1 00:00:00,917 --> 00:00:06,393 本日は 読書が私たちの人生を どのように変えるのか 2 00:00:06,417 --> 00:00:08,792 また その限界についても お話ししたいと思います 3 00:00:09,750 --> 00:00:14,018 力強い人々の絆という 共有しうる世界をいかに読書が 4 00:00:14,042 --> 00:00:16,750 もたらしてくれるかを お話ししたいと思います 5 00:00:17,833 --> 00:00:21,393 もちろん そのつながりは ほんの一部であることも確かですし 6 00:00:21,417 --> 00:00:26,500 読書は孤独で 独自の作業であることも 間違いありません 7 00:00:27,625 --> 00:00:30,476 私の人生を変えたのは 8 00:00:30,500 --> 00:00:34,934 アフリカ系米国人の偉大な作家 ジェームズ・ボールドウィンでした 9 00:00:34,958 --> 00:00:38,226 私が育った1980年代の ミシガン西部では 10 00:00:38,250 --> 00:00:42,167 社会変化に関心を持つアジア系米国人作家は 多くはありませんでした 11 00:00:43,292 --> 00:00:46,518 この空白を埋めたり 人種を意識する方法として 12 00:00:46,542 --> 00:00:50,583 ジェームズ・ボールドウィンに 目を向けたのだと思います 13 00:00:51,958 --> 00:00:55,934 しかし 自分はアフリカ系米国人では ないと意識していたからでしょうか 14 00:00:55,958 --> 00:01:00,476 彼の言葉に挑発されたように 感じたこともありました 15 00:01:00,500 --> 00:01:02,625 特にこの言葉でした 16 00:01:03,458 --> 00:01:07,059 「りっぱな態度のリベラル派はいるが 17 00:01:07,083 --> 00:01:09,241 本物の信念を持ち合わせている者はいない 18 00:01:10,083 --> 00:01:14,018 いざという時に 頼りにしようとしても 19 00:01:14,042 --> 00:01:16,518 どういうわけか その場にはいない」 20 00:01:16,542 --> 00:01:19,351 どういうわけか その場にはいない 21 00:01:19,375 --> 00:01:21,726 私は その言葉を文字通りに 受け止めました 22 00:01:21,750 --> 00:01:23,458 では どこに行こうか? 23 00:01:24,500 --> 00:01:26,518 私は ミシシッピ・デルタに向かいました 24 00:01:26,542 --> 00:01:29,684 米国でも貧しい地域のひとつです 25 00:01:29,708 --> 00:01:32,601 力強い歴史に形作られた場所です 26 00:01:32,625 --> 00:01:37,598 1960年代にアフリカ系米国人は 命を賭けて 教育や 27 00:01:37,598 --> 00:01:39,737 選挙権を求めました 28 00:01:40,625 --> 00:01:45,069 私は 若者が高校を出て 大学に行けるよう支援することで 29 00:01:45,069 --> 00:01:46,792 この変化に加わりたかったのです 30 00:01:48,250 --> 00:01:50,976 私がミシシッピ・デルタに到着した時も 31 00:01:51,000 --> 00:01:53,434 そこは 相変わらず貧しく 32 00:01:53,458 --> 00:01:55,184 差別が残っており 33 00:01:55,208 --> 00:01:57,750 劇的な変化が必要な場所でした 34 00:01:58,958 --> 00:02:02,393 私が着任した学校は 35 00:02:02,417 --> 00:02:06,726 図書室はなく 進路指導教員もおらず 36 00:02:06,750 --> 00:02:09,726 代わりに警察官がいるような学校でした 37 00:02:09,750 --> 00:02:12,309 教師の半数は臨時教員で 38 00:02:12,333 --> 00:02:14,309 生徒がケンカをすると 39 00:02:14,333 --> 00:02:18,208 学校はその生徒を 郡刑務所に送りました 40 00:02:20,250 --> 00:02:23,226 この学校でパトリックと出会いました 41 00:02:23,250 --> 00:02:28,184 彼は 15歳でしたが 2年留年して 8年生でした 42 00:02:28,208 --> 00:02:30,684 物静かで内省的な少年で 43 00:02:30,708 --> 00:02:33,518 いつも物思いにふけっていました 44 00:02:33,542 --> 00:02:36,333 彼は 誰かがケンカするのが 大嫌いでした 45 00:02:37,500 --> 00:02:41,309 ある時は 女子2人のケンカに割って入り 46 00:02:41,333 --> 00:02:44,042 彼自身が叩きのめされたこともあります 47 00:02:45,375 --> 00:02:47,893 パトリックには ひとつだけ問題がありました 48 00:02:47,917 --> 00:02:49,868 学校に来ようとしないのです 49 00:02:51,249 --> 00:02:53,726 彼は 学校はあまりにも 気が滅入るんだと言いました 50 00:02:53,750 --> 00:02:56,792 みんなケンカばかりで 先生たちはやめてしまうからです 51 00:02:58,042 --> 00:03:03,500 また 母親は2つの仕事を掛け持ちし 息子を登校させるには疲れ果てていました 52 00:03:04,417 --> 00:03:07,184 そこで 私が彼を 学校に連れてくることにしました 53 00:03:07,208 --> 00:03:11,268 私は 無謀な22歳で 思い切り楽天的だったので 54 00:03:11,292 --> 00:03:13,434 私の作戦は 彼の家に行き 55 00:03:13,458 --> 00:03:15,583 「学校に行こう」と 声を掛けることでした 56 00:03:16,542 --> 00:03:18,184 実際 この作戦は功を奏して 57 00:03:18,208 --> 00:03:20,643 彼は 毎日登校するようになり 58 00:03:20,667 --> 00:03:23,059 クラスで頭角を現し始めました 59 00:03:23,083 --> 00:03:26,000 彼は詩を書き 読書もしました 60 00:03:26,917 --> 00:03:29,208 毎日学校にやってきました 61 00:03:31,042 --> 00:03:32,518 私がパトリックと 62 00:03:32,542 --> 00:03:35,226 うまくやっていく方法を 思いついたのと同じ頃に 63 00:03:35,250 --> 00:03:37,458 私は ハーバード・ロー・スクールに 受かったのです 64 00:03:39,583 --> 00:03:42,934 また同じ問題に直面しました 65 00:03:42,958 --> 00:03:44,667 自分の行くべき先は? 66 00:03:45,458 --> 00:03:48,101 そして こう考えました 67 00:03:48,125 --> 00:03:51,643 ミシシッピ・デルタは お金がある人や 68 00:03:51,667 --> 00:03:53,559 機会に恵まれた人々が 69 00:03:53,583 --> 00:03:55,065 出て行ってしまう場所です 70 00:03:55,875 --> 00:03:57,309 取り残されてしまうのは 71 00:03:57,333 --> 00:03:59,833 出て行く機会を持たない人です 72 00:04:00,833 --> 00:04:03,101 私は 出て行ったりしたくなかった 73 00:04:03,125 --> 00:04:05,167 私は ここに残る人になりたかった 74 00:04:06,333 --> 00:04:09,268 その一方で 私は孤独で疲れていました 75 00:04:09,292 --> 00:04:12,750 そこで 一流の法学位を取れれば 76 00:04:14,125 --> 00:04:17,708 もっと大きな変化が起こせると 自分を納得させたのです 77 00:04:19,541 --> 00:04:20,931 私は 街を離れました 78 00:04:22,750 --> 00:04:24,351 3年後に 79 00:04:24,375 --> 00:04:26,768 ロー・スクールの卒業直前に 80 00:04:26,792 --> 00:04:28,518 友達が電話してきました 81 00:04:28,542 --> 00:04:33,458 パトリックがケンカに巻き込まれ 人を殺したと言うのです 82 00:04:35,333 --> 00:04:37,393 私は 絶句しました 83 00:04:37,417 --> 00:04:39,851 信じられないという思いと 84 00:04:39,875 --> 00:04:42,542 これは現実なんだという気持ちが 交錯しました 85 00:04:43,583 --> 00:04:45,583 私は パトリックに会いに行きました 86 00:04:46,750 --> 00:04:49,458 刑務所に面会に行きました 87 00:04:50,542 --> 00:04:54,184 彼は 本当なんだと言いました 88 00:04:54,208 --> 00:04:56,601 人を殺したというのです 89 00:04:56,625 --> 00:04:58,875 それ以上は 話したがりませんでした 90 00:04:59,833 --> 00:05:01,851 学校はどうしたのと聞くと 91 00:05:01,875 --> 00:05:06,018 私がいなくなった1年後に 中退したと言いました 92 00:05:06,042 --> 00:05:08,684 そして まだ何か言いたそうでした 93 00:05:08,708 --> 00:05:10,250 彼は視線を落とすと 94 00:05:10,250 --> 00:05:13,768 娘が生まれたばかりなんだと 言いました 95 00:05:13,792 --> 00:05:16,375 娘を失望させたと感じたのだと 96 00:05:18,625 --> 00:05:22,000 そこで会話は 気まずく途切れました 97 00:05:23,417 --> 00:05:28,476 刑務所の外に出た時 自分の心の声が聞こえました 98 00:05:28,500 --> 00:05:29,768 「戻ってきなさい 99 00:05:29,792 --> 00:05:33,083 今ここで戻らなければ 二度と戻ってこない」 100 00:05:36,292 --> 00:05:39,875 そこで 私は ロー・スクールを卒業して 戻りました 101 00:05:40,833 --> 00:05:42,518 パトリックに会いに戻ったのです 102 00:05:42,542 --> 00:05:45,500 法的な支援ができないかどうか 確かめに向かったのです 103 00:05:46,917 --> 00:05:50,268 2度目の面会の時に 104 00:05:50,292 --> 00:05:52,559 いいことを思いつきました 105 00:05:52,583 --> 00:05:56,184 「パトリック 娘さんに手紙を書いて 106 00:05:56,208 --> 00:05:59,976 いつも思い出せるようにしたら?」 107 00:06:00,000 --> 00:06:03,684 彼にペンと紙を差し入れると 108 00:06:03,708 --> 00:06:05,333 パトリックは書きだしました 109 00:06:06,542 --> 00:06:09,351 でも 彼が返してきた手紙を見て 110 00:06:09,375 --> 00:06:10,905 私はショックを受けました 111 00:06:13,000 --> 00:06:15,101 私には 彼の書いたものが 読めませんでした 112 00:06:15,125 --> 00:06:17,958 単純な綴りさえ 間違えていたのです 113 00:06:19,167 --> 00:06:21,851 そこで こう思いました 114 00:06:21,875 --> 00:06:25,351 生徒が 短期間で 劇的に成長するのは 115 00:06:25,375 --> 00:06:28,434 教師として知っていたけれど 116 00:06:28,458 --> 00:06:32,125 あっという間に 忘れてしまうなんて 想像もつかなかったと 117 00:06:34,375 --> 00:06:36,268 もっとつらかったのは 118 00:06:36,292 --> 00:06:39,476 パトリックが娘に書いた内容でした 119 00:06:39,500 --> 00:06:40,893 こう書いていたのです 120 00:06:40,917 --> 00:06:45,208 「ごめん 一緒にいられない パパを許してくれ」 121 00:06:46,458 --> 00:06:49,292 たったこれだけしか 言えなかったのです 122 00:06:50,250 --> 00:06:54,559 どうすれば 彼には 謝る必要のない部分もあって 123 00:06:54,583 --> 00:06:58,000 それをもっと伝えたらいいのだと 説得できるかを自問しました 124 00:06:58,958 --> 00:07:02,176 もっと娘と分かち合うことがあると 125 00:07:02,176 --> 00:07:04,208 感じてほしいと思いました 126 00:07:05,917 --> 00:07:09,101 その後7か月間 毎日 127 00:07:09,125 --> 00:07:11,809 本を持って訪問しました 128 00:07:11,833 --> 00:07:15,684 私のトートバッグは ミニ図書館になりました 129 00:07:15,708 --> 00:07:17,768 私はジェームズ・ボールドウィンを 130 00:07:17,792 --> 00:07:22,684 ウォルト・ホイットマン C.S. ルイスを持参し 131 00:07:22,708 --> 00:07:27,518 樹木や鳥の図鑑や 132 00:07:27,542 --> 00:07:30,995 愛用するようになるであろう 辞書も持っていきました 133 00:07:31,667 --> 00:07:33,351 ある時は 134 00:07:33,375 --> 00:07:37,167 2人とも無言で 何時間も読書に耽りました 135 00:07:38,083 --> 00:07:39,934 また別の日には 136 00:07:39,958 --> 00:07:43,476 一緒に読むこともありました 詩を読んだのです 137 00:07:43,500 --> 00:07:47,393 俳句を読むことから始めました 何百もの俳句です 138 00:07:47,417 --> 00:07:50,309 シンプルながらも名作でした 139 00:07:50,333 --> 00:07:53,143 「好きな俳句を教えて」と 彼に頼んだものです 140 00:07:53,167 --> 00:07:56,226 本当に面白いものもありました 141 00:07:56,250 --> 00:07:58,101 小林一茶の作品です 142 00:07:58,125 --> 00:08:01,833 「隅の蜘蛛案じな煤はとらぬぞよ」 143 00:08:02,750 --> 00:08:07,292 「今迄は罪もあたらぬ昼寝哉」 144 00:08:08,667 --> 00:08:13,101 そして 初雪を詠んだ美しい作品です 145 00:08:13,125 --> 00:08:17,583 「さをしかのゑひしてなめるけさの霜」 146 00:08:19,250 --> 00:08:22,268 どこかミステリアスで美しく 147 00:08:22,292 --> 00:08:24,934 まさに詩の姿そのものです 148 00:08:24,958 --> 00:08:29,583 余韻が 言葉そのものと同様に 大切なのです 149 00:08:31,375 --> 00:08:33,893 W.S. マーウィンの詩も読みました 150 00:08:33,917 --> 00:08:38,143 彼の妻が庭仕事をしている姿を 書いたものです 151 00:08:38,167 --> 00:08:42,042 そして 残りの人生をずっと 共に過ごしていくことに気づくのです 152 00:08:43,167 --> 00:08:45,518 「好きな時に戻れるとしたら 153 00:08:45,542 --> 00:08:48,934 それなら春だ 154 00:08:48,958 --> 00:08:52,143 私たちは もう年を取ったりしない 155 00:08:52,167 --> 00:08:56,101 ゆっくりと迎える朝の中 156 00:08:56,125 --> 00:08:59,893 これまでの悲しみは 淡い雲のように晴れる」 157 00:08:59,917 --> 00:09:03,309 パトリックの好きな一節は どれかを聞きました 158 00:09:03,333 --> 00:09:06,875 「私たちは もう年を取ったりしない」 159 00:09:08,375 --> 00:09:12,809 彼は 時の流れが止まってしまった場所 160 00:09:12,833 --> 00:09:15,768 時間を忘れてしまうような場所を 思い出すというのです 161 00:09:15,792 --> 00:09:20,268 永遠の時間が流れるこんな場所が あったのかと聞いてみました 162 00:09:20,292 --> 00:09:21,958 「僕の母だ」と彼は答えました 163 00:09:23,875 --> 00:09:28,184 誰かと一緒に詩を読むと 164 00:09:28,208 --> 00:09:30,463 詩が持つ意味が変わってきます 165 00:09:31,333 --> 00:09:36,000 それは 人にとっても 自分にとっても 個人的なものになるからです 166 00:09:37,500 --> 00:09:40,184 その後は 本当にたくさんの本を読みました 167 00:09:40,208 --> 00:09:43,351 フレデリック・ダグラスの自伝を読みました 168 00:09:43,375 --> 00:09:46,976 彼は 米国の奴隷でしたが 独学で読み書きを学び 169 00:09:47,000 --> 00:09:50,333 文字が読めたおかげで 自由を得られたのです 170 00:09:51,875 --> 00:09:54,518 私は フレデリック・ダグラスを 英雄だと思って育ったので 171 00:09:54,542 --> 00:09:57,750 この物語が 励みや希望になると 考えたのです 172 00:09:58,917 --> 00:10:01,750 でも この本のせいで パトリックはうろたえてしまいました 173 00:10:02,875 --> 00:10:07,934 彼は ダグラスが書いた ある話にこだわりました 174 00:10:07,958 --> 00:10:11,059 奴隷には自由が手に余ることを示すため 175 00:10:11,083 --> 00:10:14,559 クリスマスに主人が 奴隷にジンを渡すというものです 176 00:10:14,583 --> 00:10:17,522 奴隷たちは 畑で酔いつぶれてしまうからです 177 00:10:19,500 --> 00:10:21,500 パトリックはよくわかると言いました 178 00:10:22,333 --> 00:10:25,809 刑務所にいる人の中にも 奴隷のように 179 00:10:25,833 --> 00:10:28,059 自分の状況を考えたがらない人が いると言ったのです 180 00:10:28,083 --> 00:10:29,893 それは あまりにも辛いから 181 00:10:29,917 --> 00:10:32,101 過去を思い出したり 182 00:10:32,125 --> 00:10:35,458 今後の長い道のりを 考えたりするのがつらいからです 183 00:10:36,958 --> 00:10:39,851 彼のお気に入りは 次の一節でした 184 00:10:39,875 --> 00:10:43,476 「何であれ 考えるのはやめるんだ! 185 00:10:43,500 --> 00:10:48,542 状況を考え続ければ いつまでも苦しみが続く」 186 00:10:49,958 --> 00:10:53,917 パトリックは ダグラスは書き続け 考え続けるから勇敢だと言いました 187 00:10:55,083 --> 00:11:00,643 しかし 私にはパトリックが ダグラスの姿と重なって見えたのです 188 00:11:00,667 --> 00:11:04,417 彼はパニックになりながらも 読み続けました 189 00:11:05,250 --> 00:11:08,309 彼は 私よりも先に本を読み終えました 190 00:11:08,333 --> 00:11:12,247 明かりのないコンクリートの 階段で読んだのです 191 00:11:13,583 --> 00:11:16,309 そして 私のお気に入りのひとつ 192 00:11:16,333 --> 00:11:18,518 マリリン・ロビンソンの 『Gilead』へと進みました 193 00:11:18,542 --> 00:11:22,684 これは 父から息子に宛てた 長い手紙です 194 00:11:22,708 --> 00:11:25,059 彼は この一節が大好きでした 195 00:11:25,083 --> 00:11:27,268 「どうか聞いてくれ 196 00:11:27,292 --> 00:11:30,601 自分は 何を成し遂げたのかと 迷うことがあったとしたも 197 00:11:30,625 --> 00:11:32,643 お前は いつだって神からの恵みだった 198 00:11:32,667 --> 00:11:35,833 奇跡 いや 奇跡以上の存在だった」 199 00:11:37,375 --> 00:11:43,018 この言葉が持つ何かが ― その愛や切望 その声が 200 00:11:43,042 --> 00:11:45,500 パトリックの書きたいという気持ちを 掻き立てました 201 00:11:46,292 --> 00:11:49,393 彼は 何冊ものノートを 202 00:11:49,417 --> 00:11:52,726 娘宛ての手紙で埋め尽くしました 203 00:11:52,750 --> 00:11:55,684 これらの美しく こまごまとした手紙の中で 204 00:11:55,708 --> 00:12:01,684 娘と2人でミシシッピ川を カヌーで進む姿を想像しました 205 00:12:01,708 --> 00:12:04,518 澄み切った水が流れる 206 00:12:04,542 --> 00:12:06,708 渓流を想像したものです 207 00:12:08,042 --> 00:12:10,083 パトリックが書く姿を見て 208 00:12:11,250 --> 00:12:13,393 私は自分で考えてみました 209 00:12:13,417 --> 00:12:15,476 皆さんにもお聞きしたいと思います 210 00:12:15,500 --> 00:12:20,792 失望させてしまった相手に 手紙を書いたことがある人はいますか? 211 00:12:22,042 --> 00:12:27,125 その相手を忘れてしまう方が はるかに楽です 212 00:12:28,083 --> 00:12:32,726 パトリックは 毎日毎日 娘と向き合いました 213 00:12:32,750 --> 00:12:35,684 娘への責任を感じ 214 00:12:35,708 --> 00:12:39,417 一言一言に 一心に集中していたのです 215 00:12:42,417 --> 00:12:44,958 私は自分の人生で 216 00:12:46,042 --> 00:12:49,101 こんな風に危うさと 対峙できたらと思いました 217 00:12:49,125 --> 00:12:52,750 それは その危うさによって 心の強さが分かるからです 218 00:12:56,625 --> 00:13:00,684 ここで立ち戻って 答えにくい質問をしたいと思います 219 00:13:00,708 --> 00:13:04,417 このパトリックの物語を語る 私には一体どんな資格があるのか? 220 00:13:06,042 --> 00:13:09,018 パトリックこそが この苦しみと対峙した本人であり 221 00:13:09,042 --> 00:13:13,208 私にそのような日は 一日たりともなかったのです 222 00:13:15,250 --> 00:13:17,018 何度もこの質問について考えました 223 00:13:17,042 --> 00:13:20,768 しかし パトリックだけの物語ではないと 言いたいと思います 224 00:13:20,792 --> 00:13:22,309 これは 私たちの物語です 225 00:13:22,333 --> 00:13:24,833 私たちの間にある 不平等さについてです 226 00:13:25,667 --> 00:13:27,083 この豊かな世界は 227 00:13:28,375 --> 00:13:32,018 パトリックや彼の両親 彼の祖父母が 228 00:13:32,042 --> 00:13:33,851 締め出されてしまった世界です 229 00:13:33,875 --> 00:13:37,103 この物語では 私が豊かな世界を体現しています 230 00:13:37,792 --> 00:13:41,601 この物語を語る時に 自分のことや自分の持てる力を 231 00:13:41,625 --> 00:13:44,292 隠したくはありませんでした 232 00:13:45,333 --> 00:13:48,893 この物語を語ることで その力を日の目にさらし 233 00:13:48,917 --> 00:13:51,309 そして尋ねたいのです 234 00:13:51,333 --> 00:13:54,250 この距離をどうやって消し去るのか? 235 00:13:56,250 --> 00:13:59,851 読書は この距離を縮める 方法のひとつだと思います 236 00:13:59,875 --> 00:14:04,309 私たちが共有できる静かな世界を与え 237 00:14:04,333 --> 00:14:06,583 平等に分かち合えるのです 238 00:14:08,500 --> 00:14:11,601 パトリックはどうしただろうと お思いでしょう 239 00:14:11,625 --> 00:14:13,606 読書が彼の人生を救ったのでしょうか? 240 00:14:14,583 --> 00:14:16,858 そうだとも そうではないとも言えます 241 00:14:17,875 --> 00:14:20,768 パトリックが出所してからの 242 00:14:20,792 --> 00:14:23,343 道のりは 耐え難いものでした 243 00:14:24,292 --> 00:14:27,768 前科のため 雇ってくれる人はおらず 244 00:14:27,792 --> 00:14:30,934 彼の良き理解者である 母親は心臓病と糖尿病で 245 00:14:30,958 --> 00:14:33,434 43歳で亡くなりました 246 00:14:33,458 --> 00:14:36,167 彼に家はなく 飢えていました 247 00:14:38,250 --> 00:14:42,792 だから 読書について 大げさなことを言う人もいました 248 00:14:43,792 --> 00:14:47,768 文字が読めるようになっても 彼への差別はなくならなかった 249 00:14:47,792 --> 00:14:50,417 母親の死を防ぐこともできなかった 250 00:14:51,708 --> 00:14:54,083 では 読書がもたらすものとは? 251 00:14:55,375 --> 00:14:59,333 いくつかの答えで 締めくくりたいと思います 252 00:15:00,667 --> 00:15:03,417 読書で 彼の内面が豊かになりました 253 00:15:05,083 --> 00:15:08,143 その神秘や想像力 美しさが 254 00:15:08,167 --> 00:15:09,572 内面を変えたのです 255 00:15:10,292 --> 00:15:14,625 読書によってイメージや 喜びがもたらされました 256 00:15:15,417 --> 00:15:20,976 山 海 鹿 霜など 257 00:15:21,000 --> 00:15:25,125 自由と自然界を感じる言葉です 258 00:15:27,625 --> 00:15:31,143 彼が失ったものを読書が補ったのです 259 00:15:31,167 --> 00:15:35,809 デレック・ウォルコットの一節が どれほどかけがえのない物であったか 260 00:15:35,833 --> 00:15:38,059 パトリックはこの詩を暗唱しました 261 00:15:38,083 --> 00:15:40,184 「私が抱いた日々 262 00:15:40,208 --> 00:15:42,476 私が失った日々 263 00:15:42,500 --> 00:15:45,726 日々は娘たちのように成長し 264 00:15:45,750 --> 00:15:47,626 私の両腕はさまよう」 265 00:15:48,667 --> 00:15:51,643 読書は彼に勇気を教えたのです 266 00:15:51,667 --> 00:15:54,976 彼はフレデリック・ダグラスを 267 00:15:55,000 --> 00:15:57,143 いくら辛くても読み続けましたよね 268 00:15:57,167 --> 00:16:00,899 彼はどんなに苦しくても 意識的であろうとしました 269 00:16:02,208 --> 00:16:04,768 読むことは 考えることです 270 00:16:04,792 --> 00:16:08,851 考えなくてはならないから 読むことは難しいのです 271 00:16:08,875 --> 00:16:13,125 パトリックは 考えることをやめず 考え続けることを選びました 272 00:16:16,000 --> 00:16:19,958 そして読書は 娘に話しかける言葉を 彼に与えました 273 00:16:21,375 --> 00:16:24,601 彼は読むことで 書きたいと思ったのです 274 00:16:24,625 --> 00:16:28,768 読書と書くことは 強く結びついています 275 00:16:28,792 --> 00:16:30,851 私たちが 読み始めると 276 00:16:30,875 --> 00:16:32,958 言葉が見つかります 277 00:16:33,958 --> 00:16:38,601 彼は2人を結び付ける言葉を 見つけたのです 278 00:16:38,625 --> 00:16:40,333 どれほど 娘を― 279 00:16:41,958 --> 00:16:44,208 愛しているのかを 伝える言葉を見つけました 280 00:16:46,042 --> 00:16:49,976 読書は 私たちの関係も変えたのです 281 00:16:50,000 --> 00:16:52,059 視点の違いを超えて 282 00:16:52,083 --> 00:16:54,976 互いに歩み寄る機会を 与えてくれました 283 00:16:55,000 --> 00:16:57,684 そして 読書は不平等な関係を取り除き 284 00:16:57,708 --> 00:17:00,375 束の間の平等を与えてくれました 285 00:17:02,125 --> 00:17:05,059 読者としての誰かに出会うことは 286 00:17:05,083 --> 00:17:07,059 すっかり新しい 287 00:17:07,083 --> 00:17:08,791 新鮮な出会いになります 288 00:17:09,875 --> 00:17:13,083 どの一節が彼の気に入るかは 分かりません 289 00:17:14,458 --> 00:17:17,666 どんな思い出や嘆きを 抱いているのか分かりません 290 00:17:18,833 --> 00:17:22,833 彼の究極の内面と直面するわけです 291 00:17:23,666 --> 00:17:27,101 すると「私の内面とは何なのか?」と 考え始めます 292 00:17:27,125 --> 00:17:30,375 誰かと分かち合えることが あるでしょうか? 293 00:17:33,000 --> 00:17:34,578 締めくくりに 294 00:17:36,208 --> 00:17:40,500 パトリックが娘に宛てた手紙の 私の大好きな一節をお読みします 295 00:17:41,333 --> 00:17:44,101 「川には 暗い場所があっても 296 00:17:44,125 --> 00:17:47,393 木漏れ日が輝いている 297 00:17:47,417 --> 00:17:50,976 枝にはマルベリーが豊かに実っている 298 00:17:51,000 --> 00:17:54,458 手を伸ばして つかみ取るんだ」 299 00:17:56,042 --> 00:17:58,476 この手紙には こうも書いています 300 00:17:58,500 --> 00:18:02,851 「目を閉じて 言葉に耳を澄ましてごらん 301 00:18:02,875 --> 00:18:05,059 私は この詩をそらんじている 302 00:18:05,083 --> 00:18:07,917 君にもそうして欲しいんだ」 303 00:18:09,375 --> 00:18:11,184 ありがとうございます 304 00:18:11,208 --> 00:18:14,500 (拍手)