WEBVTT 00:00:00.739 --> 00:00:03.147 私が最近受信箱に見つけた メールについて 00:00:03.147 --> 00:00:05.058 まずお話ししましょう 00:00:05.192 --> 00:00:08.159 私の受信箱は なかなか変わっています 00:00:08.159 --> 00:00:09.499 私はセラピストで 00:00:09.499 --> 00:00:13.107 「親愛なるセラピストさんへ」という 相談コラムを書いているからです 00:00:13.107 --> 00:00:15.575 どんなメールが来るか 想像できますよね 00:00:15.575 --> 00:00:19.516 私は世界中の 見知らぬ人から寄せられる 00:00:19.516 --> 00:00:22.430 極めて立ち入った内容の手紙を 何千と読んできました 00:00:22.457 --> 00:00:24.750 失恋や死別の話もあれば 00:00:24.750 --> 00:00:27.174 親や兄弟との いさかいの話もあります 00:00:27.174 --> 00:00:32.416 私はそれを「生きることの問題」という フォルダに入れています 00:00:32.416 --> 00:00:35.773 私はたくさんのメールを 受け取りますが 00:00:35.773 --> 00:00:37.658 私の世界を知ってもらうため 00:00:37.683 --> 00:00:40.122 そんなメールの1つを お読みしましょう 00:00:40.420 --> 00:00:42.026 こんな内容です NOTE Paragraph 00:00:46.698 --> 00:00:48.487 「親愛なるセラピストさんへ 00:00:48.487 --> 00:00:49.965 私は結婚して10年になり 00:00:49.965 --> 00:00:52.208 2年前までは順調でした 00:00:52.484 --> 00:00:55.077 その頃から夫が あまりセックスしたがらなくなり 00:00:55.077 --> 00:00:57.322 最近ではほとんど しなくなりました」 00:00:57.322 --> 00:00:59.291 こんな話だとは 思ってなかったでしょう NOTE Paragraph 00:00:59.291 --> 00:01:00.286 (笑) NOTE Paragraph 00:01:00.286 --> 00:01:02.398 「昨夜 知ったんですが 00:01:02.398 --> 00:01:03.690 この数か月というもの 00:01:03.690 --> 00:01:07.566 夫は真夜中に会社の女性と 長電話をしていたんです 00:01:07.862 --> 00:01:10.102 ネットで調べたら すごく綺麗な人でした 00:01:10.292 --> 00:01:12.208 こんなことになるなんて― 00:01:12.208 --> 00:01:14.910 まだ小さい頃 父が同僚の女性と関係を持ち 00:01:14.910 --> 00:01:17.127 家族がバラバラになる 経験をしたんです 00:01:17.127 --> 00:01:19.456 言うまでもなく 本当にショックです 00:01:19.456 --> 00:01:20.787 結婚生活を続けても 00:01:20.787 --> 00:01:22.832 夫を二度と信用は できないでしょう 00:01:22.832 --> 00:01:25.425 でも子供達に 親の離婚や継母なんかを 00:01:25.425 --> 00:01:27.210 経験させたくはありません 00:01:27.210 --> 00:01:29.002 どうしたらいいのでしょう?」 NOTE Paragraph 00:01:30.663 --> 00:01:34.209 皆さんは どうしたらいいと 思いますか? 00:01:34.667 --> 00:01:35.977 こんな手紙を見たら 00:01:35.977 --> 00:01:39.564 浮気されるつらさを 気の毒に感じ 00:01:39.564 --> 00:01:42.949 子供時代に起きた 父親の問題のために 00:01:42.949 --> 00:01:45.627 余計つらかろうと 思うかもしれません 00:01:45.910 --> 00:01:48.509 私と同じように この女性に共感し 00:01:48.509 --> 00:01:50.240 彼女の夫に対し 00:01:50.240 --> 00:01:51.641 なんというか 00:01:51.641 --> 00:01:54.208 あんまり良くない印象を 持つことでしょう NOTE Paragraph 00:01:54.976 --> 00:01:57.645 受信箱のメールを 読んでいると 00:01:57.645 --> 00:01:59.671 私もそういう 気持ちになります 00:01:59.671 --> 00:02:03.230 でも こういうメールへの返信では よく考える必要があります 00:02:03.230 --> 00:02:05.199 私が受け取るメールはどれも 00:02:05.199 --> 00:02:09.162 一個の著者によって書かれた 物語に過ぎないことを知っているからです 00:02:09.162 --> 00:02:12.184 その物語には別のバージョンも 存在するのです 00:02:12.184 --> 00:02:14.076 常に存在します 00:02:14.076 --> 00:02:15.078 そう分かるのも 00:02:15.078 --> 00:02:17.662 セラピストとして学んだことが 何かあるとしたら 00:02:17.662 --> 00:02:21.266 それは誰もが自分の人生の 信用できない語り手だということだからです 00:02:21.266 --> 00:02:22.630 私はそうだし 00:02:22.973 --> 00:02:24.370 皆さんもそう 00:02:24.437 --> 00:02:26.742 皆さんが知る人の 誰もがそうなんです 00:02:26.742 --> 00:02:28.551 これは言うべきでは なかったのかも 00:02:28.551 --> 00:02:30.554 私の話を皆さんもう 信じないでしょうから NOTE Paragraph 00:02:31.094 --> 00:02:33.623 意図的に嘘をついている というのではありません 00:02:33.623 --> 00:02:36.759 人々の語ることの多くは 正真正銘の真実です— 00:02:36.759 --> 00:02:39.044 その人の その時の 視点からするなら 00:02:39.044 --> 00:02:41.496 何を強調し 何を軽く見るか 00:02:41.496 --> 00:02:42.987 何を含め 何を除外するか 00:02:42.997 --> 00:02:45.129 何を見て 何を見せようとするかによって 00:02:45.149 --> 00:02:48.167 話は偏ったものになるのです 00:02:48.167 --> 00:02:51.102 心理学者のジェローム・ブルーナーは このことを見事に言い表しています 00:02:51.102 --> 00:02:55.673 「話をするとき 何らかの道徳的立場を 取ることは避けられない」 00:02:55.856 --> 00:02:58.573 私達はみんな 自分の人生の 物語とともに生きています 00:02:58.573 --> 00:03:00.963 選択の理由 物事が悪化した理由 00:03:00.963 --> 00:03:02.970 自分が誰かを そんな風に扱った理由— 00:03:02.970 --> 00:03:04.895 もちろん当然の報いです 00:03:04.937 --> 00:03:06.889 誰かが自分を そんな風に扱った理由— 00:03:06.889 --> 00:03:08.671 もちろんそれは 不当なんですけど 00:03:08.711 --> 00:03:11.106 物語というのは私達が人生を 理解する方法なのです NOTE Paragraph 00:03:11.639 --> 00:03:14.353 でも私達の語る物語が 誤解を招くものだったり 00:03:14.353 --> 00:03:18.172 不完全だったり 単に間違っていたとしたら? 00:03:18.929 --> 00:03:20.541 理解しやすくなるどころか 00:03:20.541 --> 00:03:22.503 身動きができなく なってしまいます 00:03:22.503 --> 00:03:25.929 私達は 物語は状況によって 形作られるものだと思っています 00:03:26.059 --> 00:03:28.275 でも私が仕事を通じて 繰り返し見てきたのは 00:03:28.275 --> 00:03:30.050 それとまったく逆のことです 00:03:30.050 --> 00:03:34.242 自分でどう語るかによって 人生は形作られるのです 00:03:34.849 --> 00:03:36.580 それが物語の危険なところで 00:03:36.580 --> 00:03:37.912 本人を不幸にもします 00:03:37.912 --> 00:03:39.286 でも そこに力もあって 00:03:39.286 --> 00:03:42.399 自分の物語を変えることで 00:03:42.399 --> 00:03:44.643 自分の人生を変えることも できるのです 00:03:44.643 --> 00:03:47.084 今日は そのやり方を お話ししたいと思います NOTE Paragraph 00:03:47.564 --> 00:03:49.429 セラピストだと 言ったのは本当で 00:03:49.429 --> 00:03:52.316 その点では信用できない語り手では ないわけですが 00:03:52.336 --> 00:03:54.546 飛行機に乗っている ときなんかには 00:03:54.546 --> 00:03:56.361 誰かに仕事を聞かれると 00:03:56.361 --> 00:03:58.715 編集者だと答えています 00:03:58.920 --> 00:04:01.451 セラピストだと 言おうものなら 00:04:01.451 --> 00:04:04.545 妙な反応が 返ってくるからです 00:04:04.545 --> 00:04:06.218 「まあ セラピスト? 00:04:06.218 --> 00:04:08.360 じゃあ 私 精神分析されちゃうんですか?」 00:04:08.360 --> 00:04:10.258 心の中で思います 「(a) しませんって 00:04:10.258 --> 00:04:12.376 (b) 何でこんなとこで? 00:04:12.376 --> 00:04:14.020 産婦人科医だと答えたら 00:04:14.020 --> 00:04:16.711 これから内診されちゃうのかと 聞いてくるわけ?」 NOTE Paragraph 00:04:16.711 --> 00:04:18.698 (笑) NOTE Paragraph 00:04:19.147 --> 00:04:21.461 でも私が編集者だと 言っているのは 00:04:21.461 --> 00:04:22.969 本当のことだからでもあります 00:04:22.969 --> 00:04:25.734 セラピストの仕事は 人の編集を手助けすることです 00:04:25.734 --> 00:04:28.453 「親愛なるセラピストさんへ」での 役割が面白いのは 00:04:28.453 --> 00:04:31.074 一人のために 編集しているのではないことで 00:04:31.074 --> 00:04:33.368 毎週一通の手紙を例に 00:04:33.368 --> 00:04:35.988 読者のみんなに編集の仕方を 教えようとしています 00:04:35.988 --> 00:04:37.624 そこでは いろんなことを考えます 00:04:37.624 --> 00:04:39.782 「ここで無関係なことは何か?」 00:04:39.782 --> 00:04:43.052 「主人公は前進しているのか ぐるぐる回っているだけなのか」 00:04:43.052 --> 00:04:46.007 「脇役の人は重要か それとも邪魔になっているか」 00:04:46.007 --> 00:04:48.589 「この展開は隠れたテーマを 明かしているか?」 00:04:48.589 --> 00:04:50.266 すると 多くの人の物語は 00:04:50.266 --> 00:04:54.115 2つの主要テーマに 集中していることに気づきます NOTE Paragraph 00:04:54.240 --> 00:04:55.790 1つは「自由」で 00:04:55.790 --> 00:04:57.531 もう1つは「変化」です 00:04:57.531 --> 00:04:58.845 私が編集をするときは 00:04:58.845 --> 00:05:00.961 そこを出発点にします 00:05:00.961 --> 00:05:03.683 自由について ちょっと考えてみましょう 00:05:03.683 --> 00:05:06.381 自由についての物語は こんな感じに進みます 00:05:06.381 --> 00:05:08.350 私達は一般に 00:05:08.350 --> 00:05:12.193 自分は大きな自由を手にしている と思っているが 00:05:12.193 --> 00:05:14.109 目下の問題のこととなると 00:05:14.109 --> 00:05:16.933 急に自由などまったく ないように感じられる 00:05:16.933 --> 00:05:19.615 私達の物語の多くは 囚われた感覚についてです 00:05:19.615 --> 00:05:22.407 家族や 仕事や 人間関係や 過去のしがらみのせいで 00:05:22.407 --> 00:05:24.599 囚われているように 感じるのです 00:05:24.599 --> 00:05:27.687 時に自虐的な物語で自らを 閉じ込めていることもあります 00:05:27.687 --> 00:05:29.401 そういう話を皆さん ご存知でしょう 00:05:29.401 --> 00:05:31.250 ソーシャルメディアによる 00:05:31.250 --> 00:05:33.552 「みんな自分よりいい人生だ」 という物語があり 00:05:33.552 --> 00:05:36.110 「自分はまがい物だ」という物語があり 「自分は愛されない」という物語があり 00:05:36.110 --> 00:05:38.470 「自分は何もかもうまくいかない」 という物語があり 00:05:38.470 --> 00:05:41.782 「Siriと呼んでも答えてくれないのは 自分を嫌ってるからだ」という物語があります 00:05:41.782 --> 00:05:44.804 あなたも? 私だけじゃないんだ 00:05:45.532 --> 00:05:47.437 あの手紙を書いた女性もまた 00:05:47.437 --> 00:05:49.361 囚われたように感じています 00:05:49.361 --> 00:05:51.894 結婚生活を続けても 二度と夫を信用できないし 00:05:51.894 --> 00:05:54.676 離婚すれば子供達が苦しむ NOTE Paragraph 00:05:55.000 --> 00:05:57.932 こういう話で実際に 起きていることを 00:05:57.932 --> 00:06:00.468 よく表している 漫画があります 00:06:00.468 --> 00:06:02.803 囚われた人が外へ出ようと 00:06:02.803 --> 00:06:04.955 必死に鉄格子を 揺すぶっています 00:06:04.955 --> 00:06:07.171 でも横は開いていて 00:06:07.171 --> 00:06:08.856 鉄格子がありません 00:06:08.856 --> 00:06:11.222 この人は囚われては いないのです 00:06:11.867 --> 00:06:13.164 私達の多くがそうです 00:06:13.164 --> 00:06:14.791 すっかり囚われているように感じ 00:06:14.791 --> 00:06:17.032 感情的な牢獄の中で 身動きできなくなっています 00:06:17.032 --> 00:06:19.053 自由になろうと 鉄格子をよく調べないのは 00:06:19.053 --> 00:06:21.133 罠があると 知っているからです 00:06:21.133 --> 00:06:23.692 自由には責任が伴います 00:06:23.692 --> 00:06:27.371 物語の中の役割で 責任を引き受けるためには 00:06:27.571 --> 00:06:29.676 変わる必要が出てきます NOTE Paragraph 00:06:29.676 --> 00:06:32.700 それが 人々の物語によく見られる もう1つのテーマです 00:06:32.700 --> 00:06:34.204 こんな感じの物語です 00:06:34.205 --> 00:06:36.786 「私は変わりたい」と その人は言うが 00:06:36.786 --> 00:06:38.777 本当に意味しているのは 00:06:38.777 --> 00:06:42.466 「物語の中の他の人物に 変わってほしい」ということ 00:06:42.466 --> 00:06:44.092 このジレンマをセラピストは 00:06:44.092 --> 00:06:47.389 「女王に“玉”さえあれば王になれた」 と言い表します NOTE Paragraph 00:06:47.389 --> 00:06:48.597 (笑) NOTE Paragraph 00:06:48.597 --> 00:06:51.001 意味ないですよね 00:06:51.831 --> 00:06:53.801 なぜ 物語の中心である主人公に 00:06:53.801 --> 00:06:56.198 変わってほしいと 思わないのでしょう? 00:06:56.198 --> 00:06:57.854 変化というのは 00:06:57.854 --> 00:06:59.623 ポジティブなものであっても 00:06:59.623 --> 00:07:02.297 驚くほど多くの喪失を 伴うからでしょう 00:07:02.297 --> 00:07:04.016 慣れ親しんだものの喪失です 00:07:04.016 --> 00:07:07.361 その慣れ親しんだものが 不快でみじめなものであっても 00:07:07.361 --> 00:07:10.291 人物や設定や筋書きから 物語の中で繰り返される会話まで 00:07:10.291 --> 00:07:11.874 よく知っているものだからです 00:07:11.874 --> 00:07:13.199 「あなた洗濯してくれないんだから!」 00:07:13.199 --> 00:07:14.353 「この前やっただろ!」 00:07:14.353 --> 00:07:15.960 「あら いつよ?」 00:07:15.960 --> 00:07:19.210 物語が毎回どう進むか 分かっているのは 00:07:19.210 --> 00:07:21.473 妙にほっとするものがあります NOTE Paragraph 00:07:22.120 --> 00:07:25.644 新しい章を書くのは 未知の領域に足を踏み入れることです 00:07:25.644 --> 00:07:27.796 真っ白なページを 見つめることです 00:07:27.796 --> 00:07:29.410 物書きなら誰でも 言うでしょう 00:07:29.410 --> 00:07:31.934 真っ白なページほど 怖いものはないと 00:07:32.276 --> 00:07:33.925 でも知ってほしいのは 00:07:33.925 --> 00:07:35.875 自分の物語を いったん編集したら 00:07:35.875 --> 00:07:38.999 次の章を書くのは ずっと楽になるということです 00:07:39.232 --> 00:07:42.765 私達の文化では「自分自身を知れ」と よく言いますが 00:07:42.765 --> 00:07:46.206 自分を知るためには 自分を忘れることも必要なんです 00:07:46.206 --> 00:07:49.748 自分にずっと言い聞かせてきた物語を 捨てるということです 00:07:49.748 --> 00:07:51.646 自分の人生を生きるために 00:07:51.646 --> 00:07:55.613 これまで自分に語ってきたのとは 違う物語を生きるために 00:07:55.613 --> 00:07:59.147 そうやって あの鉄格子の 外に出るんです NOTE Paragraph 00:07:59.147 --> 00:08:02.650 夫の浮気に悩む女性の話に 戻りましょう 00:08:02.650 --> 00:08:04.785 どうしたらいいのか という相談でした 00:08:04.785 --> 00:08:07.300 私が仕事場に掲げている 言葉があります 00:08:07.300 --> 00:08:09.266 “ultracrepidarianism” 00:08:09.266 --> 00:08:13.885 「自分の知識や能力の範囲を超えた アドバイスや意見を述べる癖」という意味です 00:08:13.885 --> 00:08:15.187 いい言葉ですよね 00:08:15.187 --> 00:08:16.900 いろんな状況で 使うことができ 00:08:16.900 --> 00:08:19.415 この講演の後も 皆さん使うことでしょう 00:08:19.575 --> 00:08:22.323 私は自分に言い聞かせるために 使っています 00:08:22.323 --> 00:08:24.960 セラピストとして相手がどうしたいのか 整理する手助けはできても 00:08:24.960 --> 00:08:27.805 人生の選択を相手に代わって してやることはできないのだと 00:08:27.805 --> 00:08:30.385 自分の物語を書けるのは 自分だけであり 00:08:30.385 --> 00:08:32.512 そのために必要なのは ちょっとした道具だけです NOTE Paragraph 00:08:32.512 --> 00:08:33.839 ここで皆さんと一緒に 00:08:33.839 --> 00:08:36.267 この女性の手紙を編集することで 00:08:36.267 --> 00:08:39.730 自分の物語をどうやって 改訂できるか示したいと思います 00:08:39.818 --> 00:08:43.470 では まず皆さんが 自分に語っているけれど 00:08:43.470 --> 00:08:45.644 良い結果になっていない 物語がないか 00:08:45.644 --> 00:08:47.729 ひとつ考えてみてください 00:08:47.729 --> 00:08:50.817 それは自分の状況かもしれないし 00:08:50.817 --> 00:08:53.329 自分に関わる 誰かのことかもしれないし 00:08:53.329 --> 00:08:55.209 自分自身のことかもしれません 00:08:55.663 --> 00:08:58.737 それから他の登場人物に 目を向けてください 00:08:58.737 --> 00:09:01.388 その まずい物語を 維持し続けているのに 00:09:01.388 --> 00:09:04.147 一役買っているのは 誰でしょう? NOTE Paragraph 00:09:04.147 --> 00:09:06.000 たとえばあの手紙の女性が 00:09:06.000 --> 00:09:07.364 友達に相談をしたなら 00:09:07.364 --> 00:09:10.566 たぶん「愚かな同情」とでも 言うべきことをするでしょう 00:09:11.103 --> 00:09:14.017 愚かな同情をする人は 相手の物語に合わせ 00:09:14.017 --> 00:09:18.377 望んでいた昇進ができなかった友人に 「ほんとすごく不公平よね」などと言います 00:09:18.377 --> 00:09:20.774 たとえ 前に何度も 同じ事があって 00:09:20.774 --> 00:09:23.619 それは当人が大した 努力をしておらず 00:09:23.619 --> 00:09:26.290 オフィス備品をくすねるような 奴だからだとしても NOTE Paragraph 00:09:26.290 --> 00:09:27.156 (笑) NOTE Paragraph 00:09:27.156 --> 00:09:32.658 男に捨てられたという友人に対し 「ほんと最低な奴だよね」などと言います 00:09:32.658 --> 00:09:34.923 たとえ友人の恋愛での行動に 少し問題があって 00:09:34.923 --> 00:09:37.112 ひっきりなしにメッセージを 送り付けたり 00:09:37.112 --> 00:09:39.227 相手の引き出しの中を 探ったりするせいで 00:09:39.227 --> 00:09:41.337 そうなるのだと 知っていようとも 00:09:41.337 --> 00:09:42.939 問題は分かっているのです 00:09:42.939 --> 00:09:45.448 どこのバーに行っても 喧嘩になるのなら 00:09:45.448 --> 00:09:47.196 たぶんあなたが 原因なのでしょう NOTE Paragraph 00:09:47.196 --> 00:09:48.980 (笑) NOTE Paragraph 00:09:48.980 --> 00:09:52.703 良い編集者になるためには 賢明な同情を示す必要があります 00:09:52.703 --> 00:09:55.228 友達に対してだけでなく 自分に対しても 00:09:55.228 --> 00:09:57.798 これを専門用語では 00:09:57.798 --> 00:10:01.024 「思いやりを持って 真実という爆弾を届ける」と言います 00:10:01.024 --> 00:10:03.098 真実という爆弾には 思いやりがあります 00:10:03.098 --> 00:10:05.868 物語から除外していたものに 目を向けさせるからです NOTE Paragraph 00:10:05.868 --> 00:10:07.943 本当のところ 私達には分かりません 00:10:07.943 --> 00:10:10.142 この女性の夫が 浮気をしているのかも 00:10:10.142 --> 00:10:12.459 なぜ2年前に 性生活が変わったのかも 00:10:12.459 --> 00:10:15.530 深夜の電話が どのようなものなのかも 00:10:15.562 --> 00:10:17.764 もしかすると過去の経験から 00:10:17.764 --> 00:10:20.373 一方的な裏切りの物語を 書いているのかもしれず 00:10:20.373 --> 00:10:24.204 おそらく何か 手紙で人には言いたくなかったこと 00:10:24.204 --> 00:10:28.053 あるいは自分自身でさえ 目を向けたくなかったことがあるのです 00:10:28.053 --> 00:10:30.464 ロールシャッハテストを受ける 男の話のようなものです 00:10:30.464 --> 00:10:32.425 ロールシャッハテストは ご存じですよね? 00:10:32.425 --> 00:10:35.184 心理学者がこのような インクの染みを見せて 00:10:35.184 --> 00:10:38.287 「何に見えますか?」と聞くやつです 00:10:38.287 --> 00:10:40.787 それで男は答えます 00:10:40.787 --> 00:10:44.635 「まったく血には見えませんね」 00:10:45.535 --> 00:10:47.346 すると心理学者は言います 00:10:47.346 --> 00:10:51.091 「そうですか 何に見えないか もっと教えてください」 00:10:51.422 --> 00:10:53.944 書き物では これを視点と言っています 00:10:53.944 --> 00:10:56.721 語り手が見ようと しないものは何か? NOTE Paragraph 00:10:56.721 --> 00:10:59.962 手紙をもう一通 読みましょう 00:11:00.647 --> 00:11:03.042 こんな内容です NOTE Paragraph 00:11:04.710 --> 00:11:06.714 「親愛なるセラピストさんへ 00:11:07.611 --> 00:11:09.609 妻についての相談です 00:11:09.609 --> 00:11:12.386 近頃私が何をしても 妻を苛立たせるようで 00:11:12.386 --> 00:11:14.936 食べ物を噛む音のような 些細なことでさえそうです 00:11:15.214 --> 00:11:17.631 朝食のとき妻が 牛乳を多めに入れて 00:11:17.631 --> 00:11:21.053 グラノーラが音を立てにくく しているのに気づきました」 NOTE Paragraph 00:11:21.053 --> 00:11:22.427 (笑) NOTE Paragraph 00:11:22.427 --> 00:11:26.442 「2年前に私の父が亡くなってから 妻が私に批判的になった気がします 00:11:26.442 --> 00:11:28.016 私は父とすごく仲が良く 00:11:28.016 --> 00:11:32.188 小さい頃に父親が出て行った妻には 私のつらさが分かりません 00:11:32.188 --> 00:11:34.874 職場の友人で 何か月か前に 父親をなくした人がいて 00:11:34.874 --> 00:11:36.964 その人は私の悲嘆を 理解してくれました 00:11:36.964 --> 00:11:40.076 その友人と話すように 妻とも話せればと思いますが 00:11:40.076 --> 00:11:42.680 妻はもう私のことが 我慢ならないようなのです 00:11:42.680 --> 00:11:45.235 どうしたら妻と よりを戻せるのでしょう?」 NOTE Paragraph 00:11:45.235 --> 00:11:49.338 さて 皆さん たぶん お気づきでしょうが 00:11:49.338 --> 00:11:52.290 これは前に読んだのと 同じ物語で 00:11:52.290 --> 00:11:54.885 ただ別の語り手の視点で 語られたものです 00:11:54.885 --> 00:11:57.306 妻の物語は 浮気する夫の話で 00:11:57.306 --> 00:12:01.076 夫の物語は自分の悲嘆を 理解できない妻の話です 00:12:01.076 --> 00:12:02.617 ここで注目すべきなのは 00:12:02.617 --> 00:12:08.605 2つの物語は大きく異なってはいても いずれも繋がりを求める話だということです 00:12:08.775 --> 00:12:11.218 一人称の語りを脱却して 00:12:11.218 --> 00:12:13.964 他の人物の視点で 物語を書けたなら 00:12:13.964 --> 00:12:16.764 相手にずっと 共感できるようになり 00:12:16.764 --> 00:12:19.321 話の筋が開けて 見えるようになります 00:12:19.321 --> 00:12:22.155 これは編集のプロセスで 最も難しい部分ですが 00:12:22.155 --> 00:12:24.646 そこから変化は始まるのです NOTE Paragraph 00:12:24.646 --> 00:12:28.300 自分の物語を 他の人の視点で書いたなら 00:12:28.300 --> 00:12:30.898 どうなるでしょう? 00:12:31.587 --> 00:12:35.197 その広がった視野から 何が見えるでしょう? 00:12:35.831 --> 00:12:37.325 だから私は落ち込んでいる人に 00:12:37.325 --> 00:12:38.479 よくこう言うんです 00:12:38.479 --> 00:12:41.618 「今のあなたは あなた自身について 話す相手として良くない」と 00:12:41.618 --> 00:12:44.824 落ち込むと人は 自分の物語を歪めてしまいます 00:12:44.824 --> 00:12:47.018 視野を狭めてしまいます 00:12:47.018 --> 00:12:50.415 孤独や 心の痛みや 拒絶を 感じているときも同じです 00:12:50.415 --> 00:12:54.303 すごく狭いレンズを通して 歪められた物語を作ってしまい 00:12:54.303 --> 00:12:56.678 レンズがあることに 気付きもしません 00:12:56.678 --> 00:13:00.407 そして自分についての フェイクニュースを流すのです NOTE Paragraph 00:13:01.322 --> 00:13:03.398 皆さんに打ち明ける ことがあります 00:13:03.908 --> 00:13:06.878 夫のほうの手紙は 私が書きました 00:13:06.878 --> 00:13:09.409 グラノーラにするか ピタ・チップスにするかで 00:13:09.409 --> 00:13:11.010 ずいぶん迷いましたが 00:13:11.010 --> 00:13:15.968 長年セラピストの仕事や コラムを通じて見てきた 00:13:15.968 --> 00:13:19.591 様々な別バージョンの話を元に 書いたものです 00:13:19.591 --> 00:13:23.152 1つの状況に関わる2人が 00:13:23.152 --> 00:13:25.612 そうとは知らずに 両方とも私に手紙を書き 00:13:25.612 --> 00:13:29.546 同じ物語の 2通りのバージョンが 私の受信箱に見つかる 00:13:29.546 --> 00:13:31.789 そういうことが 本当に起きるんです 00:13:31.811 --> 00:13:34.990 この女性については 別のバージョンがどんなものか分かりませんが 00:13:34.990 --> 00:13:36.191 ひとつ言えるのは 00:13:36.191 --> 00:13:38.131 それを自分で 書かねばならないということ 00:13:38.131 --> 00:13:40.139 勇気ある編集によって 00:13:40.139 --> 00:13:43.965 彼女はもっと奥行きのあるバージョンを 書くことでしょう 00:13:43.965 --> 00:13:48.287 彼女の夫が実際に何らかの 浮気をしていたとしても 00:13:48.287 --> 00:13:52.034 話の筋が何かを彼女は まだ知る必要はありません 00:13:52.096 --> 00:13:54.996 編集を行うということによって 00:13:54.996 --> 00:13:59.170 どういう筋になりうるか ずっと多くの 可能性が得られるからです NOTE Paragraph 00:13:59.277 --> 00:14:02.844 時々 本当にひどい 行き詰まり状態になっていて 00:14:02.844 --> 00:14:06.126 その行き詰った状態に当人が 入れ込んでいることがあります 00:14:06.126 --> 00:14:08.714 「助けを拒絶する不平屋」と 呼んでいます 00:14:08.714 --> 00:14:10.412 そんな人をきっと ご存じでしょう 00:14:10.412 --> 00:14:14.047 何かを勧めても いつも否定します 00:14:14.257 --> 00:14:18.523 「うーん それはうまくいかないよ だって…」 00:14:18.751 --> 00:14:21.767 「うーん 無理よ そんなことできないもの」 00:14:22.131 --> 00:14:26.220 「うーん 友達は欲しいけど 人間って煩わしいじゃない?」 NOTE Paragraph 00:14:26.361 --> 00:14:28.234 (笑) NOTE Paragraph 00:14:28.313 --> 00:14:30.300 そういう人が本当に 拒絶しているのは 00:14:30.300 --> 00:14:34.047 行き詰った みじめな自分の物語を 編集することなんです 00:14:34.227 --> 00:14:37.526 だからそういう人に対しては やり方を変えます 00:14:37.526 --> 00:14:41.177 何か違ったことを言うんです 00:14:42.187 --> 00:14:44.774 「私達はみんな死ぬんですよ」とか 00:14:44.774 --> 00:14:48.056 こいつが自分のセラピストでなくて 良かったと お思いでしょう 00:14:48.056 --> 00:14:49.327 言われた当人も 00:14:49.327 --> 00:14:50.695 皆さんと同じように 00:14:50.695 --> 00:14:52.673 まったく困惑した様子を見せます 00:14:52.673 --> 00:14:58.115 でも 自分について いつか必ず 書かれることになる物語がありますよね 00:14:58.115 --> 00:15:00.087 追悼文という物語です 00:15:00.603 --> 00:15:04.868 自分で自分の不幸を 書くのではなく 00:15:04.868 --> 00:15:09.016 生きているうちに この物語を形作ってはと言いたいのです 00:15:09.016 --> 00:15:11.819 自分の物語の中で 被害者でなくヒーローになりましょう 00:15:11.819 --> 00:15:14.584 心のページ上で展開することを 自分で選び 00:15:14.584 --> 00:15:16.363 現実を形作りましょう 00:15:17.006 --> 00:15:20.971 人生とは どの物語に耳を傾け どの物語を変えるか決めることなのだと 00:15:20.971 --> 00:15:22.677 私は言っています 00:15:22.677 --> 00:15:25.547 改訂する努力は する価値があります 00:15:25.547 --> 00:15:28.195 自分自身に言い聞かせる 物語以上に 00:15:28.195 --> 00:15:30.681 人生のクオリティを 左右するものはないからです 00:15:30.875 --> 00:15:33.957 自分の人生の物語 ということであれば 00:15:34.353 --> 00:15:37.915 ピュリッツァー賞ものにしようと 努めるべきなのです NOTE Paragraph 00:15:38.315 --> 00:15:41.278 私達の多くは 助けを拒絶する不平屋ではないし 00:15:41.278 --> 00:15:43.446 少なくとも自分でそうだとは 思っていません 00:15:43.555 --> 00:15:46.306 でも不安や怒りや 弱さを感じるときには 00:15:46.306 --> 00:15:48.868 そうなってしまいやすいのです 00:15:49.513 --> 00:15:52.078 だから今度 何か問題を抱えたときには 00:15:52.078 --> 00:15:55.128 みんな死ぬんだと 思い出してください NOTE Paragraph 00:15:55.128 --> 00:15:56.581 (笑) NOTE Paragraph 00:15:56.581 --> 00:15:59.113 それから編集道具を 取り出して 00:15:59.113 --> 00:16:00.756 自問してください 00:16:00.756 --> 00:16:04.324 自分の物語を どんなものにしたいだろうかと 00:16:04.929 --> 00:16:08.486 そして傑作を書いてください NOTE Paragraph 00:16:08.716 --> 00:16:10.049 ありがとうございました NOTE Paragraph 00:16:10.049 --> 00:16:12.526 (拍手)