WEBVTT 00:00:16.734 --> 00:00:21.335 海の物語 00:00:21.335 --> 00:00:26.486 魚は語る ―謎に満ちたプランクトンの生態― 00:00:27.978 --> 00:00:32.168 私がどうやって、ここにたどり着いたと思う? 00:00:32.168 --> 00:00:36.835 たぶん、キミが考えているより話は複雑だ。 00:00:36.835 --> 00:00:40.358 私は、放浪者の世界からやってきた。 00:00:40.358 --> 00:00:44.024 ほとんどの人間は、見たことすらない場所。 00:00:44.024 --> 00:00:47.121 「プランクトンの世界」だ。 00:00:47.182 --> 00:00:54.038 私は、100万個の卵の中で生まれた。 しかし、生き残れるのはごくわずか。 00:00:54.521 --> 00:01:00.403 私が稚魚(子どもの魚)のときは、 他の「放浪者」の中を動き回っていた。 00:01:00.403 --> 00:01:07.336 プランクトンという言葉は、ギリシャ語の"plakto(放浪)"に由来する。 00:01:07.336 --> 00:01:11.067 私の仲間のプランクトンは、その大きさも様々だった。 00:01:11.067 --> 00:01:18.356 ほんとに小さな藻類(そうるい)やバクテリアから、 シロナガスクジラより長い動物まで。 00:01:20.710 --> 00:01:25.398 私は、他の赤ん坊や子どもたちと、同じエサ場に暮らしていた。 00:01:25.398 --> 00:01:31.329 二枚貝、カニ、ウニやイソギンチャクもいた。 00:01:33.067 --> 00:01:38.894 私たちのように自由に動き回るのが、動物プランクトン。 00:01:38.894 --> 00:01:45.899 ここで一番多いのは、カイアシ類(ミジンコのような微小な甲殻類)、 それにオキアミだ。 00:01:45.899 --> 00:01:53.885 たとえ世界中を回っても、 私の生まれ故郷より多様性にみちた場所はないだろう。 00:01:53.885 --> 00:02:01.659 たった1杯のティースプーンの海水の中に、百万以上の生物がいる。 00:02:02.028 --> 00:02:05.154 けれど、そこで生き残ることは、簡単なことではない。 00:02:05.154 --> 00:02:10.888 1兆の命がここで生まれるが、大人になれるのは、ほんのいくつか。 00:02:13.396 --> 00:02:16.623 このカニの幼生は、ピンの先っぽほどの大きさもないが、 00:02:16.623 --> 00:02:23.996 彼は、毛顎(もうがく)動物にとっては、悪夢でしかない。 00:02:35.473 --> 00:02:41.774 だが、このような肉食動物たちの劇的な戦いは、 食料を得る一つの方法でしかない。 00:02:41.774 --> 00:02:46.692 この地の真の力は、植物プランクトンが生み出している。 00:02:46.692 --> 00:02:56.285 単細胞生物は、太陽の光と二酸化炭素を、 貴重な酸素や栄養に変える。 00:02:59.977 --> 00:03:05.820 植物プランクトンは、世界最大の食物網の基礎になっている。 00:03:06.774 --> 00:03:16.941 夜の間、私のようなたくさんの動物たちは、 太陽光で栄養いっぱいのごちそうを食べに、 海の底から上がってくる。 00:03:18.128 --> 00:03:24.244 私は、「地球で一番大きな引っ越し」を毎日していたわけだ。 00:03:24.752 --> 00:03:31.824 昼になると、私は、奇妙な仲間たちのいる暗闇の中に戻っていった。 00:03:35.116 --> 00:03:43.696 共食いをするもの。この翼足軟体動物(クリオネなど)のように、 自分の親戚くらいなら訳なく食べてしまう。 00:03:44.434 --> 00:03:51.357 有櫛(ゆうしつ)動物。 虹色のまつ毛のように、繊毛(せんもう)をゆらす。 00:03:55.495 --> 00:03:59.566 ねばねばした触手で、獲物をつかまえるものもいれば、 00:03:59.566 --> 00:04:04.298 やっぱり、自分のいとこくらいなら、ひとかじりしてしまうやつもいる。 00:04:04.944 --> 00:04:11.196 管クラゲは、有毒な釣ざおで獲物をつかまえる。 00:04:14.996 --> 00:04:20.555 けど私のイチオシは、 甲殻類のPhronima(深海にいるエビのような端脚類)だ。 00:04:20.555 --> 00:04:24.715 このモンスターのような姿は、映画「エイリアン」のもとになった。 00:04:24.715 --> 00:04:33.338 ヤツはそのかたい毛で、小さなものをつかむことができるが、 より大きな尾索動物などが好物だ。 00:04:33.338 --> 00:04:41.837 このお嬢さんは、その2組のつぶらな瞳で、 獲物を求めて深海を探索中。 00:04:41.837 --> 00:04:50.235 獲物を手にしたとたん、 彼女はこの地球上の動物の中で、最も奇怪な行動をする。 00:04:51.189 --> 00:04:56.912 獲物の死体を使い、彼女は慎重にタルのような家をつくる。 00:04:56.912 --> 00:05:02.747 そして自分の子どもがひとり立ちするまで、その家で育てるのだ。 00:05:04.424 --> 00:05:10.705 そして何より、彼らにとって、 私のような小さな魚は、うってつけのおやつだ。 00:05:13.152 --> 00:05:18.199 ここプランクトンの世界では、食物網は複雑に入り組んでいて、 00:05:18.199 --> 00:05:23.293 科学者でさえ、誰が誰を食べてるのか分からない。 00:05:24.078 --> 00:05:26.982 しかし、私は知っている。 00:05:28.890 --> 00:05:32.562 キミたちにも、私の物語が少しは分かってもらえたかな。 00:05:32.562 --> 00:05:38.646 私にとっては、「おいしいお魚」だけじゃあ、済まされないんだよ。