51.083 結果、危険に晒された女性が 自ら脱出を謀る機会を奪い、 00:18:51.083 --> 00:18:55.378 彼女たちが英雄になることを 阻むのです。 00:18:55.794 --> 00:19:01.382 現在、昔ながらの悲嘆の女性ゲームが さまざまなゲーム機向けに蘇っています。 00:19:01.382 --> 00:19:05.097 ゲーマーの懐古趣味に 取り入って儲けるため、 00:19:05.097 --> 00:19:08.806 馴染みのあるキャラクターを 掘り返しているのです。 00:19:08.806 --> 00:19:14.161 例えば、エイミー・ローズという悲嘆の女性が 登場する1993年のプラットフォーマー 00:19:14.161 --> 00:19:19.149 「ソニック・ザ・ヘッジホッグCD」は 数多くのゲーム機にダウンロードできます。 00:19:19.611 --> 00:19:22.832 1980年代にアップル II 家庭機向けに 発売されたジョーダン・メシュナーの 00:19:22.832 --> 00:19:26.663 「カラテカ」と「プリンス・オブ・ペルシャ」 シリーズは 00:19:26.663 --> 00:19:29.373 どちらも高画質でリメイクされています。 00:19:36.960 --> 00:19:40.054 そして1983年のレーザーディスクゲーム 「ドラゴンズ・レア」。 00:19:40.054 --> 00:19:45.053 オバカなダフネ姫が登場するこのゲームは、 ほぼ全てのゲームシステムにポートされています。 00:19:45.053 --> 00:19:47.383 「助けて!」 00:19:47.383 --> 00:19:50.898 「檻には鍵がかかっているわ」 00:19:50.898 --> 00:19:53.848 「鍵はドラゴンが首にかけているの」 00:19:53.848 --> 00:19:57.711 「ドラゴンを倒すには、魔法の剣を使うのよ」 00:19:58.358 --> 00:20:02.584 ポーリーンを覚えていますか? ドンキーコングの悲嘆の女性。 00:20:02.584 --> 00:20:04.444 彼女も蘇りました。 00:20:04.444 --> 00:20:07.707 まずは1994年、ゲームボーイ向けの 「ドンキーコング」で。 00:20:07.707 --> 00:20:11.580 そして、ニンテンドーDS の 「マリオ VS ドンキーコング」シリーズで。 00:20:11.580 --> 00:20:14.633 どちらのゲームもオープニングで ポーリーンが巨大な猿に連れ去られるという 00:20:14.633 --> 00:20:19.428 使い古されたプロットを 蒸し返しています。 00:20:19.428 --> 00:20:23.052 「マリオ、助けて!」 00:20:23.584 --> 00:20:28.582 1987年の格闘アーケードゲーム 「ダブルドラゴン」の 有名なオープニングシーンでは 00:20:28.582 --> 00:20:33.276 マリアンが腹にパンチを食らい、 暴漢に担がれ、連れ去られます。 00:20:33.276 --> 00:20:37.787 いくつかのバージョンでは、 誘拐される彼女の下着がはっきり見えます。 00:20:38.187 --> 00:20:43.361 このゲームは25年の間に 何度もリメイクされ、 数多くのゲームシステムにポートされ、 00:20:43.361 --> 00:20:48.435 マリアンが暴行され、悲嘆の女性にされる姿を 新しい世代が楽しめるように 発売されてきました。 00:20:48.435 --> 00:20:55.044 2012年の新作「ダブルドラゴン・ネオン」では、 この逆進的なシーンを新世代に紹介しました。 00:20:55.044 --> 00:20:56.708 今度は高画質で。 00:21:00.879 --> 00:21:06.104 女性が根本的に弱く、無力であると 繰り返し描写されるのは 00:21:06.104 --> 00:21:11.807 ゲームのキャラやゲーム世界のほか、 現実世界にも影響があります。 00:21:11.807 --> 00:21:14.768 これらのゲームは現実から切り離された 世界に存在しているわけではないのです。 00:21:14.768 --> 00:21:20.190 ゲームはますます影響力を増しており、 社会と文化のエコシステムの大切な一部です。 00:21:20.190 --> 00:21:23.578 このトロープは、すでに逆進的で性差別的な 00:21:23.578 --> 00:21:26.696 考えがはびこる世界で 使われているのです。 00:21:26.696 --> 00:21:31.917 悲しいことに、世界人口の大半が、 女性は男性に守られるべき存在という 00:21:31.917 --> 00:21:36.873 性差別的な考えにしがみついていることです。 00:21:36.873 --> 00:21:40.168 女性が弱い性別であるという信念は 00:21:40.168 --> 00:21:45.257 深くしみ込んだ、社会的につくられた神話です。 もちろん完全に誤っています。 00:21:45.257 --> 00:21:50.095 女性がか弱く、傷つきやすい生き物として 描写され続ければ、 00:21:50.095 --> 00:21:53.766 この考えは補強され、浸透し続けます。 00:21:53.766 --> 00:21:57.855 念のため言っておきますが、悲嘆の女性を プロットデバイスとして使用したすべてのゲームが 00:21:57.855 --> 00:22:00.529 自動的に性差別的で価値がないと 言っているわけではありません。 00:22:00.529 --> 00:22:04.199 しかし、ポップ文化は私たちの生活に 多大な影響を与えるものであり、 00:22:04.199 --> 00:22:12.495 悲嘆の女性トロープが利用され続けるのは、 女性にとって有害な 家父長主義を助長するにすぎません。 00:22:13.141 --> 00:22:18.582 私は任天堂で育ちました。人生を通して マリオとゼルダシリーズのファンで、 00:22:18.582 --> 00:22:23.753 私にとって特別なゲームであり続けるでしょう。 たくさんのゲーマーにも同じことが言えると思います。 00:22:23.753 --> 00:22:28.009 しかし、これらゲームの持つ問題面を認識し、 批評することも大切です。 00:22:28.009 --> 00:22:31.748 特に、これらのゲームシリーズの多くは 今や多大な人気を誇り、 00:22:31.748 --> 00:22:34.750 キャラが世界的な人気者なのですから 尚更です。 00:22:34.750 --> 00:22:38.749 しかし、ゲーム開発者が性別の表現に 関する考え方を変え、 00:22:38.749 --> 00:22:41.980 女性が英雄のゲームを作ることは すぐにでも可能なのです。 00:22:41.980 --> 00:22:47.077 ゼルダ姫、シークやテトラが 主人公のゲームができたら素晴らしいでしょう。 00:22:47.077 --> 00:22:51.597 DS ゲームに限らず、据置機のゲームもです。 00:22:52.336 --> 00:22:58.286 今回は、「悲嘆の女性」がビデオゲーム史上において 最も使い古された決まり事であり、 00:22:58.286 --> 00:23:02.584 ゲームの大衆化と開発の中核になったと 確立しました。 00:23:02.584 --> 00:23:06.630 では近年のゲームはどうでしょうか。 過去10年に何か変化はあったのでしょうか? 00:23:06.630 --> 00:23:12.218 パート2では近年の悲嘆の女性を 見ていきます。お楽しみに。 00:23:12.218 --> 00:23:17.970 このトロープが今日に至るまで どのように悪用されてきたか 見ていきましょう。 00:23:17.970 --> 00:23:22.231 次に、ゲーム開発者がどのように 悲嘆の女性を逆手に取ろうとしたか 見ていきます。 00:23:23.647 --> 00:23:27.158 Kickstarter をサポートしてくれた 後援者の皆さんの支援のお陰で 00:23:27.158 --> 00:23:31.636 このビデオシリーズを実現できました。 ありがとうございました。