WEBVTT 00:00:06.819 --> 00:00:13.382 1920年1月17日 武装した6人の男が シカゴの貨物列車に強盗に入りました 00:00:13.382 --> 00:00:15.756 強盗たちのお目当ては お金ではありませんでした 00:00:15.756 --> 00:00:20.433 全米でアルコールが禁止されてから 1時間足らずの出来事で 00:00:20.433 --> 00:00:24.788 強盗たちは 数千ドル相当の ウィスキーを持って逃走しました 00:00:24.788 --> 00:00:30.038 禁酒法が引き起こした初めての 予想外の結果でした NOTE Paragraph 00:00:30.038 --> 00:00:34.979 全米でアルコールの 製造と販売が禁止されたのは 00:00:34.979 --> 00:00:37.669 ロシアで 第一次大戦中の 施策として始まった 00:00:37.669 --> 00:00:41.199 同様の禁酒令に倣ったものでした 00:00:41.199 --> 00:00:43.989 けれども 西洋社会においては 00:00:43.989 --> 00:00:48.370 アルコールが社会悪の最大の要因との考えは もっと古くから存在しました 00:00:48.370 --> 00:00:51.870 この考え方に最初に勢いがついたのは 産業革命期のことでした 00:00:51.870 --> 00:00:54.750 労働者らは 仕事を求め 新たに都市部に押し寄せ 00:00:54.750 --> 00:00:57.710 男性は酒場に集い 酒を飲みました NOTE Paragraph 00:00:57.710 --> 00:01:01.855 19世紀に入る頃には「禁酒運動」 と呼ばれる飲酒に反対する団体が 00:01:01.855 --> 00:01:05.735 米国ならびにヨーロッパの一部で 台頭しはじめました 00:01:05.735 --> 00:01:09.055 禁酒推進団体が アルコールに持っていた認識は 00:01:09.055 --> 00:01:12.575 貧困や家庭内暴力といった 諸問題の根本要因であり 00:01:12.575 --> 00:01:15.515 その考えを 政府に説得しようと試みました 00:01:15.515 --> 00:01:18.205 適度な飲酒を 呼びかけるものもいる中 00:01:18.205 --> 00:01:22.205 多くは アルコールは 一切禁止にすべきと考えました 00:01:22.205 --> 00:01:25.695 この運動は社会の幅広い層から 支持を得ました 00:01:25.695 --> 00:01:29.275 女性団体は 初期の段階から 運動に積極的に参加し 00:01:29.275 --> 00:01:34.179 アルコールは 男性による家庭放棄や 女性虐待の要因であると主張しました 00:01:34.179 --> 00:01:36.679 宗教権力者 特にプロテスタント教役者らは 00:01:36.679 --> 00:01:40.289 人を誘惑し 罪に導くものとして アルコールを非難しました 00:01:40.289 --> 00:01:43.659 進歩主義の労働運動家らは アルコールの消費により 00:01:43.659 --> 00:01:46.589 労働組合の力が 弱まることを懸念しました NOTE Paragraph 00:01:46.589 --> 00:01:50.029 禁酒の考えは 各国政府にも 馴染みがないものではありませんでした 00:01:50.029 --> 00:01:56.179 米国とカナダでは 白人の入植者が先住民に ラム酒などの度数の高い酒を伝えておきながら 00:01:56.179 --> 00:01:59.209 アルコールは 先住民居住区の 秩序の乱れの要因と非難しましたが 00:01:59.209 --> 00:02:03.306 実のところ 入植者により生じた 混乱の要因は他にも多くあったのです 00:02:03.306 --> 00:02:07.136 米国およびカナダ政府は 00:02:07.136 --> 00:02:10.711 先住民に対して および先住民居住地での アルコールの販売を禁止しました NOTE Paragraph 00:02:10.711 --> 00:02:15.822 米国での禁酒運動の勝利は 地方と州から火が付きはじめ 00:02:15.822 --> 00:02:22.109 1850年には メーン州ほか複数の州で アルコールの製造と販売が禁止されました 00:02:22.109 --> 00:02:26.109 合衆国憲法修正第18条が 1919年に制定され 00:02:26.109 --> 00:02:32.249 アルコールの製造 販売 輸送を 一切禁止することが決定しました NOTE Paragraph 00:02:32.249 --> 00:02:35.899 1年後 ボルステッド法(国家禁酒法)が 発効されました 00:02:35.899 --> 00:02:39.039 同法は 個人によるアルコール消費は 禁止していなかったため 00:02:39.039 --> 00:02:43.443 富裕層はこの機会を利用して アルコールの備蓄を増やし 00:02:43.443 --> 00:02:46.183 レストランやバーは こぞって在庫を売り尽くしました 00:02:46.183 --> 00:02:51.614 蒸留酒 ビールやワインの醸造所が閉鎖され そこで働く者たちは職を失いました 00:02:51.614 --> 00:02:56.423 その一方 犯罪組織らは 需要の増加に応えるべく 00:02:56.423 --> 00:03:02.982 大挙して実入りの良い闇市場を開き アルコールの密造 密輸 密売を行いました 00:03:02.982 --> 00:03:07.412 こうした組織にはしばしば 腐敗した警察官や政府役人らが絡んでいました 00:03:07.412 --> 00:03:12.174 1928年のイリノイ州検事予備選では ある派閥の支持者が 00:03:12.174 --> 00:03:16.347 対抗陣営関係者らの家を爆破する 事件さえ起きたほどでした NOTE Paragraph 00:03:16.347 --> 00:03:20.381 「スピークイージー」と呼ばれる 潜り酒場が次々とひしめくようになり 00:03:20.381 --> 00:03:22.021 アルコールを提供し始めました 00:03:22.021 --> 00:03:25.861 薄暗い地下のバーから 凝ったダンスホールまで色々でした 00:03:25.861 --> 00:03:29.511 個人的な消費目的で 家庭でアルコールを製造することや 00:03:29.511 --> 00:03:34.966 医師の診断 または宗教上の理由による 合法なアルコールの入手は許可されていました 00:03:34.966 --> 00:03:38.080 工業用アルコールを飲めなくするために 00:03:38.080 --> 00:03:42.207 政府が 酒造業者に対し 製品への有害物質混入を義務付けたことで 00:03:42.207 --> 00:03:46.195 中毒死するものが数千人にも上りました NOTE Paragraph 00:03:46.195 --> 00:03:49.885 禁酒法時代に摂取された アルコールの量は正確には分かりません 00:03:49.885 --> 00:03:53.195 密造されたアルコールは 規制や課税の対象でなかったためです 00:03:53.195 --> 00:03:54.878 しかし 1920年も後半になると 00:03:54.878 --> 00:03:59.818 禁酒法が 約束したような社会の改善に 繋がらないことが明らかになりました 00:03:59.818 --> 00:04:04.022 それどころか 政治腐敗や 組織犯罪を招くこととなり 00:04:04.022 --> 00:04:06.875 多くの市民から 白い目で見られました 00:04:06.875 --> 00:04:12.707 デトロイトで起きたビアホール強制捜査では 地元保安官 市長 衆議院議員が 00:04:12.707 --> 00:04:14.637 飲酒により逮捕されました NOTE Paragraph 00:04:14.637 --> 00:04:17.637 1929年に世界大恐慌が起きると 00:04:17.637 --> 00:04:21.637 政府は アルコール売上から得られる 税収入の必要性を痛感し 00:04:21.637 --> 00:04:25.497 禁酒法の廃止は 景気刺激につながると考えました 00:04:25.497 --> 00:04:30.950 1933年 連邦議会で 修正第21条が可決されー 00:04:30.950 --> 00:04:34.800 18条は 廃止が決まり 完全廃止された唯一の修正条項となりました NOTE Paragraph 00:04:34.800 --> 00:04:36.480 禁酒運動推進派らは 00:04:36.480 --> 00:04:40.140 アルコールは 社会の諸悪の根源と考えましたが 00:04:40.140 --> 00:04:42.630 現実は思った以上に複雑なのです 00:04:42.630 --> 00:04:45.220 アルコールの完全禁止は 上手くいきませんでしたが 00:04:45.220 --> 00:04:50.161 現在も 健康や社会への影響が 依然として懸念されています