WEBVTT 00:00:11.959 --> 00:00:13.084 おはようございます 00:00:13.091 --> 00:00:15.603 大学院時代 私はマラソンをやっていて 00:00:15.603 --> 00:00:18.486 友人と一緒にボストンマラソンに 出ることにしました 00:00:18.501 --> 00:00:21.002 練習を始め やりすぎてしまい 00:00:20.999 --> 00:00:22.990 私は膝と背中を痛めました 00:00:22.990 --> 00:00:24.901 理学療法士を訪ねると 00:00:24.901 --> 00:00:26.569 もう走ってはいけないと言われ 00:00:26.569 --> 00:00:28.441 代わりにストレッチを勧められました 00:00:28.459 --> 00:00:31.960 診察室を出たところに 00:00:31.956 --> 00:00:35.410 活気あふれるヨガ教室の広告が 貼ってありました 00:00:35.410 --> 00:00:38.086 柔軟性の向上だけでなく 体力もつき 00:00:38.083 --> 00:00:41.792 心肺機能も高まると書いてありました 00:00:41.793 --> 00:00:44.205 私は「これはいい」と思いました 00:00:44.205 --> 00:00:47.320 ストレッチもできるし体調も保てる 00:00:47.320 --> 00:00:49.892 ボストンマラソンにだって 出られるかもしれない 00:00:49.892 --> 00:00:54.177 それで私はヨガ教室に参加しました 楽しかったのですが 00:00:54.177 --> 00:00:57.843 あれこれと効果を説明されるのには 閉口しました 00:00:57.843 --> 00:01:01.493 医学的なこともですが 00:01:01.493 --> 00:01:03.074 こうすれば 00:01:03.074 --> 00:01:06.045 思いやりが深まり心が開くとか・・・ 00:01:06.045 --> 00:01:08.574 私は「それは もういいから 00:01:08.574 --> 00:01:11.770 ストレッチしましょう」 と思ったのを覚えています 00:01:11.770 --> 00:01:14.489 (笑) 00:01:14.827 --> 00:01:16.642 ところが数週間後 興味深いことに 00:01:16.642 --> 00:01:18.460 その種の変化に気づき始めました 00:01:18.460 --> 00:01:21.850 自分が以前より穏やかで 厄介な状況にも うまく対応し 00:01:21.850 --> 00:01:26.488 事実 思いやりの気持ちが増して 他人に対し心を開くようになり 00:01:26.501 --> 00:01:28.127 他の人の視点で物事を 00:01:28.101 --> 00:01:30.540 捉えられるようになったと感じていました 00:01:30.540 --> 00:01:34.178 私は「これはどういうことだろう」と 思いました 00:01:34.178 --> 00:01:35.789 「こんなことがあり得るのか?」と 00:01:35.789 --> 00:01:39.776 「まぁ単なるプラセボ反応かもね」 と思いました 00:01:39.776 --> 00:01:42.304 先生の言葉で その気になっただけかもしれない 00:01:42.304 --> 00:01:46.111 そこで私は文献を当たり これに関する研究があるか調べました 00:01:46.111 --> 00:01:48.792 驚いたことに ヨガも瞑想も ストレスの軽減に 00:01:48.792 --> 00:01:55.479 非常に効果的だという研究結果が たくさんありました 00:01:55.479 --> 00:01:58.621 うつや不安障害、痛みや不眠など さまざまな病気の 00:01:58.621 --> 00:02:02.274 症状を緩和するのにも 良く効くと言うのです 00:02:02.274 --> 00:02:06.763 瞑想が集中力を向上させることを証明した 質の高い研究も 00:02:06.763 --> 00:02:10.860 いくつか見つかりました 最も興味深かったのは どの研究も 00:02:10.860 --> 00:02:13.683 人々がよりハッピーになると 証明しているのです 00:02:13.683 --> 00:02:17.214 人生に対する満足感が高まり 生活の質が向上したと言うのです 00:02:17.214 --> 00:02:20.276 私は興味が湧いてきました 00:02:20.276 --> 00:02:24.657 そこで同じような研究を やってみることにしました 00:02:25.334 --> 00:02:28.279 神経科学者として不思議でした 何故そんなことが起きるのか? 00:02:28.279 --> 00:02:31.656 ヨガのポーズとか坐禅とか 呼吸を意識するとか 00:02:31.656 --> 00:02:33.099 そんな たわいもないことが 00:02:33.099 --> 00:02:36.743 何故こんなに様々な変化を もたらすことになるのか? 00:02:36.743 --> 00:02:42.261 ある行動を何度も繰り返し行えば それによって脳に変化が現れることは 00:02:42.261 --> 00:02:44.928 わかっています 00:02:44.918 --> 00:02:47.252 それが脳の可塑性と呼ばれるものです 00:02:47.274 --> 00:02:51.036 つまり皆さんの脳には 形が変わる性質があり 経験に応じて 00:02:51.036 --> 00:02:55.330 ニューロン間の結びつき方が 変化するということです 00:02:55.330 --> 00:03:00.134 MRI のような機械を使えば この変化を検出できるということが 00:03:00.134 --> 00:03:02.880 いくつかの研究で証明されています 00:03:02.880 --> 00:03:04.565 最初の研究はジャグリングでした 00:03:04.565 --> 00:03:06.916 ジャグリング経験ゼロの人たちを集め 00:03:06.916 --> 00:03:09.400 スキャンしてからジャグリングを教え 00:03:09.417 --> 00:03:11.542 3ヶ月 練習を続けてもらいました 00:03:11.515 --> 00:03:14.617 3ヶ月後 再びスキャンすると 00:03:14.617 --> 00:03:17.749 被験者の脳内の 視覚運動を感知するのに重要な領域で 00:03:17.751 --> 00:03:20.377 灰白質の体積に変化があったことを 00:03:20.383 --> 00:03:22.847 MRI によって検出できることが わかりました 00:03:22.847 --> 00:03:27.635 そこで私は考えました 「3ヶ月ねぇ 00:03:27.635 --> 00:03:32.570 じゃあ瞑想でも脳の構造は 変わるかしら?」 00:03:32.570 --> 00:03:36.329 ジャグリングのような単純なもので できるなら 00:03:36.329 --> 00:03:37.481 瞑想はどうだろう?と 00:03:37.481 --> 00:03:39.314 私たちが行った最初の研究では 00:03:39.314 --> 00:03:41.650 ボストン周辺の人々を集めました 00:03:41.650 --> 00:03:44.029 僧侶でも瞑想の先生でもない人々です 00:03:44.029 --> 00:03:46.235 普通の人たちに普通の瞑想を 00:03:46.235 --> 00:03:47.706 1日に30〜40分間してもらい 00:03:47.706 --> 00:03:49.568 スキャンにかけ その結果を 00:03:49.568 --> 00:03:51.755 人口統計的には同じでも 瞑想をしていない― 00:03:51.755 --> 00:03:53.500 別の群と比較しました 00:03:53.500 --> 00:03:56.089 発見したのはこれです 00:03:56.089 --> 00:03:58.209 瞑想した人の脳ではいくつかの領域で 00:03:58.209 --> 00:04:01.751 瞑想しなかった人より 灰白質の量が多かったのです 00:04:01.757 --> 00:04:04.755 中でも特にご覧いただきたい領域が 00:04:04.755 --> 00:04:07.122 この脳の前方 ここはワーキングメモリや 00:04:07.122 --> 00:04:09.331 高度な決断に関わる重要な領域です 00:04:09.331 --> 00:04:11.480 この領域について興味深いのは 00:04:11.480 --> 00:04:14.010 データを年齢と重ねてみた場合です 00:04:14.010 --> 00:04:17.716 赤の四角は対照群です 00:04:17.716 --> 00:04:19.647 お分かりでしょう 00:04:19.647 --> 00:04:21.646 年齢に伴う変化がはっきり出ています 00:04:21.646 --> 00:04:24.379 この領域に限らず 皮質の大部分が 00:04:24.379 --> 00:04:26.478 年齢とともに縮んでいきます 00:04:26.478 --> 00:04:28.496 私たちが年を取るにつれ 00:04:28.496 --> 00:04:34.745 理解や記憶が難しくなる理由の一部は これです 00:04:34.745 --> 00:04:37.273 興味深いのは この領域において 00:04:37.292 --> 00:04:41.667 瞑想をしている50歳の脳には 25歳と同量の皮質があったことです 00:04:41.647 --> 00:04:45.577 年齢によって皮質が自然に減るのを 00:04:45.577 --> 00:04:51.093 瞑想が遅らせる または防いでいると 考えられます 00:04:51.093 --> 00:04:53.450 これに対し多くの批判がありました 00:04:53.450 --> 00:04:57.365 「瞑想をする人たちってヘンでしょ」 00:04:57.375 --> 00:05:00.209 「瞑想を始める前から そうだったんじゃないの?」 00:05:00.193 --> 00:05:02.867 「多くはベジタリアンだから 食習慣やその他の 00:05:02.867 --> 00:05:04.788 生活習慣の関係では?」 00:05:04.788 --> 00:05:07.419 「瞑想のはずがない 何か別の要因でしょう?」 00:05:07.419 --> 00:05:11.661 確かにその可能性はあります 00:05:11.661 --> 00:05:14.382 この最初の研究では そこはカバーできませんでした 00:05:14.382 --> 00:05:16.895 それで次の研究を行いました 00:05:18.219 --> 00:05:21.047 この研究では 瞑想の経験がない人を集め 00:05:21.047 --> 00:05:24.995 スキャンした後 瞑想を使った8週間の 00:05:24.995 --> 00:05:27.611 ストレス解消プログラムに参加させ 00:05:27.611 --> 00:05:30.700 毎日30〜40分の瞑想をしてもらいました 00:05:30.700 --> 00:05:33.267 8週間後 再びスキャンして 00:05:33.267 --> 00:05:35.086 発見したのはこれです 00:05:35.086 --> 00:05:39.700 いくつかの部分が大きくなったのが わかります 00:05:39.709 --> 00:05:42.335 海馬について見ていきましょう 00:05:42.330 --> 00:05:47.354 グラフの青は対照群で 赤は瞑想をした被験者です 00:05:47.354 --> 00:05:50.368 海馬というのは学習や 00:05:50.368 --> 00:05:52.734 記憶に関して重要な部分ですが 00:05:52.734 --> 00:05:57.700 情動を制御するのにも重要です 興味深いことに うつやPTSD を患った人は 00:05:57.700 --> 00:06:00.516 この領域の灰白質が少ないのです 00:06:00.501 --> 00:06:04.960 同じことが側頭頭頂接合部にも 見られました 00:06:04.984 --> 00:06:06.683 耳の上のこの辺りですが 00:06:06.683 --> 00:06:10.552 視点取得や共感、思いやりに関して 重要なところです 00:06:10.552 --> 00:06:14.085 これらの心の働きは 瞑想やヨガを始めた人が 00:06:14.083 --> 00:06:17.875 「変化した」と報告している点でしたよね 00:06:17.876 --> 00:06:20.710 もう1つ私たちが確認したのは 扁桃体の変化です 00:06:20.737 --> 00:06:23.189 扁桃体は「闘争・逃走反応」を つかさどります 00:06:23.189 --> 00:06:26.071 ここでは灰白質の減少が見られました 00:06:26.071 --> 00:06:28.671 興味深いことに この灰白質の変化は 00:06:28.671 --> 00:06:30.463 ストレスの変化と相関がありました 00:06:30.463 --> 00:06:32.503 ストレスが解消されるにつれて 00:06:32.503 --> 00:06:35.706 扁桃体が小さくなるのです 00:06:36.337 --> 00:06:40.575 これは大変興味深いことです ある種の動物の研究結果と 00:06:40.575 --> 00:06:43.173 反対とも言えるものだからです 00:06:43.173 --> 00:06:46.349 チャタジーらは げっ歯類について 研究しました 00:06:46.349 --> 00:06:49.943 ハッピーで健康なげっ歯類を使い 00:06:49.943 --> 00:06:52.133 ケージに入れて扁桃体を測定し 00:06:52.133 --> 00:06:55.218 それから10日間 ストレスを与えました 00:06:55.218 --> 00:06:58.204 10日後 扁桃体を測定すると 00:06:58.204 --> 00:07:02.057 ネズミの脳の扁桃体が 大きくなっていたのです 00:07:02.057 --> 00:07:06.484 ヒトでは扁桃体の灰白質濃度が減少し げっ歯類では扁桃体が大きくなったわけです 00:07:06.484 --> 00:07:10.017 興味深いのは その後です 彼らは動物たちを放っておき 00:07:10.017 --> 00:07:12.887 3週間後に再び調べてみたところ 00:07:12.887 --> 00:07:16.087 扁桃体の肥大した部分はそのままでした 00:07:16.087 --> 00:07:19.104 動物たちは元々ハッピーに暮らしていた ケージへ戻ったのに 00:07:19.104 --> 00:07:22.355 その後もストレス状態が続いていたのです 00:07:22.355 --> 00:07:25.105 ケージの片隅で身を縮め 00:07:25.105 --> 00:07:28.120 以前のように動き回ることは しませんでした 00:07:28.120 --> 00:07:32.525 ここがヒトの研究で得た結果と 正反対の所なのです 00:07:32.525 --> 00:07:35.578 人間の場合は環境に何の変化も 起きていませんからね 00:07:35.578 --> 00:07:37.754 仕事のストレスも変わらず 00:07:37.754 --> 00:07:40.076 難題もすべて難題のまま残っており 00:07:40.076 --> 00:07:41.792 経済は相変わらず最悪でした 00:07:41.792 --> 00:07:47.108 しかし 扁桃体は小さくなり 彼らは「ストレスが減った」と報告しました 00:07:47.108 --> 00:07:50.322 これらの結果を考え合わせると 扁桃体の変化は 00:07:50.322 --> 00:07:54.191 環境の変化に影響されているのではなく 環境に対する人間の反応や 00:07:54.191 --> 00:07:59.837 人と環境との関わり方の 表れだということです 00:08:01.945 --> 00:08:05.403 またこの研究によって 明らかになったのは 00:08:05.850 --> 00:08:09.650 人々が「あぁ気持ち良い」と言うのは ダテじゃないということです 00:08:09.650 --> 00:08:13.643 プラセボ効果でもなく 私たちを喜ばせようとしているわけでもなく 00:08:13.643 --> 00:08:16.790 彼らが「ストレスが減った」と言うのには 00:08:16.790 --> 00:08:18.908 神経生物学的な理由があったのです 00:08:18.908 --> 00:08:21.788 今日みなさんにお伝えしたいのは 瞑想が文字通り 00:08:21.788 --> 00:08:23.120 脳を変えるということです 00:08:23.120 --> 00:08:24.606 ありがとうございました 00:08:24.606 --> 00:08:26.249 (拍手)