これから始まることを 見られるというだけでも この舞台にいることに とてもワクワクしています それはそれとして 私達の脳にとって 最大の欲求は何でしょう? 説明する代わりに お見せしましょう 感じてほしいので これから14分間で 皆さんに 感じてほしいことが沢山あります 皆さん 立っていただけますか R・シュトラウスの曲を 一緒に指揮しましょう 皆さん ご存じの曲です 準備いいですか? (聴衆) はい (ボー) では いち にの さん! 冒頭部分です (交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」) ほら 知ってるでしょう (音楽) 盛り上がっていきます (曲が突然途切れる) ああ! (笑) ね? もうちょっとだったのに 座っていいですよ (笑) 私達は完結を 深く欲します (笑) 決着が好きなんです (拍手) モーツァルトの逸話なんですが よく 寝る前にピアノに向かって 「ダダダダダッ」と弾いたそうです 既に床に就いていたお父さんは 「まったく!」とばかり 起き出していって 和音の最後の音を弾かないと 眠れなかったのだとか (笑) この 決着への欲求から 考えさせられるのは 私達が最も恐れるものは 何なのかということです 子供の頃の あるいは今なお感じる 一番の恐れは何でしょう? それは暗闇に対する恐れです 私達は不確かな状態を嫌います 分からないことを嫌います ただ嫌うんです ホラー映画を考えてください ホラー映画に出てくる場面というと 暗闇とか 森の中 夜 海の深み 宇宙の暗がりなどです それというのも 進化してきた中で 死というのは簡単に訪れるものだったからです それが捕食者だと 分からなければ 手遅れになります 脳は予測するように 進化しました 予測できなければ 待っているのは死です そして脳というのは かつて有用だった 先入観や仮定に基づいて 予測をしています そういう仮定は 脳の中にあるだけでなく 外の世界へと投影されます ここに鳥はいません スクリーンの上に 意味を投影しているのです 私が今言っていることには 文字通り意味がありません (笑) 皆さんが意味を作り出し 私に投影しているのです 物に言えることは 人についても言えます 「何か」「いつか」は測定できても 「なぜか」は測定できません それで他の人たちに 色付けをします 自分の先入観や経験に基づいて 相手に意味を投影するのです だから最高のデザインはたいてい 不確かさを減らすものになっています 不確かさの中へと 足を踏み入れるとき 体は生理的にも 心理的にも反応します 免疫力が低下します 脳細胞が弱って 死にさえします 創造性や知性が下がります 恐怖が怒りに変わることが よくあります なぜか? 怒りは確かな状態だからです 道義的批判をしやすくなります 極端な面が現れます 保守的な人はより保守的に 自由主義的な人は より自由主義的になります 馴染みのあるほうへ 行こうとするからです 問題は 世界は変化する ということです 適応しなければ 死ぬことになります AからBへ変わるための 第一歩は Bではありません まずAから非Aになること 自分の先入観や仮定を 捨てることです 我々の脳が避けるように 進化した場所へと― 未知の場所へと 足を踏み入れることです 我々の脳が答えを与えている ある場所に 行く必要があります 進化は我々に 答えを与えました それは最も深い 知覚的体験かもしれません それは感銘という体験です (音楽) (拍手) (音楽) (拍手) (音楽) (拍手) (音楽) (拍手) (歓声) (拍手) いや 見事でしたね 皆さんは今 多かれ少なかれ 感銘を受けていることでしょう 皆さんの頭の中では 何が起きているのか? 何千年もの間 人間は感銘というものを 考え 記し 経験してきましたが ごくわずかなことしか 分かっていません それが何で 何をするものなのか 理解するために 私の Lab of Misfitsでは 感銘の最高のつくり手たちと共働する 素晴らしい機会を得ました 作家や クリエーター 監督 会計士 ― シルク・ドゥ・ソレイユの人たちです ラスベガスに行って パフォーマンスを見ているときの 脳の活動を記録するということを シルク・ドゥ・ソレイユの 代表的なショーである『O』で 10回行いました さらに別の人たちも加えて 公演前後での状態も調べました 実験参加者は200人以上になります 感銘とは何でしょう? 皆さんの頭の中で 今起きていることは何か? 脳の ある状態です 脳の前方の部分 前頭前野は 実行機能や 注意力に関わる部分ですが それが今 下方制御されています 皆さんの脳のデフォルトモード・ ネットワークと呼ばれる部分 これは複数の脳領域にまたがっていて アイデアを出すときや 拡散的思考という意味で クリエイティブに考えるとき 白昼夢を見るときなどに 活性化しますが それが今 上方制御されています 皆さんの前頭前野の活動が 変化しています 活動が左右非対称になり 右が優位になっています これは世界から 一歩引くのとは逆 世界に向かって踏み出すことに 関連しています この脳全体にわたる活動は 参加者間での相関が高く 人工ニューラルネットを トレーニングして 感銘を経験しているか 判定させることができ 平均で75% 最高では83%という 精度でした この脳の状態は 何をするものなのでしょう? 他の人たちが示してくれました ハイト、ケルトナー両教授によると このとき人々は自分を小さく感じ 世界とつながっていると感じています また向社会的行動が増加します 他の人との親密さが 強くなったように感じるからです 私達はまた この研究で 認知制御の必要が 減ることも示しました 結末のない不確かさを あまり居心地悪く感じなくなり リスクへの欲求が強まります リスクを求めるようになり より上手くリスクを取れるようになります そしてとても本質的なことですが 「あなたはよく感銘を受けるほうか」 と私達が聞いたとき 公演の後では前と比べ 肯定的に答える傾向が 強まりました 自分自身と自分の歴史を 再定義したのです 感銘というのは 自分より大きなものを 認識することなのかもしれません ジョーゼフ・キャンベルの言い方を借りるなら 「感銘は私達を前に進めるようにする」のです 私の友であり 優れた写真家の デュアン・マイケルズが いつか語ってくれた言葉で言うなら 「臆病を克服する好奇心を 与えてくれるもの」です なぜこれが大切なのか? 対立について考えてみましょう 今の社会にあふれているものです 自分と誰かが 対立しているというのは 2人が1本の線の 両端にいるようなもので 私は相手が間違っていると示し こちら側に来させようとします 問題は相手も同じように していることです 私が間違っているのを示し 自分の側に来させようとします 対立では 勝とうとはしても 学ぼうとはしません 脳が学ぶのは 動くときだけです 生きるというのは 動くことです そこで感銘が使えたとしたら どうでしょう? 対立をなくすためではなく― 対立は必要なもので それによって脳は広がり 学びます むしろ別の仕方で 対立に入るのです 感銘によって 少なくとも2つの違った対立の仕方が 可能になるとしたら? 1つは 未知への勇気と 謙虚さを得るために 答えでなく問いをもって 対立に入るということ そうすると何が起きるでしょう? 確かさでなく不確かさをもって 対立に入るんです もう1つは 説得ではなく 理解することを求めて 対立に入るということです みんな自分の中では 筋が通っているからです 他人を理解するためには その人の行動につながる 先入観や仮定を 理解することです 芸術によって引き起こされる 感銘によって 人は寛容になるか 見るための 予備的研究を 始めたところですが 結果はとても 肯定的なものです 芸術によって引き起こされる 感銘を経験することで 怒りや憎しみは 和らげられます その重要性を踏まえて 感銘はどこに 見出せるのでしょう? もしも― これは ひとつのヒントですが 感銘は壮大なものにだけ 見つかるものではありません 感銘は必要なものです 時にそれはスケールです 山とか 夕日とか 自分自身のスケールを変えて シンプルなものの中に ありえないようなことを見出せたとしたら? もしこれが本当で 私達のデータが正しいなら 科学や 冒険 芸術 アイデア 愛 TED パフォーマンスのような活動は 感銘によって刺激を 与えるだけでなく 自分を広げるべく 不確かさへと足を踏み出すための 梯子になるかもしれません ありがとうございました (拍手) どうぞ前に (拍手) (歓声) (拍手)