1 00:00:04,528 --> 00:00:10,667 のろしは間違いなく、情報伝達の技術としては最も古いもので、 2 00:00:10,667 --> 00:00:14,509 おそらく火が初めて使われた時代にさかのぼる。 3 00:00:14,509 --> 00:00:21,142 のろしは、遠く離れた人間の知識状態に影響を与えることができる。 4 00:00:21,142 --> 00:00:25,713 何かが存在「する」か「しない」かに気づくことができれば、 5 00:00:25,762 --> 00:00:29,937 2つの知識状態のうち1つに切り替えることができるからだ。 6 00:00:29,937 --> 00:00:32,719 1つの違いが、2つの状態に。 7 00:00:35,234 --> 00:00:37,198 歴史を振り返れば、 8 00:00:37,198 --> 00:00:40,660 軍事は効率的な意思疎通に強く依存するため、 9 00:00:40,660 --> 00:00:44,249 この技術が大きく貢献したのが分かる。 10 00:00:44,249 --> 00:00:47,814 きっかけは、ギリシャ神話に登場するカドモスだ。 11 00:00:47,814 --> 00:00:52,650 フェニキア人の王子である彼は、ギリシャに表音文字をもたらした。 12 00:00:52,650 --> 00:00:55,309 ギリシャ文字の起源であるフェニキア文字が、 13 00:00:55,309 --> 00:00:58,480 軽くて安価なパピルスにより伝えられ、 14 00:00:58,480 --> 00:01:03,936 その伝達力の強さは、聖職者から軍事階級まで影響を与えた。 15 00:01:03,982 --> 00:01:09,503 ギリシャの軍事史には、のろしを始めとした意思伝達の、 16 00:01:09,503 --> 00:01:12,455 初期の進歩の証拠が見られる。 17 00:01:12,455 --> 00:01:16,672 ポリュビオスは紀元前200年生まれのギリシャの歴史家だ。 18 00:01:16,672 --> 00:01:18,155 彼の著書『歴史』には、 19 00:01:18,155 --> 00:01:23,071 当時の意思伝達技術についての発見が詳細に記されている。 20 00:01:23,071 --> 00:01:26,462 本にはこうある:「適切な瞬間に行動する力が、 21 00:01:26,462 --> 00:01:30,390 事業の成功にとって極めて重要である。 22 00:01:30,390 --> 00:01:36,435 そして のろしは、それを促進するための最も効率的な装置である。」 23 00:01:36,435 --> 00:01:40,470 しかし、彼はのろしの限界についても記していた。 24 00:01:40,470 --> 00:01:45,063 「伝える情報を次のように事前に取り決めれば、のろしは有効だ。 25 00:01:45,063 --> 00:01:47,144 例えば『船隊が到来』など。 26 00:01:47,144 --> 00:01:48,836 しかし次の場合は伝えようがない: 27 00:01:48,836 --> 00:01:50,897 ある市民が反逆罪であるとか、 28 00:01:50,897 --> 00:01:53,557 町で大虐殺が起きているとか、 29 00:01:53,557 --> 00:01:57,093 よくあるけれども全てを予測できない場合には、 30 00:01:57,093 --> 00:02:01,565 全く太刀打ちできないのだ。」 31 00:02:01,565 --> 00:02:07,076 のろしは、生じ得るメッセージ空間が小さい時に有効だ。 32 00:02:07,076 --> 00:02:11,452 例えば敵が来たか来ないかなど。 33 00:02:11,452 --> 00:02:17,135 しかし、生じ得るメッセージの総数が増え、メッセージ空間が大きくなると、 34 00:02:17,135 --> 00:02:20,334 様々に違ったやり取りをする必要がある。 35 00:02:20,334 --> 00:02:23,173 そして、ポリュビオスは次の技術も歴史書に記した。 36 00:02:23,173 --> 00:02:25,722 発明者はアイネイアス・タクティコス、 37 00:02:25,722 --> 00:02:28,481 最も初期の兵法の作家の1人で、 38 00:02:28,481 --> 00:02:31,132 紀元前4世紀に生まれた。 39 00:02:31,132 --> 00:02:33,997 彼の技術は次のように記載されている: 40 00:02:33,997 --> 00:02:38,317 「のろしを用いて緊急の知らせをお互いにやり取りするためには、 41 00:02:38,317 --> 00:02:42,858 まず全く同じ幅と深さの容器を2つ用意する。 42 00:02:42,858 --> 00:02:44,908 そして真ん中に棒を通す。 43 00:02:44,908 --> 00:02:47,879 棒には等間隔で目盛りを付け、 44 00:02:47,879 --> 00:02:52,200 目盛りを区別するため、横にギリシャ文字を表示する。 45 00:02:52,200 --> 00:02:56,617 各文字は、対応表の中の1つのメッセージに対応する。 46 00:02:56,617 --> 00:03:01,184 戦争でよく起こる出来事を、メッセージとして割り振っておくのだ。 47 00:03:01,217 --> 00:03:04,119 通信は次の手順で行う: 48 00:03:04,119 --> 00:03:07,927 まず送信者は松明を掲げ、メッセージがあることを知らせる。 49 00:03:07,927 --> 00:03:12,338 次に受信者も松明を掲げ、受信する準備ができたことを知らせる。 50 00:03:12,374 --> 00:03:15,649 そして送信者が松明を下ろすと同時に、 51 00:03:15,649 --> 00:03:22,514 容器の底にあけられた同じ大きさの穴から、双方が排水を始める。 52 00:03:22,545 --> 00:03:26,892 伝えたいところに達した時点で、送信者は松明を掲げ、 53 00:03:26,892 --> 00:03:30,872 それを合図に双方が排水を止める。 54 00:03:30,872 --> 00:03:34,200 双方の水位は等しくなり、 55 00:03:34,200 --> 00:03:39,114 これが共有されたメッセージとなる。 56 00:03:39,114 --> 00:03:44,945 この巧妙な手法では、メッセージを伝えるために時間差を用いた。 57 00:03:44,945 --> 00:03:50,863 しかし これには時間がかかり、伝達能力は限られていた。 58 00:03:50,873 --> 00:03:53,089 ポリュビオスはさらに新しい手法について記していた。 59 00:03:53,089 --> 00:03:58,772 発案者のデモクリトスが言うには「私の論こそ完ペキだ」とのことで、 60 00:03:58,772 --> 00:04:01,411 その手法は明確かつ伝達性に優れ、 61 00:04:01,411 --> 00:04:04,927 あらゆる種類の緊急メッセージを正確に伝えることができる。 62 00:04:04,927 --> 00:04:08,951 「ポリュビオスの換字表」として知られるその手法とは、次のようなものだ: 63 00:04:08,951 --> 00:04:12,685 遠く離れた2人がそれぞれ松明を10本持ち、 64 00:04:12,692 --> 00:04:15,209 それを5本のグループ2つに分ける。 65 00:04:15,209 --> 00:04:20,046 始めに、送信者は松明を掲げ、受信者の応答を待つ。 66 00:04:20,046 --> 00:04:26,194 次に、各グループの松明のうち特定の数だけを灯し、それを掲げる。 67 00:04:31,729 --> 00:04:36,548 受信者は次に、1番目のグループで灯された松明の数を数える。 68 00:04:36,548 --> 00:04:41,889 この数は、共有のアルファベット表の、ある行番号を表す。 69 00:04:41,908 --> 00:04:47,290 そして2番目のグループの松明は、この表の列番号を表す。 70 00:04:47,329 --> 00:04:52,339 行・列番号の交点が、送信された文字となる。 71 00:04:52,339 --> 00:04:56,777 さてこの手法は、2文字のやり取りとみなせるのだ。 72 00:04:56,777 --> 00:05:02,830 松明5本のグループが1文字で、5種類のみの文字とみなす。 73 00:05:02,830 --> 00:05:05,327 1から5本で5種類だ。 74 00:05:05,327 --> 00:05:08,259 これらの文字を2つ合わせると、 75 00:05:08,259 --> 00:05:12,512 掛け合わせて 5 × 5 = 25種 になる。 76 00:05:12,512 --> 00:05:15,142 5 + 5 ではないのだ。 77 00:05:15,142 --> 00:05:17,272 この掛け算が意味することは、 78 00:05:17,272 --> 00:05:21,417 この話の中で重要な、組み合わせに関する理解があったことだ。 79 00:05:21,417 --> 00:05:25,069 このことは紀元前6世紀のインドで書かれた、 80 00:05:25,069 --> 00:05:28,713 ススルタ著の医学書にはっきり示されている。 81 00:05:28,713 --> 00:05:32,389 古代インドの賢人ススルタは、次のように記した: 82 00:05:32,389 --> 00:05:34,619 「6種類の異なるスパイスがあるとき、 83 00:05:34,619 --> 00:05:38,174 異なる味を何種類つくることができるか?」 84 00:05:38,174 --> 00:05:41,061 さて、スパイスの混ぜ方は、 85 00:05:41,061 --> 00:05:44,384 次の6つの質問に分解することができる。: 86 00:05:44,384 --> 00:05:46,963 Aを加えるか? はい/いいえ 87 00:05:46,963 --> 00:05:48,885 Bを加えるか? 88 00:05:48,885 --> 00:05:50,055 Cは? 89 00:05:50,055 --> 00:05:51,142 Dは? 90 00:05:51,142 --> 00:05:52,180 Eは? 91 00:05:52,180 --> 00:05:53,508 そしてFは? 92 00:05:53,508 --> 00:05:55,898 こうして回答列のパターン数が、 93 00:05:55,898 --> 00:05:59,324 木のように倍々に増えていくのがポイントだ。 94 00:05:59,324 --> 00:06:05,074 2 x 2 x 2 x 2 x 2 x 2 = 64 より、 95 00:06:05,074 --> 00:06:10,772 64通りの異なる回答列を作ることができる。 96 00:06:10,772 --> 00:06:14,538 イエスorノー形式の質問が n 個あるとき、 97 00:06:14,538 --> 00:06:20,021 考えられる回答パターンは 2のn乗 個になるのが分かるだろう。 98 00:06:20,021 --> 00:06:23,091 さて 1605年、フランシス・ベーコンは、 99 00:06:23,091 --> 00:06:26,309 この着想をもとに、たった2通りの違いからー 100 00:06:26,309 --> 00:06:31,187 全種類のアルファベットを送信できることをはっきり説明した。 101 00:06:31,187 --> 00:06:34,651 ベーコンの「バイラテラル暗号」の説明が遺っている: 102 00:06:34,651 --> 00:06:37,543 「2種類の文字を5つ並べれば、 103 00:06:37,543 --> 00:06:40,734 32種を表すのに事足りる。 104 00:06:40,734 --> 00:06:45,936 この技を用いると、2種類の状態を持つ物体を用意するだけで、 105 00:06:45,936 --> 00:06:49,918 距離に関係なく、ある人の心の中の意図をー 106 00:06:49,918 --> 00:06:53,219 表明する方法ができたことになる。」 107 00:06:53,219 --> 00:06:58,291 全種類のアルファベットをやり取りするために2種のものを利用するというー 108 00:06:58,291 --> 00:07:01,507 単純な考えは、17世紀に大きな飛翔を遂げた。 109 00:07:01,538 --> 00:07:08,191 きっかけは、1608年のリッペルスハイと1609年のガリレオが望遠鏡を作ったことだ。 110 00:07:08,191 --> 00:07:11,338 人間の視覚の及ぶ範囲が急激に伸び、 111 00:07:11,338 --> 00:07:15,927 3倍、8倍、33倍…と増えていったのだ。 112 00:07:15,927 --> 00:07:22,728 そのため、はるかに遠い距離間でも、2種類の差異を観測できるようになった。 113 00:07:22,728 --> 00:07:25,839 イギリスの博学者であるロバート・フックはー 114 00:07:25,839 --> 00:07:30,130 レンズを使った人間の視覚の拡張に興味を持ち、 115 00:07:30,130 --> 00:07:34,856 1684年に王立協会でこう語って議論に火を付けた。 116 00:07:34,856 --> 00:07:37,917 「理論の実現があと少し進めば、 117 00:07:37,917 --> 00:07:41,012 ロンドンで文字を掲げた直後に、 118 00:07:41,027 --> 00:07:45,546 同じ文字をパリで見ることができるだろう。」 119 00:07:45,546 --> 00:07:48,027 それからというもの、状態の違いをより遠くへー 120 00:07:48,027 --> 00:07:54,169 効率的に伝達するための発明が、あふれるように生まれた。 121 00:07:54,169 --> 00:07:57,323 1795年に生まれたある技術によって、 122 00:07:57,323 --> 00:08:02,352 2種類の違いのみで全てのことをやり取りできると完璧に示された。 123 00:08:02,352 --> 00:08:05,703 ジョージ・マレー卿の「腕木通信」が、 124 00:08:05,703 --> 00:08:09,926 イングランドの脅威「ボナパルト家支持者」に対するイギリスの対応に用いられた。 125 00:08:09,926 --> 00:08:12,778 これは回転する6つのシャッターからなり、 126 00:08:12,778 --> 00:08:16,579 それぞれ「開」か「閉」どちらかにセットできる。 127 00:08:16,579 --> 00:08:19,884 ここでは、シャッターそれぞれを「2種の違い」とみなせる。 128 00:08:19,884 --> 00:08:24,484 6つのシャッターは、6つの質問に該当する。「開」か「閉」か? 129 00:08:24,484 --> 00:08:29,498 その違いは 2の6乗 = 64通りあり、 130 00:08:29,498 --> 00:08:33,662 全ての文字と数字を割り当てても余るほどだ。 131 00:08:33,662 --> 00:08:37,655 さて、 この標識塔を観測するのは、 132 00:08:37,655 --> 00:08:45,138 64通りある決定木の経路のうち、1つを観測することでもあるのだ。 133 00:08:51,688 --> 00:08:55,242 これと望遠鏡があれば、複数の標識塔を通してー 134 00:08:55,242 --> 00:08:58,741 とてつもない距離へ文字を送信できるようになった。 135 00:08:58,741 --> 00:09:03,802 しかし1820年の発見が、革命的な技術につながった。 136 00:09:03,802 --> 00:09:07,279 通信機間で2種の文字を通信できる距離において、 137 00:09:07,279 --> 00:09:10,209 後世まで影響をもたらした技術だ。 138 00:09:10,209 --> 00:09:15,661 その新しい着想は、私達の「情報化時代」への道しるべとなったのだ。