1 00:00:00,739 --> 00:00:03,147 私が最近受信箱に見つけた メールについて 2 00:00:03,147 --> 00:00:05,058 まずお話ししましょう 3 00:00:05,192 --> 00:00:08,159 私の受信箱は なかなか変わっています 4 00:00:08,159 --> 00:00:09,499 私はセラピストで 5 00:00:09,499 --> 00:00:13,107 「親愛なるセラピストさんへ」という 相談コラムを書いているからです 6 00:00:13,107 --> 00:00:15,575 どんなメールが来るか 想像できますよね 7 00:00:15,575 --> 00:00:19,516 私は世界中の 見知らぬ人から寄せられる 8 00:00:19,516 --> 00:00:22,430 極めて立ち入った内容の手紙を 何千と読んできました 9 00:00:22,457 --> 00:00:24,750 失恋や死別の話もあれば 10 00:00:24,750 --> 00:00:27,174 親や兄弟との いさかいの話もあります 11 00:00:27,174 --> 00:00:32,416 私はそれを「生きることの問題」という フォルダに入れています 12 00:00:32,416 --> 00:00:35,773 私はたくさんのメールを 受け取りますが 13 00:00:35,773 --> 00:00:37,658 私の世界を知ってもらうため 14 00:00:37,683 --> 00:00:40,122 そんなメールの1つを お読みしましょう 15 00:00:40,420 --> 00:00:42,026 こんな内容です 16 00:00:46,698 --> 00:00:48,487 「親愛なるセラピストさんへ 17 00:00:48,487 --> 00:00:49,965 私は結婚して10年になり 18 00:00:49,965 --> 00:00:52,208 2年前までは順調でした 19 00:00:52,484 --> 00:00:55,077 その頃から夫が あまりセックスしたがらなくなり 20 00:00:55,077 --> 00:00:57,322 最近ではほとんど しなくなりました」 21 00:00:57,322 --> 00:00:59,291 こんな話だとは 思ってなかったでしょう 22 00:00:59,291 --> 00:01:00,286 (笑) 23 00:01:00,286 --> 00:01:02,398 「昨夜 知ったんですが 24 00:01:02,398 --> 00:01:03,690 この数か月というもの 25 00:01:03,690 --> 00:01:07,566 夫は真夜中に会社の女性と 長電話をしていたんです 26 00:01:07,862 --> 00:01:10,102 ネットで調べたら すごく綺麗な人でした 27 00:01:10,292 --> 00:01:12,208 こんなことになるなんて― 28 00:01:12,208 --> 00:01:14,910 まだ小さい頃 父が同僚の女性と関係を持ち 29 00:01:14,910 --> 00:01:17,127 家族がバラバラになる 経験をしたんです 30 00:01:17,127 --> 00:01:19,456 言うまでもなく 本当にショックです 31 00:01:19,456 --> 00:01:20,787 結婚生活を続けても 32 00:01:20,787 --> 00:01:22,832 夫を二度と信用は できないでしょう 33 00:01:22,832 --> 00:01:25,425 でも子供達に 親の離婚や継母なんかを 34 00:01:25,425 --> 00:01:27,210 経験させたくはありません 35 00:01:27,210 --> 00:01:29,002 どうしたらいいのでしょう?」 36 00:01:30,663 --> 00:01:34,209 皆さんは どうしたらいいと 思いますか? 37 00:01:34,667 --> 00:01:35,977 こんな手紙を見たら 38 00:01:35,977 --> 00:01:39,564 浮気されるつらさを 気の毒に感じ 39 00:01:39,564 --> 00:01:42,949 子供時代に起きた 父親の問題のために 40 00:01:42,949 --> 00:01:45,627 余計つらかろうと 思うかもしれません 41 00:01:45,910 --> 00:01:48,509 私と同じように この女性に共感し 42 00:01:48,509 --> 00:01:50,240 彼女の夫に対し 43 00:01:50,240 --> 00:01:51,641 なんというか 44 00:01:51,641 --> 00:01:54,208 あんまり良くない印象を 持つことでしょう 45 00:01:54,976 --> 00:01:57,645 受信箱のメールを 読んでいると 46 00:01:57,645 --> 00:01:59,671 私もそういう 気持ちになります 47 00:01:59,671 --> 00:02:03,230 でも こういうメールへの返信では よく考える必要があります 48 00:02:03,230 --> 00:02:05,199 私が受け取るメールはどれも 49 00:02:05,199 --> 00:02:09,162 一個の著者によって書かれた 物語に過ぎないことを知っているからです 50 00:02:09,162 --> 00:02:12,184 その物語には別のバージョンも 存在するのです 51 00:02:12,184 --> 00:02:14,076 常に存在します 52 00:02:14,076 --> 00:02:15,078 そう分かるのも 53 00:02:15,078 --> 00:02:17,662 セラピストとして学んだことが 何かあるとしたら 54 00:02:17,662 --> 00:02:21,266 それは誰もが自分の人生の 信用できない語り手だということだからです 55 00:02:21,266 --> 00:02:22,630 私はそうだし 56 00:02:22,973 --> 00:02:24,370 皆さんもそう 57 00:02:24,437 --> 00:02:26,742 皆さんが知る人の 誰もがそうなんです 58 00:02:26,742 --> 00:02:28,551 これは言うべきでは なかったのかも 59 00:02:28,551 --> 00:02:30,554 私の話を皆さんもう 信じないでしょうから 60 00:02:31,094 --> 00:02:33,623 意図的に嘘をついている というのではありません 61 00:02:33,623 --> 00:02:36,759 人々の語ることの多くは 正真正銘の真実です— 62 00:02:36,759 --> 00:02:39,044 その人の その時の 視点からするなら 63 00:02:39,044 --> 00:02:41,496 何を強調し 何を軽く見るか 64 00:02:41,496 --> 00:02:42,987 何を含め 何を除外するか 65 00:02:42,997 --> 00:02:45,129 何を見て 何を見せようとするかによって 66 00:02:45,149 --> 00:02:48,167 話は偏ったものになるのです 67 00:02:48,167 --> 00:02:51,102 心理学者のジェローム・ブルーナーは このことを見事に言い表しています 68 00:02:51,102 --> 00:02:55,673 「話をするとき 何らかの道徳的立場を 取ることは避けられない」 69 00:02:55,856 --> 00:02:58,573 私達はみんな 自分の人生の 物語とともに生きています 70 00:02:58,573 --> 00:03:00,963 選択の理由 物事が悪化した理由 71 00:03:00,963 --> 00:03:02,970 自分が誰かを そんな風に扱った理由— 72 00:03:02,970 --> 00:03:04,895 もちろん当然の報いです 73 00:03:04,937 --> 00:03:06,889 誰かが自分を そんな風に扱った理由— 74 00:03:06,889 --> 00:03:08,671 もちろんそれは 不当なんですけど 75 00:03:08,711 --> 00:03:11,106 物語というのは私達が人生を 理解する方法なのです 76 00:03:11,639 --> 00:03:14,353 でも私達の語る物語が 誤解を招くものだったり 77 00:03:14,353 --> 00:03:18,172 不完全だったり 単に間違っていたとしたら? 78 00:03:18,929 --> 00:03:20,541 理解しやすくなるどころか 79 00:03:20,541 --> 00:03:22,503 身動きができなく なってしまいます 80 00:03:22,503 --> 00:03:25,929 私達は 物語は状況によって 形作られるものだと思っています 81 00:03:26,059 --> 00:03:28,275 でも私が仕事を通じて 繰り返し見てきたのは 82 00:03:28,275 --> 00:03:30,050 それとまったく逆のことです 83 00:03:30,050 --> 00:03:34,242 自分でどう語るかによって 人生は形作られるのです 84 00:03:34,849 --> 00:03:36,580 それが物語の危険なところで 85 00:03:36,580 --> 00:03:37,912 本人を不幸にもします 86 00:03:37,912 --> 00:03:39,286 でも そこに力もあって 87 00:03:39,286 --> 00:03:42,399 自分の物語を変えることで 88 00:03:42,399 --> 00:03:44,643 自分の人生を変えることも できるのです 89 00:03:44,643 --> 00:03:47,084 今日は そのやり方を お話ししたいと思います 90 00:03:47,564 --> 00:03:49,429 セラピストだと 言ったのは本当で 91 00:03:49,429 --> 00:03:52,316 その点では信用できない語り手では ないわけですが 92 00:03:52,336 --> 00:03:54,546 飛行機に乗っている ときなんかには 93 00:03:54,546 --> 00:03:56,361 誰かに仕事を聞かれると 94 00:03:56,361 --> 00:03:58,715 編集者だと答えています 95 00:03:58,920 --> 00:04:01,451 セラピストだと 言おうものなら 96 00:04:01,451 --> 00:04:04,545 妙な反応が 返ってくるからです 97 00:04:04,545 --> 00:04:06,218 「まあ セラピスト? 98 00:04:06,218 --> 00:04:08,360 じゃあ 私 精神分析されちゃうんですか?」 99 00:04:08,360 --> 00:04:10,258 心の中で思います 「(a) しませんって 100 00:04:10,258 --> 00:04:12,376 (b) 何でこんなとこで? 101 00:04:12,376 --> 00:04:14,020 産婦人科医だと答えたら 102 00:04:14,020 --> 00:04:16,711 これから内診されちゃうのかと 聞いてくるわけ?」 103 00:04:16,711 --> 00:04:18,698 (笑) 104 00:04:19,147 --> 00:04:21,461 でも私が編集者だと 言っているのは 105 00:04:21,461 --> 00:04:22,969 本当のことだからでもあります 106 00:04:22,969 --> 00:04:25,734 セラピストの仕事は 人の編集を手助けすることです 107 00:04:25,734 --> 00:04:28,453 「親愛なるセラピストさんへ」での 役割が面白いのは 108 00:04:28,453 --> 00:04:31,074 一人のために 編集しているのではないことで 109 00:04:31,074 --> 00:04:33,368 毎週一通の手紙を例に 110 00:04:33,368 --> 00:04:35,988 読者のみんなに編集の仕方を 教えようとしています 111 00:04:35,988 --> 00:04:37,624 そこでは いろんなことを考えます 112 00:04:37,624 --> 00:04:39,782 「ここで無関係なことは何か?」 113 00:04:39,782 --> 00:04:43,052 「主人公は前進しているのか ぐるぐる回っているだけなのか」 114 00:04:43,052 --> 00:04:46,007 「脇役の人は重要か それとも邪魔になっているか」 115 00:04:46,007 --> 00:04:48,589 「この展開は隠れたテーマを 明かしているか?」 116 00:04:48,589 --> 00:04:50,266 すると 多くの人の物語は 117 00:04:50,266 --> 00:04:54,115 2つの主要テーマに 集中していることに気づきます 118 00:04:54,240 --> 00:04:55,790 1つは「自由」で 119 00:04:55,790 --> 00:04:57,531 もう1つは「変化」です 120 00:04:57,531 --> 00:04:58,845 私が編集をするときは 121 00:04:58,845 --> 00:05:00,961 そこを出発点にします 122 00:05:00,961 --> 00:05:03,683 自由について ちょっと考えてみましょう 123 00:05:03,683 --> 00:05:06,381 自由についての物語は こんな感じに進みます 124 00:05:06,381 --> 00:05:08,350 私達は一般に 125 00:05:08,350 --> 00:05:12,193 自分は大きな自由を手にしている と思っているが 126 00:05:12,193 --> 00:05:14,109 目下の問題のこととなると 127 00:05:14,109 --> 00:05:16,933 急に自由などまったく ないように感じられる 128 00:05:16,933 --> 00:05:19,615 私達の物語の多くは 囚われた感覚についてです 129 00:05:19,615 --> 00:05:22,407 家族や 仕事や 人間関係や 過去のしがらみのせいで 130 00:05:22,407 --> 00:05:24,599 囚われているように 感じるのです 131 00:05:24,599 --> 00:05:27,687 時に自虐的な物語で自らを 閉じ込めていることもあります 132 00:05:27,687 --> 00:05:29,401 そういう話を皆さん ご存知でしょう 133 00:05:29,401 --> 00:05:31,250 ソーシャルメディアによる 134 00:05:31,250 --> 00:05:33,552 「みんな自分よりいい人生だ」 という物語があり 135 00:05:33,552 --> 00:05:36,110 「自分はまがい物だ」という物語があり 「自分は愛されない」という物語があり 136 00:05:36,110 --> 00:05:38,470 「自分は何もかもうまくいかない」 という物語があり 137 00:05:38,470 --> 00:05:41,782 「Siriと呼んでも答えてくれないのは 自分を嫌ってるからだ」という物語があります 138 00:05:41,782 --> 00:05:44,804 あなたも? 私だけじゃないんだ 139 00:05:45,532 --> 00:05:47,437 あの手紙を書いた女性もまた 140 00:05:47,437 --> 00:05:49,361 囚われたように感じています 141 00:05:49,361 --> 00:05:51,894 結婚生活を続けても 二度と夫を信用できないし 142 00:05:51,894 --> 00:05:54,676 離婚すれば子供達が苦しむ 143 00:05:55,000 --> 00:05:57,932 こういう話で実際に 起きていることを 144 00:05:57,932 --> 00:06:00,468 よく表している 漫画があります 145 00:06:00,468 --> 00:06:02,803 囚われた人が外へ出ようと 146 00:06:02,803 --> 00:06:04,955 必死に鉄格子を 揺すぶっています 147 00:06:04,955 --> 00:06:07,171 でも横は開いていて 148 00:06:07,171 --> 00:06:08,856 鉄格子がありません 149 00:06:08,856 --> 00:06:11,222 この人は囚われては いないのです 150 00:06:11,867 --> 00:06:13,164 私達の多くがそうです 151 00:06:13,164 --> 00:06:14,791 すっかり囚われているように感じ 152 00:06:14,791 --> 00:06:17,032 感情的な牢獄の中で 身動きできなくなっています 153 00:06:17,032 --> 00:06:19,053 自由になろうと 鉄格子をよく調べないのは 154 00:06:19,053 --> 00:06:21,133 罠があると 知っているからです 155 00:06:21,133 --> 00:06:23,692 自由には責任が伴います 156 00:06:23,692 --> 00:06:27,371 物語の中の役割で 責任を引き受けるためには 157 00:06:27,571 --> 00:06:29,676 変わる必要が出てきます 158 00:06:29,676 --> 00:06:32,700 それが 人々の物語によく見られる もう1つのテーマです 159 00:06:32,700 --> 00:06:34,204 こんな感じの物語です 160 00:06:34,205 --> 00:06:36,786 「私は変わりたい」と その人は言うが 161 00:06:36,786 --> 00:06:38,777 本当に意味しているのは 162 00:06:38,777 --> 00:06:42,466 「物語の中の他の人物に 変わってほしい」ということ 163 00:06:42,466 --> 00:06:44,092 このジレンマをセラピストは 164 00:06:44,092 --> 00:06:47,389 「女王に“玉”さえあれば王になれた」 と言い表します 165 00:06:47,389 --> 00:06:48,597 (笑) 166 00:06:48,597 --> 00:06:51,001 意味ないですよね 167 00:06:51,831 --> 00:06:53,801 なぜ 物語の中心である主人公に 168 00:06:53,801 --> 00:06:56,198 変わってほしいと 思わないのでしょう? 169 00:06:56,198 --> 00:06:57,854 変化というのは 170 00:06:57,854 --> 00:06:59,623 ポジティブなものであっても 171 00:06:59,623 --> 00:07:02,297 驚くほど多くの喪失を 伴うからでしょう 172 00:07:02,297 --> 00:07:04,016 慣れ親しんだものの喪失です 173 00:07:04,016 --> 00:07:07,361 その慣れ親しんだものが 不快でみじめなものであっても 174 00:07:07,361 --> 00:07:10,291 人物や設定や筋書きから 物語の中で繰り返される会話まで 175 00:07:10,291 --> 00:07:11,874 よく知っているものだからです 176 00:07:11,874 --> 00:07:13,199 「あなた洗濯してくれないんだから!」 177 00:07:13,199 --> 00:07:14,353 「この前やっただろ!」 178 00:07:14,353 --> 00:07:15,960 「あら いつよ?」 179 00:07:15,960 --> 00:07:19,210 物語が毎回どう進むか 分かっているのは 180 00:07:19,210 --> 00:07:21,473 妙にほっとするものがあります 181 00:07:22,120 --> 00:07:25,644 新しい章を書くのは 未知の領域に足を踏み入れることです 182 00:07:25,644 --> 00:07:27,796 真っ白なページを 見つめることです 183 00:07:27,796 --> 00:07:29,410 物書きなら誰でも 言うでしょう 184 00:07:29,410 --> 00:07:31,934 真っ白なページほど 怖いものはないと 185 00:07:32,276 --> 00:07:33,925 でも知ってほしいのは 186 00:07:33,925 --> 00:07:35,875 自分の物語を いったん編集したら 187 00:07:35,875 --> 00:07:38,999 次の章を書くのは ずっと楽になるということです 188 00:07:39,232 --> 00:07:42,765 私達の文化では「自分自身を知れ」と よく言いますが 189 00:07:42,765 --> 00:07:46,206 自分を知るためには 自分を忘れることも必要なんです 190 00:07:46,206 --> 00:07:49,748 自分にずっと言い聞かせてきた物語を 捨てるということです 191 00:07:49,748 --> 00:07:51,646 自分の人生を生きるために 192 00:07:51,646 --> 00:07:55,613 これまで自分に語ってきたのとは 違う物語を生きるために 193 00:07:55,613 --> 00:07:59,147 そうやって あの鉄格子の 外に出るんです 194 00:07:59,147 --> 00:08:02,650 夫の浮気に悩む女性の話に 戻りましょう 195 00:08:02,650 --> 00:08:04,785 どうしたらいいのか という相談でした 196 00:08:04,785 --> 00:08:07,300 私が仕事場に掲げている 言葉があります 197 00:08:07,300 --> 00:08:09,266 “ultracrepidarianism” 198 00:08:09,266 --> 00:08:13,885 「自分の知識や能力の範囲を超えた アドバイスや意見を述べる癖」という意味です 199 00:08:13,885 --> 00:08:15,187 いい言葉ですよね 200 00:08:15,187 --> 00:08:16,900 いろんな状況で 使うことができ 201 00:08:16,900 --> 00:08:19,415 この講演の後も 皆さん使うことでしょう 202 00:08:19,575 --> 00:08:22,323 私は自分に言い聞かせるために 使っています 203 00:08:22,323 --> 00:08:24,960 セラピストとして相手がどうしたいのか 整理する手助けはできても 204 00:08:24,960 --> 00:08:27,805 人生の選択を相手に代わって してやることはできないのだと 205 00:08:27,805 --> 00:08:30,385 自分の物語を書けるのは 自分だけであり 206 00:08:30,385 --> 00:08:32,512 そのために必要なのは ちょっとした道具だけです 207 00:08:32,512 --> 00:08:33,839 ここで皆さんと一緒に 208 00:08:33,839 --> 00:08:36,267 この女性の手紙を編集することで 209 00:08:36,267 --> 00:08:39,730 自分の物語をどうやって 改訂できるか示したいと思います 210 00:08:39,818 --> 00:08:43,470 では まず皆さんが 自分に語っているけれど 211 00:08:43,470 --> 00:08:45,644 良い結果になっていない 物語がないか 212 00:08:45,644 --> 00:08:47,729 ひとつ考えてみてください 213 00:08:47,729 --> 00:08:50,817 それは自分の状況かもしれないし 214 00:08:50,817 --> 00:08:53,329 自分に関わる 誰かのことかもしれないし 215 00:08:53,329 --> 00:08:55,209 自分自身のことかもしれません 216 00:08:55,663 --> 00:08:58,737 それから他の登場人物に 目を向けてください 217 00:08:58,737 --> 00:09:01,388 その まずい物語を 維持し続けているのに 218 00:09:01,388 --> 00:09:04,147 一役買っているのは 誰でしょう? 219 00:09:04,147 --> 00:09:06,000 たとえばあの手紙の女性が 220 00:09:06,000 --> 00:09:07,364 友達に相談をしたなら 221 00:09:07,364 --> 00:09:10,566 たぶん「愚かな同情」とでも 言うべきことをするでしょう 222 00:09:11,103 --> 00:09:14,017 愚かな同情をする人は 相手の物語に合わせ 223 00:09:14,017 --> 00:09:18,377 望んでいた昇進ができなかった友人に 「ほんとすごく不公平よね」などと言います 224 00:09:18,377 --> 00:09:20,774 たとえ 前に何度も 同じ事があって 225 00:09:20,774 --> 00:09:23,619 それは当人が大した 努力をしておらず 226 00:09:23,619 --> 00:09:26,290 オフィス備品をくすねるような 奴だからだとしても 227 00:09:26,290 --> 00:09:27,156 (笑) 228 00:09:27,156 --> 00:09:32,658 男に捨てられたという友人に対し 「ほんと最低な奴だよね」などと言います 229 00:09:32,658 --> 00:09:34,923 たとえ友人の恋愛での行動に 少し問題があって 230 00:09:34,923 --> 00:09:37,112 ひっきりなしにメッセージを 送り付けたり 231 00:09:37,112 --> 00:09:39,227 相手の引き出しの中を 探ったりするせいで 232 00:09:39,227 --> 00:09:41,337 そうなるのだと 知っていようとも 233 00:09:41,337 --> 00:09:42,939 問題は分かっているのです 234 00:09:42,939 --> 00:09:45,448 どこのバーに行っても 喧嘩になるのなら 235 00:09:45,448 --> 00:09:47,196 たぶんあなたが 原因なのでしょう 236 00:09:47,196 --> 00:09:48,980 (笑) 237 00:09:48,980 --> 00:09:52,703 良い編集者になるためには 賢明な同情を示す必要があります 238 00:09:52,703 --> 00:09:55,228 友達に対してだけでなく 自分に対しても 239 00:09:55,228 --> 00:09:57,798 これを専門用語では 240 00:09:57,798 --> 00:10:01,024 「思いやりを持って 真実という爆弾を届ける」と言います 241 00:10:01,024 --> 00:10:03,098 真実という爆弾には 思いやりがあります 242 00:10:03,098 --> 00:10:05,868 物語から除外していたものに 目を向けさせるからです 243 00:10:05,868 --> 00:10:07,943 本当のところ 私達には分かりません 244 00:10:07,943 --> 00:10:10,142 この女性の夫が 浮気をしているのかも 245 00:10:10,142 --> 00:10:12,459 なぜ2年前に 性生活が変わったのかも 246 00:10:12,459 --> 00:10:15,530 深夜の電話が どのようなものなのかも 247 00:10:15,562 --> 00:10:17,764 もしかすると過去の経験から 248 00:10:17,764 --> 00:10:20,373 一方的な裏切りの物語を 書いているのかもしれず 249 00:10:20,373 --> 00:10:24,204 おそらく何か 手紙で人には言いたくなかったこと 250 00:10:24,204 --> 00:10:28,053 あるいは自分自身でさえ 目を向けたくなかったことがあるのです 251 00:10:28,053 --> 00:10:30,464 ロールシャッハテストを受ける 男の話のようなものです 252 00:10:30,464 --> 00:10:32,425 ロールシャッハテストは ご存じですよね? 253 00:10:32,425 --> 00:10:35,184 心理学者がこのような インクの染みを見せて 254 00:10:35,184 --> 00:10:38,287 「何に見えますか?」と聞くやつです 255 00:10:38,287 --> 00:10:40,787 それで男は答えます 256 00:10:40,787 --> 00:10:44,635 「まったく血には見えませんね」 257 00:10:45,535 --> 00:10:47,346 すると心理学者は言います 258 00:10:47,346 --> 00:10:51,091 「そうですか 何に見えないか もっと教えてください」 259 00:10:51,422 --> 00:10:53,944 書き物では これを視点と言っています 260 00:10:53,944 --> 00:10:56,721 語り手が見ようと しないものは何か? 261 00:10:56,721 --> 00:10:59,962 手紙をもう一通 読みましょう 262 00:11:00,647 --> 00:11:03,042 こんな内容です 263 00:11:04,710 --> 00:11:06,714 「親愛なるセラピストさんへ 264 00:11:07,611 --> 00:11:09,609 妻についての相談です 265 00:11:09,609 --> 00:11:12,386 近頃私が何をしても 妻を苛立たせるようで 266 00:11:12,386 --> 00:11:14,936 食べ物を噛む音のような 些細なことでさえそうです 267 00:11:15,214 --> 00:11:17,631 朝食のとき妻が 牛乳を多めに入れて 268 00:11:17,631 --> 00:11:21,053 グラノーラが音を立てにくく しているのに気づきました」 269 00:11:21,053 --> 00:11:22,427 (笑) 270 00:11:22,427 --> 00:11:26,442 「2年前に私の父が亡くなってから 妻が私に批判的になった気がします 271 00:11:26,442 --> 00:11:28,016 私は父とすごく仲が良く 272 00:11:28,016 --> 00:11:32,188 小さい頃に父親が出て行った妻には 私のつらさが分かりません 273 00:11:32,188 --> 00:11:34,874 職場の友人で 何か月か前に 父親をなくした人がいて 274 00:11:34,874 --> 00:11:36,964 その人は私の悲嘆を 理解してくれました 275 00:11:36,964 --> 00:11:40,076 その友人と話すように 妻とも話せればと思いますが 276 00:11:40,076 --> 00:11:42,680 妻はもう私のことが 我慢ならないようなのです 277 00:11:42,680 --> 00:11:45,235 どうしたら妻と よりを戻せるのでしょう?」 278 00:11:45,235 --> 00:11:49,338 さて 皆さん たぶん お気づきでしょうが 279 00:11:49,338 --> 00:11:52,290 これは前に読んだのと 同じ物語で 280 00:11:52,290 --> 00:11:54,885 ただ別の語り手の視点で 語られたものです 281 00:11:54,885 --> 00:11:57,306 妻の物語は 浮気する夫の話で 282 00:11:57,306 --> 00:12:01,076 夫の物語は自分の悲嘆を 理解できない妻の話です 283 00:12:01,076 --> 00:12:02,617 ここで注目すべきなのは 284 00:12:02,617 --> 00:12:08,605 2つの物語は大きく異なってはいても いずれも繋がりを求める話だということです 285 00:12:08,775 --> 00:12:11,218 一人称の語りを脱却して 286 00:12:11,218 --> 00:12:13,964 他の人物の視点で 物語を書けたなら 287 00:12:13,964 --> 00:12:16,764 相手にずっと 共感できるようになり 288 00:12:16,764 --> 00:12:19,321 話の筋が開けて 見えるようになります 289 00:12:19,321 --> 00:12:22,155 これは編集のプロセスで 最も難しい部分ですが 290 00:12:22,155 --> 00:12:24,646 そこから変化は始まるのです 291 00:12:24,646 --> 00:12:28,300 自分の物語を 他の人の視点で書いたなら 292 00:12:28,300 --> 00:12:30,898 どうなるでしょう? 293 00:12:31,587 --> 00:12:35,197 その広がった視野から 何が見えるでしょう? 294 00:12:35,831 --> 00:12:37,325 だから私は落ち込んでいる人に 295 00:12:37,325 --> 00:12:38,479 よくこう言うんです 296 00:12:38,479 --> 00:12:41,618 「今のあなたは あなた自身について 話す相手として良くない」と 297 00:12:41,618 --> 00:12:44,824 落ち込むと人は 自分の物語を歪めてしまいます 298 00:12:44,824 --> 00:12:47,018 視野を狭めてしまいます 299 00:12:47,018 --> 00:12:50,415 孤独や 心の痛みや 拒絶を 感じているときも同じです 300 00:12:50,415 --> 00:12:54,303 すごく狭いレンズを通して 歪められた物語を作ってしまい 301 00:12:54,303 --> 00:12:56,678 レンズがあることに 気付きもしません 302 00:12:56,678 --> 00:13:00,407 そして自分についての フェイクニュースを流すのです 303 00:13:01,322 --> 00:13:03,398 皆さんに打ち明ける ことがあります 304 00:13:03,908 --> 00:13:06,878 夫のほうの手紙は 私が書きました 305 00:13:06,878 --> 00:13:09,409 グラノーラにするか ピタ・チップスにするかで 306 00:13:09,409 --> 00:13:11,010 ずいぶん迷いましたが 307 00:13:11,010 --> 00:13:15,968 長年セラピストの仕事や コラムを通じて見てきた 308 00:13:15,968 --> 00:13:19,591 様々な別バージョンの話を元に 書いたものです 309 00:13:19,591 --> 00:13:23,152 1つの状況に関わる2人が 310 00:13:23,152 --> 00:13:25,612 そうとは知らずに 両方とも私に手紙を書き 311 00:13:25,612 --> 00:13:29,546 同じ物語の 2通りのバージョンが 私の受信箱に見つかる 312 00:13:29,546 --> 00:13:31,789 そういうことが 本当に起きるんです 313 00:13:31,811 --> 00:13:34,990 この女性については 別のバージョンがどんなものか分かりませんが 314 00:13:34,990 --> 00:13:36,191 ひとつ言えるのは 315 00:13:36,191 --> 00:13:38,131 それを自分で 書かねばならないということ 316 00:13:38,131 --> 00:13:40,139 勇気ある編集によって 317 00:13:40,139 --> 00:13:43,965 彼女はもっと奥行きのあるバージョンを 書くことでしょう 318 00:13:43,965 --> 00:13:48,287 彼女の夫が実際に何らかの 浮気をしていたとしても 319 00:13:48,287 --> 00:13:52,034 話の筋が何かを彼女は まだ知る必要はありません 320 00:13:52,096 --> 00:13:54,996 編集を行うということによって 321 00:13:54,996 --> 00:13:59,170 どういう筋になりうるか ずっと多くの 可能性が得られるからです 322 00:13:59,277 --> 00:14:02,844 時々 本当にひどい 行き詰まり状態になっていて 323 00:14:02,844 --> 00:14:06,126 その行き詰った状態に当人が 入れ込んでいることがあります 324 00:14:06,126 --> 00:14:08,714 「助けを拒絶する不平屋」と 呼んでいます 325 00:14:08,714 --> 00:14:10,412 そんな人をきっと ご存じでしょう 326 00:14:10,412 --> 00:14:14,047 何かを勧めても いつも否定します 327 00:14:14,257 --> 00:14:18,523 「うーん それはうまくいかないよ だって…」 328 00:14:18,751 --> 00:14:21,767 「うーん 無理よ そんなことできないもの」 329 00:14:22,131 --> 00:14:26,220 「うーん 友達は欲しいけど 人間って煩わしいじゃない?」 330 00:14:26,361 --> 00:14:28,234 (笑) 331 00:14:28,313 --> 00:14:30,300 そういう人が本当に 拒絶しているのは 332 00:14:30,300 --> 00:14:34,047 行き詰った みじめな自分の物語を 編集することなんです 333 00:14:34,227 --> 00:14:37,526 だからそういう人に対しては やり方を変えます 334 00:14:37,526 --> 00:14:41,177 何か違ったことを言うんです 335 00:14:42,187 --> 00:14:44,774 「私達はみんな死ぬんですよ」とか 336 00:14:44,774 --> 00:14:48,056 こいつが自分のセラピストでなくて 良かったと お思いでしょう 337 00:14:48,056 --> 00:14:49,327 言われた当人も 338 00:14:49,327 --> 00:14:50,695 皆さんと同じように 339 00:14:50,695 --> 00:14:52,673 まったく困惑した様子を見せます 340 00:14:52,673 --> 00:14:58,115 でも 自分について いつか必ず 書かれることになる物語がありますよね 341 00:14:58,115 --> 00:15:00,087 追悼文という物語です 342 00:15:00,603 --> 00:15:04,868 自分で自分の不幸を 書くのではなく 343 00:15:04,868 --> 00:15:09,016 生きているうちに この物語を形作ってはと言いたいのです 344 00:15:09,016 --> 00:15:11,819 自分の物語の中で 被害者でなくヒーローになりましょう 345 00:15:11,819 --> 00:15:14,584 心のページ上で展開することを 自分で選び 346 00:15:14,584 --> 00:15:16,363 現実を形作りましょう 347 00:15:17,006 --> 00:15:20,971 人生とは どの物語に耳を傾け どの物語を変えるか決めることなのだと 348 00:15:20,971 --> 00:15:22,677 私は言っています 349 00:15:22,677 --> 00:15:25,547 改訂する努力は する価値があります 350 00:15:25,547 --> 00:15:28,195 自分自身に言い聞かせる 物語以上に 351 00:15:28,195 --> 00:15:30,681 人生のクオリティを 左右するものはないからです 352 00:15:30,875 --> 00:15:33,957 自分の人生の物語 ということであれば 353 00:15:34,353 --> 00:15:37,915 ピュリッツァー賞ものにしようと 努めるべきなのです 354 00:15:38,315 --> 00:15:41,278 私達の多くは 助けを拒絶する不平屋ではないし 355 00:15:41,278 --> 00:15:43,446 少なくとも自分でそうだとは 思っていません 356 00:15:43,555 --> 00:15:46,306 でも不安や怒りや 弱さを感じるときには 357 00:15:46,306 --> 00:15:48,868 そうなってしまいやすいのです 358 00:15:49,513 --> 00:15:52,078 だから今度 何か問題を抱えたときには 359 00:15:52,078 --> 00:15:55,128 みんな死ぬんだと 思い出してください 360 00:15:55,128 --> 00:15:56,581 (笑) 361 00:15:56,581 --> 00:15:59,113 それから編集道具を 取り出して 362 00:15:59,113 --> 00:16:00,756 自問してください 363 00:16:00,756 --> 00:16:04,324 自分の物語を どんなものにしたいだろうかと 364 00:16:04,929 --> 00:16:08,486 そして傑作を書いてください 365 00:16:08,716 --> 00:16:10,049 ありがとうございました 366 00:16:10,049 --> 00:16:12,526 (拍手)