0:00:00.325,0:00:02.388 博士課程の途中で 0:00:02.388,0:00:05.850 私は行き詰まり[br]どうしようもなくなりました 0:00:05.850,0:00:07.630 どの方向で研究を試しても 0:00:07.630,0:00:09.246 ことごとく行き詰まりました 0:00:09.246,0:00:11.148 私の研究の基本前提が 0:00:11.148,0:00:13.076 立ち行かなくなったようでした 0:00:13.076,0:00:16.075 霧の中を飛ぶ[br]パイロットになったような気分で 0:00:16.075,0:00:18.870 どっちへ進めば良いか[br]わからなくなりました 0:00:18.870,0:00:20.351 ヒゲも剃らず 0:00:20.351,0:00:23.092 朝 ベッドから[br]起き上がれなくなりました 0:00:23.092,0:00:24.825 大学の門を くぐるのも 0:00:24.825,0:00:27.978 私にはふさわしくないと感じました 0:00:27.978,0:00:30.126 アインシュタインやニュートンなど 0:00:30.126,0:00:32.279 科学者たちの研究成果を学び[br]自分は彼らと 0:00:32.279,0:00:33.810 全然違うと思ったからです 0:00:33.810,0:00:37.192 科学で学ぶのは結果だけ[br]プロセスは学びませんからね 0:00:37.192,0:00:41.893 ですので 私が科学者になるなんて[br]あり得なかったのです 0:00:41.893,0:00:43.557 しかし私は十分な助けを得て 0:00:43.557,0:00:44.954 何とかやり遂げ 0:00:44.954,0:00:47.174 自然界について新発見をしました 0:00:47.174,0:00:49.917 それは素晴らしい感覚で[br]世界でただ一人 0:00:49.917,0:00:51.249 自然界の新たな法則に 0:00:51.249,0:00:53.474 気づいていることを静かに噛みしめました 0:00:53.474,0:00:56.516 私が博士課程で[br]2つ目のプロジェクトを始めると 0:00:56.516,0:00:57.880 また同じことが起きました 0:00:57.880,0:01:00.169 私は行き詰まり やり遂げました 0:01:00.169,0:01:01.555 そこで考え始めました 0:01:01.555,0:01:02.712 パターンがありそうだ 0:01:02.712,0:01:04.553 他の大学院生たちに聞くと 0:01:04.553,0:01:06.596 「うん まったく同じことが起きたよ 0:01:06.596,0:01:08.945 誰も そんなこと教えてくれなかったけど」 0:01:08.945,0:01:11.025 私たちは科学を 疑問と答えの間にある 0:01:11.025,0:01:14.471 一連の論理的な手順のように学びますが 0:01:14.471,0:01:17.217 研究とは そのようなものとは[br]まったく違います 0:01:17.217,0:01:19.551 その頃 私は[br]即興劇の役者になるための 0:01:19.551,0:01:21.638 勉強もしていました 0:01:21.638,0:01:23.072 つまり 昼は物理 0:01:23.072,0:01:25.090 夜は笑ったり跳ねたり歌ったり 0:01:25.090,0:01:26.402 ギターを弾いたりしていました 0:01:26.402,0:01:27.881 即興劇は 0:01:27.881,0:01:30.890 科学と同じで[br]未知の領域へ入っていくものです 0:01:30.890,0:01:32.302 監督も台本もなしで 0:01:32.302,0:01:34.005 どんな役を演じるかも知らず 0:01:34.005,0:01:36.283 他の役が何をするかも知らず 0:01:36.283,0:01:38.689 舞台上で演技をしなければ[br]ならないわけですから 0:01:38.689,0:01:40.538 しかし科学と違って 0:01:40.538,0:01:43.561 即興劇では舞台に上がれば[br]どうなるか 0:01:43.561,0:01:45.776 初日のうちに教わります 0:01:45.776,0:01:48.548 ひどい失敗もするし[br]行き詰ることにもなると 0:01:48.548,0:01:49.725 申し渡されます 0:01:49.725,0:01:51.843 そこで 行き詰まっても創造性を 0:01:51.843,0:01:53.046 保てるよう練習します 0:01:53.046,0:01:54.951 たとえば 全員で円になり 0:01:54.951,0:01:56.093 一人ずつ世界最低の 0:01:56.093,0:01:59.058 タップダンスをする練習がありました 0:01:59.058,0:02:00.644 他の人は皆 拍手を送って 0:02:00.644,0:02:01.886 ダンサーを称賛し 0:02:01.886,0:02:04.649 演技を応援するというものです 0:02:04.649,0:02:06.557 私は教授になって 0:02:06.557,0:02:07.938 自分の学生の研究を 0:02:07.938,0:02:09.911 指導する立場になった時 0:02:09.911,0:02:11.278 また実感しました 0:02:11.278,0:02:12.990 どうしていいか わからない 0:02:12.990,0:02:14.984 物理や生物や化学なら 0:02:14.984,0:02:16.598 何千時間も勉強しましたが 0:02:16.598,0:02:18.970 助言の仕方や[br]未知の領域へ誰かを導く方法 0:02:18.970,0:02:21.556 動機付けについては 0:02:21.556,0:02:23.293 一時間たりとも 概念の一つたりとも 0:02:23.293,0:02:25.214 学んだことがなかったのです 0:02:25.214,0:02:27.144 そこで即興劇に立ち返り 0:02:27.144,0:02:29.317 学生たちに 初日のうちに 0:02:29.317,0:02:32.218 研究を始めたら何が起きるか[br]伝えました 0:02:32.218,0:02:33.944 これは研究の展開を捉える― 0:02:33.944,0:02:35.956 心理的スキーマと関係します 0:02:35.956,0:02:38.234 なぜなら 何かをする時 人はいつも 0:02:38.234,0:02:40.876 たとえば 私がこの黒板を触ろうとしたら 0:02:40.876,0:02:42.536 私の脳は まずスキーマを作り 0:02:42.536,0:02:44.395 私が手を動かすより先に 0:02:44.395,0:02:46.551 筋肉がすることを正確に予想します 0:02:46.551,0:02:48.399 そして もし邪魔が入れば 0:02:48.399,0:02:50.274 スキーマが現実と合わず 0:02:50.274,0:02:52.558 認知的不協和というストレスを生じます 0:02:52.558,0:02:55.467 だからスキーマは現実と[br]合わないと困るのです 0:02:55.467,0:02:58.622 しかし もしあなたが[br]教科書通りの科学を 0:02:58.622,0:03:00.519 そのまま信じていたら 0:03:00.519,0:03:06.813 研究について次のようなスキーマを[br]持つことになるでしょう 0:03:06.813,0:03:10.131 Aを疑問 0:03:10.131,0:03:13.531 Bを答えとしますね 0:03:13.531,0:03:18.124 研究は 直線でつながる道です 0:03:18.127,0:03:21.242 問題は 実験がうまく行かなかった場合 0:03:21.242,0:03:24.904 もしくは学生がやる気を失った場合 0:03:24.904,0:03:26.990 それは完全な間違いと受け止められ 0:03:26.990,0:03:30.020 とてもつもなく大きなストレスになります 0:03:30.020,0:03:31.803 だから私は自分の学生に 0:03:31.803,0:03:35.665 もっと現実的なスキーマを[br]教えています 0:03:38.860,0:03:40.384 まさに これが 0:03:40.384,0:03:43.520 現実がスキーマと合わない例ですね 0:03:46.379,0:03:49.641 (笑) 0:03:49.641,0:03:52.840 (拍手) 0:04:01.564,0:04:05.010 私は学生に別のスキーマを教えます 0:04:05.010,0:04:07.204 Aが疑問で 0:04:07.204,0:04:09.385 Bが答えとして 0:04:13.320,0:04:14.855 モヤモヤの中でも創造を忘れず 0:04:14.855,0:04:16.830 そして研究を始めれば 0:04:16.830,0:04:19.193 実験失敗 実験失敗 0:04:19.193,0:04:21.728 また失敗 また失敗 0:04:21.728,0:04:24.404 ネガティブな感情が渦巻く点に[br]到達します 0:04:24.404,0:04:26.682 自分の基本前提が[br]意味をなさなくなったように 0:04:26.682,0:04:27.798 感じられます 0:04:27.798,0:04:30.853 足元のカーペットを誰かに[br]グイッと引っ張られたような気分です 0:04:30.853,0:04:34.181 この場所を「モヤモヤ」と呼んでいます 0:04:47.685,0:04:50.363 モヤモヤの中で[br]迷子になることもあります 0:04:50.363,0:04:52.871 丸1日 1週間 1ヶ月 1年 0:04:52.871,0:04:54.369 研究生活の間 ずっと 0:04:54.369,0:04:56.531 でも時に 運が良く 0:04:56.531,0:04:58.387 十分な支援を受けることが出来れば 0:04:58.387,0:05:00.377 手元の材料から 0:05:00.377,0:05:03.625 あるいはモヤモヤの全体像を[br]考えているうちに 0:05:03.625,0:05:05.627 新しい答えが見つかります[br]Cです 0:05:07.285,0:05:10.969 そして それに向かって頑張ろうと[br]思うのです 0:05:10.969,0:05:13.338 そして実験失敗[br]実験失敗 0:05:13.338,0:05:14.807 でも そこに たどり着いて 0:05:14.807,0:05:16.027 AからCへの矢印を 0:05:16.027,0:05:19.529 論文にして公に発表します 0:05:19.529,0:05:21.488 それは素晴らしい方法ですが 0:05:21.488,0:05:23.832 そこへたどり着くまでの途中経過を 0:05:23.832,0:05:25.631 忘れがちです 0:05:25.631,0:05:27.606 このモヤモヤは研究に内在し 0:05:27.606,0:05:30.210 我々の仕事に内在しています 0:05:30.210,0:05:33.420 なぜならモヤモヤは[br]境界の番人だからです 0:05:37.721,0:05:39.990 見張りをしているのです 0:05:39.990,0:05:42.962 既知の領域と 0:05:45.795,0:05:49.399 未知の領域の境界で 0:05:53.110,0:05:55.385 真に新しいことを発見するためには 0:05:55.385,0:05:58.962 基本前提のうち 最低でも1つは[br]変えざるを得ません 0:05:58.962,0:06:00.216 それは科学の世界では 0:06:00.216,0:06:02.178 かなり勇気の要ることです 0:06:02.178,0:06:03.999 日々 私たちは自分自身を 0:06:03.999,0:06:05.811 既知と未知との境界に立たせ 0:06:05.811,0:06:07.632 モヤモヤと直面しています 0:06:07.632,0:06:09.337 私はBを既知の国に置きましたよね 0:06:09.337,0:06:10.080 私はBを既知の国に置きましたよね 0:06:10.080,0:06:11.891 Bは既に知っていたわけですから 0:06:11.891,0:06:15.540 しかしCはBよりも 常に興味深く 0:06:15.540,0:06:18.263 より重要なのです 0:06:18.263,0:06:20.456 Bがないと研究は始まりませんが 0:06:20.456,0:06:22.274 Cは もっとずっと意義深く 0:06:22.274,0:06:26.771 それこそが研究というものの[br]素晴らしいところなのです 0:06:26.771,0:06:28.959 「モヤモヤ」という言葉を知るだけで 0:06:28.959,0:06:31.514 私の研究グループ内は一変しました 0:06:31.514,0:06:33.384 学生が私のところへ来て 言います 0:06:33.384,0:06:34.982 「先生 モヤモヤに入っちゃった」 0:06:34.982,0:06:38.148 私は こう返します[br]「素晴らしい 君は今 惨めだろう」 0:06:38.148,0:06:40.290 (笑) 0:06:40.290,0:06:42.203 実際 私は少し喜んでいます 0:06:42.203,0:06:43.881 なぜなら既知と未知の境界に 0:06:43.881,0:06:45.777 私たちは近づいているのかも知れず 0:06:45.777,0:06:47.323 真に新しい何かを発見する 0:06:47.323,0:06:49.184 見込みがあるからです 0:06:49.184,0:06:50.526 そう考えるようになれば 0:06:50.526,0:06:53.674 モヤモヤは普通のことで 0:06:53.674,0:06:58.100 さらに不可欠で 美しくさえあるのだと 0:06:58.100,0:06:59.305 わかります 0:06:59.305,0:07:02.928 「モヤモヤに感謝する会」にも[br]入会できますし 0:07:02.928,0:07:04.846 自分を ひどく責める感情も 0:07:04.846,0:07:07.408 排出できます 0:07:07.408,0:07:09.858 指導者として 私がすべきことは 0:07:09.858,0:07:12.060 その学生の支援に力を入れることです 0:07:12.060,0:07:13.541 心理学の研究によると 0:07:13.541,0:07:17.100 人は恐れや絶望を感じた時 0:07:17.100,0:07:18.097 視野が狭まり 0:07:18.097,0:07:20.928 無難で保守的な考え方しか[br]しなくなるからです 0:07:20.928,0:07:22.503 モヤモヤを抜け[br]リスクを伴う 0:07:22.503,0:07:23.891 道の探求を望むなら 0:07:23.891,0:07:25.652 他の人とつながることで感じる 0:07:25.652,0:07:27.853 連帯感、支援、希望といった 0:07:27.853,0:07:29.590 感情が必要です 0:07:29.590,0:07:31.140 だから即興劇と同様に 0:07:31.140,0:07:33.441 科学で最良なのは未知の領域に 0:07:33.441,0:07:35.410 誰かと共に入っていくことです 0:07:35.410,0:07:37.852 だから モヤモヤについて知ると 0:07:37.852,0:07:41.176 即興劇から 0:07:41.176,0:07:43.778 モヤモヤの中で会話をするのに有効な 0:07:43.778,0:07:45.538 手段を学ぶことが出来ます 0:07:45.538,0:07:47.515 これは即興劇の 0:07:47.515,0:07:49.282 中心原理に基づきます 0:07:49.282,0:07:50.375 私は また即興劇に 0:07:50.375,0:07:51.671 救われたわけです 0:07:51.671,0:07:53.962 「Yes, and」というもので 0:07:53.962,0:07:57.427 共演者の提案に「そうだね そして」と[br]応えることです 0:08:04.297,0:08:07.191 つまり「Yes, and」と言って[br]提案を受け入れ 0:08:07.191,0:08:09.702 さらに膨らませていくのです 0:08:09.702,0:08:10.941 たとえば もし一人が 0:08:10.941,0:08:12.096 「水たまりがある」と言い 0:08:12.096,0:08:13.141 他の役者が 0:08:13.141,0:08:15.010 「いや ただの舞台だよ」と言ったら 0:08:15.010,0:08:16.748 即興は終わりです 0:08:16.748,0:08:20.520 そこでおしまい[br]誰もが不満を覚えます 0:08:20.520,0:08:21.868 これは遮断と呼ばれます 0:08:21.868,0:08:23.475 コミュニケーションに気を配らなければ 0:08:23.475,0:08:26.412 科学に関する会話は[br]遮断だらけになります 0:08:26.412,0:08:28.648 「Yes, and」だと こうなります 0:08:28.648,0:08:31.156 「水たまりがある」[br]「本当だ 飛び込んでみよう」 0:08:31.156,0:08:34.165 「あっ クジラだ!尻尾を捕まえよう」 0:08:34.165,0:08:36.266 「月まで連れて行かれちゃう!」 0:08:36.266,0:08:39.286 「Yes, and」は私たちの[br]内なる批評家を黙らせます 0:08:39.286,0:08:40.980 内なる批評家は私たちの発言を 0:08:40.980,0:08:42.221 管理し 他人に 0:08:42.221,0:08:44.144 非常識、狂っている、凡庸と 0:08:44.144,0:08:45.259 思われないようにしています 0:08:45.259,0:08:46.519 科学では凡庸と 0:08:46.519,0:08:48.076 見られるのは恐怖です 0:08:48.076,0:08:50.243 「Yes, and」は[br]内なる批評家を黙らせ 0:08:50.243,0:08:52.855 自覚していなかった潜在的な 0:08:52.855,0:08:54.380 創造力を解放します 0:08:54.380,0:08:56.410 それがモヤモヤに関する 0:08:56.410,0:08:58.815 答えをくれたりするのです 0:08:58.815,0:09:01.416 そんなわけで モヤモヤや 0:09:01.416,0:09:02.820 「Yes, and」を知ることは 0:09:02.820,0:09:05.679 研究室を創造性あふれるものにしました 0:09:05.679,0:09:08.207 学生たちは互いのアイディアに[br]反応し始め 0:09:08.207,0:09:10.321 物理学と生物学が融合した分野で 0:09:10.321,0:09:13.190 私たちは驚くべき発見をしました 0:09:13.190,0:09:16.140 たとえば私たちは1年にわたり 0:09:16.140,0:09:17.289 細胞内の難解な 0:09:17.289,0:09:19.982 生化学ネットワークの解明に行き詰まり 0:09:19.982,0:09:22.439 「モヤモヤの深みに はまった」[br]と言っていました 0:09:22.439,0:09:24.419 陽気な会話の中で[br]私の学生の 0:09:24.419,0:09:26.207 シャイ・シェン=オー が[br]言いました 0:09:26.207,0:09:29.050 「このネットワークを紙に描いてみよう」 0:09:29.050,0:09:30.503 それで私は 0:09:30.503,0:09:32.654 「でも それはもう何度もやって 0:09:32.654,0:09:33.688 ダメだっただろう」 0:09:33.688,0:09:36.631 とは言わず[br]「そうだね そして 0:09:36.631,0:09:38.672 特大の紙を使おう」と言い 0:09:38.672,0:09:39.764 するとロン・ミロが 0:09:39.764,0:09:41.984 「建築の設計図みたいな[br]巨大な紙を使おう 0:09:41.984,0:09:43.780 印刷は任せて」と言いました 0:09:43.780,0:09:46.280 そのネットワークを印刷して[br]検証したところ 0:09:46.280,0:09:48.789 最も重要な発見につながりました 0:09:48.789,0:09:50.990 この複雑なネットワークは[br]いくつかの簡単な 0:09:50.990,0:09:54.453 繰り返し現れる相互作用パターンだけで[br]できているのです 0:09:54.453,0:09:57.616 ステンドグラスのモチーフの[br]ようなものです 0:09:57.616,0:09:59.664 これをネットワーク・モチーフと呼び 0:09:59.664,0:10:01.816 その基本回路は 0:10:01.816,0:10:03.201 我々の体を含む 0:10:03.201,0:10:05.901 あらゆる生命体における細胞の 0:10:05.901,0:10:08.750 意思決定の論理を[br]解明するのに役立ちます 0:10:08.750,0:10:10.675 その後 ほどなくして 0:10:10.675,0:10:12.295 私は講演に招待されるようになり 0:10:12.295,0:10:15.306 世界中の何千もの[br]科学者の前で話しましたが 0:10:15.306,0:10:17.139 「モヤモヤ」や 0:10:17.139,0:10:18.271 「Yes, and」の知見は 0:10:18.271,0:10:20.110 研究室内に留まったままでした 0:10:20.110,0:10:22.241 科学の世界では プロセスなど 0:10:22.241,0:10:24.674 主観的 感情的な話はせず 0:10:24.674,0:10:26.537 話すのは結果だけですから 0:10:26.537,0:10:28.606 学会で話題にすることは一切なく 0:10:28.606,0:10:30.530 あり得ないことでした 0:10:30.530,0:10:32.606 やがて私は よその科学者たちが 0:10:32.606,0:10:34.380 自分達の現状を説明する 0:10:34.380,0:10:35.701 術もないまま行き詰るのを見ました 0:10:35.701,0:10:37.056 彼らの考え方は 0:10:37.056,0:10:38.584 無難な方に狭まり 0:10:38.584,0:10:40.244 研究の可能性は最大限に発揮されず 0:10:40.244,0:10:41.997 彼らは惨めでした 0:10:41.997,0:10:43.936 私は思いました[br]それが現実だ 0:10:43.936,0:10:45.957 自分の研究室は[br]なるべく創造的にしよう 0:10:45.957,0:10:47.637 どこの研究室もそうしたら 0:10:47.637,0:10:49.827 科学はいずれ より豊かに 0:10:49.827,0:10:52.041 より良くなるんじゃないか 0:10:52.041,0:10:54.961 その考え方は覆されました 0:10:54.961,0:10:57.300 エヴリン・フォックス・ケラーの 0:10:57.300,0:10:58.658 女性科学者としての経験談を 0:10:58.658,0:11:00.349 たまたま聞きに行った時のことです 0:11:00.349,0:11:02.172 彼女は こう投げかけました 0:11:02.172,0:11:04.120 「なぜ私たちは[br]科学をやる上での― 0:11:04.120,0:11:06.306 主観的 感情的な面を[br]語らないのでしょう 0:11:06.306,0:11:10.298 これは偶然ではありません[br]価値観の問題なのです」 0:11:10.298,0:11:12.476 科学が追求しているのは 0:11:12.476,0:11:14.271 客観的で合理的な知見です 0:11:14.271,0:11:16.469 そこは科学の美しいところです 0:11:16.469,0:11:18.425 しかし文化的な神話もあります 0:11:18.425,0:11:19.679 科学をやるということは 0:11:19.679,0:11:21.979 その知見を目指す[br]日々の行為も また 0:11:21.979,0:11:24.419 客観的で合理的であるはずだ[br]というものです 0:11:24.419,0:11:26.851 ミスター・スポック並みにね 0:11:26.851,0:11:28.265 物事を客観的で合理的だと 0:11:28.265,0:11:30.078 分類すれば おのずと 0:11:30.078,0:11:31.720 その反対側にある 0:11:31.720,0:11:33.177 主観的で感情的な物事は 0:11:33.177,0:11:35.279 非科学的 あるいは反科学 0:11:35.279,0:11:37.310 科学への脅威という分類になるので 0:11:37.310,0:11:39.231 それについては口を閉ざすのです 0:11:39.231,0:11:41.185 科学には文化があると聞いて 0:11:41.185,0:11:43.022 私の中で 0:11:43.022,0:11:44.729 全てがすとんと腑に落ちました 0:11:44.729,0:11:46.393 科学に文化があるなら 0:11:46.393,0:11:47.649 文化は変えられますし 0:11:47.649,0:11:49.242 可能な限り働きかけて 0:11:49.242,0:11:51.954 私が科学の文化に[br]変化を起こせばいいのです 0:11:51.954,0:11:55.023 私はさっそく 次の学会の講義で 0:11:55.023,0:11:56.635 自分の科学について話し 0:11:56.635,0:11:58.147 続いて 科学をやる上での 0:11:58.147,0:12:00.149 主観的で感情的な面の大切さと 0:12:00.149,0:12:01.449 その対処法を語りました 0:12:01.449,0:12:02.683 聴衆に目をやると 0:12:02.683,0:12:05.043 冷ややかなものでした 0:12:05.043,0:12:08.334 10本も研究発表が続く[br]学会という場で 0:12:08.334,0:12:09.585 私の言葉は 0:12:09.585,0:12:11.424 聴衆の耳に届きませんでした 0:12:11.424,0:12:13.906 私は学会があるたびに[br]何度も挑戦しましたが 0:12:13.906,0:12:16.279 理解は得られませんでした 0:12:16.279,0:12:19.185 私はモヤモヤの中でした 0:12:19.185,0:12:22.699 最終的に私は即興と音楽を使って 0:12:22.699,0:12:25.510 モヤモヤから なんとか抜け出しました 0:12:25.510,0:12:28.249 以来 学会に行くごとに 0:12:28.249,0:12:31.111 科学の話の後[br]「研究室での愛と恐れ」と呼ぶ 0:12:31.111,0:12:33.104 第2部の特別な話をします 0:12:33.104,0:12:35.321 それは歌で始まります 0:12:35.321,0:12:37.893 テーマは科学者たちにとっての[br]最大の恐怖― 0:12:37.893,0:12:40.805 一生懸命 研究をして 0:12:40.805,0:12:43.147 新しい発見をしたと思ったら 0:12:43.147,0:12:46.504 他の誰かに[br]先に発表されてしまうことです 0:12:46.504,0:12:49.120 それを「スクープ」 と[br]呼んでいます 0:12:49.120,0:12:52.334 先を越された気分は最悪です 0:12:52.334,0:12:54.547 お互いに話すのが怖くなります 0:12:54.547,0:12:55.380 これは良くないです 0:12:55.380,0:12:58.140 科学をやる目的は[br]アイディアを共有し 互いに 0:12:58.140,0:12:59.451 学ぶことのはずですから 0:12:59.451,0:13:02.940 それで私は あるブルースの歌を[br]演奏します 0:13:05.040,0:13:10.544 それは―(拍手) 0:13:10.544,0:13:13.767 「またスクープだ」という題です 0:13:13.767,0:13:16.425 皆さんに合いの手を[br]お願いしています 0:13:16.425,0:13:20.405 「皆さんのセリフは[br]『スクープ スクープ』ですよ」 0:13:20.405,0:13:23.050 こんな感じで[br]「スクープ スクープ!」 0:13:23.050,0:13:24.013 こんな感じです 0:13:24.013,0:13:26.232 ♪また先を越されちゃった ♪ 0:13:26.232,0:13:27.975 ♪ スクープ!スクープ! ♪ 0:13:27.975,0:13:29.253 では行きますよ 0:13:29.253,0:13:31.298 ♪また先を越されちゃった♪ 0:13:31.298,0:13:32.584 ♪ スクープ!スクープ! ♪ 0:13:32.584,0:13:34.479 ♪また先を越されちゃった♪ 0:13:34.479,0:13:35.785 ♪ スクープ!スクープ! ♪ 0:13:35.785,0:13:37.568 ♪また先を越されちゃった♪ 0:13:37.568,0:13:39.207 ♪ スクープ!スクープ! ♪ 0:13:39.207,0:13:40.875 ♪また先を越されちゃった♪ 0:13:40.875,0:13:42.637 ♪ スクープ!スクープ! ♪ 0:13:42.637,0:13:45.912 ♪ねぇママ この痛みがわかるでしょ ♪ 0:13:45.912,0:13:49.698 ♪神様 助けて[br]また先を越されちゃった ♪ 0:13:50.925,0:13:57.316 (拍手) 0:13:57.735,0:13:58.965 ありがとうございます 0:13:58.965,0:14:00.464 合いの手に感謝します 0:14:00.464,0:14:02.548 こうして皆 笑い始め[br]一息ついて 0:14:02.548,0:14:04.560 自分の周りには同じ問題を抱える 0:14:04.560,0:14:05.867 科学者がいると気づき 0:14:05.867,0:14:07.672 研究をする上で現れる 感情的 0:14:07.672,0:14:09.522 主観的なことについて話し始めます 0:14:09.522,0:14:11.706 重大なタブーが消えたように感じます 0:14:11.706,0:14:14.505 ついに 私たちは これを学会の場で[br]話せるのです 0:14:14.505,0:14:16.691 そして科学者たちはグループを作り 0:14:16.691,0:14:18.301 定期的に会って[br]学生の指導や 0:14:18.301,0:14:19.930 未知の領域へと入る時の 0:14:19.930,0:14:22.231 感情的 主観的なことについて 0:14:22.231,0:14:23.594 語り合う場を設けました 0:14:23.594,0:14:25.164 さらに科学をやる過程や 0:14:25.164,0:14:26.839 未知なる領域へ 0:14:26.839,0:14:28.734 共に入って行くことなどについての 0:14:28.734,0:14:30.150 講座まで始めました 0:14:30.150,0:14:31.484 私の展望は 0:14:31.484,0:14:34.946 科学者なら皆「原子」という言葉や[br]物質が原子からできていると 0:14:34.946,0:14:36.913 知っているように 0:14:36.913,0:14:38.397 科学者が皆「モヤモヤ」や 0:14:38.397,0:14:40.741 「Yes, and」を知り 0:14:40.741,0:14:43.820 科学が もっともっと創造性を発揮し 0:14:43.820,0:14:46.824 私たち皆のために予期せぬ発見を 0:14:46.824,0:14:49.360 どんどんして 0:14:49.360,0:14:51.576 もっと遊び心を持つようになることです 0:14:51.576,0:14:54.166 この話の中で覚えておいてほしいのは 0:14:54.166,0:14:56.862 仕事にせよ 人生にせよ 0:14:56.862,0:14:58.588 解の見つからない問題に 0:14:58.588,0:15:01.180 今度 直面した時には 0:15:01.180,0:15:03.056 この言葉を思い出すことです 0:15:03.056,0:15:04.233 「モヤモヤ」 0:15:04.233,0:15:05.766 モヤモヤは一人ではなく 0:15:05.766,0:15:07.174 誰かと共に切り抜けます 0:15:07.174,0:15:09.212 あなたの考えに「Yes, and」と言い 0:15:09.212,0:15:11.260 あなた自身も自分の考えに 0:15:11.260,0:15:13.577 「Yes, and」と言えるよう[br]助けてくれて 0:15:13.577,0:15:15.464 モヤモヤのたなびく中 0:15:15.464,0:15:17.190 あの静かな感覚に出会う可能性を 0:15:17.190,0:15:18.688 広げてくれる誰かです 0:15:18.688,0:15:20.491 その時 初めて見えてきます 0:15:20.491,0:15:23.741 あなたの予期せぬ発見 0:15:23.741,0:15:26.465 あなたにとっての「C」の兆しが 0:15:26.465,0:15:28.785 ありがとうございました 0:15:28.785,0:15:32.785 (拍手)