0:00:06.957,0:00:13.088
チベット高原は[br]海抜約4,500メートルのところにあり

0:00:13.088,0:00:17.058
酸素含有量は平地のわずか60％に過ぎません

0:00:17.058,0:00:21.390
旅行客や移住者が高山病と闘う一方で

0:00:21.390,0:00:24.749
土着のチベット人は[br]駆けるように山を登ります

0:00:24.749,0:00:27.860
トレーニングや練習によって[br]この能力を得たのではなく

0:00:27.860,0:00:31.590
いくつかの遺伝子が変異した結果

0:00:31.590,0:00:34.720
限られた酸素を最大限に[br]活用できるようになったのです

0:00:34.720,0:00:37.660
遺伝子変異による違いは[br]誕生時から明らかで

0:00:37.660,0:00:41.510
チベット人の赤ん坊は 平均して[br]出生時体重がより重く

0:00:41.510,0:00:43.690
血中酸素飽和度がより高く

0:00:43.690,0:00:49.400
この環境で生まれた他の種族の赤ん坊より[br]生き残る可能性がはるかに高いです

0:00:49.400,0:00:52.840
これらの遺伝的変化は 推定によると

0:00:52.840,0:00:57.167
過去３千年ぐらいにわたる進化で[br]現在も進行中です

0:00:57.167,0:00:59.364
長い期間だと思うかもしれませんが

0:00:59.364,0:01:05.737
人類の進化の中で[br]最も速い適応になるでしょう

0:01:05.737,0:01:08.857
人類の進化が終わっていないことは確かです

0:01:08.857,0:01:10.937
では最近の変化では他に何があるでしょう？

0:01:10.937,0:01:16.562
技術や科学の革新は[br]私たちの進化に影響を与えるでしょうか？

0:01:16.562,0:01:18.462
過去数千年で

0:01:18.462,0:01:23.345
多くの集団が現地の環境に適応するために[br]遺伝的に進化してきました

0:01:23.345,0:01:29.943
シベリアと北極圏の高緯度地域の人々は[br]極寒で生き残るため独自の適応をしてきました

0:01:29.943,0:01:32.013
彼らは凍傷にかかりにくく

0:01:32.013,0:01:38.517
他の種族よりはるかに長い間[br]氷点下の気温で手を使い続けられます

0:01:38.517,0:01:41.817
体の熱生産量を増すために[br]より高い新陳代謝率をもつ者が

0:01:41.817,0:01:44.737
生き残ってきたためです

0:01:44.737,0:01:50.418
さらに南の 東南アジアのバジャウ族は[br]水中に70メートル潜り

0:01:50.418,0:01:54.418
ほぼ15分間とどまることができます

0:01:54.418,0:01:58.301
海で狩猟する遊牧民として[br]何千年も暮らしてきた間に

0:01:58.301,0:02:05.282
遺伝的に酸素貯蔵庫として機能する[br]並外れて大きな脾臓を持つようになり

0:02:05.282,0:02:08.522
水中により長く[br]とどまれるようになりました

0:02:08.522,0:02:13.482
これは深海へ潜水する[br]アザラシと同様の適応です

0:02:13.482,0:02:16.232
それに比べれば 面白くないですが

0:02:16.232,0:02:20.009
牛乳を飲む能力も[br]また別の そのような適応といえます

0:02:20.009,0:02:23.159
すべての哺乳類は赤ん坊として[br]母乳を飲むことができますが

0:02:23.159,0:02:28.128
離乳後は 母乳の消化を可能にする[br]遺伝子のスイッチを「オフ」にします

0:02:28.128,0:02:33.374
しかしサハラ砂漠以南のアフリカ[br]中東および北西ヨーロッパのコミュニティでは

0:02:33.374,0:02:38.324
乳を搾る目的で牛を飼育していたところ[br]過去７～ ８千年にわたり

0:02:38.324,0:02:44.206
遺伝子スイッチが「オフ」になるのを防ぐ[br]遺伝子変異体が急速に増加してきました

0:02:44.206,0:02:48.876
少なくともヨーロッパでは 牛乳は人間に[br]カルシウムを供給してきたのかもしれません

0:02:48.876,0:02:53.016
これはビタミンDの体内生産補助のためで[br]彼らが北に移動したことにより

0:02:53.016,0:02:56.769
ビタミンDの通常の供給源である[br]日光に当たる機会が減少したからです

0:02:56.769,0:02:59.207
必ずしも明らかな方法でとは限りませんが

0:02:59.207,0:03:04.223
これらすべての変化は人々が生殖年齢まで[br]生き残るチャンスを高めます

0:03:04.223,0:03:10.149
これこそが 自然淘汰という [br]進化の背後にある力を推進しているのです

0:03:10.149,0:03:13.507
現代医学は[br]これら自然淘汰を進める力の多くを

0:03:13.507,0:03:16.207
淘汰されるはずの命を[br]生かすことで退けます

0:03:16.207,0:03:19.394
時には 遺伝子が感染症と一緒になって[br]宿主を殺すところを

0:03:19.394,0:03:20.667
医学が救うのです

0:03:20.667,0:03:25.057
抗生物質 ワクチン[br]きれいな水と よい衛生状態等のすべてが

0:03:25.057,0:03:28.893
私たちの遺伝子の違いの[br]重要性を低くします

0:03:28.893,0:03:32.424
同様に 私たちの小児癌の治療能力や

0:03:32.424,0:03:36.690
炎症を起こした虫垂の切除や

0:03:36.690,0:03:41.223
そして命に関わる妊婦特有の病気にかかった[br]母親の出産 —

0:03:41.223,0:03:46.014
それらすべてがより多くの人々を[br]生殖年齢まで生き延びさせ

0:03:46.014,0:03:48.144
自然淘汰の流れを遮る傾向があります

0:03:48.144,0:03:52.272
しかしたとえ地球上のすべての人が[br]現代医学の恩恵を受けたとしても

0:03:52.272,0:03:55.246
人類の進化が終わるという[br]意味ではありません

0:03:55.246,0:04:00.192
進化には自然淘汰に加えて[br]他の側面もあるからです

0:04:00.192,0:04:02.452
現代医学の力は遺伝子変異体を

0:04:02.452,0:04:05.692
自然淘汰によって[br]ふるい落とされる対象から

0:04:05.692,0:04:09.756
「遺伝的浮動」と呼ばれる対象にします

0:04:09.756,0:04:14.902
「遺伝的浮動」では 遺伝子の差異は[br]母集団内でランダムに変化します

0:04:14.902,0:04:19.970
現代医学は実際 遺伝子レベルにおける[br]多様性を高めるのかもしれません

0:04:19.970,0:04:24.270
医学の介入で 有害な突然変異が [br]宿主を殺さなくなり 排除されないからです

0:04:24.270,0:04:29.315
しかし この遺伝子の多様性は必ずしも[br]「表現型」つまり観察可能な

0:04:29.315,0:04:32.499
人々の間の相違として表れるとは限りません

0:04:32.499,0:04:36.252
研究者たちは 遺伝的適応が特定の環境下で

0:04:36.252,0:04:40.589
非常に速く起きる可能性があるかどうか[br]調べています —

0:04:40.589,0:04:44.408
遺伝子そのものは変化しませんが[br]「エピジェネティック修飾」という

0:04:44.408,0:04:48.685
特定の遺伝子の発現 および[br]その発現時期によりもたらされる適応です

0:04:48.685,0:04:51.409
これらの変化は[br]一生の間に生じる可能性があり

0:04:51.409,0:04:54.030
子孫に受け継がれる可能性すらありますが

0:04:54.030,0:04:58.780
これまでのところ研究者たちは[br]エピジェネティック修飾が

0:04:58.780,0:05:02.296
本当に何世代にもわたり[br]持続可能かどうか

0:05:02.296,0:05:06.550
および母集団の中の永続的な変化に[br]つながるかどうかで対立しています

0:05:06.550,0:05:10.302
人類の進化には他にも[br]寄与しているものがあるかもしれません

0:05:10.302,0:05:13.139
現代医学と科学技術は[br]人類史上ではごく最近のもので

0:05:13.139,0:05:17.420
自然淘汰による最もスピードの速い[br]直近の変化と比べても新しいのです

0:05:17.420,0:05:22.307
ですから現在がどのように私たちの未来を[br]形作るかは 時が経たないと分かりません