WEBVTT 00:00:05.943 --> 00:00:10.763 1884年 ある患者は 運に見放されたように思われました 00:00:10.763 --> 00:00:14.268 頸部に 急速に成長するがんができ 00:00:14.268 --> 00:00:18.909 さらに がんと無関係な 細菌性皮膚感染症を発症したのです 00:00:18.909 --> 00:00:21.619 しかしすぐに 予期せぬコトが起きました 00:00:21.619 --> 00:00:26.670 感染症から回復するにつれて がんも退縮し始めたのです 00:00:26.670 --> 00:00:31.531 ウィリアム・コーリーという医師が 7年後にその患者を診察したところ 00:00:31.531 --> 00:00:34.191 がんの形跡は見当たりませんでした 00:00:34.191 --> 00:00:37.162 驚くべきコトが起きていると コーリー医師は確信しました 00:00:37.162 --> 00:00:41.472 細菌性感染症が 患者の免疫系を刺激し 00:00:41.472 --> 00:00:43.710 がんを撃退したに違いない NOTE Paragraph 00:00:43.710 --> 00:00:46.504 コーリー医師の この幸運な発見によって 00:00:46.504 --> 00:00:51.417 細菌の意図的な注射による がん治療の道が開けました 00:00:51.417 --> 00:00:56.737 1世紀以上を経て 合成生物学者が さらに優れた方法を発見しました 00:00:56.737 --> 00:00:58.954 かつては味方とは思えなかった細菌を 00:00:58.954 --> 00:01:04.040 プログラムし 薬を安全に 直接腫瘍に届ける方法です NOTE Paragraph 00:01:04.040 --> 00:01:07.670 がんは 細胞の正常機能が 変化することで発生し 00:01:07.670 --> 00:01:12.534 細胞が急速に増殖し 腫瘍を形成したものです 00:01:12.534 --> 00:01:16.824 放射線治療、化学療法、免疫療法などの 治療法は 00:01:16.824 --> 00:01:20.459 悪性細胞を死滅させることが狙いですが 全身に影響を及ぼし 00:01:20.459 --> 00:01:23.457 その過程で 健康な組織も破壊してしまいます NOTE Paragraph 00:01:23.457 --> 00:01:26.077 しかし 大腸菌のような細菌は 00:01:26.077 --> 00:01:31.528 腫瘍の中で選択的に育つという ユニークな特性を持ちます 00:01:31.528 --> 00:01:35.478 実際 腫瘍の中心部は 細菌にとって理想的な環境であり 00:01:35.478 --> 00:01:39.367 そこで免疫細胞から隠れて 安心して増殖できるのです 00:01:39.367 --> 00:01:41.068 感染症を引き起こす代わりに 00:01:41.068 --> 00:01:45.077 腫瘍に抗がん剤を運ぶよう 細菌を再プログラムし 00:01:45.077 --> 00:01:49.847 トロイの木馬のように 内部から腫瘍を狙えます 00:01:49.847 --> 00:01:54.794 細菌をプログラムし 新たな方法で 周囲を感知し反応させるという発想は 00:01:54.794 --> 00:01:59.514 合成生物学と呼ばれる分野の中で 最も注目されています NOTE Paragraph 00:01:59.514 --> 00:02:02.229 では どうすれば 細菌をプログラムできるのでしょうか 00:02:02.229 --> 00:02:05.083 その鍵は 細菌の遺伝子操作にあります 00:02:05.083 --> 00:02:08.456 細菌に特定の遺伝子塩基配列を挿入すると 00:02:08.456 --> 00:02:11.715 様々な分子を合成するよう 指示できます 00:02:11.715 --> 00:02:15.271 がんの成長を阻害する分子も 合成させられます 00:02:15.271 --> 00:02:18.332 また 生物学的回路のおかげで  非常に特異的な行動も 00:02:18.332 --> 00:02:20.866 とれるようになります 00:02:20.866 --> 00:02:25.075 特定の因子の有無や組合せによって 異なった行動をとるようプログラムします 00:02:25.075 --> 00:02:27.811 特定の因子の有無や組合せによって 異なった行動をとるようプログラムします 00:02:27.811 --> 00:02:31.557 例えば 腫瘍は 低酸素でpH値が低く 00:02:31.557 --> 00:02:34.630 特定の分子を過剰に産生します 00:02:34.630 --> 00:02:39.369 合成生物学者は 細菌をプログラムし これらの状態を感知させることが可能です 00:02:39.369 --> 00:02:44.012 そうすることで 健康な組織を避けながらも 腫瘍に応答できるようになります NOTE Paragraph 00:02:44.012 --> 00:02:46.377 生物学的回路の1つである 00:02:46.377 --> 00:02:50.309 「同期溶解回路」 いわゆる「SLC」では 00:02:50.309 --> 00:02:53.079 細菌による薬物輸送が 可能となるだけでなく 00:02:53.079 --> 00:02:55.772 スケジュールに沿った輸送も可能となります 00:02:55.772 --> 00:02:58.014 まず 健康な組織を傷つけないために 00:02:58.014 --> 00:03:02.241 抗がん物質の産生が 細菌の成長とともに 00:03:02.241 --> 00:03:05.320 腫瘍の中だけで起こります 00:03:05.320 --> 00:03:07.670 抗がん物質が産生された後 00:03:07.670 --> 00:03:10.837 菌体密度が閾値に達すると 00:03:10.837 --> 00:03:13.999 自滅スイッチが作動し 細菌が破裂します 00:03:13.999 --> 00:03:18.497 これにより 抗がん物質が放出され 細菌の数は減少します 00:03:18.497 --> 00:03:22.548 しかし 一定数の細菌は生き残り 00:03:22.548 --> 00:03:24.538 コロニーを再構築します 00:03:24.538 --> 00:03:28.518 やがてまた細菌が増殖すると 自滅スイッチが作動します 00:03:28.518 --> 00:03:30.568 このサイクルが繰り返されます NOTE Paragraph 00:03:30.568 --> 00:03:32.768 この回路は 微調整が可能で 00:03:32.768 --> 00:03:37.864 がんとの闘いに最も適した 周期的なスケジュールで薬物を輸送できます 00:03:37.864 --> 00:03:42.294 このアプローチは マウスを用いた実験で 有望であると科学的に証明されています 00:03:42.294 --> 00:03:45.492 科学者たちは 細菌を直接腫瘍内に注射することで 00:03:45.492 --> 00:03:48.122 リンパ腫の除去に成功しただけでなく NOTE Paragraph 00:03:48.122 --> 00:03:50.868 免疫系を刺激し 00:03:50.868 --> 00:03:54.899 マウスの全身に転移した 未治療のリンパ腫を検知し攻撃するよう 00:03:54.899 --> 00:03:57.589 免疫細胞に能力を与えました 00:03:57.589 --> 00:03:59.470 他の多くの治療法とは異なり 00:03:59.470 --> 00:04:02.479 細菌は 特定のがんを 標的にするというよりは 00:04:02.479 --> 00:04:07.788 むしろ 全ての固形腫瘍に共通する 一般的な特徴を標的とします 00:04:07.788 --> 00:04:12.168 さらに プログラム可能な細菌は 単にがんと闘うだけではありません 00:04:12.168 --> 00:04:14.972 それどころか 洗練されたセンサーとして NOTE Paragraph 00:04:14.972 --> 00:04:17.937 将来起こりうる病気を監視できるのです 00:04:17.937 --> 00:04:22.200 安全な腸内細菌は恐らく 私たちの腸内で休眠しています 00:04:22.200 --> 00:04:24.694 そして 症状が起きる前に 00:04:24.694 --> 00:04:28.044 病気を検知、予防、治療します 00:04:28.044 --> 00:04:31.623 技術が進歩し 機械的なナノボットによる 00:04:31.623 --> 00:04:35.610 個別化医療の未来に 希望がもたらされていますが 00:04:35.610 --> 00:04:38.217 数十億年にわたる進化のおかげで 00:04:38.217 --> 00:04:39.690 私たちはすでに 00:04:39.690 --> 00:04:44.340 細菌という意外な生物学的形態を スタート地点として持っているかもしれません 00:04:44.340 --> 00:04:46.620 これに合成生物学が加わることで 00:04:46.620 --> 00:04:50.270 これから何が可能になるかが 大いに期待されるところです