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O「オー」の影 | 大西 健太郎 | TEDxHamamatsu

  • 0:16 - 0:17
    あるところに
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    O(オー)という男がいました
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    Oは どもり持ちでした
  • 0:27 - 0:33
    ぷっ ぷ ぷぷぷぷぷ ぷるぷるぷるぷる
    ぴっぴぴっぴぴぴぴぴぴ
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    ち ちぃぃちぃぃしぃぃしぃぃぃ
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    つつつつつつつつっつつつつつつつつ
  • 0:44 - 0:48
    んんん んんんん
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    喋る時に 言葉がつかえたり
    喉の奥の方で詰まったり
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    そして時々 思うように
    喋れないことがありました
  • 0:59 - 1:04
    こうして 毎日の会話に
    なかなか苦労していたようです
  • 1:06 - 1:09
    電車乗り場で切符を買う時は
  • 1:10 - 1:13
    順番に並んでいるそばから
    ソワソワしていました
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    「一ノ駅」「二ノ駅」「三ノ駅」とあって
    Oは「二ノ駅」の切符が欲しかったのですが
  • 1:21 - 1:23
    「に」が言えなかったのです
  • 1:23 - 1:25
    「お客さんどちらまで?」
  • 1:25 - 1:27
    「んんああの・・・」
  • 1:28 - 1:31
    「はい? どちらまで?」
  • 1:31 - 1:34
    「ん・・・さんのえきまで」
  • 1:35 - 1:41
    本当は「二ノ駅」なのに
    その先の「三ノ駅」までを買いました
  • 1:41 - 1:44
    Oは その都度落ち込みました
  • 1:45 - 1:48
    「にのえき」が言えなかったからって?
  • 1:48 - 1:49
    いえ そうではありません
  • 1:49 - 1:52
    どもりを隠すために
  • 1:52 - 1:57
    本当は言いたくない
    自分の気持ちに 嘘をついていたからです
  • 2:00 - 2:05
    こうして なかなか会話に
    苦労していたようです
  • 2:05 - 2:10
    そんなOを 毎日
    面白がってなのか心配してなのか
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    いろんな人が近づいてきました
  • 2:13 - 2:16
    「ッホエッホエッホエッホ
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    OさんOさん グッドモーニン
    今日も一日バヴァグッデー
  • 2:21 - 2:22
    トットーカッカ」
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    東の山の方から 毎朝
    ジョギングでやってくる ホッホ兄弟
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    「えぇえ Oさん ついに聞いてください
  • 2:33 - 2:37
    地中を流れる水の流れが
    発見できそうです
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    こうして ダウジング棒を持っていくと
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    ほぉらここに 水が流れてます」
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    西の町で謎の井戸掘り研究をする
    ウギ博士
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    「ふっふぅ〜!
    今日も食パンが 焼けたわよぉ〜!
  • 2:59 - 3:02
    ツイストドーナツも いかがぁ〜?」
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    パン屋の売り子さんで
    サンバを踊る クネクネ姉さん
  • 3:10 - 3:15
    ある時 町にいるいろんな人たちの
    喋り方を見ていたOは
  • 3:15 - 3:19
    ふと その喋り方を真似してみました
  • 3:19 - 3:21
    すると
  • 3:21 - 3:24
    いつもよりスラスラと言葉が出てきたのです
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    「エッホエッホエッホエッホ
    オオオオオーデス」
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    「Oさん おはよう!」
  • 3:30 - 3:33
    「ハジメマシテ オオオオオーデス」
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    「なんだよなんだよ 知ってるよ
    びっくりしたなぁ」
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    「お客さん どちらまで?」
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    「えぇえ・・・
    にのえき片道 大人1枚ください」
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    「ニャ〜オ」
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    「ヘイ キャッツ!
    今日もネズミが獲れたか〜い?」
  • 3:55 - 3:56
    「ニャ〜オ・・・」
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    Oは 物真似がとっても得意でした
  • 4:02 - 4:08
    ところが 小さな細かい 癖の一つ一つまで
    真似ができたものですから
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    いろんな人のいろんな特徴が
    ぐちゃぐちゃに混ざって
  • 4:13 - 4:15
    ちぐはぐになってしまいました
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    Oは困りました
  • 4:18 - 4:23
    そこで もっとスラスラペラペラ
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    流暢な息遣いで
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    ズバっと切り込んで
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    ダダンと答えを出す人になろうと思いました
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    スラスラスラスラ
  • 4:39 - 4:41
    ペラペラペラペラペラ
  • 4:41 - 4:43
    りゅうちょうりゅうちょう
  • 4:43 - 4:45
    スバッ ダダン
  • 4:47 - 4:50
    スラスラスラスラスラスラ
    ペラペラペラペラペラペラ
  • 4:50 - 4:54
    りゅうちょうりゅうちょう
    スバッ ダダン
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    スラスラスラスラスラスラスラ
    ペラペラペラペラペラペラ
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    りゅうちょうりゅうちょう
    スバッ ダダン
  • 5:03 - 5:08
    繰り返し繰り返し
    一心不乱に練習しました
  • 5:09 - 5:11
    すると
  • 5:11 - 5:16
    ある時 服の袖口あたりからなんだか
    ぶら下がっていることに気がつきました
  • 5:17 - 5:21
    服の糸がほつれたのか
    ゴミがくっついているのかよくわかりません
  • 5:22 - 5:27
    このまま引っ張ったら服に穴があいてしまうか
    と一瞬頭によぎったのですが
  • 5:27 - 5:30
    えぇい面倒くさくなって
    そのぶら下がっているものを
  • 5:31 - 5:33
    引きちぎりました
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    すると
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    それはわけもなく 床に落ちました
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    それでまた
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    スラスラスラスラスラスラペラペラペラペラ
    りゅうちょうりゅうちょうスバダダ
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    スラスラスラスラペラペラペラペラ
    りゅうちょうりゅうちょうスバッダダン
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    スラスラスラスラペラペラ
    りゅうちょりゅうちょスバダダ・・・
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    あくる日も あくる日も
    それはもう自分まるごと粘土で形作るみたいに
  • 5:59 - 6:02
    これでもかこれでもかと 練習しました
  • 6:02 - 6:07
    するとまた 身体のどこからか
    なんだかぶら下がって
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    気になって というより
  • 6:12 - 6:19
    いつになく憎たらしく思えて
    力いっぱい 引きちぎりました
  • 6:22 - 6:25
    それでまた
    スラスラスラスラペラペラペラペラ
  • 6:25 - 6:29
    ついには 息の吸い方から
    まばたきの仕方まで気になり始め
  • 6:29 - 6:31
    呪文のように唱えました
  • 6:31 - 6:36
    スラスラスラスラスラペラペラペラペラペラ
    りゅうちょりゅうちょズバダダ
  • 6:36 - 6:38
    スラスラスラスラペラペラペラペラ・・・
  • 6:42 - 6:44
    Oは どんどん変わりました
  • 6:44 - 6:47
    喋るスピードは スポーツカーのように速く
  • 6:47 - 6:54
    頭の中で 完璧に整理した言葉を
    順番通りに喋れるように
  • 6:54 - 6:59
    「無駄なことは一つも言わないやつだ」
    と言われるようになり
  • 7:02 - 7:07
    立ち姿は自信にみなぎり
    高級ブティックのスーツを着て
  • 7:08 - 7:14
    お金持ちの社長さんや
    宝石まみれのおばさまと
  • 7:14 - 7:20
    大笑いしました
    「はっはっはっはっはっ・・・」
  • 7:22 - 7:25
    そしていつしか独りになると
  • 7:26 - 7:31
    暗い部屋で じっとしていました
  • 7:31 - 7:36
    「おい! Oさん最近
    顔つき変わったんじゃねぇか?」
  • 7:36 - 7:41
    「あぁ 息もしないで
    毎日出かけていくよ」
  • 7:41 - 7:46
    「家に帰っても 部屋の明かりもつけないで
    どうしたのかしら?」
  • 7:49 - 7:54
    Oは いつもピリピリとして
  • 7:55 - 8:01
    目の下にクマを作って
    こわばった目つきで
  • 8:02 - 8:06
    ついに周りの人も
    声をかけなくなりました
  • 8:06 - 8:07
    やがて
  • 8:08 - 8:11
    Oの噂も 聞かなくなりました
  • 8:14 - 8:18
    ある日の夕暮れ時
    車を運転していたOは
  • 8:18 - 8:24
    いつになく疲れを感じ
    ゼーゼーと息が漏れました
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    だんだんと 眠気が押し寄せてきて
  • 8:29 - 8:34
    目の前の景色が
    遠くになっていくのが見えた
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    次の瞬間! 危ない!!
  • 8:42 - 8:48
    目の前に もくもくと
    煙が立ち上っていました
  • 8:49 - 8:51
    すると
  • 8:51 - 8:54
    煙はだんだんと黒くなって
  • 8:55 - 8:58
    黒い煙がしゅうっと集まったかと思うと
  • 8:59 - 9:05
    大きな影になって
    Oの目の前に覆い被さってきました
  • 9:05 - 9:09
    Oは朦朧としながら
    その黒い影を見上げると
  • 9:12 - 9:15
    「おい・・・生きてるか?」
  • 9:16 - 9:17
    「誰だ!」
  • 9:18 - 9:22
    「誰だって・・・ オレは影だ」
  • 9:23 - 9:26
    「か・・・ 影? だ・・・ 誰の?」
  • 9:28 - 9:30
    「誰のものでもない影だ
  • 9:31 - 9:36
    世の中に 持ち主のいない影
    ってのも あるんだよ
  • 9:39 - 9:43
    あんた オレと取引しないか?」
  • 9:45 - 9:47
    「と・・・ 取引?」
  • 9:47 - 9:50
    「そう難しく考えることはねぇんだよ
  • 9:51 - 9:55
    おぅ あんた 自分の影 見てみな」
  • 9:57 - 9:58
    [驚く]
  • 9:59 - 10:04
    「色が薄くなってんだろう?
    消えかかってる」
  • 10:06 - 10:09
    「ど・・・ どういうことだよ?」
  • 10:10 - 10:12
    「慌てるな
  • 10:13 - 10:18
    あんたなぁ
    自分の影を捨てちまったんだよ
  • 10:19 - 10:24
    あんた どもりがあったなぁ
    喋るときにつっかえたり繰り返したり
  • 10:25 - 10:31
    それはあんたの中にいたな
    いろんな自分がやっていたことで
  • 10:32 - 10:38
    あんたの中には これまで
    前のめりでつんのめっているようなやつや
  • 10:39 - 10:42
    のんびりゆったりしてるやつや
  • 10:43 - 10:48
    顔だけ巣穴から出してる狸みたいに
    キョロキョロしてるようなやつまで
  • 10:48 - 10:54
    そいつらは あんたがこれまでの人生で
    出会ってきたものたちさ
  • 10:55 - 11:00
    そいつらがあんたの中で
    折り重なって折り重なって
  • 11:00 - 11:02
    あんた これまでやってきた
  • 11:03 - 11:04
    ところが
  • 11:04 - 11:07
    どもりに苦しんだあんたは
  • 11:09 - 11:14
    スラスラとふん詰まらずに
    必死になって必死になるほど
  • 11:14 - 11:19
    その のんびりのやつや
    つんのめりが
  • 11:19 - 11:21
    邪魔になって切り離しちまった
  • 11:23 - 11:28
    切り離されたそいつらは
    行き場がなくなって
  • 11:29 - 11:32
    ただの影だけになった
  • 11:32 - 11:35
    一度切り離された影は
    二度と戻らねぇよ
  • 11:38 - 11:41
    このままだとあんた
    消えてしまう
  • 11:42 - 11:44
    そこで 取引だ
  • 11:46 - 11:50
    オレを あんたの影にしないか?」
  • 11:52 - 11:55
    「すると・・・ どうなるんだよ?」
  • 11:56 - 11:58
    「消えずに済むよ
  • 11:58 - 12:03
    その代わり あんたの半分がオレになる」
  • 12:04 - 12:08
    「・・・半分?
    いや・・・ だめ・・・」
  • 12:09 - 12:12
    「はっはっはっは
    わかったわかった
  • 12:12 - 12:18
    まぁそうくると思ったよ
    それじゃあ こうしよう
  • 12:18 - 12:23
    あんたが消えずに済む方法を
    教えてやる」
  • 12:24 - 12:25
    「頼む!」
  • 12:26 - 12:27
    「その代わり
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    オレは あんたの言葉が欲しい
  • 12:34 - 12:40
    あんたの喋り方は
    人を自分の世界に巻き込む力がある
  • 12:40 - 12:44
    そんなふうにスラスラっと喋られたら
    大抵の人間はコロっといっちまう
  • 12:44 - 12:45
    そうだろう?
  • 12:47 - 12:50
    オレは あんたの話術が欲しいんだよ」
  • 12:52 - 12:56
    「もし オレの言葉を渡したら
    どうなんだよ?
  • 12:56 - 12:58
    またどもりに戻るのか?
    どうなんだよ?」
  • 12:59 - 13:02
    「ちゃんと考えてあるさ
    落ち着いて聞いてくれ
  • 13:04 - 13:09
    あんたの中にな
    最後の一つだけ残ってる影がある
  • 13:09 - 13:12
    それがあんたにとって最後のチャンスだ」
  • 13:13 - 13:15
    「オレの中に 一つ・・・?」
  • 13:15 - 13:16
    「そうだよ
  • 13:17 - 13:23
    もしあんたが
    自分の言葉を渡すんだったら
  • 13:23 - 13:26
    その影とうまくやっていく方法を教えてやる
  • 13:26 - 13:31
    そうすりゃあんたの存在も
    消えることはねぇよ」
  • 13:33 - 13:36
    「わかった やってくれ」
  • 13:36 - 13:39
    「よし! 取引成立だ! いいか?
  • 13:39 - 13:42
    あんたの中に残ってる最後の影はなぁ
  • 13:42 - 13:45
    “タナム”という子どもの影だ
  • 13:45 - 13:48
    タナムは 耳が聞こえない
  • 13:49 - 13:52
    あんたが子どもの頃に会った子だ
  • 13:52 - 13:57
    タナムは 目の前で
    口を大きく開いて喋れば
  • 13:57 - 14:01
    口の形で何を言っているのかがわかった
  • 14:01 - 14:05
    そうやって聞こえなくても
    会話することができて
  • 14:05 - 14:07
    あんたは嬉しかった
  • 14:08 - 14:13
    その嬉しい気持ちがあんたの中に
    ずっと棲み続けてたのさ
  • 14:13 - 14:14
    それこそ
  • 14:15 - 14:20
    他の影を切り離しちまった時も
    その音に気づかず
  • 14:20 - 14:24
    ずっとあんたの中に
    残ってたってわけさ
  • 14:26 - 14:27
    あんたは
  • 14:28 - 14:32
    タナムと会った時のことを思い出しゃ
  • 14:32 - 14:35
    その影とうまくやっていくことができるさ
  • 14:37 - 14:39
    あんたは言葉を失う
  • 14:39 - 14:42
    もう どもりですらなくなる
  • 14:42 - 14:43
    その代わり
  • 14:44 - 14:51
    まったく別の 音のない言葉の世界で
    ゼロから生きていくんだよ
  • 14:53 - 14:56
    心の準備はいいか?
  • 14:56 - 14:59
    今から
    三つ数えるうちに
  • 14:59 - 15:05
    オレはあんたの
    言葉をいただいていなくなる
  • 15:07 - 15:08
    一つ
  • 15:10 - 15:11
    二つ
  • 15:13 - 15:14
    みっ・・・」
  • 16:21 - 16:24
    その後のことは 誰も知りません
  • 16:26 - 16:27
    そしてある時
  • 16:27 - 16:31
    Oに 一つの言葉が生まれました
  • 17:04 - 17:06
    ありがとうございました
  • 17:07 - 17:09
    (拍手)
Title:
O「オー」の影 | 大西 健太郎 | TEDxHamamatsu
Description:

大西 健太郎(おおにし けんたろう)
ダンサー/パフォーマンスアーティスト

その場所・ひと・習慣の魅力と出会い「こころがおどる」ことを求めつづけるパフォーマー。東京藝術大学大学院修了後、「風」をテーマにダンス・パフォーマンスをおこなう。
2011年に「こども創作教室〈ぐるぐるミックス〉」を立ち上げ、講師、統括ディレクターを務める。2015年より板橋区立小茂根福祉園にて〈「お」ダンス プロジェクト〉を展開中。2018年南米エクアドルで地域住民との恊働パフォーマンス〈El Azabiro de La Tola〉を公演。
 
このビデオは、TEDカンファレンスの形式で地元コミュニティが独自に運営するTEDxイベントにおいて収録されたものです。詳しくは http://ted.com/tedx をご覧ください。

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Video Language:
Japanese
Team:
closed TED
Project:
TEDxTalks
Duration:
17:13

Japanese subtitles

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