WEBVTT

00:00:01.016 --> 00:00:03.839
恐竜がどのように滅んだのか
皆さんご存知ですね

00:00:04.285 --> 00:00:06.250
これから私がするお話は

00:00:06.250 --> 00:00:10.874
恐竜が絶滅する２億年ほど前のことです

00:00:11.481 --> 00:00:14.379
物語の始まりは

00:00:14.379 --> 00:00:17.009
恐竜が現れた時です

00:00:17.269 --> 00:00:20.177
進化生物学における
大きな謎の１つは

00:00:20.177 --> 00:00:23.556
なぜ恐竜はあんなに繁栄できたのか
ということです

00:00:23.556 --> 00:00:27.384
長きにわたって地球に君臨できたのは
なぜなのでしょう

00:00:27.896 --> 00:00:31.288
恐竜のすごさの理由を考えるとき

00:00:31.288 --> 00:00:35.201
多くの人が思い浮かべるのは
一番大きな恐竜や 小さな恐竜

00:00:35.201 --> 00:00:36.724
すばしっこい恐竜

00:00:36.724 --> 00:00:38.316
羽毛の多い恐竜

00:00:38.316 --> 00:00:41.732
すごく変わったヨロイやトゲや牙を
持った恐竜のことです

00:00:42.126 --> 00:00:46.122
しかし 答えは恐竜の体の内部構造に
あったのかもしれません

00:00:46.122 --> 00:00:48.451
言うなれば「秘密兵器」です

00:00:48.716 --> 00:00:52.740
私の研究仲間は
それが肺であったと考えています

NOTE Paragraph

00:00:53.149 --> 00:00:57.415
古生物学者であり
比較解剖学者でもある私が

00:00:57.415 --> 00:00:59.429
興味を持ち 解明しようとしているのは

00:00:59.429 --> 00:01:03.341
恐竜の独特な肺が 地球を支配するのに
どう役立ったのか ということです

00:01:03.797 --> 00:01:06.110
２億年以上前の

00:01:06.110 --> 00:01:09.287
三畳紀まで時を戻しましょう

00:01:09.287 --> 00:01:11.732
生物を取り巻く環境は
過酷なものでした

00:01:11.732 --> 00:01:13.367
花を咲かせる植物はなく

00:01:13.367 --> 00:01:15.646
草も存在しなかった
ということです

00:01:15.646 --> 00:01:20.196
マツやシダ類で覆われた大地を
想像してください

00:01:20.587 --> 00:01:24.052
当時生息していたのは
小さなトカゲや

00:01:24.052 --> 00:01:26.467
哺乳類や昆虫

00:01:26.467 --> 00:01:30.805
肉食性や草食性の爬虫類で

00:01:30.805 --> 00:01:33.507
限られた食料をめぐって
競い合っていました

NOTE Paragraph

00:01:33.507 --> 00:01:35.181
この話に欠かすことができないのが

00:01:35.181 --> 00:01:40.359
大気中の酸素濃度が
15％と推定され

00:01:40.359 --> 00:01:42.901
現在の21％より
ずっと低かったことです

00:01:42.901 --> 00:01:46.161
恐竜にとって極めて重要だったのは

00:01:46.161 --> 00:01:48.430
この低酸素の環境で
呼吸しつつ

00:01:48.430 --> 00:01:50.309
生存するだけでなく

00:01:50.309 --> 00:01:53.322
繁栄し 多様化するということでした

NOTE Paragraph

00:01:54.462 --> 00:01:57.571
では 恐竜の肺がどうなっていたかは
どうすれば分かるのでしょうか？

00:01:57.571 --> 00:02:02.807
残された手掛かりは 
化石化した骨格だけなのです

00:02:03.257 --> 00:02:08.778
私たちが使う手法は 
「現生系統ブラケッティング法」で

00:02:09.085 --> 00:02:13.088
難しく聞こえますが
生物の構造を調べる手法です

00:02:13.088 --> 00:02:16.742
今回のケースでは
特に肺と骨格に着目し

00:02:16.742 --> 00:02:21.140
系統図上の現存する
恐竜の子孫を調べます

00:02:21.235 --> 00:02:24.211
我々が注目するのは
鳥類の体の構造です

00:02:24.211 --> 00:02:27.093
鳥類は
恐竜の直接の子孫と言えます

00:02:27.093 --> 00:02:29.466
それからワニ類です

00:02:29.466 --> 00:02:31.441
現存する生物の中で
最も近い親戚です

00:02:31.441 --> 00:02:34.455
そしてさらに
トカゲと亀が続きます

00:02:34.455 --> 00:02:37.084
恐竜のいとことも
呼べる存在です

00:02:37.084 --> 00:02:40.641
これらの生き物の体の構造を
恐竜の化石に照らし合わせることで

00:02:40.641 --> 00:02:44.131
恐竜の肺の構造を
再構成できます

00:02:44.131 --> 00:02:46.279
この例で言うと

00:02:46.279 --> 00:02:51.205
骨格が恐竜と最も似ているのは
現代の鳥類です

NOTE Paragraph

00:02:51.696 --> 00:02:56.329
恐竜は当時 初期の哺乳類と
生存競争していたので

00:02:56.329 --> 00:03:00.226
哺乳類の肺の基本的なしくみを
知っておくことが大切です

00:03:00.597 --> 00:03:03.443
一般的な肺の構造を
理解するために

00:03:03.443 --> 00:03:06.102
私の愛犬
トロイアのミラを使いましょう

00:03:06.102 --> 00:03:08.102
千のおやつを招く顔の

00:03:08.102 --> 00:03:09.447
私たちのモデルです

NOTE Paragraph

00:03:09.447 --> 00:03:11.016
（笑）

NOTE Paragraph

00:03:11.016 --> 00:03:14.776
胸の内部にある空間が
舞台となります

00:03:14.776 --> 00:03:17.997
犬の肋骨を思い描いてください

00:03:17.997 --> 00:03:20.478
ここで脊柱は

00:03:20.478 --> 00:03:23.771
地面に対して完全に
平行になっています

00:03:23.771 --> 00:03:28.330
今から話に出てくる動物の脊柱は
みんなそうです

00:03:28.330 --> 00:03:29.989
二足歩行であれ

00:03:29.989 --> 00:03:31.349
四足歩行であれ

NOTE Paragraph

00:03:31.349 --> 00:03:36.224
想像上の肋骨の内側に入り
上を見て下さい

00:03:36.944 --> 00:03:39.541
これが胸郭の天井です

00:03:39.541 --> 00:03:46.121
肺の上部が 肋骨や脊椎に
直接触れる部分です

00:03:46.374 --> 00:03:50.439
両者が交わるこの部分が
今からの話の舞台です

00:03:50.439 --> 00:03:53.445
まず 犬の肺を
思い浮かべて下さい

00:03:53.445 --> 00:03:56.657
肺の外側は
空気で膨らむ大きな袋のようです

00:03:56.657 --> 00:04:00.092
息を吸うと
袋のすべての部分が膨らみ

00:04:00.092 --> 00:04:02.589
息を吐くと縮みます

00:04:02.589 --> 00:04:05.917
袋の中には
枝分かれした管があり

00:04:05.917 --> 00:04:08.794
「気管支樹」と言います

00:04:08.899 --> 00:04:15.026
吸い込んだ酸素は
この管を通って肺胞まで運ばれ

00:04:15.026 --> 00:04:20.541
薄い膜を通って
血液の中へと拡散されます

NOTE Paragraph

00:04:20.541 --> 00:04:22.943
重要なのはここです

00:04:23.440 --> 00:04:26.972
哺乳類の肺は 全体が動きます

00:04:26.972 --> 00:04:31.979
呼吸をしている間 ずっと
肺は動いていて

00:04:31.979 --> 00:04:35.040
そのため この血液空気関門という膜は

00:04:35.040 --> 00:04:37.648
薄すぎると破れてしまいます

00:04:37.648 --> 00:04:41.594
血液空気関門のことは 
また出てくるので 覚えていてください

NOTE Paragraph

00:04:41.721 --> 00:04:43.218
ついて来れてますか？

00:04:43.218 --> 00:04:45.870
次は鳥類の話をしますが 
本当にすごいことになるので

00:04:45.870 --> 00:04:47.334
覚悟してください

00:04:47.334 --> 00:04:48.951
（笑）

00:04:49.648 --> 00:04:53.171
鳥類は哺乳類とは
全く異なります

00:04:53.495 --> 00:04:55.900
鳥類をモデルにして

00:04:55.900 --> 00:04:58.385
恐竜の肺を再構成してみます

NOTE Paragraph

00:04:58.385 --> 00:04:59.943
鳥の体内では

00:04:59.943 --> 00:05:04.426
空気は肺を通りますが
肺は伸縮しません

00:05:04.707 --> 00:05:10.333
動かない 密度の高いスポンジのようで
柔軟性はなく

00:05:10.333 --> 00:05:17.844
上と横は肋骨で 下は水平な膜で
固定されています

00:05:18.300 --> 00:05:21.398
空気の流れは一定方向で

00:05:21.398 --> 00:05:25.426
柔軟な袋状のものを使って
換気しています

00:05:25.426 --> 00:05:28.222
この袋は 気管支樹から枝分かれして

00:05:28.222 --> 00:05:29.834
肺の先にあり

00:05:29.834 --> 00:05:32.110
気嚢と呼ばれています

NOTE Paragraph

00:05:32.249 --> 00:05:36.268
この非常にデリケートな
造りの全体が

00:05:36.268 --> 00:05:43.561
胸郭の天井に沿って連なる
フォーク状の肋骨で固定されています

00:05:43.561 --> 00:05:46.544
また 多くの鳥類の体内では

00:05:46.544 --> 00:05:50.685
肺や気嚢から伸び出した組織が

00:05:50.685 --> 00:05:53.380
骨組織にまで入り込んでいて

00:05:53.380 --> 00:05:56.090
通常は脊椎
時には肋骨にまで伸び

00:05:56.090 --> 00:05:59.093
呼吸器官をしっかりと固定します

00:05:59.093 --> 00:06:02.486
これを「脊椎中空性」と言います

00:06:02.486 --> 00:06:05.692
分岐した肋骨と 脊椎中空性

00:06:05.692 --> 00:06:09.340
この２つの手がかりを
化石の中に探してみましょう

00:06:09.340 --> 00:06:11.906
骨格にこれらの形質があれば

00:06:11.906 --> 00:06:15.391
恐竜の呼吸器官の部位が

00:06:15.391 --> 00:06:18.537
動かなかったことが分かります

NOTE Paragraph

00:06:21.200 --> 00:06:23.818
呼吸器官が固定されることにより

00:06:23.818 --> 00:06:27.749
血液空気関門が薄くなるという
進化が促進されました

00:06:27.749 --> 00:06:34.119
あの酸素を血流中に拡散する
薄い膜のことです

00:06:34.746 --> 00:06:37.627
動かないので 薄くてもよくなりました

00:06:37.627 --> 00:06:47.504
薄い 弱い膜だと 哺乳類の肺のように
呼吸の度に動けば 破れてしまいます

NOTE Paragraph

00:06:48.056 --> 00:06:49.648
なぜ それを気にかけるのか？

00:06:49.648 --> 00:06:51.659
そもそも重要なことなのか？

00:06:52.083 --> 00:06:56.713
膜が薄いほど 酸素は
拡散しやすくなります

00:06:57.536 --> 00:07:04.089
膜を薄くすると
呼吸し易くなるのです

00:07:04.089 --> 00:07:05.999
酸素が薄くても

00:07:05.999 --> 00:07:10.727
三畳紀のような
酸素が薄い環境であっても

00:07:11.425 --> 00:07:16.089
恐竜達が実際に
このような肺を備えていたとすれば

00:07:16.089 --> 00:07:20.223
他のどの動物よりも
呼吸において有利だったでしょう

00:07:20.223 --> 00:07:22.539
哺乳類もかないません

NOTE Paragraph

00:07:22.851 --> 00:07:26.478
「現生系統ブラケッティング法」は
覚えていますか

00:07:26.478 --> 00:07:29.338
現存している動物の構造を

00:07:29.338 --> 00:07:31.940
恐竜の化石に照らし合わせる方法でしたね

00:07:31.940 --> 00:07:36.826
最初の手掛かりは 現在の鳥類に
見られる分岐した肋骨ですが

00:07:36.826 --> 00:07:41.371
大半の恐竜は
肋骨が分岐していました

00:07:41.734 --> 00:07:46.543
つまり
恐竜の肺の上面部は

00:07:46.543 --> 00:07:48.881
しっかりと固定されていた
ということです

00:07:48.881 --> 00:07:51.857
現在の鳥類と同様に

NOTE Paragraph

00:07:51.857 --> 00:07:55.418
次の手掛かりは「脊椎中空性」ですが

00:07:55.418 --> 00:08:00.249
こちらは竜脚類と
獣脚竜に見られます

00:08:00.249 --> 00:08:03.548
後者は肉食性の恐竜を含み

00:08:03.548 --> 00:08:06.045
鳥類の祖先にあたります

00:08:06.250 --> 00:08:11.398
恐竜の肺組織の化石が
見つからなくとも

00:08:11.398 --> 00:08:16.174
「脊椎中空性」は生きた恐竜の肺が
どういうものだったのかを

00:08:16.174 --> 00:08:18.638
教えてくれます

00:08:19.211 --> 00:08:24.568
肺組織や気嚢は
脊椎にまで入り込み

00:08:24.568 --> 00:08:27.284
現在の鳥類のような
空洞を作り出し

00:08:27.284 --> 00:08:31.180
呼吸器官をしっかりと固定し

00:08:31.180 --> 00:08:33.434
動かないようにしたのです

00:08:34.138 --> 00:08:35.935
分岐した肋骨と

00:08:35.935 --> 00:08:38.803
脊椎中空性の２つが合わさって

00:08:38.803 --> 00:08:43.734
動かない固い枠を作り出し

00:08:43.734 --> 00:08:46.700
呼吸器官を固定することで

00:08:46.700 --> 00:08:52.498
ごく薄い繊細な血液空気関門が
進化することを可能にし

00:08:52.498 --> 00:08:55.378
これは現在の鳥類に
受け継がれています

NOTE Paragraph

00:08:55.378 --> 00:08:59.008
恐竜の この固定された
肺の痕跡は

00:08:59.008 --> 00:09:02.654
そういう肺の進化が
可能だったことを示しています

00:09:02.654 --> 00:09:09.327
三畳紀のような低酸素の大気中でも
よく呼吸が出来る肺です

00:09:09.981 --> 00:09:14.370
恐竜の この固定された
骨格構造は

00:09:14.370 --> 00:09:20.597
他の動物 特に哺乳類と比べて
適応上の大きな利点になりました

00:09:20.597 --> 00:09:27.282
動く肺では 三畳紀の低酸素には
うまく適応できなかったのです

00:09:27.664 --> 00:09:32.746
この体の構造こそが
恐竜の隠れた武器だったのかもしれません

00:09:32.746 --> 00:09:36.040
他のどんな動物にも勝る武器です

00:09:36.040 --> 00:09:38.912
これを素晴らしい
取っ掛かりとして

00:09:38.912 --> 00:09:43.844
恐竜の多様化の仮説を
検証していくことが出来ます

NOTE Paragraph

00:09:43.844 --> 00:09:47.800
これは 恐竜の起源の物語ですが

00:09:47.800 --> 00:09:52.813
この分野の研究の物語の
始まりに過ぎないのです

NOTE Paragraph

00:09:52.932 --> 00:09:54.136
ありがとうございました

NOTE Paragraph

00:09:54.136 --> 00:09:57.109
（拍手）