1 00:00:00,325 --> 00:00:02,388 博士課程の途中で 2 00:00:02,388 --> 00:00:05,850 私は行き詰まり どうしようもなくなりました 3 00:00:05,850 --> 00:00:07,630 どの方向で研究を試しても 4 00:00:07,630 --> 00:00:09,246 ことごとく行き詰まりました 5 00:00:09,246 --> 00:00:11,148 私の研究の基本前提が 6 00:00:11,148 --> 00:00:13,076 立ち行かなくなったようでした 7 00:00:13,076 --> 00:00:16,075 霧の中を飛ぶ パイロットになったような気分で 8 00:00:16,075 --> 00:00:18,870 どっちへ進めば良いか わからなくなりました 9 00:00:18,870 --> 00:00:20,351 ヒゲも剃らず 10 00:00:20,351 --> 00:00:23,092 朝 ベッドから 起き上がれなくなりました 11 00:00:23,092 --> 00:00:24,825 大学の門を くぐるのも 12 00:00:24,825 --> 00:00:27,978 私にはふさわしくないと感じました 13 00:00:27,978 --> 00:00:30,126 アインシュタインやニュートンなど 14 00:00:30,126 --> 00:00:32,279 科学者たちの研究成果を学び 自分は彼らと 15 00:00:32,279 --> 00:00:33,810 全然違うと思ったからです 16 00:00:33,810 --> 00:00:37,192 科学で学ぶのは結果だけ プロセスは学びませんからね 17 00:00:37,192 --> 00:00:41,893 ですので 私が科学者になるなんて あり得なかったのです 18 00:00:41,893 --> 00:00:43,557 しかし私は十分な助けを得て 19 00:00:43,557 --> 00:00:44,954 何とかやり遂げ 20 00:00:44,954 --> 00:00:47,174 自然界について新発見をしました 21 00:00:47,174 --> 00:00:49,917 それは素晴らしい感覚で 世界でただ一人 22 00:00:49,917 --> 00:00:51,249 自然界の新たな法則に 23 00:00:51,249 --> 00:00:53,474 気づいていることを静かに噛みしめました 24 00:00:53,474 --> 00:00:56,516 私が博士課程で 2つ目のプロジェクトを始めると 25 00:00:56,516 --> 00:00:57,880 また同じことが起きました 26 00:00:57,880 --> 00:01:00,169 私は行き詰まり やり遂げました 27 00:01:00,169 --> 00:01:01,555 そこで考え始めました 28 00:01:01,555 --> 00:01:02,712 パターンがありそうだ 29 00:01:02,712 --> 00:01:04,553 他の大学院生たちに聞くと 30 00:01:04,553 --> 00:01:06,596 「うん まったく同じことが起きたよ 31 00:01:06,596 --> 00:01:08,945 誰も そんなこと教えてくれなかったけど」 32 00:01:08,945 --> 00:01:11,025 私たちは科学を 疑問と答えの間にある 33 00:01:11,025 --> 00:01:14,471 一連の論理的な手順のように学びますが 34 00:01:14,471 --> 00:01:17,217 研究とは そのようなものとは まったく違います 35 00:01:17,217 --> 00:01:19,551 その頃 私は 即興劇の役者になるための 36 00:01:19,551 --> 00:01:21,638 勉強もしていました 37 00:01:21,638 --> 00:01:23,072 つまり 昼は物理 38 00:01:23,072 --> 00:01:25,090 夜は笑ったり跳ねたり歌ったり 39 00:01:25,090 --> 00:01:26,402 ギターを弾いたりしていました 40 00:01:26,402 --> 00:01:27,881 即興劇は 41 00:01:27,881 --> 00:01:30,890 科学と同じで 未知の領域へ入っていくものです 42 00:01:30,890 --> 00:01:32,302 監督も台本もなしで 43 00:01:32,302 --> 00:01:34,005 どんな役を演じるかも知らず 44 00:01:34,005 --> 00:01:36,283 他の役が何をするかも知らず 45 00:01:36,283 --> 00:01:38,689 舞台上で演技をしなければ ならないわけですから 46 00:01:38,689 --> 00:01:40,538 しかし科学と違って 47 00:01:40,538 --> 00:01:43,561 即興劇では舞台に上がれば どうなるか 48 00:01:43,561 --> 00:01:45,776 初日のうちに教わります 49 00:01:45,776 --> 00:01:48,548 ひどい失敗もするし 行き詰ることにもなると 50 00:01:48,548 --> 00:01:49,725 申し渡されます 51 00:01:49,725 --> 00:01:51,843 そこで 行き詰まっても創造性を 52 00:01:51,843 --> 00:01:53,046 保てるよう練習します 53 00:01:53,046 --> 00:01:54,951 たとえば 全員で円になり 54 00:01:54,951 --> 00:01:56,093 一人ずつ世界最低の 55 00:01:56,093 --> 00:01:59,058 タップダンスをする練習がありました 56 00:01:59,058 --> 00:02:00,644 他の人は皆 拍手を送って 57 00:02:00,644 --> 00:02:01,886 ダンサーを称賛し 58 00:02:01,886 --> 00:02:04,649 演技を応援するというものです 59 00:02:04,649 --> 00:02:06,557 私は教授になって 60 00:02:06,557 --> 00:02:07,938 自分の学生の研究を 61 00:02:07,938 --> 00:02:09,911 指導する立場になった時 62 00:02:09,911 --> 00:02:11,278 また実感しました 63 00:02:11,278 --> 00:02:12,990 どうしていいか わからない 64 00:02:12,990 --> 00:02:14,984 物理や生物や化学なら 65 00:02:14,984 --> 00:02:16,598 何千時間も勉強しましたが 66 00:02:16,598 --> 00:02:18,970 助言の仕方や 未知の領域へ誰かを導く方法 67 00:02:18,970 --> 00:02:21,556 動機付けについては 68 00:02:21,556 --> 00:02:23,293 一時間たりとも 概念の一つたりとも 69 00:02:23,293 --> 00:02:25,214 学んだことがなかったのです 70 00:02:25,214 --> 00:02:27,144 そこで即興劇に立ち返り 71 00:02:27,144 --> 00:02:29,317 学生たちに 初日のうちに 72 00:02:29,317 --> 00:02:32,218 研究を始めたら何が起きるか 伝えました 73 00:02:32,218 --> 00:02:33,944 これは研究の展開を捉える― 74 00:02:33,944 --> 00:02:35,956 心理的スキーマと関係します 75 00:02:35,956 --> 00:02:38,234 なぜなら 何かをする時 人はいつも 76 00:02:38,234 --> 00:02:40,876 たとえば 私がこの黒板を触ろうとしたら 77 00:02:40,876 --> 00:02:42,536 私の脳は まずスキーマを作り 78 00:02:42,536 --> 00:02:44,395 私が手を動かすより先に 79 00:02:44,395 --> 00:02:46,551 筋肉がすることを正確に予想します 80 00:02:46,551 --> 00:02:48,399 そして もし邪魔が入れば 81 00:02:48,399 --> 00:02:50,274 スキーマが現実と合わず 82 00:02:50,274 --> 00:02:52,558 認知的不協和というストレスを生じます 83 00:02:52,558 --> 00:02:55,467 だからスキーマは現実と 合わないと困るのです 84 00:02:55,467 --> 00:02:58,622 しかし もしあなたが 教科書通りの科学を 85 00:02:58,622 --> 00:03:00,519 そのまま信じていたら 86 00:03:00,519 --> 00:03:06,813 研究について次のようなスキーマを 持つことになるでしょう 87 00:03:06,813 --> 00:03:10,131 Aを疑問 88 00:03:10,131 --> 00:03:13,531 Bを答えとしますね 89 00:03:13,531 --> 00:03:18,124 研究は 直線でつながる道です 90 00:03:18,127 --> 00:03:21,242 問題は 実験がうまく行かなかった場合 91 00:03:21,242 --> 00:03:24,904 もしくは学生がやる気を失った場合 92 00:03:24,904 --> 00:03:26,990 それは完全な間違いと受け止められ 93 00:03:26,990 --> 00:03:30,020 とてもつもなく大きなストレスになります 94 00:03:30,020 --> 00:03:31,803 だから私は自分の学生に 95 00:03:31,803 --> 00:03:35,665 もっと現実的なスキーマを 教えています 96 00:03:38,860 --> 00:03:40,384 まさに これが 97 00:03:40,384 --> 00:03:43,520 現実がスキーマと合わない例ですね 98 00:03:46,379 --> 00:03:49,641 (笑) 99 00:03:49,641 --> 00:03:52,840 (拍手) 100 00:04:01,564 --> 00:04:05,010 私は学生に別のスキーマを教えます 101 00:04:05,010 --> 00:04:07,204 Aが疑問で 102 00:04:07,204 --> 00:04:09,385 Bが答えとして 103 00:04:13,320 --> 00:04:14,855 モヤモヤの中でも創造を忘れず 104 00:04:14,855 --> 00:04:16,830 そして研究を始めれば 105 00:04:16,830 --> 00:04:19,193 実験失敗 実験失敗 106 00:04:19,193 --> 00:04:21,728 また失敗 また失敗 107 00:04:21,728 --> 00:04:24,404 ネガティブな感情が渦巻く点に 到達します 108 00:04:24,404 --> 00:04:26,682 自分の基本前提が 意味をなさなくなったように 109 00:04:26,682 --> 00:04:27,798 感じられます 110 00:04:27,798 --> 00:04:30,853 足元のカーペットを誰かに グイッと引っ張られたような気分です 111 00:04:30,853 --> 00:04:34,181 この場所を「モヤモヤ」と呼んでいます 112 00:04:47,685 --> 00:04:50,363 モヤモヤの中で 迷子になることもあります 113 00:04:50,363 --> 00:04:52,871 丸1日 1週間 1ヶ月 1年 114 00:04:52,871 --> 00:04:54,369 研究生活の間 ずっと 115 00:04:54,369 --> 00:04:56,531 でも時に 運が良く 116 00:04:56,531 --> 00:04:58,387 十分な支援を受けることが出来れば 117 00:04:58,387 --> 00:05:00,377 手元の材料から 118 00:05:00,377 --> 00:05:03,625 あるいはモヤモヤの全体像を 考えているうちに 119 00:05:03,625 --> 00:05:05,627 新しい答えが見つかります Cです 120 00:05:07,285 --> 00:05:10,969 そして それに向かって頑張ろうと 思うのです 121 00:05:10,969 --> 00:05:13,338 そして実験失敗 実験失敗 122 00:05:13,338 --> 00:05:14,807 でも そこに たどり着いて 123 00:05:14,807 --> 00:05:16,027 AからCへの矢印を 124 00:05:16,027 --> 00:05:19,529 論文にして公に発表します 125 00:05:19,529 --> 00:05:21,488 それは素晴らしい方法ですが 126 00:05:21,488 --> 00:05:23,832 そこへたどり着くまでの途中経過を 127 00:05:23,832 --> 00:05:25,631 忘れがちです 128 00:05:25,631 --> 00:05:27,606 このモヤモヤは研究に内在し 129 00:05:27,606 --> 00:05:30,210 我々の仕事に内在しています 130 00:05:30,210 --> 00:05:33,420 なぜならモヤモヤは 境界の番人だからです 131 00:05:37,721 --> 00:05:39,990 見張りをしているのです 132 00:05:39,990 --> 00:05:42,962 既知の領域と 133 00:05:45,795 --> 00:05:49,399 未知の領域の境界で 134 00:05:53,110 --> 00:05:55,385 真に新しいことを発見するためには 135 00:05:55,385 --> 00:05:58,962 基本前提のうち 最低でも1つは 変えざるを得ません 136 00:05:58,962 --> 00:06:00,216 それは科学の世界では 137 00:06:00,216 --> 00:06:02,178 かなり勇気の要ることです 138 00:06:02,178 --> 00:06:03,999 日々 私たちは自分自身を 139 00:06:03,999 --> 00:06:05,811 既知と未知との境界に立たせ 140 00:06:05,811 --> 00:06:07,632 モヤモヤと直面しています 141 00:06:07,632 --> 00:06:09,337 私はBを既知の国に置きましたよね 142 00:06:09,337 --> 00:06:10,080 私はBを既知の国に置きましたよね 143 00:06:10,080 --> 00:06:11,891 Bは既に知っていたわけですから 144 00:06:11,891 --> 00:06:15,540 しかしCはBよりも 常に興味深く 145 00:06:15,540 --> 00:06:18,263 より重要なのです 146 00:06:18,263 --> 00:06:20,456 Bがないと研究は始まりませんが 147 00:06:20,456 --> 00:06:22,274 Cは もっとずっと意義深く 148 00:06:22,274 --> 00:06:26,771 それこそが研究というものの 素晴らしいところなのです 149 00:06:26,771 --> 00:06:28,959 「モヤモヤ」という言葉を知るだけで 150 00:06:28,959 --> 00:06:31,514 私の研究グループ内は一変しました 151 00:06:31,514 --> 00:06:33,384 学生が私のところへ来て 言います 152 00:06:33,384 --> 00:06:34,982 「先生 モヤモヤに入っちゃった」 153 00:06:34,982 --> 00:06:38,148 私は こう返します 「素晴らしい 君は今 惨めだろう」 154 00:06:38,148 --> 00:06:40,290 (笑) 155 00:06:40,290 --> 00:06:42,203 実際 私は少し喜んでいます 156 00:06:42,203 --> 00:06:43,881 なぜなら既知と未知の境界に 157 00:06:43,881 --> 00:06:45,777 私たちは近づいているのかも知れず 158 00:06:45,777 --> 00:06:47,323 真に新しい何かを発見する 159 00:06:47,323 --> 00:06:49,184 見込みがあるからです 160 00:06:49,184 --> 00:06:50,526 そう考えるようになれば 161 00:06:50,526 --> 00:06:53,674 モヤモヤは普通のことで 162 00:06:53,674 --> 00:06:58,100 さらに不可欠で 美しくさえあるのだと 163 00:06:58,100 --> 00:06:59,305 わかります 164 00:06:59,305 --> 00:07:02,928 「モヤモヤに感謝する会」にも 入会できますし 165 00:07:02,928 --> 00:07:04,846 自分を ひどく責める感情も 166 00:07:04,846 --> 00:07:07,408 排出できます 167 00:07:07,408 --> 00:07:09,858 指導者として 私がすべきことは 168 00:07:09,858 --> 00:07:12,060 その学生の支援に力を入れることです 169 00:07:12,060 --> 00:07:13,541 心理学の研究によると 170 00:07:13,541 --> 00:07:17,100 人は恐れや絶望を感じた時 171 00:07:17,100 --> 00:07:18,097 視野が狭まり 172 00:07:18,097 --> 00:07:20,928 無難で保守的な考え方しか しなくなるからです 173 00:07:20,928 --> 00:07:22,503 モヤモヤを抜け リスクを伴う 174 00:07:22,503 --> 00:07:23,891 道の探求を望むなら 175 00:07:23,891 --> 00:07:25,652 他の人とつながることで感じる 176 00:07:25,652 --> 00:07:27,853 連帯感、支援、希望といった 177 00:07:27,853 --> 00:07:29,590 感情が必要です 178 00:07:29,590 --> 00:07:31,140 だから即興劇と同様に 179 00:07:31,140 --> 00:07:33,441 科学で最良なのは未知の領域に 180 00:07:33,441 --> 00:07:35,410 誰かと共に入っていくことです 181 00:07:35,410 --> 00:07:37,852 だから モヤモヤについて知ると 182 00:07:37,852 --> 00:07:41,176 即興劇から 183 00:07:41,176 --> 00:07:43,778 モヤモヤの中で会話をするのに有効な 184 00:07:43,778 --> 00:07:45,538 手段を学ぶことが出来ます 185 00:07:45,538 --> 00:07:47,515 これは即興劇の 186 00:07:47,515 --> 00:07:49,282 中心原理に基づきます 187 00:07:49,282 --> 00:07:50,375 私は また即興劇に 188 00:07:50,375 --> 00:07:51,671 救われたわけです 189 00:07:51,671 --> 00:07:53,962 「Yes, and」というもので 190 00:07:53,962 --> 00:07:57,427 共演者の提案に「そうだね そして」と 応えることです 191 00:08:04,297 --> 00:08:07,191 つまり「Yes, and」と言って 提案を受け入れ 192 00:08:07,191 --> 00:08:09,702 さらに膨らませていくのです 193 00:08:09,702 --> 00:08:10,941 たとえば もし一人が 194 00:08:10,941 --> 00:08:12,096 「水たまりがある」と言い 195 00:08:12,096 --> 00:08:13,141 他の役者が 196 00:08:13,141 --> 00:08:15,010 「いや ただの舞台だよ」と言ったら 197 00:08:15,010 --> 00:08:16,748 即興は終わりです 198 00:08:16,748 --> 00:08:20,520 そこでおしまい 誰もが不満を覚えます 199 00:08:20,520 --> 00:08:21,868 これは遮断と呼ばれます 200 00:08:21,868 --> 00:08:23,475 コミュニケーションに気を配らなければ 201 00:08:23,475 --> 00:08:26,412 科学に関する会話は 遮断だらけになります 202 00:08:26,412 --> 00:08:28,648 「Yes, and」だと こうなります 203 00:08:28,648 --> 00:08:31,156 「水たまりがある」 「本当だ 飛び込んでみよう」 204 00:08:31,156 --> 00:08:34,165 「あっ クジラだ!尻尾を捕まえよう」 205 00:08:34,165 --> 00:08:36,266 「月まで連れて行かれちゃう!」 206 00:08:36,266 --> 00:08:39,286 「Yes, and」は私たちの 内なる批評家を黙らせます 207 00:08:39,286 --> 00:08:40,980 内なる批評家は私たちの発言を 208 00:08:40,980 --> 00:08:42,221 管理し 他人に 209 00:08:42,221 --> 00:08:44,144 非常識、狂っている、凡庸と 210 00:08:44,144 --> 00:08:45,259 思われないようにしています 211 00:08:45,259 --> 00:08:46,519 科学では凡庸と 212 00:08:46,519 --> 00:08:48,076 見られるのは恐怖です 213 00:08:48,076 --> 00:08:50,243 「Yes, and」は 内なる批評家を黙らせ 214 00:08:50,243 --> 00:08:52,855 自覚していなかった潜在的な 215 00:08:52,855 --> 00:08:54,380 創造力を解放します 216 00:08:54,380 --> 00:08:56,410 それがモヤモヤに関する 217 00:08:56,410 --> 00:08:58,815 答えをくれたりするのです 218 00:08:58,815 --> 00:09:01,416 そんなわけで モヤモヤや 219 00:09:01,416 --> 00:09:02,820 「Yes, and」を知ることは 220 00:09:02,820 --> 00:09:05,679 研究室を創造性あふれるものにしました 221 00:09:05,679 --> 00:09:08,207 学生たちは互いのアイディアに 反応し始め 222 00:09:08,207 --> 00:09:10,321 物理学と生物学が融合した分野で 223 00:09:10,321 --> 00:09:13,190 私たちは驚くべき発見をしました 224 00:09:13,190 --> 00:09:16,140 たとえば私たちは1年にわたり 225 00:09:16,140 --> 00:09:17,289 細胞内の難解な 226 00:09:17,289 --> 00:09:19,982 生化学ネットワークの解明に行き詰まり 227 00:09:19,982 --> 00:09:22,439 「モヤモヤの深みに はまった」 と言っていました 228 00:09:22,439 --> 00:09:24,419 陽気な会話の中で 私の学生の 229 00:09:24,419 --> 00:09:26,207 シャイ・シェン=オー が 言いました 230 00:09:26,207 --> 00:09:29,050 「このネットワークを紙に描いてみよう」 231 00:09:29,050 --> 00:09:30,503 それで私は 232 00:09:30,503 --> 00:09:32,654 「でも それはもう何度もやって 233 00:09:32,654 --> 00:09:33,688 ダメだっただろう」 234 00:09:33,688 --> 00:09:36,631 とは言わず 「そうだね そして 235 00:09:36,631 --> 00:09:38,672 特大の紙を使おう」と言い 236 00:09:38,672 --> 00:09:39,764 するとロン・ミロが 237 00:09:39,764 --> 00:09:41,984 「建築の設計図みたいな 巨大な紙を使おう 238 00:09:41,984 --> 00:09:43,780 印刷は任せて」と言いました 239 00:09:43,780 --> 00:09:46,280 そのネットワークを印刷して 検証したところ 240 00:09:46,280 --> 00:09:48,789 最も重要な発見につながりました 241 00:09:48,789 --> 00:09:50,990 この複雑なネットワークは いくつかの簡単な 242 00:09:50,990 --> 00:09:54,453 繰り返し現れる相互作用パターンだけで できているのです 243 00:09:54,453 --> 00:09:57,616 ステンドグラスのモチーフの ようなものです 244 00:09:57,616 --> 00:09:59,664 これをネットワーク・モチーフと呼び 245 00:09:59,664 --> 00:10:01,816 その基本回路は 246 00:10:01,816 --> 00:10:03,201 我々の体を含む 247 00:10:03,201 --> 00:10:05,901 あらゆる生命体における細胞の 248 00:10:05,901 --> 00:10:08,750 意思決定の論理を 解明するのに役立ちます 249 00:10:08,750 --> 00:10:10,675 その後 ほどなくして 250 00:10:10,675 --> 00:10:12,295 私は講演に招待されるようになり 251 00:10:12,295 --> 00:10:15,306 世界中の何千もの 科学者の前で話しましたが 252 00:10:15,306 --> 00:10:17,139 「モヤモヤ」や 253 00:10:17,139 --> 00:10:18,271 「Yes, and」の知見は 254 00:10:18,271 --> 00:10:20,110 研究室内に留まったままでした 255 00:10:20,110 --> 00:10:22,241 科学の世界では プロセスなど 256 00:10:22,241 --> 00:10:24,674 主観的 感情的な話はせず 257 00:10:24,674 --> 00:10:26,537 話すのは結果だけですから 258 00:10:26,537 --> 00:10:28,606 学会で話題にすることは一切なく 259 00:10:28,606 --> 00:10:30,530 あり得ないことでした 260 00:10:30,530 --> 00:10:32,606 やがて私は よその科学者たちが 261 00:10:32,606 --> 00:10:34,380 自分達の現状を説明する 262 00:10:34,380 --> 00:10:35,701 術もないまま行き詰るのを見ました 263 00:10:35,701 --> 00:10:37,056 彼らの考え方は 264 00:10:37,056 --> 00:10:38,584 無難な方に狭まり 265 00:10:38,584 --> 00:10:40,244 研究の可能性は最大限に発揮されず 266 00:10:40,244 --> 00:10:41,997 彼らは惨めでした 267 00:10:41,997 --> 00:10:43,936 私は思いました それが現実だ 268 00:10:43,936 --> 00:10:45,957 自分の研究室は なるべく創造的にしよう 269 00:10:45,957 --> 00:10:47,637 どこの研究室もそうしたら 270 00:10:47,637 --> 00:10:49,827 科学はいずれ より豊かに 271 00:10:49,827 --> 00:10:52,041 より良くなるんじゃないか 272 00:10:52,041 --> 00:10:54,961 その考え方は覆されました 273 00:10:54,961 --> 00:10:57,300 エヴリン・フォックス・ケラーの 274 00:10:57,300 --> 00:10:58,658 女性科学者としての経験談を 275 00:10:58,658 --> 00:11:00,349 たまたま聞きに行った時のことです 276 00:11:00,349 --> 00:11:02,172 彼女は こう投げかけました 277 00:11:02,172 --> 00:11:04,120 「なぜ私たちは 科学をやる上での― 278 00:11:04,120 --> 00:11:06,306 主観的 感情的な面を 語らないのでしょう 279 00:11:06,306 --> 00:11:10,298 これは偶然ではありません 価値観の問題なのです」 280 00:11:10,298 --> 00:11:12,476 科学が追求しているのは 281 00:11:12,476 --> 00:11:14,271 客観的で合理的な知見です 282 00:11:14,271 --> 00:11:16,469 そこは科学の美しいところです 283 00:11:16,469 --> 00:11:18,425 しかし文化的な神話もあります 284 00:11:18,425 --> 00:11:19,679 科学をやるということは 285 00:11:19,679 --> 00:11:21,979 その知見を目指す 日々の行為も また 286 00:11:21,979 --> 00:11:24,419 客観的で合理的であるはずだ というものです 287 00:11:24,419 --> 00:11:26,851 ミスター・スポック並みにね 288 00:11:26,851 --> 00:11:28,265 物事を客観的で合理的だと 289 00:11:28,265 --> 00:11:30,078 分類すれば おのずと 290 00:11:30,078 --> 00:11:31,720 その反対側にある 291 00:11:31,720 --> 00:11:33,177 主観的で感情的な物事は 292 00:11:33,177 --> 00:11:35,279 非科学的 あるいは反科学 293 00:11:35,279 --> 00:11:37,310 科学への脅威という分類になるので 294 00:11:37,310 --> 00:11:39,231 それについては口を閉ざすのです 295 00:11:39,231 --> 00:11:41,185 科学には文化があると聞いて 296 00:11:41,185 --> 00:11:43,022 私の中で 297 00:11:43,022 --> 00:11:44,729 全てがすとんと腑に落ちました 298 00:11:44,729 --> 00:11:46,393 科学に文化があるなら 299 00:11:46,393 --> 00:11:47,649 文化は変えられますし 300 00:11:47,649 --> 00:11:49,242 可能な限り働きかけて 301 00:11:49,242 --> 00:11:51,954 私が科学の文化に 変化を起こせばいいのです 302 00:11:51,954 --> 00:11:55,023 私はさっそく 次の学会の講義で 303 00:11:55,023 --> 00:11:56,635 自分の科学について話し 304 00:11:56,635 --> 00:11:58,147 続いて 科学をやる上での 305 00:11:58,147 --> 00:12:00,149 主観的で感情的な面の大切さと 306 00:12:00,149 --> 00:12:01,449 その対処法を語りました 307 00:12:01,449 --> 00:12:02,683 聴衆に目をやると 308 00:12:02,683 --> 00:12:05,043 冷ややかなものでした 309 00:12:05,043 --> 00:12:08,334 10本も研究発表が続く 学会という場で 310 00:12:08,334 --> 00:12:09,585 私の言葉は 311 00:12:09,585 --> 00:12:11,424 聴衆の耳に届きませんでした 312 00:12:11,424 --> 00:12:13,906 私は学会があるたびに 何度も挑戦しましたが 313 00:12:13,906 --> 00:12:16,279 理解は得られませんでした 314 00:12:16,279 --> 00:12:19,185 私はモヤモヤの中でした 315 00:12:19,185 --> 00:12:22,699 最終的に私は即興と音楽を使って 316 00:12:22,699 --> 00:12:25,510 モヤモヤから なんとか抜け出しました 317 00:12:25,510 --> 00:12:28,249 以来 学会に行くごとに 318 00:12:28,249 --> 00:12:31,111 科学の話の後 「研究室での愛と恐れ」と呼ぶ 319 00:12:31,111 --> 00:12:33,104 第2部の特別な話をします 320 00:12:33,104 --> 00:12:35,321 それは歌で始まります 321 00:12:35,321 --> 00:12:37,893 テーマは科学者たちにとっての 最大の恐怖― 322 00:12:37,893 --> 00:12:40,805 一生懸命 研究をして 323 00:12:40,805 --> 00:12:43,147 新しい発見をしたと思ったら 324 00:12:43,147 --> 00:12:46,504 他の誰かに 先に発表されてしまうことです 325 00:12:46,504 --> 00:12:49,120 それを「スクープ」 と 呼んでいます 326 00:12:49,120 --> 00:12:52,334 先を越された気分は最悪です 327 00:12:52,334 --> 00:12:54,547 お互いに話すのが怖くなります 328 00:12:54,547 --> 00:12:55,380 これは良くないです 329 00:12:55,380 --> 00:12:58,140 科学をやる目的は アイディアを共有し 互いに 330 00:12:58,140 --> 00:12:59,451 学ぶことのはずですから 331 00:12:59,451 --> 00:13:02,940 それで私は あるブルースの歌を 演奏します 332 00:13:05,040 --> 00:13:10,544 それは―(拍手) 333 00:13:10,544 --> 00:13:13,767 「またスクープだ」という題です 334 00:13:13,767 --> 00:13:16,425 皆さんに合いの手を お願いしています 335 00:13:16,425 --> 00:13:20,405 「皆さんのセリフは 『スクープ スクープ』ですよ」 336 00:13:20,405 --> 00:13:23,050 こんな感じで 「スクープ スクープ!」 337 00:13:23,050 --> 00:13:24,013 こんな感じです 338 00:13:24,013 --> 00:13:26,232 ♪また先を越されちゃった ♪ 339 00:13:26,232 --> 00:13:27,975 ♪ スクープ!スクープ! ♪ 340 00:13:27,975 --> 00:13:29,253 では行きますよ 341 00:13:29,253 --> 00:13:31,298 ♪また先を越されちゃった♪ 342 00:13:31,298 --> 00:13:32,584 ♪ スクープ!スクープ! ♪ 343 00:13:32,584 --> 00:13:34,479 ♪また先を越されちゃった♪ 344 00:13:34,479 --> 00:13:35,785 ♪ スクープ!スクープ! ♪ 345 00:13:35,785 --> 00:13:37,568 ♪また先を越されちゃった♪ 346 00:13:37,568 --> 00:13:39,207 ♪ スクープ!スクープ! ♪ 347 00:13:39,207 --> 00:13:40,875 ♪また先を越されちゃった♪ 348 00:13:40,875 --> 00:13:42,637 ♪ スクープ!スクープ! ♪ 349 00:13:42,637 --> 00:13:45,912 ♪ねぇママ この痛みがわかるでしょ ♪ 350 00:13:45,912 --> 00:13:49,698 ♪神様 助けて また先を越されちゃった ♪ 351 00:13:50,925 --> 00:13:57,316 (拍手) 352 00:13:57,735 --> 00:13:58,965 ありがとうございます 353 00:13:58,965 --> 00:14:00,464 合いの手に感謝します 354 00:14:00,464 --> 00:14:02,548 こうして皆 笑い始め 一息ついて 355 00:14:02,548 --> 00:14:04,560 自分の周りには同じ問題を抱える 356 00:14:04,560 --> 00:14:05,867 科学者がいると気づき 357 00:14:05,867 --> 00:14:07,672 研究をする上で現れる 感情的 358 00:14:07,672 --> 00:14:09,522 主観的なことについて話し始めます 359 00:14:09,522 --> 00:14:11,706 重大なタブーが消えたように感じます 360 00:14:11,706 --> 00:14:14,505 ついに 私たちは これを学会の場で 話せるのです 361 00:14:14,505 --> 00:14:16,691 そして科学者たちはグループを作り 362 00:14:16,691 --> 00:14:18,301 定期的に会って 学生の指導や 363 00:14:18,301 --> 00:14:19,930 未知の領域へと入る時の 364 00:14:19,930 --> 00:14:22,231 感情的 主観的なことについて 365 00:14:22,231 --> 00:14:23,594 語り合う場を設けました 366 00:14:23,594 --> 00:14:25,164 さらに科学をやる過程や 367 00:14:25,164 --> 00:14:26,839 未知なる領域へ 368 00:14:26,839 --> 00:14:28,734 共に入って行くことなどについての 369 00:14:28,734 --> 00:14:30,150 講座まで始めました 370 00:14:30,150 --> 00:14:31,484 私の展望は 371 00:14:31,484 --> 00:14:34,946 科学者なら皆「原子」という言葉や 物質が原子からできていると 372 00:14:34,946 --> 00:14:36,913 知っているように 373 00:14:36,913 --> 00:14:38,397 科学者が皆「モヤモヤ」や 374 00:14:38,397 --> 00:14:40,741 「Yes, and」を知り 375 00:14:40,741 --> 00:14:43,820 科学が もっともっと創造性を発揮し 376 00:14:43,820 --> 00:14:46,824 私たち皆のために予期せぬ発見を 377 00:14:46,824 --> 00:14:49,360 どんどんして 378 00:14:49,360 --> 00:14:51,576 もっと遊び心を持つようになることです 379 00:14:51,576 --> 00:14:54,166 この話の中で覚えておいてほしいのは 380 00:14:54,166 --> 00:14:56,862 仕事にせよ 人生にせよ 381 00:14:56,862 --> 00:14:58,588 解の見つからない問題に 382 00:14:58,588 --> 00:15:01,180 今度 直面した時には 383 00:15:01,180 --> 00:15:03,056 この言葉を思い出すことです 384 00:15:03,056 --> 00:15:04,233 「モヤモヤ」 385 00:15:04,233 --> 00:15:05,766 モヤモヤは一人ではなく 386 00:15:05,766 --> 00:15:07,174 誰かと共に切り抜けます 387 00:15:07,174 --> 00:15:09,212 あなたの考えに「Yes, and」と言い 388 00:15:09,212 --> 00:15:11,260 あなた自身も自分の考えに 389 00:15:11,260 --> 00:15:13,577 「Yes, and」と言えるよう 助けてくれて 390 00:15:13,577 --> 00:15:15,464 モヤモヤのたなびく中 391 00:15:15,464 --> 00:15:17,190 あの静かな感覚に出会う可能性を 392 00:15:17,190 --> 00:15:18,688 広げてくれる誰かです 393 00:15:18,688 --> 00:15:20,491 その時 初めて見えてきます 394 00:15:20,491 --> 00:15:23,741 あなたの予期せぬ発見 395 00:15:23,741 --> 00:15:26,465 あなたにとっての「C」の兆しが 396 00:15:26,465 --> 00:15:28,785 ありがとうございました 397 00:15:28,785 --> 00:15:32,785 (拍手)