50年前の7月 人類は初めて月に降り立ち 地球に対する考え方を再定義しました 月面歩行や船外活動する時の様子を いつも見ていると思いますが 彼らは宇宙服を着てきました 宇宙服が具現化しているのは 人類の一員であることの意味 つまり 不可能と思われていたことを 探究し達成することなのです しかしそれは単なる衣服ではありません 宇宙服はこれまでに達成した 最も優れた技術的偉業のひとつなのです 宇宙船が備えているすべての 人間の生命を維持する機能を持ち 更に着ることができます それがいかに先進的であっても 宇宙服を着用するのは 驚くほど危険を伴います 宇宙服を見ただけでは 分からないのですが 宇宙服は宇宙飛行士に 怪我を負わせてしまいます 打撲 捻挫 神経の圧迫や 爪の喪失もありました 23人の宇宙飛行士が 肩の外科手術を必要としました 回旋筋腱板 (かいせんきんけんばん) などを 損傷したのです こんなことが月面や火星表面で起きたら ミッションは大失敗になります 結論は 宇宙服の改善が あまり話題に上がらないながらも 人類の宇宙探査における 最大の課題なのです 科学を前進させるためにすべき 最も重要なことの一つが 火星に人類を送ることだと 個人的に信じています 私たちは多くを無人探査機から学びましたが 非常に限定的でした 一人でも火星表面に滞在するようになれば 太陽系形成の歴史もさることながら 生命の起源も解明できるかもしれません 人類を火星に送るためには 何十億ドルもかかるでしょうが 火星に行ったら 居住区で過ごすだけではありません 宇宙飛行士は屋外探査を行い 宇宙服を着る機会も 数多くあるでしょう 最新のNASAの計画では 5人の人間を500日間 滞在させた場合 1回のミッションで 延べ千回の屋外活動が 見積もられています 比較のために これまでに4百回を超える 船外活動や月面歩行が 有人宇宙飛行の歴史を通して 行われてきました 千回の屋外活動は 常識を超える数です もしこれを成し遂げようとするなら― まあ 実際にできると思いますが — 宇宙服の定義を根本的に 変える必要があります 私が宇宙探査に興味を持ち始めたのは 小学校3年生で 先生が丸1日かけて宇宙飛行士の話を してくれたことがきっかけでした その時初めて人間が宇宙に 行けることを知りました その時以来 有人宇宙飛行は 私の人生を動かす情熱となりました しかし 宇宙飛行士が 宇宙服の中でどんなに作業しにくいかを 理解し始めたのは 大学院に入ってからでした 宇宙服は人間が呼吸できるように 酸素で与圧されていますが 与圧により硬くこわばってしまいます バルーンアートの動物作りに 例えてみましょう 風船を曲げてみます するとばねのように 元に戻ろうとします 技術者がこの問題を解決しようとして プリーツとベアリングで 関節部分をデザインしましたが ぎこちなく不自然な動きに なってしまいます 宇宙服で動くには まず宇宙服の内部に接触するまで 体を動かさなくてはなりません その後ようやく宇宙服自体が 動き始めるのです 手を上げて頭を触るにも こんな風にできません 宇宙飛行士は肩を大きく回して 肘を曲げることで ヘルメットに触ることができます 地球上にいてもどのように動かすか 覚えているだけでも大変です 宇宙船の外でたった一人で 時速2万7千kmで飛行しているなら なおさらです サイズも大きな問題です 2019年の3月 NASAは初の女性だけの船外活動を 中止せざるを得ませんでした 宇宙服のサイズが搭乗員に合わず 時間的な制約があったため 適切なサイズの別の宇宙服を 軌道上で組み上げることもできませんでした 与圧とフィットに問題があるため 宇宙服の中で作業を行うたびに 打撲してしまうのです そこで私は より優れた宇宙服のデザインに 自分のキャリアの全てをささげています 最初のステップは 宇宙服内部での 人間の動きを知ることです 外側から見るだけでは 宇宙飛行士がなぜ どのように 怪我を負うのかは判りません そこでコロラド大学ボルダー校の 学生と一緒に 装着型センサーを開発しています 宇宙服内部で 人間の動きと宇宙服との相互作用を 測定するのです このデータを 予測に使えたらと思っています 2百回程度 着用した後も 宇宙服が快適かどうか あるいは 怪我の原因にならないかを 予測するのです 人類が火星の表面に 最初の1歩を踏み出す時 ブーツが最初に接触します 宇宙飛行士が宇宙服で歩くことは 月面で1972年のアポロ飛行士以来 ありませんでした ブーツも与圧されていますので 足もブーツ内で固定されていません 自分の足よりも何サイズも大きい ハイキングシューズを 履いているようなものです 一歩踏み出すたびに かかとが浮き上がり マメやエネルギーの浪費や ぎこちない動きの原因になります つまり ハイキングでマメができると ハイキングが台無しになるだけです 火星表面でマメができると 作業が困難になります マメ以上の痛みを 伴うことになります ある宇宙飛行士が ブーツの問題を訴えました ナイフで切られたような 痛みを感じたそうです より良い宇宙服用ブーツを デザインするために 学生の1人 オービーは 歩いている間の足の形を測定する 四次元モーションキャプチャー装置を 作りました このデータにより ブーツの中の足のフィット具合を デザインし直す計画で 宇宙飛行士が探査を より広く より深くできるようにします しかし本気で火星用の宇宙服を 大改革したいのなら 現在とは根本的に異なる方法で 身体を保護する必要があります 火星仕様の宇宙服の解決策は ポール・ウェッブ博士が 1960年代に 最初に提唱した 肌に密着する弾力性のコンセプトに 依存すると思います MCP(機械的な与圧)という概念を使い 膨張させた着衣を使う代わりに 肌に対する圧力を 宇宙服自体が身体に密着する形で 作り出します 残念ながら この方式の宇宙服は 主流にはなりませんでした その理由は 人体の複雑な形状に沿って 与圧することが困難だからです たとえばわきの下などです 大学院生の時に アドバイザーが私をイタリアに送り オートバイのレーシングスーツをデザインする ダイネーゼという会社と協力しました そのアドバイザーは言いました 「これまで会ったことのない 最高のデザイナーたちだよ 彼らのデザインの技量と あなたの工学の技量を組み合わせて MCP式宇宙服のプロトタイプを 作ってほしいんだ」 そういう訳でイタリアに出向きました その夏の経験は それまで技術者として得た中でも 最も創造的で感動的なものでした 毎日 ステファーノと私は 新しい宇宙服のプロトタイプを手早く作り 試験をしてはデザインを変更して MCP式宇宙服に 日々近づいていきましたが 宇宙飛行に耐えられるには まだまだ先のようでした それ以来 友好的なチームとして 協働しています MITやミネソタ大学 オーストラリアの ロイヤルメルボルン工科大学 デビット・クラーク社 NASAなどからの仲間のチームで デザイン上の課題の 追及を続けています 私の研究室では 今 MCPを宇宙服に利用するには どうすれば良いかの思考に挑んでいます MCPまたはガス与圧の 一方を選択するのではなく 両方選択してはどうでしょう? もしデザイン上の課題を半減出来たら たとえば密着式弾力層で 圧力の50%を与え 今使っている従来型のガス与圧式宇宙服で 残りの50%を与圧できたら 硬くこわばるのを軽減しながら 宇宙飛行士を保護することができ 冗長性の観点でより安全になります そのような宇宙服が 有人火星ミッションを可能にします 私が生きている間に 火星表面を歩行する人類の姿を 目にする幸運に恵まれると信じます しかしこのような規模のミッションを 実行に値するものにするには 宇宙飛行士の安全を 確保する必要があります そして 確実に探査や科学活動を 日々続けられるようにしなければなりません 象徴的な新しいデザインの 宇宙服を考え出す時が来たのです ありがとうございます (拍手)