スポーツの持つ力 | 諸橋寛子 | TEDxKyoto

一般財団法人ユナイテッド・スポーツ・ファウンデーションの諸橋寛子は、「人は変化に対応し進化することで成長する」という信念を持ち、全ての人に勇気や感動を与えることができるスポーツの持つ力や魅力をより多くの人に伝える活動を行っています。

このビデオは、TEDカンファレンスの形式で地元コミュニティが独自に運営するTEDxイベントにおいて収録されたものです。詳しくは http://ted.com/tedx をご覧ください。

私は スポーツを通じて

豊かな世の中を作るため
日々活動しています

時には 世界最高峰の障害物レースに
出たりもします

しかし 私は子供の頃
運動音痴で大の運動嫌いでした

嘘でしょうと思われる方も
いるかもしれませんが 本当なんです

幼少の頃 初めてのボール投げで
ボールをキャッチできず

顔面で受け 思いっきり鼻血を流しました

けれどその私が今
財団の代表を務め

子供たちと一緒に
思いっきり体を動かし

スポーツは豊かな世の中を
つくることができると信じて

活動しているのですから 自分でも驚きです

なぜこれほどまで
スポーツの力を信じられるようになったのか

そこには 私が大切にしている—

人は変化に対応し進化することで成長する
という考え方があるのです

私は福島県いわき市の商店街にあった

紳士服店の２階で生まれました

１階の店舗では 父が仕入れをし
母が販売をし

私は２、３歳の頃まで
店頭にあるワゴンに紐でつながれ

お客様に「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」 と

いわば 看板犬ならぬ 看板娘でした

父が立ち上げた小さな紳士服店は
次々と出店し 拡大していきました

そして その後
二転三転、四転五転と

当時はカメレオンカンパニーと言われるほど
業態を変化させていきました

ですから 父が会社で言うことは
日々変わりました

昨日言ったことは今日変わり

今日言ったことも
明日には変わるという感じです

なぜそうコロコロ言うことが変わるのかと
質問すると 父は

「世の中は常に変化する

その変化に対応し
進化した者こそ生き残る」

そう話してくれました

私はというと
小さい時から転校や引っ越しで

「こんにちは さようなら」の日々

そんな生活に慣れるうち

中学校の終わりの頃には
自ら福島を飛び出し

仙台、 東京、 サンディエゴ
ボストン、 バルセロナと

28歳の頃まで飛び回っていました

しかし 私が最も尊敬し信頼する父は

ある日突然 旅行先で亡くなりました

今から15年前 2003年のことです

経営のことはもちろん
人としての生き方を教えてくれた父でしたので

私の心には ぽっかり大きな穴が空き

全く現実味がありませんでした

父が教えてくれたことは

人は変化に対応し
進化することで成長する ということを

ずっと教えてくれてましたので

私が生まれた時から
その考えは私のそばにあったのです

そして

私の人生でもう一つ大きな変化を与えたことが

2011年3月11日 東日本大震災です

父の実家は福島県いわき市

母の実家は宮城県石巻市で

私は多くの親戚 友人 知人を失いました

さらには 経営していたスポーツ店70店舗が
倒壊し 破損しました

実は あの時の記憶は
今でも断片的です

確実に覚えているのは
心から生きていたいと思ったこと

生きているということは奇跡であり

そうして生かされた私に
何ができるのかということを考え始めました

倒壊した店舗で最初に始めたのは

70店舗から
テント キャンプ用品を取り出し

そして 地域の人々が集まれる
場所を作りました

しかし そこの場所にいた子供たちからは
すっかり笑顔が消えていました

親、兄弟、 親戚
そして家までも失った子供たちですから

笑顔が出るはずもありませんよね

そんな中 支援の輪が広がり

世界中から多くのアスリートも
支援に来てくれました

ある日私は
NBAのレジェンドプレイヤーと共に

宮城県塩釜市立の中学校に
行くことがありました

何人かの子供たちは その日まで
ボールを触ることさえ拒んでいました

レジェンドに背中を押され
ボールでパスを始めた時

それまで無表情だった子供たちに
笑顔が戻り 涙を流し始めたのです

今でも鮮明に覚えています

これほど苦しい状況にあっても

スポーツには人を笑顔にする力がある

生きる力を与えてくれる力がある

そう強く感じたのです

それまでの私は
スポーツはスポーツが好きな人

スポーツができる人だけのものだと
思っていました

しかし 無表情だった子供たちの変化を見た時

スポーツの持つ力を実感したのです

そして その子供たちを見た時

スポーツが生活の中にあることで

人生がより感動的で楽しくなる

そして そういう人が
たくさん増えることで

より豊かな世の中が
作られるのではないか

それは衝撃的な発見でした

今ここにいる子供たちのために
出来ることをやっていこう という

エネルギーが湧いてきたのです

このことが 財団設立のきっかけとなりました

私たちの最初の活動は

放射能問題で 外に出られない
子どもたちのための

無料の運動施設の開設でした

実は震災後 福島の子供たちの肥満率は
一気に増加しました

子供たちが外で遊ぶ
体を動かすという当たり前のことが

これほど重要なことか
私は改めて実感することになります

そして 財団は活動の場を広げ

様々なスポーツイベントを企画し

今では60万人以上の子供たちに
スポーツの機会を提供しています

中でも最も力を入れているのが
小学生を対象とした スポーツキャンプです

２泊３日 子供たちだけで過ごし

様々な競技の元日本代表選手

プロアスリートに直接指導を行ってもらい

夜は英語での交流会を行うなど

子どもたちは様々な体験をします

このキャンプでは時々
いや ほぼ毎回 事件が起こります

初日は緊張している子どもたちも

２日目になるとリラックス—
したかと思うと 喧嘩勃発

挙句の果てに 上手くいかないことに腹を立て
大暴れしたかと思うと

大脱走

(笑）

キャンプに参加しているボランティア
我々スタッフは ある意味死に物狂いです

それでもある子は キャンプを振り返って

「自分にできる競技は一つだけでなく
たくさんあることを知った」

またある子は
「キャンプに参加して

初めての人とも
積極的に話が出来るようになった」と

話してくれました

２泊３日というわずかな時間ですが

スポーツキャンプが子供たちの成長に
大きな影響を与えていることを

私はとても嬉しく感じています

そして 今では確信しています

私が大切にしている—

「人は変化に対応し
進化することで成長する」ということに

スポーツが大きな力を与えているということを

私は先日 ブエノスアイレスで開催された—

第１回「Olympism in Action Forum」 に
参加してきました

そこには ５大陸 150ヵ国
1500人以上の人が集まり

スポーツの力で平和な社会をつくるため

様々なトピックで
ディスカッションが行われました

スポーツが国際社会を継続的に

より良い方向に発展させるため

2020年に開催される東京オリンピック
パラリンピック以降も

日本が担う役割は
とても大きなものがあると思っています

チャレンジすることを怖がらず

様々なことをして進化し

仲間と影響しあって成長する

子供たちがスポーツを通じて
そういった体験をできる場を

これからも作っていきたいと思っています

私は幼少の頃から
変化の人生を過ごしてきました

そして 父の死で事業を受け継ぎ

東日本大震災で多くを失い

絶望の淵に立たされました

それでも 今この日を迎えています

それは その時々の変化を受け入れ

自分自身に力をつけ

進化し 成長してきたからに
他ならないと思うのです

今日この会場にお越しの皆さんも

日々 変化し、進化し、成長して
今を迎えていることと思います

時には辛く苦しい出来事に

立ち止まってしまい
前に踏み出せない日もあるでしょう

けれど 進化したことで
出来なかったことが出来るようになる喜びは

何事にも変えがたいと
私は思うのです

そうすることで 自分なりの
幸せな人生を送ることができると

私は身をもって感じています

変化、進化、成長

皆さんも是非 今よりも一歩

前に踏み出してみてください

ありがとうございました

(拍手）