1 00:00:06,600 --> 00:00:09,630 1900年代初頭 クレタ島で 2 00:00:09,630 --> 00:00:12,322 イギリス人考古学者 アーサー・エヴァンス卿は 3 00:00:12,322 --> 00:00:16,662 奇妙な記号が刻まれた粘土板 およそ3千枚を発見しました 4 00:00:16,662 --> 00:00:19,432 彼はこの記号は最古のヨーロッパ文明で 5 00:00:19,432 --> 00:00:21,922 使われていた言語であると考えました 6 00:00:21,922 --> 00:00:25,442 記号はその後50年 どの学者にも 解明できませんでした 7 00:00:25,442 --> 00:00:29,213 エヴァンスがこの粘土板を発見したのは クノッソス宮殿にある 8 00:00:29,213 --> 00:00:32,853 色彩豊かなフレスコ画や 迷路のような回廊の中でした 9 00:00:32,853 --> 00:00:38,783 ギリシャ神話のミノス王にちなみ 彼はこの文明をミノア文明と名付けます 10 00:00:38,783 --> 00:00:43,339 線文字Bと名付けられたその文字は ミノア語を表したものだと考えます 11 00:00:43,339 --> 00:00:46,979 世界中の学者たちはそれぞれ 独自の仮説を打ち立てました 12 00:00:46,979 --> 00:00:49,936 エトルリア人が使っていた 消滅した言語ではないか? 13 00:00:49,936 --> 00:00:53,396 あるいはバスク語の初期の形態を 表したものかもしれない など 14 00:00:53,396 --> 00:00:57,396 エヴァンスが粘土板を公開しなかったので 謎はますます深まるばかりでした 15 00:00:57,396 --> 00:01:01,056 生存中 公開されたものは わずか2百枚にとどまりましたが 16 00:01:01,056 --> 00:01:03,356 結局エヴァンスは 解読できませんでした 17 00:01:03,356 --> 00:01:07,236 とはいえ 彼は的確な見解を 2点示していますー 18 00:01:07,236 --> 00:01:11,356 粘土板は管理帳簿であること 及び 文字は音節文字であることです 19 00:01:11,356 --> 00:01:14,508 文字は1つの子音と1つの母音の まとまりを表すものや 20 00:01:14,508 --> 00:01:18,627 1つの単語を表すものがあります [「オリーブオイル」を表す文字など] 21 00:01:18,627 --> 00:01:21,446 エヴァンスは線文字Bの研究に30年を費やし 22 00:01:21,446 --> 00:01:27,246 その後 ニューヨーク市ブルックリンの学者 アリス・コーバーがこの謎の解明を開始します 23 00:01:27,246 --> 00:01:30,446 コーバーはブルックリンカレッジの 古典学の教授で 24 00:01:30,446 --> 00:01:33,496 当時では珍しい女性教授でした 25 00:01:33,496 --> 00:01:36,896 コーバーはこの探求のため 多くの言語を学び 26 00:01:36,896 --> 00:01:40,226 線文字Bを解読するのに 必要な知識を身につけます 27 00:01:40,226 --> 00:01:43,936 それからの20年間を 線文字Bの分析に費やします 28 00:01:43,936 --> 00:01:46,436 限られた数の粘土板をもとに 29 00:01:46,436 --> 00:01:48,813 それぞれの文字が 表れる頻度を記録し 30 00:01:48,813 --> 00:01:52,974 さらに それぞれの文字が他の文字と 隣接して表れる頻度を記録しました 31 00:01:52,974 --> 00:01:56,686 発見したことを紙切れに記録し タバコのカートンに収納しました 32 00:01:56,686 --> 00:02:00,396 なぜなら 第二次世界大戦中で 物資不足だったからです 33 00:02:00,396 --> 00:02:02,156 このような頻度分析を通し 34 00:02:02,156 --> 00:02:07,146 コーバーは 線文字Bには語尾変化の 文法があることを発見します 35 00:02:07,146 --> 00:02:11,246 この発見をもとに 文字同士の 関係を示す表を作り 36 00:02:11,246 --> 00:02:15,246 線文字Bの解読にかつてない 前進を果たしたのです 37 00:02:15,246 --> 00:02:20,485 しかし 1950年 43歳で亡くなります 死因は癌と推定されています 38 00:02:20,485 --> 00:02:23,530 コーバーがクノッソスの粘土板を 分析していた同じ頃 39 00:02:23,530 --> 00:02:28,230 マイケル・ヴェントリスという建築家も 線文字Bの解読に取りくんでいます 40 00:02:28,230 --> 00:02:33,390 少年時代に エヴァンスの講演を聴き 線文字Bに強い興味を持ちました 41 00:02:33,390 --> 00:02:37,327 第二次世界大戦での従軍中にも 文字解読に勤しみます 42 00:02:37,327 --> 00:02:41,156 戦後 ヴェントリスは新たに公開された 線文字Bの粘土板をもとに 43 00:02:41,156 --> 00:02:44,216 コーバーの表を発展させます 44 00:02:44,216 --> 00:02:49,097 その粘土板はギリシア本土のピュロスという 別の遺跡で発掘されました 45 00:02:49,097 --> 00:02:54,619 大きな突破口となったのはピュロスの粘土板と クノッソスの粘土板とを照合したことでした 46 00:02:54,619 --> 00:02:59,642 一方の粘土板の一部の単語が もう一方には存在しないことを発見します 47 00:02:59,642 --> 00:03:02,582 これらの単語は それぞれの場所特有の地名を 48 00:03:02,582 --> 00:03:04,722 表しているのではないかと 考えたのです 49 00:03:04,722 --> 00:03:09,212 ヴェントリスは地名は何世紀にもわたり 変わらない傾向にあると認識していました 50 00:03:09,212 --> 00:03:10,792 そのことから 線文字Bと 51 00:03:10,792 --> 00:03:14,586 キプロス島の古代音節文字とを 照合することにします 52 00:03:14,586 --> 00:03:18,404 キプロス文字は線文字Bの何百年か後に 使用されていた文字ですが 53 00:03:18,404 --> 00:03:20,247 似た文字がいくつかあったのです 54 00:03:20,247 --> 00:03:23,346 ヴェントリスは その音も 似ているのではないかと考えます 55 00:03:23,346 --> 00:03:28,257 キプロスの音節文字の音価を 線文字Bに当てはめてみると 56 00:03:28,257 --> 00:03:30,996 クノッソスという単語が 浮かび上がって来ました 57 00:03:30,996 --> 00:03:34,416 エヴァンスが 粘土板を発掘した地名です 58 00:03:34,416 --> 00:03:37,796 ヴェントリスはドミノ式に 線文字Bを解読していきます 59 00:03:37,796 --> 00:03:40,451 単語が解読される度に 明確になっていったのは 60 00:03:40,451 --> 00:03:44,221 線文字Bがミノア語ではなく ギリシア語であるということでした 61 00:03:44,221 --> 00:03:48,460 その4年後 ヴェントリスは 34歳のとき自動車事故で亡くなります 62 00:03:48,460 --> 00:03:52,050 しかし 彼の発見により 歴史の1ページが書き換えられました 63 00:03:52,050 --> 00:03:55,619 エヴァンスはミノア人が ギリシア本土を征服したと主張し 64 00:03:55,619 --> 00:03:59,167 それゆえ線文字Bの遺物が本土でも 発見されたと主張していました 65 00:03:59,167 --> 00:04:03,130 しかし 線文字Bがミノア語ではなく ギリシア語であるということがわかり 66 00:04:03,130 --> 00:04:05,310 その反対のことが 明らかになりましたー 67 00:04:05,310 --> 00:04:10,239 本土ギリシア人がクレタ島を征服し ミノア文字を自分達の言語に借用したのです 68 00:04:10,239 --> 00:04:12,689 しかし 話はまだ そこで終わりません 69 00:04:12,689 --> 00:04:14,889 ミノア人が実際に 使用していた言語は 70 00:04:14,889 --> 00:04:17,702 線文字Aという別の文字に 表されているのです 71 00:04:17,702 --> 00:04:19,879 それはまだ 誰にも 解読されていません 72 00:04:19,879 --> 00:04:23,302 依然として謎のままです ー少なくとも今のところは