0:00:23.623,0:00:30.462
詩人であるためには[br]地獄を経験しなければならないと言われます

0:00:32.682,0:00:38.260
私がその刑務所を初めて訪れた時

0:00:38.260,0:00:45.073
南京錠の音も ドアの閉まる音も[br]独房の鉄格子の音も

0:00:45.108,0:00:49.066
その他想像していた物事全てにも[br]驚きませんでした

0:00:49.101,0:00:53.889
多分 その刑務所が[br]とても開放的な環境にあったからでしょう

0:00:54.074,0:00:56.459
空も見えて

0:00:56.494,0:01:00.072
カモメが頭上を飛ぶと[br]海のそばにいるような

0:01:00.107,0:01:03.095
ビーチ付近にいるような気がします

0:01:03.130,0:01:08.685
でも実は そのカモメたちは[br]近くのゴミ溜めに餌を探しているのですけどね

0:01:10.010,0:01:15.271
さらに中に進むと 不意に[br]廊下を横切って行く受刑者が目に入りました

0:01:16.546,0:01:21.066
その光景に私は[br]現実から一歩引いて見た時

0:01:21.101,0:01:24.685
もし 違う人生や 生い立ちや[br]巡り合わせがあったら

0:01:24.720,0:01:30.082
自分も受刑者の１人になっていた可能性は[br]大いにあり得ると思いました

0:01:30.997,0:01:36.439
なぜなら誰も そう誰も[br]生まれる場所を選べないからです

0:01:38.350,0:01:42.803
2009年に[br]あるプロジェクトに招かれ

0:01:43.063,0:01:47.910
サン・マルティン国立大学が[br]第48刑務所で運営する—

0:01:48.515,0:01:51.035
文芸創作ワークショップを任せられました

0:01:51.600,0:01:58.530
刑務所の端にある一角が提供され

0:01:58.565,0:02:03.267
そこに大学のセンターが建ちました

0:02:04.722,0:02:07.230
初めて受刑者たちと話した時

0:02:07.265,0:02:10.775
なぜ文芸創作ワークショップを[br]受けたいのか尋ねてみました

0:02:10.810,0:02:14.356
すると 言いたいけど言えない事や[br]やりたいけどできない事を

0:02:14.391,0:02:18.707
全て紙に書き留めたいのだという[br]答えが返ってきました

0:02:19.572,0:02:24.209
すぐさま私はこの刑務所に[br]詩の世界を紹介しようと心に決めました

0:02:25.894,0:02:30.009
そして こう提案しました[br]「もし詩というものをご存知なら

0:02:30.044,0:02:31.750
一緒に書きましょう」

0:02:31.785,0:02:36.777
だけど 詩というものが実際何なのか[br]知っている人はいませんでした

0:02:39.062,0:02:43.281
受刑者たちからも提案がありました[br]「大学講義を受けている受刑者に限らず

0:02:43.281,0:02:45.800
受刑者全員がこのワークショップを

0:02:45.800,0:02:48.396
受けられるようにするべきだ」

0:02:49.021,0:02:53.113
そこで私は[br]「このワークショップを始めるためには

0:02:53.148,0:02:56.550
全員に共通するツールをを見つけなくては」[br]と言いました

0:02:56.565,0:02:59.471
そのツールとは「言葉」でした

0:02:59.501,0:03:04.688
言葉は持っているし ワークショップもある[br]詩も作れるだろうと思ったのです

0:03:05.673,0:03:11.494
しかし計算外だったのは 世の中の不平等が[br]刑務所内にも存在することでした

0:03:11.504,0:03:16.275
多くの受刑者は高校さえ出ていません

0:03:16.730,0:03:21.575
多くが筆記体を使えず[br]活字体もやっとです

0:03:23.920,0:03:27.767
スラスラと書くこともできません

0:03:27.777,0:03:35.336
そこで私たちは短い詩から始めました[br]とても短くて とても力強い詩

0:03:35.371,0:03:38.977
１人の詩人 そして次の詩人へと[br]作品を読み進めました

0:03:39.012,0:03:44.812
短い詩を読んでいると[br]詩的な表現とは

0:03:44.847,0:03:47.519
ロジックを壊して[br]新たなシステムを作ることだと

0:03:47.554,0:03:51.004
全員が気づき始めます

0:03:51.039,0:03:54.768
ロジックを壊すことは[br]自分たちがそれまで

0:03:54.803,0:03:58.215
刷り込まれてきたシステムを[br]崩すことにもなります

0:03:58.790,0:04:04.303
こうして 新たなシステムが出現し[br]新たな文法が生まれ

0:04:04.328,0:04:09.628
理解がとても速くなりました[br]本当に速くなったのです

0:04:09.663,0:04:15.761
詩的表現を使えば言いたいことが何であっても[br]確実に表現することができるのです

0:04:19.732,0:04:25.030
詩人であるためには[br]地獄を経験しなければならないと言われます

0:04:26.275,0:04:30.354
受刑者たちは[br]沢山の地獄を経験しています

0:04:30.739,0:04:35.199
ある受刑者が こう発表しました[br]「刑務所の中で眠ることはない

0:04:35.234,0:04:39.526
牢屋の中では絶対に眠れない[br]まぶたを閉じるなんて永遠にできない」

0:04:41.041,0:04:46.147
そこで 私は受刑者たちの前で[br]このように少し黙り

0:04:46.182,0:04:52.179
そして こう言いました[br]「皆さん それが詩というものです

0:04:52.754,0:04:58.314
これが皆さんを取り巻く[br]刑務所の世界です

0:04:58.349,0:05:00.364
“眠ることはない”と語ること

0:05:00.399,0:05:06.836
そのものから恐怖がにじみ出ています[br]書かれていないもの全てが詩と言えるのです」

0:05:08.271,0:05:12.506
そして私たちは[br]その地獄を利用することから始めました

0:05:12.541,0:05:16.034
ダンテの詩に登場する[br]「暴力者の地獄」へ飛び込んだのです

0:05:16.069,0:05:20.012
自ら慣れ親しんできた[br]その地獄の谷で

0:05:20.047,0:05:24.709
受刑者たちは 詩の世界なら[br]壁を消し去ることも

0:05:24.744,0:05:28.691
窓が話をするようになるようにも[br]影の中に隠れたりもできるのだと学びました

0:05:32.287,0:05:36.639
ワークショップの初年度が終了した時

0:05:36.674,0:05:38.972
私たちは小さな修了式を開きました

0:05:39.007,0:05:42.322
大好きな仕事が終わった時に

0:05:42.357,0:05:44.700
お祝いに打ち上げをやるようなものです

0:05:44.701,0:05:49.719
家族や友人たちや[br]大学関係者を呼んで

0:05:49.749,0:05:53.741
受刑者たちが詩を読み

0:05:53.776,0:05:58.714
修了証書と拍手をもらうだけの[br]とてもシンプルな式でした

0:06:00.639,0:06:08.878
今日 帰る前に ただ１つお伝えしたいのは[br]その時のことです

0:06:09.978,0:06:14.454
私の横に立つ受刑者たちは[br]なかには大男もいれば

0:06:14.489,0:06:19.930
非常に年若く しかし[br]とても自意識の強い者まで様々でしたが

0:06:19.965,0:06:25.523
誰もが手に紙を握り[br]小さい子のように震え 汗をかきながら

0:06:25.558,0:06:30.847
自分の詩を[br]ひどくかすれた声で読みました

0:06:32.732,0:06:39.323
その時 強く思ったことがあります[br]彼らのほとんどにとって

0:06:39.708,0:06:46.054
何かをやり遂げて拍手をもらうのは[br]これが初めてのはずだと思ったのです

0:06:49.109,0:06:52.372
刑務所の中では[br]できない物事があります

0:06:52.957,0:06:57.588
刑務所の中で 夢は見れません[br]刑務所の中で 泣くこともできません

0:06:57.758,0:07:02.867
「時間」や「未来」や「願い」[br]などの言葉は

0:07:02.902,0:07:06.436
事実上 禁句なのです

0:07:07.781,0:07:12.622
それでも私たちは あえて夢を見ました[br]それも大きな夢です

0:07:12.927,0:07:17.776
受刑者たちに[br]本を書いてもらうことにしたのです

0:07:17.801,0:07:21.996
ただ本を書くのではなく[br]自分たちで製本するというものです

0:07:22.071,0:07:24.172
2010年末のことでした

0:07:25.107,0:07:29.781
その後 私たちは[br]本をもう１冊出すという賭けに出ました

0:07:29.781,0:07:31.485
この本も自分たちで製本しました

0:07:31.485,0:07:34.229
そっちは つい最近で[br]昨年末のことです

0:07:37.234,0:07:43.925
週を追うごとに 目に見えて[br]受刑者たちが別の人間になっていきます

0:07:44.735,0:07:46.859
別人に生まれ変わっていくのです

0:07:47.324,0:07:51.826
言葉が それまで味わったこともなく[br]想像さえできなかった「尊厳」を与え

0:07:51.856,0:07:54.134
受刑者たちを力づけているのです

0:07:54.134,0:07:58.595
それまでは自分たちに尊厳があるなんて[br]思ってもみなかったのですからね

0:07:59.700,0:08:05.102
ワークショップ中は 全員お馴染みの[br]地獄の中で誰もが何かを提供します

0:08:05.632,0:08:09.442
手と心を開き[br]自分たちにあるものや

0:08:09.477,0:08:12.026
できることを提供します

0:08:12.026,0:08:13.783
誰もが全員 平等にです

0:08:13.818,0:08:18.346
こうすることで誰もが[br]少なくとも 少しでも

0:08:18.381,0:08:23.001
自分たちの多くが 刑務所に[br]行き着いてしまう元凶である—

0:08:23.236,0:08:29.943
「社会の巨大なほころび」を[br]修復していると感じられるのです

0:08:32.558,0:08:38.551
第48刑務所でのワークショップで[br]非常に優れた詩人が作った詩が

0:08:38.996,0:08:44.860
記憶に残っています[br]ニコラス・ドラドという受刑者です

0:08:48.795,0:08:55.180
「この巨大な傷口を縫うには[br]無限の糸が必要になるだろう」

0:08:55.825,0:09:01.209
社会から疎外されるという「傷」を[br]繕ってくれるのが詩です

0:09:01.714,0:09:07.382
詩の世界は様々な物事への扉を開き[br]鏡のような役割を果たします

0:09:07.417,0:09:09.772
詩という鏡を作り出します

0:09:09.807,0:09:15.396
そこに映る自分の姿を確認し[br]詩に映し出される自分を観察し

0:09:15.396,0:09:18.506
自分が何者なのかを書き[br]書いたものが自分自身を形作ります

0:09:19.386,0:09:25.528
書くためには 書くことが可能になる時間を[br]最大活用する必要があります

0:09:25.563,0:09:29.355
書いている時に経験する自由は[br]桁違いですからね

0:09:29.650,0:09:32.648
自分の頭の中を探らねばなりません

0:09:32.683,0:09:37.414
創作中には絶対に奪われることのない[br]わずかな自由を探すわけです

0:09:37.449,0:09:41.255
刑務所の中でさえ自由になれるということに[br]気づくことは有意義です

0:09:41.290,0:09:45.718
自分が過ごすこの素晴らしい空間に[br]存在する鉄格子は

0:09:45.923,0:09:50.361
「鉄格子」という言葉でしかないことや

0:09:50.586,0:09:54.659
その言葉の芯に光を灯す時[br]この地獄にいる私たち全員が

0:09:54.694,0:09:57.729
幸せに身を焦がすのだと[br]気づくことに意味があるのです

0:09:58.704,0:10:01.704
（拍手）

0:10:25.663,0:10:32.007
さて ここまで 刑務所についてや[br]毎週 私が経験している事について

0:10:32.042,0:10:36.648
どれだけ私が楽しみ 受刑者と共に[br]変わっていっているか沢山お話ししました

0:10:36.683,0:10:42.388
でも実際に 私が毎週[br]楽しんでいることや

0:10:42.423,0:10:46.069
現在の私をいう人間を作ってくれたものを[br]皆さんが少しの間でも

0:10:46.104,0:10:50.104
リアルな体験として感じられたらと[br]願ってやみません

0:10:53.151,0:10:56.151
（拍手）

0:11:01.798,0:11:06.429
（マルティン・ブフタマンテ）[br]「時間が流す涙を心が噛み砕く

0:11:06.464,0:11:09.296
光に目が眩み

0:11:09.331,0:11:12.706
存在のスピードを隠してしまう

0:11:12.741,0:11:14.364
そこには悠然と進む光景がある

0:11:14.399,0:11:17.787
心は葛藤し しかし持ちこたえる

0:11:17.822,0:11:21.519
悲しい目で見つめられ[br]心にひびが入り

0:11:21.554,0:11:24.187
炎を広げる嵐に乗って

0:11:24.582,0:11:28.131
恥ずかしさでしぼんだ胸を張る

0:11:28.166,0:11:31.577
ただ朗読し続けるだけが[br]手段ではないと知っており

0:11:31.612,0:11:35.362
終わりのない青を望んでもいる

0:11:35.377,0:11:38.645
心は腰を落ち着けて[br]あれこれと考えを巡らせ

0:11:38.680,0:11:41.847
平凡であることを[br]避けようと葛藤したり

0:11:41.882,0:11:45.270
傷つくことなく愛そうとする

0:11:45.305,0:11:49.003
太陽を吸って[br]勇気を吐き出し

0:11:49.003,0:11:53.021
屈服し[br]道理を求めて旅をする

0:11:53.021,0:11:56.354
心は沼地の中で戦い

0:11:56.354,0:11:58.529
地獄をつな渡りする

0:11:59.354,0:12:02.731
疲れ果てても[br]安易さの誘惑には負けず

0:12:03.716,0:12:06.100
酩酊というガタガタの階段を歩き

0:12:06.275,0:12:07.727
目を覚まし

0:12:07.772,0:12:09.392
静寂を覚ます」

0:12:09.752,0:12:11.586
俺はマルティン・ブフタマンテ

0:12:12.116,0:12:15.464
サン・マルティンの第48刑務所の[br]囚人です

0:12:15.649,0:12:18.192
今日は仮釈放の日です

0:12:18.507,0:12:20.774
詩と文学は[br]俺の人生を変えてくれました

0:12:20.774,0:12:22.255
詩と文学は[br]俺の人生を変えてくれました

0:12:22.255,0:12:23.665
本当にありがとう！[br]（拍手）

0:12:23.665,0:12:25.495
（クリスティーナ・ドメネック）[br]ありがとう！

0:12:25.495,0:12:27.295
（拍手）